結局、現場主義が一番強いと思うんだ。   作:そこらの雑兵A

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我慢できんかったんや。反省はしてないけど少し後悔してるかも。


春水「相変わらずだね、君は。」

「ハッ! ハッ! ハッ!」

 

息を切らせながら必死に少年が走る。どれだけ走ったかわからない。靴は既に脱げてしまい、足の裏がとても痛い。でも、止まる訳にはいかない。

 

走りながら後ろをちらっと見る。建物の屋根を飛び跳ねながら、何かが追いかけてくる。それは一度大きくはねた。

少年を追い越し、前に降り立った。ゆっくり振り返る。

 

「うわああぁ!?」

 

思わず尻餅を突いてしまった少年の胸から垂れる鎖がジャラッと音を立てた。

髑髏のような仮面。猿の様な体毛。そして腹部に開く大きな穴。目の前の怪物は気味が悪い声で笑いながら少年へと手を伸ばす。

 

迫る恐怖に耐えきれず、両腕で顔をおおう。だが、いつまで経っても、何も感じない。恐る恐る目を開くと、目の前の怪物が六本の光の帯によって拘束されていた。

少年の前に降り立った全身黒い着物の青年。

 

「動くなよ。その方が楽に済む。」

 

小さく息を吐きながら、腰に差した刀を抜く。それと同時に、目の前の怪物が光の粒子となって消えていった。

青年が振り返り、少年の目線に合わせる様に膝をついた。そして、刀の柄尻を額へと軽く押し付けた。

 

「これで大丈夫だ。」

 

体が軽く成り、段々消えていく。だが、恐怖感は無い。温かく、優しい輝き。

 

「ありがとう、おじさん。」

 

少年は微笑み、消えていった。残された青年はゆっくりと立ち上がり、顔をしかめる。

 

「……おじさんかぁ。せめてお兄さんにして欲しかった。」

 

小さなため息をその場に残し、青年の姿は一瞬で消え去った。

 

 

 

 

 

「荒木部二十席!」

 

響く声に青年が振り返る。一瞬ポカンとした顔をしたが、すぐに笑みを浮かべた。

 

「円乗寺三席じゃないですか。お疲れ様です。現世に……いえ、自分に何用ですか?」

 

「うむ!隊長から二十席に一度尸魂界への帰還命令が出された!その間、この円乗寺辰房が貴殿の代わりに現世に駐屯する事となった!あとは任せて帰還するとよい!」

 

腕を組みながら胸を張る。荒木部と呼ばれた青年は一瞬だが、すごく嫌そうな顔をしたが、すぐに先ほどと同じような笑みを浮かべる。

 

「わざわざ自分のためにありがとうごさいます。それじゃあよろしくお願いしますね。」

 

丁寧に頭を下げ、スッと姿を消した。瞬歩だ。辰房は頷き、懐から折りたたまれた紙を取り出す。

 

「さて、荒木部二十席の担当範囲は……!?」

 

開いた紙に目を通すと同時に冷や汗が流れた。

 

(ば、馬鹿な!?)

 

そこに記されていた範囲は、通常の死神の担当範囲の約三倍の広さだった。

 

 

――――――――――

 

 

護廷十三隊 八番隊 第二十席 荒木部(あらきべ) 春直(はるなお)

平均より少し高めの背(ギリギリ180ないくらい)で、肩より少し長いくらいの黒髪をうなじあたりで適当に縛っている。左腕に手甲をつけている以外は普通の死神と服装に差異はない。

古参の隊員で、基本的に他人に対しては敬語で接しているが、京楽隊長とはタメ語で話している所が目撃されている。

基本的には現世での駐屯任務に就いているので、尸魂界にはたまにしか帰らない。そのためか人脈はそれほど広くなく、ほとんどの隊員には、「ああ、そういえばそんな先輩もいたな。」程度の認識しか持たれていない。

過去に一度、駐屯任務中に行方不明となったが、およそ一か月後に現世のある山奥で重体の状態で発見。奇跡的に一命を取りとめた。その時の記憶は曖昧らしく、獣の虚と戦っていたような気がするとの事。

 

――――――――――

 

閑話休題

 

 

尸魂界に戻ってきた春直は、一番隊隊舎に呼ばれていた。隊舎の入り口にいた銀髪、口髭の男が笑顔を向ける。春直も笑みを浮かべ、懐から小さな箱を取り出した。

 

「雀部副隊長、これお土産の茶葉です。良い入れ方のメモも入っているので、あとで召し上がってください。」

 

「毎度毎度ありがとうございます。ではさっそくこちらへ。総隊長がお待ちです。」

 

雀部長次郎の後に続き、ある一室へと足を運ぶ。ここに来るのも、何年振りだろうか。

 

「荒木部二十席をお連れしました。」

 

「入れ。」

 

長次郎が襖を開ける。飾り気のない和室。そこに座るのは護廷十三隊の総隊長。そこに居るだけで空気が張り詰める気がした。

春直がお辞儀をして中に入る。長次郎は外に居るまま、襖を閉めた。スッと春直も座る。今、この部屋には山本元柳斎重國と荒木部春直の二人しかいない。

 

「此度、十番た 「お断りします。」……まだ用件を言っておらんじゃろう。」

 

重國の言葉に被せるように春直が頭を下げた。それを見ながら呆れて溜息を吐く。張り詰めていた空気が一瞬で四散してしまった。

 

「一応聞くが、何故そこまで隊長を拒む?」

 

「いつも言ってるじゃないっすか。俺、事務嫌いなんすよ。責任とか取りたくないし。あと、生涯現役で最前線。」

 

さっきまでとは違って少し砕けた口調でそう言って笑う姿に、重國はもう一度溜息を吐き苦笑いした。

 

「そう言うと思っとったわ。だが、一応状況だけは確認しておけ。実はな。」

 

十番隊隊長、志波一心が消息を絶った。原因は不明で現在調査中とのこと。

 

「お主の時と同じであればよいが、隊長不在は好ましくない。故にお主を 「お断りします。」……せめて最後まで言わせてくれぃ。あい分かった。では、数日の休養後にまた現世に向かうとよい。」

 

あからさまにテンションが下がった重國を後に、春直は一番隊隊舎を出た。

 

小さく口笛を吹きながら歩く。すると見知った顔が三つ現れた。

先頭に立つのは四番隊隊長 卯ノ花烈。その後ろに立つのは七番隊隊長 狛村左陣。そしてその隣に五番隊隊長 藍染惣右介。

 

「また断られたのですか?」

 

そう烈に問われるとばつが悪いのか目を泳がせる。烈の肩に手を置き、軽く横に押しながら左陣が前にでた。

 

「なぜだ?聞くところによれば、前にも一度、隊長か副隊長にという話が出たというではないか。頑なに断る訳を教えてもらいたい。」

 

「そうだ。少なくとも、総隊長はそれだけの力があると判断したんだ。なにか、理由があるなら教えてほしいな。」

 

首より上をすべて覆った鉄笠の奥から、鋭い眼光が春直を射抜く。惣右介も、目つきを少しだけ鋭くした。だが春直はやんわりとした笑顔でそれを流した。

 

「自分は長く死神をやっているだけで、そんな器ではありませんよ。」

 

「でも、もう卍解は習得しているでしょ?」

 

突然の背後からの声。振り返ると八番隊隊長 京楽春水が被った笠に手をかけながら笑みを浮かべていた。

 

「そんな軽く「九九言えるでしょ?」みたいな感じに言わないでくださいよ。あと、突然背後に現れるのやめてください心臓に悪い。」

 

「そのわりに全く驚いてないじゃないの。」

 

「もう慣れました。」

 

「相変わらずだね、君は。」

 

溜息を吐く春直に、笑いながら春水が肩を叩いた。それと同時に少し離れた所で何かが砕けたような音が鳴る。

 

「げ。」

 

「この霊圧は、更木剣八か。」

 

左陣が塀の向こう側に目を向けると、砂煙が上がっているのが見えた。それはこちらへと近づいてくる。

 

「それじゃあ自分はこれで失礼させていただきます。」

 

スッと手を出して烈と左陣の間を抜ける。そして惣右介とすれ違う瞬間、惣右介だけに聞こえるように小さな声で囁く。

 

「邪魔をする気はないから、俺を巻き込むな。」

 

そう言ってそのまま走り去っていった。

 

その背を見送るように、惣右介は、少しだけいつもと違う笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

壁を砕く音を遠くに聞きながら歩く。すれ違う死神たちに軽く頭を下げながら、めったに使われることのない自宅へと帰ってきた。そして溜息を吐く。

 

「掃除しないとなぁ……。そもそも部屋とかいらんし。」

 

床には埃。壁には一部カビ。あとは小さな机と端に畳んである布団のみ。人が住んでいる形跡は一切ない。というか、この部屋をまともに使った記憶がない。

文句を言ってもしょうがないのでとりあえず箒で埃を掃き出し、絞った雑巾で壁や床を磨く。

一通り奇麗になったときには既に日が沈みかけていた。

 

「……飯でも食いに行こう。」

 

本日何度目かの溜息を吐き、部屋を出た。少し歩いた所でまた見知った顔に出会った。

 

「今日は知り合いによく会いますね。」

 

「荒木部さん!お久しぶりです。」

 

「こっちに戻って来てたんすね。」

 

三番隊副隊長 吉良イヅルと、六番隊副隊長 阿散井恋次の二人だ。

 

「お疲れ様ですお二人とも。今日の業務は終わりですか?」

 

「うっす。それで、今から飯でも行こうとしてた所っすね。」

 

「荒木部さんも一緒にどうですか?」

 

春直の問いに答えた恋次がイヅルを見る。目を合わせたイヅルが頷き、春直を誘ってきた。少し悩んだが、数少ない交友関係を無下にするわけにもいかない。春直は笑顔で答えた。

 

「そうですね。じゃあ行きましょうか。奢りますよ。」

 

「いやいや、悪いっすよ。むしろこっちが払いますって。」

 

「いえいえ。こんな時ぐらい先輩面させてくださいよ。どうせ金なんて普段から使う当てがないんで……ハッハッハ……。」

 

慌てて手を振る恋次に、乾いた笑みだが目が全く笑っていない春直。めったに尸魂界に戻らない春直は、基本的に金を使うことがない。友達?なにそれ都市伝説?恋人?今も昔も仕事が恋人です。

だからこそ、こういう時位はちょっと見栄張っていいよね。

 

「良い機会なんで、ちょっと高い所行ってみましょうよ。」

 

そう言って歩き出す後ろで、恋次とイヅルが目を合わせてガッツポーズ。狙い通りだ。

この日、春直は久しぶりに他人と共に食事をとった。

 

 

 

そこ、コミュ障とか、普段はボッチとか言わない。

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