結局、現場主義が一番強いと思うんだ。   作:そこらの雑兵A

13 / 17
第三席は限定霊印されてないって考えると、一角ってズルい。


弓親「さすがだね。」

右肩から飛び出ていた鎧の様な物が砕け散った。いや、正確には砕けていない。完全に消し去られていた。先の一撃はそれだけの威力を持った一撃であった。

 

「き、貴様……!」

 

破面の男が驚愕する。鬼道という物は知っていた。そして、それには詠唱が必要なことも知っていた。では、今の一撃はどうだったか?詠唱はされていない。にもかかわらずあの威力。どう考えてもおかしい。

 

「なんだ今の一撃は!?なんなんだ貴様は!?」

 

「さっきも言いましたよ。これから殺す奴に名なんぞ名乗るだけ無駄なんでしょう?」

 

笑みの消えた春直がそう言うと、姿がぶれた。破面の男が焦りながらも僅かに見えた影を追い、後ろへと手を振るう。しかしそれは空振り、背後から背中に手を置かれた。

 

「破道の九十 黒棺。」

 

慌てて振り返る。だが、視界に春直がうつる事なく、すべてが黒い壁に覆われた。そしてその壁が砕けた時、全身の鎧が砕け散り、破面の男は地に墜ちた。

 

「ふむ……原型が残ったか。やっぱり九十番以降は難しいな。」

 

「す、すげぇ……。」

 

一驚く一護の隣に春直が降り立った。そこにルキアも寄って来て頭を下げる。

 

「助かりました。ありがとうございます。」

 

「いえいえ。相性的な物では仕方がないですよ。」

 

軽く手を振り微笑む春直に、背中に乗っていたルキアの義骸を無理やり降ろして立ち上がった一護がたずねた。

 

「春直さん、アンタ強ぇんだな。だけど……その……。」

 

一護が言いよどむ。その理由がすぐにわかった春直が笑みを浮かべたまま一護が言わんとした言葉をつなぐ。

 

「霊圧が低い……ですか?」

 

一護が申し訳なさそうに頷く。

 

「実のところ、今の自分の霊圧は隊長格には及びません。それこそ、下手をすれば副隊長以下ですね。」

 

「……嘘だろ?」

 

「本当ですよ。種明かしをすると、あれは斬魄刀の能力のおかげです。」

 

驚愕する一護に春直が納刀していた斬魄刀の柄を撫でた。

 

「自分の斬魄刀の能力は二つ。その内の一つが、『鬼道の詠唱破棄』です。」

 

鬼道の威力には三つの要素がある。霊圧の量、術の操作、そして最後が詠唱だ。基本はこの三つのバランスが大切な訳で、霊圧が低ければそもそも鬼道は発動せず、操作が安定しなければ詠唱して霊圧を込めても、爆発したりして上手く行かない。そして詠唱を破棄すれば、当然威力は下がる。

詠唱破棄では、誤差はあるが単純に威力が三割から五割程度低下すると言って良い。霊圧量を増やして上手く術式を構成すれば威力の低下率を抑える事も出来るのだが、それは圧倒的な霊圧量とそれのコントロールができて初めて可能に成る事だ。そんなのが出来るのは鬼道衆ぐらいだろうか。

 

「『童子丸』は詠唱を破棄した事による威力の低下を0にしてくれます。」

 

「えっと……つ、つまりどういう事だ?」

 

頭にクエスチョンマークを浮かべているとルキアが小さく溜息を吐いた。

 

「つまりは、『威力が下がる筈の鬼道を本来の威力で発動できる』という事ですね。」

 

仮に同じ霊圧量を持つ者同士が全く同じ鬼道を放てば、互いに相殺する。だが、片方が詠唱破棄すれば、当然そちらが負ける事になる。それこそ霊圧量が倍ほど違えば、また違う結果になるのだろうが。

 

「正解。では、ここで問題です。『童子丸』を解放した状態で完全詠唱したらどうなるでしょうか?」

 

笑顔でそう問いかける春直。一瞬間をおき、ルキアが驚愕した。

単純に『詠唱を破棄』した事に寄って低下する筈の威力をそのまま鬼道の威力に上乗せできるという事だ。

 

「気がつきましたか。実はこれが、自分が隊長に推薦された要素の一つです。」

 

仮に、他の隊長と春直が同じ鬼道を完全詠唱で放つとしよう。技の完成度は同じ。だが、霊圧は当然他の隊長が上回る。普通に考えれば春直が勝てる筈が無い。だが、そこに童子丸の『鬼道の詠唱破棄』分の威力が上乗せされるとどうなるか?

 

「……兄様が言っていた事は本当だったのですね。」

 

こちらに来る前に白夜と話した内容を思い出す。

 

 

 

――――――

 

「兄様、一つお聞きしても良いでしょうか。」

 

自分の先を歩いていた兄様、朽木白夜に声をかけた。

 

「荒木部春直という人物は、一体どのような方なのでしょうか。」

 

総隊長から現世へと向かう先遣隊に入るよう、任を受けた。それは良い。だが、少し疑問がある。あの荒木部春直という人物。ついこの前まで第二十席だった者が突然隊長に任命された。

 

「そうか、お前は荒木部春直の事は知らぬのだったな。」

 

足を止め、白哉が振り返る。その表情はいつもより少しだけ柔らかく見え、ルキアは内心少し驚いた。

 

「彼の者は、私が隊長になる前に一度、手合わせしたことがある。」

 

意外だった。色んな意味でプライドの高い兄様が、態々二十席を相手にしたと。だが、次の一言によって更に驚かされた。

 

「その時の結果は引き分けだった。だが、続けていたら……鬼道の差で私が負けていたかもしれぬな。……この事は他言無用だ。」

 

そう言うとバツが悪いのか、すぐに前を向いて歩き始めてしまった。

 

――――――

 

 

 

「朽木隊長の事ですから、こちらを持ち上げるような事を言ったでしょうけど、あまり鵜呑みにはしないでくださいよ?」

 

そう言いながら照れくさそうに頬をかく春直だが、急に真剣な顔になって空を見る。急に強く重苦しい霊圧が当たりを覆った。

 

「……なんだぁ?エドラドの奴は殺られちまったのかよ?」

 

一護とルキアも空へと視線を向ける。

 

「仕方ねえ。んじゃ、俺が三人まとめてブッ殺すしか無えなぁ!」

 

青い髪を逆立て、こちらを見下ろしながら笑みを浮かべる破面。

 

「破面No6 グリムジョーだ。よろしくな死神!」

 

(破面……は、わかる。セスタってなんだよ。何語だよ、日本語話せよ。)

 

緊迫した空気の中、春直だけは全く違う事を考えていた。

 

 

 

 

 

「……ディ・ロイに続いて、エドラドもやられたか……。これは少々意外でしたね。」

 

細身の破面がそう言って視線を戻した先には、卍解した冬獅郎。その下では血を流し、乱菊が伏せっていた。その隣には太い破面が立っている。

 

「向こうが当たりだったようだ。それに対して、隊長格が卍解してもこの程度……。極めて残念です……。確かに貴方は、一番のはずれの様だ。」

 

挑発するように薄っすらと笑みを浮かべる破面に、冬獅郎が刺突の構えを取る。

 

(松本……。)

 

傷は負っているが、それほど深くはない筈だ。乱菊はまだ戦闘不能にはなっていない。ある連絡を待っている。それが来るまでは、何とか耐えなければならない。

 

「オラあぁ!!」

 

その乱菊の隣に立っていた破面の顔面を一角が蹴り飛ばした。突然の事に驚き、破面と冬獅郎はそろって視線を下へと向ける。

 

「斑目!?破面は倒したのか!」

 

「いえ、どこからか飛んできた鬼道が当たって勝手に死んじゃって……一角の奴、不完全燃焼なんですよ。」

 

一角と共にやってきた弓親が苦笑いしながら乱菊の隣にしゃがみ、乱菊を座らせる。

 

「……ありがとう。」

 

血は流していたが、礼が言える程度に意識はハッキリしていた。急いで治療する必要はないだろう。

 

「一人は動けないにしても、三対二か。ならば、こちらも本気を出させていただきましょう。」

 

一角と太い破面が互いに刀をぶつけ合うさまを見て、破面の男が刀を両手で挟み、顔の前に立てる。

 

「裁て『五鋏蟲』。」

 

輝き、風が舞い起きる。そして現れた姿は、両手の指五本がそれぞれ鋭く伸びた刃の様になり、ハサミムシの尾のように、後頭部から尾を生やした姿だった。

 

「……フム。」

 

僅かに手が動く。

 

「……なッ……!?」

 

冬獅郎の体が斬られた。もう少し距離が近ければ、この一撃で動けなくなっていたかもしれない。だが、この傷も決して軽いものでは無い。氷を張ってなんとか止血をする。

 

「一応、本当の名を教えておこうか。破面No11 シャウロン・クーファンだ。」

 

名前を名乗り、余裕の表情でこちらに指を伸ばす。

 

 

 

 

 

「ほう。デブの割にはよく動くじゃねぇか。更木隊第三席 斑目一角だ。貴様の名は?」

 

「破面No14 ナキ―ムだ。」

 

一角の斬魄刀を両腕をクロスさせて受け止め、ナキ―ムが名乗った。それを受けて一角がニヤッとする。

 

「わりぃが、少々苛立っていてな。問答無用で仕留めさせてもらうぜ!延びろ!『鬼灯丸』ァ!!」

 

一角が鞘と斬魄刀を合体させるように解放した。それをもってナキ―ムを突く。だがナキ―ムは平然と腕ではじく。数度それを繰り返した所でナキ―ムが姿を消した。

 

「逃がすか!」

 

後ろへ振り返り、鬼灯丸を横に薙ぎ払う。それもナキ―ムは腕で受け止めた。だが、それは罠だ。鬼灯丸が突然三つに割れ、折れ曲がる。

 

「なに!?」

 

咄嗟に反応が遅れたナキ―ムの首から肩にかけてを鬼灯丸が裂いた。

 

「驚いてる暇はないぜ!オラオラ!」

 

先の鬱憤を晴らす様に繰り出される鋭い刺突。かと思えば突然折れ曲がり、意識の外からの打撃と斬撃。体が大きい分深くは無いが、かと言って決して浅くもない大量の傷に焦り始めるナキ―ム。そしてその焦りが最大の隙を作る。

 

「こ、この!」

 

体重を乗せた踏みつけ。それをカウンターの要領で紙一重で交わした一角の刺突がナキ―ムの喉を貫いた。

 

「へッ。これだったらさっきの奴の方がまだ面白みがあったぜ。」

 

喉を突かれ、力なく項垂れたナキ―ムの亡骸を放り投げ、一角が溜息を吐いた。

 

「さすがだね。」

 

いつの間にか隣に来ていた弓親が一角に声をかけた。同時に、冬獅郎と恋次の霊圧が跳ね上がったのが感じられた。

 

「どうする?まだ破面は残ってるけど、限定解除しちゃったらもう終わりかな。」

 

「だろうな。ならもうほっとけ……あ、いや待て。あの鬼道、日番谷隊長じゃないなら荒木部隊長か!邪魔しやがった文句言いに行くぞ!」

 

そう言って一角は駆けだしていった。




冬獅郎 VS シャウロン
恋次 VS イールフォルト

原作通りなのでカット。

「「「「なん……だと……!?」」」」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。