茶渡泰虎が外へと飛び出た。視線を上に向けると、頭の半分だけ毛の生え、髭のような仮面をつけた厳つい男が腕を組んで見下ろしていた。
「ちっ……死神じゃねぇのか。」
咄嗟に右腕を引き力を込め、霊力の塊を放つ。目の前で爆発と煙が舞う。だが、その煙が晴れたその場には、微動だにせず、男がたっていた。
「この程度かよ……ハズレだな。」
溜息を吐きながら腕を振り下ろす。
「外れかどうかは……戦ってから決めるもんだぜ。」
その腕は、斬魄刀を抜いた一護によって、防がれていた。破面の男が笑みを浮かべ軽く後ろに下がって距離をとる。
「……チャド、下がっててくれ。」
その一言に、泰虎が目を見開く。
「ま、待ってくれ一護!俺の傷ならもう……!」
「チャド!」
一護は振り返ることなく、声を張り上げる。泰虎が動きを止めた。その眼には困惑と悲しみ。
「いいから、俺に任せてくれよ。」
その一言は泰虎の身を案じた一言であり、それと同時に泰虎をひどく傷つける一言であった。
横長の帽子のような仮面で右目を隠した男が腕を突き出す。一角が斬魄刀を抜き、横に薙ぐ。一角は首だけ捻って躱し、仮面の男は逆の平手で受け止める。
「破面No16、ディ・ロイだ。」
「更木隊第三 「ああ、言わなくていいぜ。」……んだと?」
怪訝な顔をする一角にディ・ロイは平然と答える。それは余裕の表れだ。
「これから皆殺しにする連中の名前なんか、イチイチきいてたらキリ無えからな。」
「成程、そりゃそうだ。なら、なおさら俺は名乗っておかなきゃなぁ。」
一角がニヤリと笑みを浮かべる。ディ・ロイが逆に怪訝な顔をした。
「自分『が』殺す相手の名前は知らなくてもいいが、自分『を』殺す奴の名ぐらいは知って死にてぇだろ?」
斬魄刀を振り抜き、無理やり距離を取らせる。そして鞘を腰から抜き、構えを取った。
「更木隊第三席、班目一角。てめぇを殺す男の名だ。」
春直がバイクで駆け付けた時には、一護がルキアに抑え付けられていた。いや、目の前に死神姿のルキアがいるから、これは義魂丸だろう。
「……なにやってるんですか。」
少し呆れながらも、ヘルメットを脱いで視線を前に向けながら降りる。笑みを浮かべている破面の男の一撃で死神姿のルキアが大きく吹き飛ばされた所だ。
だがルキアは空中で体をひねり、近くにあった電柱を足場にして破面の男へと斬りかかる。男はそれを片手で防ぎ、地面へと叩きつけようとした。
「成程、大した馬鹿力だな。」
再度体をひねって地面へと着地。空中で立つ男を睨む。
「あれが破面……初めて見ましたね。個人の名前とかってあるんですか?」
「俺の名か?俺は……いや、よそう。これから殺す奴に名なんぞ名乗るだけ無駄だろう。お前らも態々名乗らなくて良い。どうぜすぐに死ぬのだからな。」
春直の問いに答えようとして、止めた。先ほどから一切表情を変える事無く笑みを浮かべたまま、平然とそう言う男。その男に向かってルキアが小さく息を吐いた。別に呆れている訳ではない。
「そうか。ならば、私の刀の名ぐらいは聞いておけ。」
ルキアが腕を伸ばし、手首を反す。
「舞え 『袖白雪』。」
斬魄刀の柄頭から真っ白な布が伸び、反す手首に合わせて円を描く。柄、鍔、刃のすべてが純白に染まる。それはまるで、一切足の踏み入れられていない雪原のごとく。
「初の舞、月白。」
一閃。ルキアの目の前に真っ白な円が浮かぶ。その白い輝き。それが刹那に輝き、一本の氷柱と化す。その真っすぐな氷の柱の中に男は閉じ込められた。
「ルキアお前、その斬魄刀……。」
「袖白雪、氷雪系の斬魄刀にして、現在尸魂界で最も美しいと言われる斬魄刀…だピョン。」
「台無しだよ。」
驚く一護の言葉に、取り押さえているルキアの義骸が説明するが語尾のせいで締まらない。本当に台無しだ。
「チッ……まさか、死神風情に解放せねばならねぇとはな……。」
ルキアがハッとして、空を見る。氷柱に閉じ込められ、先ほどから表情が一切変わっていなかった笑みが消えた。氷柱の中で霊圧が高まる。
「熾きろ 『火山獣』。」
そして、氷が『溶ける』でも、『砕ける』でもなく、『蒸発』した。しかも一瞬で、だ。肩から炎が上がる。それはまるで荒れ狂う火山のごとく。
「どうやら、見誤っていたようだ。これは、油断していた俺が悪かった。その詫びだ。全力でその自慢の刀ごと、消し去ってやる。」
「なんだ、それは……。」
「『破面』の斬魄刀は、俺らの力の『核』を刀の姿に封じたもの。つまり『刀の解放』は俺らの真の能力と姿の解放を意味する。お前たちの斬魄刀とは根本から違うという事だ。」
驚愕しているルキアと一護に説明するように、破面の男が答えた。そして拳を握る。
「そぉら!」
両肩から炎が上がり、一瞬でルキアの目前へと迫った。激しい熱を帯びた拳が迫る。動きは見えていたが回避が間に合わず、咄嗟に斬魄刀を縦にして防ごうとする。
衝撃音と炎が巻き起こった。その拳は、確実にルキアを殺せずとも戦闘不能には追いやる威力を持った一撃であった。だが、それは薄白い一枚の壁に寄って防がれていた。
「大した熱量ですね。これは、氷雪系との相性が最悪なようですね。」
冷や汗を流しているルキアと、目を細めた破面の男が声の方へと視線を向ける。春直が片手を軽く上げていた。どうやらこの壁、『断空』は春直が張った物だったようだ。そして腕を下ろし、義魂丸を取り出す。
「朽木の斬魄刀では少々分が悪いようなので……。」
義魂丸を飲み込み、義骸から現れた姿を見て一護は驚いた。
――――――
呼び出された春直が部屋へと入る。そこには、総隊長 山本元柳斎重國、六番隊隊長 朽木白哉、八番隊隊長 京楽春水、十三番隊隊長 浮竹十四郎、そして阿散井恋次と朽木ルキアがいた。
「……阿散井副隊長と朽木女史が居るのは予想外ですね。」
「この二人は、この後に与えられる任務に関係しておる。じゃがその話は後じゃ。」
重國の言葉に、二人の方を向いていた春直が前を向く。そして、諦めたように息を吐いた。
「まぁ、流石にしょうがないですね。」
「うむ。」
「……(仮)って事で。後任が見つかり次第、やめます。」
心底面倒くさそうな顔をする春直。その言葉に春水と十四郎が笑みを浮かべた。白哉もわずかだが、笑みを浮かべているように見える。
「ぬぅ……まぁ、良いじゃろう。荒木部春直を―――。」
――――――
バッとはためく真っ白な袖のある隊長羽織。その背には五の文字。その様を見て破面の男が目を見開く。
「ここからは、自分が相手をします。」
五番隊隊長 荒木部春直が笑みを浮かべていた。
「貴様、何者だ。」
「別に誰でもいいじゃないですか。これから殺す奴に名なんぞ名乗るだけ無駄なんでしょう?」
笑みのまま春直が斬魄刀に手をかける。瞬間、男が飛び上がった。それを首だけ動かして見上げる春直。その手にはいつの間にか抜刀された斬魄刀。ルキアと一護が驚く。
「……貴様!」
破面の男の眉間に一筋の切り傷。もし一瞬飛び上がるのが遅かったらこの程度の切り傷では済まなかっただろう。驚愕している破面の男の前に春直も飛び上がって空中に立つ。
(俺に施された限定霊印の抑止率は五割。破面の力量を計るにはちょうど良いか。少し試してみよう。)
本来、隊長格に施される限定霊印の抑止率は八割。だが、他の隊長より霊圧量が低めの春直は特別に割合が低めに設定されていた。
「交じり染まるは 『童子丸』。」
春直が解号。斬魄刀の形状が変わる。そして、構えをとる。
「破道の八十八 飛竜撃賊震天雷砲。」
放たれた巨大な光線。破面の男が目を見開き、無理矢理体をひねった。
ディ・ロイが指を伸ばす。一角が首をひねるが頬が切れた。一角が振るう斬魄刀は空を切り、逆に空中で体をひねったディ・ロイの突き出した両腕が一角の両肩を切裂く。
「ハハッ!どうした死神!さっきから何も出来てねぇじゃねぇか!!」
振り向き、再度腕を伸ばそうとするディ・ロイの目の前に突然斬魄刀が現れた。
「!?」
咄嗟に飛び上がって躱す。だが、僅かに切っ先が振れたのか、頬から血が一筋流れた。
「ハッ!ようやく速さに慣れてきたぜ!」
手にしていた斬魄刀をくるっと回して笑みを浮かべながら、一角が腰を落として見上げながら構えを取った。はったりではないのだろう。事実、その刃は掠っただけとはいえ、ディ・ロイに届いていた。
「……てめぇ!!」
ディ・ロイの顔が怒りで歪む。顔の半分を覆っていた布を剥がす。その眼が赤く光を放つ。それをみて一角がさらに笑みを深くした。
「死n グボァ!?」
「……は?」
どこかから放たれた高熱を持った光によって撃ちぬかれ、そのまま地に落ちた。間違いなく致命傷となる一撃だっただろう。一角が呆然としながら落ちていくディ・ロイだった物を見て、弓親は震えながら笑いをこらえていた。
「こ、こんなん納得できるかぁ!ふざけんなぁ!!」
春直「流れ弾って怖いなぁ……。」