昼休み、女バスの五人は集まって話し合っていた。
「何の話をしているんだ?」
「あ、ゲッソー!いやさぁ、コーチが来てくれるって話があったじゃん?だからそのコーチが来たときに、どうやっておもてなしするのか考えてんの!」
なるほど、その発想は一切なかったな。
「それで真帆は、色々案を持ってきてくれてるんだけど…。」
「どんな案があるんだ?」
「んーとね、妹攻めか、メイド服か、後は―・・・。」
待て待て待て
「ちょっと待ってくれ。真帆、お前のその案は一体誰がやる事を想定しているんだ?」
「そんなの、あたしら六人に決まってるじゃん!」
「…あのな真帆。おまえが今言った案には致命的な欠陥がある。」
「え?なんか変なとこあった?」
「まず第一に、俺は男だ。その時点で妹攻めとやらは実行できない。そして第二に、メイド服を着るのはお前たちだけにするんだ。そうでないと、色々と滑稽なことになる。」
そう、女子がそんなことをするのならまったくと言ってもいいほど問題は存在しないのだ。しかし、俺がやればこれ以上滑稽なことはないし、何より俺の精神が崩壊する。
「そうね、創玄にそんなことさせるのは可哀想だわ。」
流石は紗季だな。俺の意思を汲み取ってくれている。
「えー。じゃあゲッソーは何すんの?」
「俺はコーチを出迎えてくる。その後の事はお前たちに任せるしかないが...。」
「ええ、そこから先は私たちがどうにかするわ。」
「頼む。俺は俺の仕事を頑張るとしよう。」
…正直、紗季が居てくれてほっとしている。あのままじゃ俺が大変な目に遭っていた…。こんなやり取りをしていた時、チャイムが鳴ったので皆慌てて自分の席に着いた。
ガラッ
「ほいほーい。授業始めるぞー。紗季、号令。」
「あ、はい。起立、気をつけ。礼。」
紗季の号令と共に、午後の授業が始まった。
「もうそろそろ来るはずなんだけどなー…。」
俺は今、美星先生と共に臨時コーチを出迎えるために校門前で待機していた。
「美星先生、本当にそのコーチは来るんですか?」
「んー…。多分来ると思うけど、まあ来なかったら無理やり連れてくるから安心しとけ。」
ああ…。そのコーチの苦労が何となく伝わってきた気がした…。
「お、来たぞ。あいつだ。」
美星先生が指さした方向には、校門前で立ち尽くしている高校生くらいの男子生徒だった。髪は茶髪で、身長は170㎝くらいだろうか。明らかに進むことを躊躇している高校生に美星先生が飛び蹴りをかました。
「遅いぞ、昴。」
「っつー…。幾らなんでも蹴る事はないだろ、ミホ姉!」
今のやり取りを見ている限り、この人が美星先生の甥というのは間違いではないんだろう。
「それじゃ、私は仕事残ってるから職員室戻ってるわ。」
「ええ!?ちょっと待てよミホ姉!…って行っちまった…。」
そろそろ話しかけても大丈夫そうだな。俺もあの人のところ引くか。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ。ありがとう。えっと、君は?」
「俺は、神条 創玄と言います。女バスのサポーターなどをやっています。」
「ああ、そうなのか。よろしく。俺は、長谷川 昴。篁美星の甥で、高校一年生です。」
「よろしくお願いします。あと、俺のことは創玄と呼んでもらって構いません。それと、別に敬語を使わなくても大丈夫ですよ。長谷川さん。」
「そっか。創玄も俺の事名前で呼んでもらって大丈夫だよ。」
「分かりました。ですが、一応年上なので敬語は使わせてもらいますよ。昴さん。」
「了解。それじゃ、女バスのところへ案内してもらえると助かるんだけど…。」
「ええ、了解しました。それじゃ、今から案内します。」
「ところで、君は男子なのにどうして女バスに入ってるの?」
「ああ…。まあ、彼女たちの熱意に負けたってとこですかね。」
「熱意に負けた?」
「会えばわかりますよ。っと、着きました。ここが体育館です。この中に女バスの皆は待っているはずです。」
「う、うん。」
…この反応。
「もしかして、緊張していますか?」
「え、えっと…。恥ずかしながら、こういうのは苦手で…。」
「気楽にいけば大丈夫ですよ。変に考えるより出たとこ勝負でいいと思います。」
「そ、そう?よし、それじゃいざ…!」ガチャッ
昴さんがそう言って体育館の扉を開けて
『お帰りなさいませ、ご主人様!!』
「………」バタンッ
無言で閉めた。…まさか、本当にやるとは思わなかった。
「えーっと…。今のは…。」
「…もう一度開けたらわかるんじゃないですか?」
「う、うん。そうだね。」
「(今のはきっと幻覚なんだろう‥。うん。そう思うことにしよう…。)」ガチャッ
『お帰りなさいませ、ご主人様!!』
…昴さんがフリーズしている。…俺も頭痛くなってきた…。
「…お前たち、本当にメイドをやる事にしたんだな…。」
「うん!服も用意してあったし、後はその場のノリで何とかなる!って思ってたから。」
真帆は本当にb…天然なんだな…。
「全く…。取り合えず昴さん?起きてください。」
「うぇ!?あ、ああうん。」
大分混乱していたみたいだな…。気持ちは痛いほどわかるが。
「じゃあ、皆自己紹介していこうか。」
俺の一言をきっかけに、全員が自己紹介を始めた。真帆が名前呼びを強調し、真帆が全員のスカートをめくったりしていた。…真帆は問題しか起こさないような気がしてきたな。
「えっと、皆ポジションとかは決めてたりするのかな?」
「ポジション?」
「うん。スポーツにはそれぞれ自分の役割みたいなものがあるんだ。」
「例えば、サッカーなどでいうところのキーパーやディフェンダーと言ったところだな。」
「へ~。流石ゲッソー!うちらの頭脳担当!」
「あんたは少しくらい常識ってもんを知りなさい。」
「ちぇ、うっさいなあ紗季は。流石クラス委員チョー。」
「こら、喧嘩するな。すみません昴さん。」
「ははは、いいよ。それで、愛莉はセンターが向いてるんじゃないかと思ったんだけど…。」
「私が、ですか?」
「ねえすばるん。センターって何?」
「センターっていうのはゴール下で活躍する人の事だよ。センターは主に身長の高い人がするものだから、愛莉に向いてるんじゃないかって思ったんだけど…あれ?どうしたの、みんな。急に黙りこんじゃって…。」
しまった…。昴さんに大事なことを伝えておくのをすっかり忘れていた…。
「う…っひぐっ…えぐっ…。」
「え?」
「うわぁぁあぁぁぁぁああぁぁん!!やっぱり、私って、大きいんだ!デカ女なんだぁ!」
「え!?えーと…。」
不味いことになったな…。このままじゃ練習どころじゃないし、一旦愛莉を落ち着かせるか…。
「アイリーン!駄目じゃないか!すばるんにちゃんと誕生日を教えとかないから、勘違いされちゃったんだぞ!」
「そうだよっ。愛莉は4月生まれだから少し成長が早いだけ!中学生になればみんな同じくらいになるよ!」
「おー。あいり、ティッシュあるよ。」
向こうは三人に任せて、俺と紗季は昴さんに事情を説明しておくか…。」
「愛莉は高身長がひどいコンプレックスなんです。ちょっとでも背の事を言われるといつもあんなかんじになっちゃって。」
「…そうだったのか。悪いことしちゃったな…。」
「いえ、これは教えておかなかった俺にも責任がありますからね。申し訳ありません。」
「いや、いいよ。」
…まだ知り合って十数分だが、この人は何かあるのを感じる…。後ろめたいことがあるというかなんというか…。まるで、バスケに関わることを躊躇しているように見える。この人の過去は知らないが、何かあったんだろうな…。結局、愛莉が泣き止むのは、部活の終了時間までかかってしまった。
「うっ、ひぐ、ごめんなさい。私のせいで…。」
「ううん。俺のほうこそ、無神経なこと言っちゃってごめんな。もうそろそろスクールバスが来るんでしょ?早く着替えてこないと…。」
「それもそうですね。ほら、行こう。愛莉。」
女バスの皆は更衣室へ歩いて行ったことだし、俺もそろそろ帰るとするか…。
「それじゃ、俺もそろそろ帰るとしますよ。」
「え?創玄はバスで帰らないの?」
「ええ、俺はいつも歩いて帰っていますからね。それじゃ、また明後日に。」
「うん。それじゃあまたね。」
別れの挨拶もほどほどに、俺は体育館を出た。
「もうこんな時間か…。」
6時半ともなればこの季節でも暗くなり始める時間だし、さっさと帰るとするか…。こうして俺は、足早に帰路についた。
いかがでしたか?いやー、ようやく昴を出せたので安心しました。ここからが面白くなっていきますよ!それではまた次回!