焔の海兵さん奮戦記   作:むん

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新米海兵さんコンビと幼児ルフィのサバイバル生活。
やたらとまったり。


第14話 ぼくらの孤島生活

 何とも言えない色だな、これ。

 青、いや、緑? 微妙に灰色がかっていて、おおよそ植物の色じゃない。

 形的には林檎っぽいけど、葉っぱ的なものがワサワサ生えている。

 それからこれ、この模様だ。よく風呂敷の柄に採用される蔦を意匠化した、いわゆる唐草模様が表面を覆っているんだ。

 明らかにこいつ、例のブツじゃないだろうか。

 

「おい、これってよ」

 

 宝箱に鎮座するそいつから目を離すことなく、スモーカーが呟く。

 

「間違いなく、アレだな」

 

 顔を見合わせると、お互い面倒そうな顔をしていた。

 

「「……悪魔の実だ」」

 

 何だってこんなところにこんなもんがあるんだ。溜息が吐きたくなってきた。

 

 

 

 

 大人二人子供一人で無人島サバイバル生活をする羽目になり、もう五日。

 拳骨隕石・人間ヴァージョンでぶっ飛ばすという酷過ぎる送り出し方をされたけど、とりあえず擦り傷とか青痣ができた程度の打撲で済んだ。投げられた瞬間は死を覚悟したけど、生きていてよかった。

 俺とルフィは島の中心部にある森に墜落した。そこから浜辺に脱出した頃には、海上に浮かぶ軍艦の姿はもう米粒並みの小ささ。確実にさっきより遠くに行っている。こっちに近づく気配は欠片も見えない。

 俺たちを回収しに戻る気はなさそうだな、と強制的に悟らされて少し涙が出た。

 大佐も先生もボガード中尉も、ガープ中将を諌めてくれなかったのか。いや、諌めたけど押し切られたんだろう。本気でこうと決めたらすごく意志が固い人だ。今回は俺たちも一緒だからルフィは大丈夫だろうと判断して中将の主張を認めたってところか。

 なんだかんだ言って、中将のことを大事にしている人たちだ。多少の我侭は通してやるってスタンスなんだろう。

 気持ちはわからんでもないが、とりあえず俺たちのことも心配してほしかったかな。

 

 その後島の反対側の海岸に落ちたらしいスモーカーとどうにか合流して中将への怨嗟が八割の相談をし合った結果、とにかく十日間ルフィの面倒を見つつサバイバルすることにした。

 この辺は大きな人口のある島が無いし、主要航路からもちょっと外れている。そのせいで通り掛かる船が少ない。救出なんて望むだけ本当に無駄だ。十日後に迎えに来るという中将の約束を信じて待つのが一番確実だろう。

 非常に癪だが、中将の無茶振りに付き合うしかない。幸いこの島は自然が豊かで食料となりそうな動植物は豊富みたいだ。十日くらいならどうにでもなる。

 その間は暇だし、ルフィに実践形式でサバイバルを学ばせることにした。今後も中将に一人危ない環境に放り出されるはずだ。せめて最低限一人で生きていけるようにしてやろう。

 

 サバイバル生活はこういう言い方はなんだけどさ、今のところは順調だ。

 元々好奇心旺盛でやんちゃなルフィはサバイバルがすごく楽しいらしく、俺やスモーカーの教えたことをどんどん吸収している。しかも三歳児にしては器用にこなすものだから、舌を巻かされてしまった。

 生きる技術に関してはかなりの才能があるのだ。だからこそ原作では誰の助けも得ずに中将の荒行を耐え抜けたんだろう。そこまで想像したら、なんだか原作におけるルフィの過去に哀愁を感じた。

 そのおかげで最初の三日で一通り基本は押さえてしまった。教えきるまで五日はかかるかと思っていたので本当に驚かされた。

 昨日からはおさらいしつつ覚えておくと便利なこととかルフィが知りたがることとか教えている。

 例えば、食べられる植物とか、簡単な兎とか捕まえる罠の仕掛け方とか。

 あとは、そうそう、文字の読み書き。びっくりなことに、たまたま俺が提案したらルフィが教えてほしいって言ったのだ。

 うん、野生児なイメージと全然違う申し出に度肝を抜かれた。今だって絵本よりボールが好きそうな子供だし提案を受け入れたのが本当に意外すぎた。

 ルフィが文字を読めるようになりたいと思った原因は、俺やスモーカーが文字のいっぱい書かれた新聞を読み始めるとしばらく構ってくれなくなることに対する不満だった。

 無人島に来てからも俺と馴染みのニュース・クーが新聞を持ってきてくれていたから、朝はそれを読むのが相変わらずの日課だ。俺が新聞を読んでいると、スモーカーも横から読みだして、そのまま二人で気になる海賊の情報とかのニュースについて色々話したりしている。この無人島にいては暇で話題も少なくてこうして新聞を読みながら話すのは結構楽しいから、ついついルフィを他所に夢中になり過ぎちゃったみたいだ。

 で、だ。ルフィは自分を放り出して新聞を読む俺たちを見て、俺たちの興味をすべて掻っ攫っちゃう新聞って何? どういうもの? という疑問を覚えたらしい。

 最初は新聞を読む俺の膝に乗り上げて、思いつくままタイトルや写真を指してはあれこれ質問をしまくっていた。

好奇心の塊なだけに、もう、言っちゃなんだけどしつこくて、しつこくて。まともに落ち着いて読めやしなかった。

 こういう時イラッときてしまうけど、ここで怒るのは教育上良くない。良くないけれど、どうにか質問攻勢を鎮めたくて、苦し紛れに提案してみた。

 そんなに新聞が気になるなら、自分で読めるようになってみるか、ってな。

 結果、ルフィはその日から毎日読み書きの練習に励んでいる。嫌がるか面倒くさがるかすると思い込んでいたので、めちゃくちゃ驚かされた。

 いつまでその興味が持つのかは知らないが、今のところものすごく熱心にやっている。自分の名前とか食べ物の名前とかを砂浜に書いたり、俺たちに新聞の簡単な記事を読み聞かせてもらったりして、一生懸命に続けているんだ。

これで読み書きを今からできるようになったら、ルフィって原作開始時にはどんな少年になっちゃうんだろうか?

 

 でも、こんな幼児に勉強させてばっかりもよくない。午前中までで勉強的なものは終わらせて、午後からは自由にさせている。

 目の届く危なくない範囲で遊ばせたり、適当に昼寝させたりしている。遊びや昼寝っていうのは、子供の大きな仕事だ。

ちゃんとそれらをこなすことで、ルフィみたいな子供は身体や精神の健康を維持できているんだから。

 今日も食べたらいけない毒のある植物を教えた後、昼食を摂らせてから遊ばせておいた。

 食料調達にはスモーカーが行ってくれているし、俺はのんびりルフィの面倒を見るだけでいい。昼寝させがてらお伽噺、日本人にはおなじみのはなさか爺さんだ、を聴かせてみた。

 ここ掘れワンワンでお宝が出るところが面白かったのか、話し終った後に俺もお宝掘ってくる! とルフィが言い出した。興奮しきってまったく寝る気配がない。仕方ないんで波打ち際に寄らないことと森に行かないことを約束させて遊びに行かせたんだ。

 

「にいちゃんっ!」

 

 そうして雨風除けに作った簡易な椰子の葉の小屋の下でウトウトしていたら、遊びに行っていたはずのルフィが嬉しそうに走ってきた。

 勢いが良すぎて転びそうになりながら砂浜を駆け抜け、俺たちの前で急停止する。

 全力疾走と興奮で幼い頬を染めて大きな瞳をキラキラさせながら、小さな胸を反り返らせてみせた。

 

「おれ、おたからみつけた!」

 

 えっへんっとばかりに誇らしげに報告してくる姿がもの凄く可愛い。

 寝起きのかったるさも吹っ飛び、頬が一気に緩くなった。

 これくらいの幼児って場を和ませる達人だよなぁ。

 お宝ってのもルフィっぽくて微笑ましい。綺麗な貝や光る石なんかを見つけたのだろうか?

 

「すごいな、ルフィ。どんなおたからを見つけたんだ?」

「でっかいはこ!」

 

 箱?

 ルフィの答えに首を傾げる。

 無人島に箱って、漂着物でも見つけたんだろうか。

 細く短い腕を一生懸命広げてルフィが示す箱の大きさはそれなりの物だ。

 重くて持って来れなかったというし、中に何かが入っている可能性は高い。

 怪しい。かなり怪しい箱だ。海賊が落としたとか隠したとかした物かもしれない。

 

「ルフィ、それどこで見つけた?」

 

 その言葉を待ってましたと言わんばかりに、小さな手のひらが俺の指を引っ張る。

 

「こっち!」

 

 ぐいぐいと引っ張られて真っ白な砂浜を行くこと数分くらいか。

 砂浜の森に近い場所に、ルフィがほじくり返した穴を見つけた。浅いその穴を覗き込むと、彼の言う通り砂にまみれた箱が一つ。

 ザ・宝箱って誰しもが想像するような箱だ。持ち上げてみると、俺にとってはそう重くはなかったが、中で何かがコトコト存在を主張していた。

 

「おたから? にいちゃん、それっておたから!?」

「そうかもしれないな」

 

 砂に埋まっていたことと言い、中に何か入っているらしいことと言い、これって海賊の隠した略奪品あたりだろう。箱の劣化具合からして、ずいぶんと昔に埋められた物のようだ。埋めた奴が掘り返せなくなって忘れ去られた、って代物かもしれない。

 ここに置いておくのもなんなので、小屋に持って帰ることにした。一応こんなところにある物でも、法律上は遺失物、つまり落し物扱いだ。警察の側面を備える海軍関係者の俺が見つけたからには、いったん預かって内容確認、その後上に報告して指示を仰がなきゃならない。

 

 帰ったらちょうどスモーカーの奴も小屋に戻っていたんで、二人で内容確認してみたのだが。

 まさか悪魔の実が出てくるとは、思いもしなかった……。

 

「なーケムリン。これなに?」

 

 俺たちの間に身体を捻じ込んで箱の中を覗き込んでいたルフィが、不思議そうに悪魔の実を指で突いている。

 目がキラキラしていて、口の端から少し涎を垂らしているところからして、好奇心と食欲を刺激されているんだろう。

 好奇心は良いとして、こんな奇怪な物に食欲を刺激されているって正直引くわ。明らかにヤバイ物だよって警告しているような見た目なのに、ルフィの感性がどうなっているのか不安になる。

 

「こいつは悪魔の実って珍しい果物だ」

「くだもの? くえるの!?」

 

 スモーカーの腕を揺さぶって教えてくれって騒ぎ出した。ほら、やっぱり食べられるかどうか考えていたよ、この子。

 困ったように煙草の煙を深く吐き出し、スモーカーはルフィを宝箱から引き離した。

 

「一応は食えるがな。ルフィ、食うのは止めておけよ」

 

 ちらっとスモーカーが俺の方を見る。悪魔の実を食べるデメリットを経験者に語らせようってわけか。

 食べられるけど食べちゃダメと言われたルフィも、じっと俺にふくれっ面の不満顔を向けている。

 食べないように勧めとくか。図鑑が無いからこの実が何の実かわからない。ゴムゴムの実かもしれないが、そうではない可能性の方が大きい。ルフィがゴムゴムの実以外の悪魔の実を食べてしまうってのはしっくりこないしな。

 

「すごく不味いんだよ、ルフィ」

「まずい? ほんとに??」

「昔食べたことがあるんだが、恐ろしく変な味がした。二度と食べたくない味だったな」

 

 悪魔の実は不味い。食いしん坊のルフィに一番効く言葉だろう。ゲテモノ好みではないのだから、不味い物なんか進んで食べてみようとは考えないはずだ。

 現にルフィも一気に目の輝きが失せ、渋い顔をして悪魔の実を見ている。もう一つ念押しでもしておくか。

 

「あとな、悪魔の実を食べてしまうと泳げなくなるんだ」

「ええ!?」

 

 海好きのルフィが今一番気にしているのは、泳げないこと。泳ぎが下手だから、村の子と遊んでいても楽しめないことがあるらしい。それで俺も泳げるようになりたいって島に来てからもよく泳ぎの練習をしているんだ。

 その努力が一生報われない身体になるなんて絶対嫌だろうし、これも結構良い釘になる。

 

「海に嫌われて一生カナヅチになる。それは嫌だろう?」

「う、うん」

「だったら絶対に喰うんじゃねェぞ、わかったな」

「わかった!」

 

 脅かしすぎたかな? 蒼い顔をして必死で頷くルフィは心底ビビッているみたいだ。

 この様子じゃ絶対に何があってもこの悪魔の実には手を出そうとしないだろう。ひとまずはこれで安心だと思う。

 内心ホッとしつつ、実の入っている宝箱の蓋を閉じた。

 

「とりあえず、それは保管して中将に提出するか」

「そうだな。小屋に放り込んでくるよ」

 

 ガクガク震えてしがみつくルフィを抱えてやっているスモーカーの提案に賛成しておく。下手に自分たちの判断で対処して困ったことになると面倒だ。

 五日後に中将が迎えに来てくれたら、すぐに宝箱を提出。発見した場所と状況、確認した中身について報告しよう。

 それまでは無くしたりしないよう小屋に放り込んで保管しておくか。

 

 

 

 

□□□□□□

 

 

 

 

 ポツン、と額に冷たい物が落ちてきた。

 アッと思う間もなく、足元の砂浜が急にまだらに色を濃くし出す。

 

「雨か」

 

 小屋の中にいたロイが嫌そうに大粒の水滴をばら撒きだした空を見上げていた。

 自分の攻撃力が激減するこの天気が、ロイは大嫌いだ。士官学校時代から雨が降る度に憎たらしそうに空を見ていたもんだ。

 痛いほどの勢いで降る雨粒を避けて、俺も小屋へ避難する。あまりの激しい雨に屋根の椰子の葉も耐え切れないのか、雨漏りが酷い。それでも外よりマシだ。二人で押し合いへし合いしながら小屋に入り込む。

 

「この空模様、にわか雨ではなさそうだな」

「ああ、明日まで降り続けるかもしれねェぜ」

 

 重たそうな暗い灰色の雲は地平線まで延々と空を埋め尽くしている。とても数時間では止みそうにねェだろう。

 まったく無人島生活も明日でおさらばだってのに、最後の最後でこれかよ。ツイてねェ。残り僅かな煙草も湿気っちまって、ニコチン中毒の俺にはツライ。

 ロイの方も雨で焔が使えなくなっちまったことを憂えているらしく、溜息を吐いてやがる。素手でもそれなりに戦う奴だが、やはり数いる今年の新兵の中でも随一と謳われる攻撃力のアレがロイの真価だ。使えないのはかなり痛いんだろう。

 次第にきつくなる雨足を揃って睨みつけていて、ふと静かすぎることに気づく。

 そこらじゅうで響き渡る雨風の音ばかりが煩い。だが、小屋の中がやけに静かすぎる。

 

「ロイ」

「……ルフィが帰ってこないな」

 

 そうだ。飯と寝てる時以外は四六時中はしゃぎ回ってるルフィのお喋りが聞こえてこねェんだ。

 

「どこに行った?」

「わからない。昼ごろに遊ぶと言って出て行ったきりだ」

 

 遠くへは行くなと約束させたんだが、と言うロイの表情が強張っていく。

 ついさっき見ていた小屋の周りや俺が釣りをしていた浜辺の辺りを思い出すが、あのガキの姿はどこにもなかった気がする。

 と、なると、遊びに夢中で遠くまで行っちまいやがったか、それとも森の中に入って迷ってやがるか……。

 拙いな。こんな島の中で迷子になるだけでも危ねェが、この天気だ。身体が濡れて冷えると体力が奪われ、大人であっても場合によっちゃ命に関わる事態になりかねん。

 すぐさま見つけ出してやらねェと、想像もしたくねェような事態になっちまうだろう。

 

「探しに行くぞ」

 

 グズグズなどしていられない。真剣な面持ちでお互い頷き合って、小屋から飛び出す。

 俺は海岸線に沿って浜辺を走り、ロイは森へと分け入って行った。

 ルフィは三歳児だ。そう遠くには行けねェだろう。俺たちで手分けして探せば必ず見つかる。大丈夫だと焦る気持ちに言い聞かせながら、名前を呼んで海岸を駆け回っていく。

 

 バケツをひっくり返したような雨に全身をずぶ濡れにされ、日が傾いてきたのか薄暗い空が一層暗くなり出してもルフィは見つからない。

 クソッ、あのチビはどこにいるんだ。雨と風は止むどころかもっと強くなって、もうすぐ夜になろうとしている。流石の俺でも背筋を寒気が走り抜け、身震いをするほど冷えてきた。これ以上あいつが外にいたら、最悪の事態は避けられん。

 とうの昔に火が消えた煙草を噛み締める。焦りと苛立ちが治まらなくて、近くにあった木に拳を叩きつけた。

 待てよ。もしかしたら、ロイが見つけて小屋に戻っているんじゃねェか?

 思いっきり殴って少しばかり冷静さを取り戻した頭に、良い可能性が過る。

 これだけ探していなかったんだ。森の方に行っていて、ロイが見つけ出して連れ帰っているかも。

 いったん、小屋に戻ってみるのもありか。そう思って、踵を返し元来た道を戻ることにした。

 相変わらず激しい雨に辟易し、視界を邪魔する水滴を拭いながら走ること少し。

 戻った小屋には、ルフィも、ロイすらもいなくて空っぽだった。

 まだ見つけられてねェのか。淡い期待が裏切られ、苦い感情が込み上げてくる。

 

「畜生……ッ」

 

 握り締めた手に爪が食い込む。その痛みすら気持ちを抑えきれなくて、呻いてしまう。

 このままルフィを見つけられずに夜が来たら。ロイまでもここへ戻ってこなかったら。

 ダメだ。悪い方向へとどんどん思考が行きそうになる。

 思考の端に現れたそれが、無視できないほど大きくなるのに耐えきれず、悪い思考を振り払うように森の方へ足を向けた。

 とにかくロイに合流したい。あいつの顔を見れば、少しは気分が楽になるかもしれない。それにロイを探している間に、ルフィも見つけられたりするかも。

 それだけを考えるようにして進んでいると、幾らも行かないうちに雨音に紛れてルフィの泣き声が聴こえたような気がした。

 微かな、聞き逃しても不思議ではないくらい微かに嵐が森を打つ騒音の隙間を縫って、届く幼い悲鳴。

 聞き間違えではない。直感する。声のすると思った方向へ駆け出す。

 

「……に……ちゃ……ぁあ、うあぁ……うぇぇぇんッッ!!」

 

 果たして感は当たっていた。ルフィの泣き喚く声は段々と確かなものになっていく。引き絞るような、聴く者に危機に瀕していることをダイレクトに伝える泣き声だ。

 泣きながらロイを呼んでいるのだろう。マッチの兄ちゃんと何度もルフィが叫んでいる。

 どうなってやがる。状況はよくわからないが、とにかく切迫していることだけは間違いない。

 

「にいちゃん! しんじゃやだぁっ、マッチのにいちゃぁぁん!!」

 

 もどかしい思いを振り払うかのように道を塞ぐ枝を叩き折った先に、二人はいた。

 泥塗れな上に血塗れのロイが地面に倒れ伏して、ルフィがピクリとも動かないその身体に縋りついて泣き喚き、必死で揺さぶっている。

 そして、あいつらの側に信じられないものを見る。

 

 

 今まさに二人へ躍りかかろうと体を屈めた、とてつもなくデカイ狼が、そこにいた。

 

 


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