結局、現場主義が一番強いと思うんだ。   作:そこらの雑兵A

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真子「せやな。時間はある。じっくり聞かせてもらうで。」

「お邪魔します。」

 

真子を先頭に、ローズこと楼十郎と拳西に左右を挟まれる形で、春直が階段を下りてきた。その4人を見ながら、部屋にいた皆は驚いた顔をする。

 

「……だれだ?」

 

愛川羅武が手にしていた漫画を置きながら警戒する。鉢玄も目を細め、相手を観察するような目をした。その向こう側では、僅かだが息を切らしながら睨みつける猿柿ひよ里と、目を合わせないように背を向けているリサ。

 

「ほとんどの人は恐らく初めましてだと思います。現五番隊隊長、荒木部春直です。」

 

春直が改めて挨拶し、頭を下げた。そしてすぐに頭を上げ、遠くを見る。そこでは久南白によってすごい勢いで蹴り飛ばされている黒崎一護がいた。

 

(黒崎君もやはり、ここにいたんですね。)

 

 

「そんで……何の用?」

 

リサが振り返ることなくたずねる。その声の方を見て、春直が優しい笑みを浮かべていた。一度目を伏せ。笑みを崩さないまま懐からあるものを取り出す。

 

「「「「!?」」」」

 

その手に握られたのは、獣を思わせる白い仮面。

 

「あんたも……仮面の軍勢か。」

 

羅武がさらに警戒度を上げ、斬魄刀に手をかける。同じように鉢玄も指を組み、いつでも鬼道が発動できるように霊圧を上げた。

 

「そうですね。ただ、貴方達よりも先輩ですよ。」

 

「どういう事や!説明しい!!」

 

ひよ里が声を荒げる。その隣ではリサが困惑と殺意を滲ませた目で春直を睨みつけていた。

 

「まあまあ、落ち着いて。……どこから話しましょうかね。」

 

階段を下りきった春直が近くにあった岩の様な物に腰掛けようとすると、いつの間にかその隣に来たリサが襟首をつかみ上げる。

 

「全部や。洗いざらいに話せ。」

 

「せやな。時間はある。じっくり聞かせてもらうで。」

 

そのリサの手を掴んで離させ、真子が話を促した。春直も頷き、話し始める。

 

 

 

昔、自分が行方不明になっていた時の話を。

 

 

 

百八十年前。

 

駐屯任務を一旦終え、魂魄界に戻ってきた春直。その報告書を提出するために廊下を歩いていた。

 

「失礼します、隊長。報告書をって……あれ?副隊長だけですか?」

 

「隊長なら留守や。報告書ならそこに置いといてええで。」

 

八番隊隊舎の隊長室の扉を開けると、そこでは矢同丸リサが座って雑誌を開いていた。

 

「珍しい……副隊長が隊長の後を追っかけていないなんて。今日はいつもみたいに盗み聞きや覗きはしてないんですね。」

 

意外そうな顔でリサに返しながら、報告書を机に置く。その言葉にリサがムッとしながら手にしていた雑誌を開いて見せた。

 

「毎回そんなことしとる訳やないわ。今日はそれよりも優先するものがあっただけや。」

 

「わ、わかりましたから、そんなもの見せないでください!?」

 

見せつけられた雑誌の写真を見て顔を赤くしながら慌てて部屋を出ていった。その後ろ姿を見送り、フンッと勝ち誇った笑みを浮かべてリサは手にしていた雑誌に目を戻した。

 

「は~……矢同丸副隊長、相変わらずだな。」

 

春直が呆れながら廊下を歩いていると、六番隊隊長 朽木銀嶺が歩いていた。

 

「朽木隊長、お久しぶりです。」

 

「おお、荒木部殿。戻っておられたのか。これは丁度よい時でしたな。」

 

銀嶺が言うと、春直が首を傾げた。

 

「藍染惣右介殿は知っておられよう。」

 

「ええ。五番の隊副隊長ですよね。」

 

「うむ。では、藍染殿の斬魄刀についてはご存知か?」

 

銀嶺の問いに、春直は首を振った。多くの隊士は、自身の斬魄刀の能力を態々他人には広めるようなことはしない。春直自身も、秘密にしていることは多い。

 

「彼の斬魄刀は、鬼道系でな。下手をすれば味方をも混乱させかねん。故に、他の隊の席官達にも教えているそうだ。今日も練兵場で何人かに見せるそうだ。知らぬのなら行ってみてはどうだろうか。」

 

「成程。まぁ、今日はもう予定がないので行っておいた方が良いかもしれませんね。態々ありがとうございます。」

 

微笑み、頭を下げると銀嶺も笑みを浮かべて歩いて行った。その背を見送り、練兵場へと足を運んだ。そこには既に二十名ほどの隊士が集まっていた。

春直が来てから五分ほどだろうか。藍染惣右介が小走りでやってきた。

 

「お待たせしました皆さん。この度は態々時間を取っていただき、ありがとうございます。」

 

深々と頭を下げる惣右介。頭を上げると、笑みを浮かべたまま斬魄刀を抜く。

 

「それではさっそく、ボクの斬魄刀の能力を説明しますね。『鏡花水月』。それがボクの斬魄刀の名前です。」

 

逆手に持った斬魄刀から霧が発生する。

 

「流水系の能力で相手に幻を見せる能力なんですが……えっと、口で説明するより見てもらった方がわかりやすいですね。では、軽く手合わせしてもらえませんか?」

 

そう言って、眼鏡のせいで表情はハッキリしないが笑みを浮かべていた春直の方へと顔を向けた。キョトンとした春直が自分の顔を指さすと惣右介が頷く。

 

「あー……まぁ、はい。斬魄刀を借りてもいいですか?」

 

生憎自身の斬魄刀を部屋に置いてきてしまっていた春直は隣にいた隊士から斬魄刀を借りる。抜刀して鞘を返し、抜身の刀だけを手にして惣右介と相対する。

 

「たしか、八番隊第二十席の荒木部春直さんですね。」

 

「はい。お手柔らかにお願いします。」

 

春直が正眼に構える。ニコッと笑みを浮かべた惣右介が下段に構えなおすと、姿がぶれた。見ていた隊士たちがざわめく。だが、それ以上に春直は驚かされた。

 

(成程、これは分かりにくい。)

 

春直の目の前には全く同じ構えの惣右介が二人。しかも、さっきまで見えていた足元の影も消え、それだけでなく、こちらを見ていた隊士たちの姿が所々欠けていたり、歪んで見える。とりあえず目の前にいる惣右介へと斬りかかってみるが、手応えが一切ない。

 

「これは……確かにいきなりだと困惑しますね。」

 

数度空振りをしながら苦笑いをする春直。どうやら見ていた周りの隊士にも幻が見えたようで、状況がわかってきたのだろう。おお……と声が上がる。

 

(でも、これはこれで対処法はあるんだよなぁ。)

 

春直が斬魄刀を横に薙ぐ。

 

ガキン

 

「っと、当たりましたね。」

 

「……お見事です。」

 

霧が晴れる。幻が消えていくと、春直と鍔迫り合う惣右介の姿がはっきりと見えた。

 

「よくわかりましたね。」

 

「たまたま運が良かっただけですね。もう一度当てろと言われると、厳しいです。」

 

春直が笑ってごまかす。惣右介も笑みを浮かべているが、眼鏡の奥の瞳は全く笑っていなかった。

 

「では、今度は別の方にも体験してもらいましょうか。」

 

 

 

(僅かに漏れた霊圧だけで、正確にこちらの位置を把握できたのか……彼なら、良い実験台になってくれるかもしれない。)

 

その後、同様に複数の隊士と軽い手合わせを終えた惣右介が廊下を歩くその表情は、今までよりも深く、そして底知れない笑みだった。

 

 

現世に戻り、春直はゆっくりと屋根の上を飛び交う。ここ数日は平和で、まったく虚の気配を感じない。それどころか整の気配すらない。

 

(珍しいが……まぁこんな日もあるか。)

 

トンっとこの辺りで一番高い建物の屋上に立つ。そこからあたりを見下ろしていると、遠くの方で揺らぐ霊圧を感じた。

 

「……?なんだ、この霊圧。」

 

虚の様な、だが少し違う。不審に思いながらも放置するわけにもいかず、その方へと急いで向かう。しかし、道中でその気配が霧散する。

 

(消えた!?)

 

速度を上げ、たどり着いたのは山奥。周りが木に覆われ、昼間なのに少し薄暗い。気配を感じていた所を少し離れた場所から視認。警戒して斬魄刀を抜いておく。

 

(……空気が淀んでいる?)

 

なんとなくだが、気持ちが悪い。踏み込み、とりあえず不快な所を一閃。

 

「グウッ!?」

 

手ごたえあり。ゆっくりだが、獣の様な虚が姿を見せた。

 

「お、当たった。」

 

姿を消して油断していたのか、完全に不意を受けた虚がこちらを睨みつけ、そして吠えた。その様はまるで獣だ。

 

「これだけ知性の欠片もないのは珍しいな。」

 

飛びかかってきた虚の足を斬り払い、返す刀で仮面を切り裂く……筈だった。

 

ガキン

 

「!?」

 

見えない何かに刃を止められた。春直が大きく後ろへと跳躍する。それと同時に頬への痛み。

 

(っ……斬られた?)

 

左の頬に一筋の切り傷。薄っすらと見えてきたのは、虚の背後から現れたのは5本の尾。そしてそれが一斉に伸びて春直へと襲い掛かる。

 

「うわ……面倒だな。」

 

見えてしまえば他愛ない。慌てる事無くその5本を躱し、逸らし、弾いて近づいて再度仮面へと刀を振り下ろした。今度こそあっさりその仮面を切り裂く。

 

「よし。これで終わッ!?」

 

突然の頬への痛み。と同時に左目が見えなくなる。

 

(焦るな、落ち着け!)

 

自身の中から感じられる歪な霊圧。先ほどの傷が原因だろう。霊圧が激しく揺さぶられ、乱されているのを感じる。

 

「うぅッ……。」

 

その場に蹲り、何とか抑え込もうとする。だが、少しずつ意識が混濁し始める。

 

「……童子丸、頼む。」

 

斬魄刀を地面に突き刺し、名を呼ぶ。フワッと砂埃が舞い上がり、姿を現したのは全身真っ白な狩衣で烏帽子をかぶった厳しい表情をした青年。

「御気をつけて、主殿。あれは……相当手強い。」

 

「……お前がいう程か……まぁ、何とかやってみるさ。」

 

近くにあった大樹に背中を預けながら、弱々しく笑みを浮かべる春直。変わらず厳しい表情の童子丸が指を組んでバッと腕を伸ばす。

 

「六杖光牢。」

 

六つの光の帯が春直を貫く。

 

「鎖条鎖縛。」

 

巨大な鎖が薪付き、地面へと倒れた。

 

「禁。」

 

その上から黒い帯が押さえつける。

 

「どうかご無事で……主殿。」

 

だが、その問いに答える前に春直は意識を失っていた。

 

 

 

 

 

「……暗いな。」

 

自身の精神世界へと潜り込んだ春直。本来なら広い平原で空も青い筈のその場所は、まるで夜の様に暗く、そして焼野原になっていた。

 

「お前か……虚……か?」

 

春直の前に現れたのは、先ほど斬った獣の様な虚。だが、尻尾は先ほどと違い、二本しかないが。

 

その虚が吠えた。一瞬で距離を詰められ、振り下ろされる爪。咄嗟に春直が腰に差していた『浅打』を抜く。なんとか鍔ぜりあうが、如何せん人と獣では力が段違いだ。その場に踏みとどまるよりも、力に逆らわず大きく後ろへと飛ぶ。それに合わせるように虚も跳んだ。そして連続で振り下ろされる爪。

 

「ッ……!」

 

なんとか捌き続けるが、少しずつ傷が増えていく。そしてダメージの蓄積と比例するように、虚の動きが増していくように感じた。それだけではない。

 

「最終的には九本まで増えるってか?」

 

無理やり弾き飛ばして距離を取った。地面へと四つ足を付いてこちらを睨む虚の尾は、『三本』に増えていた。そして、今まさに四本目が生えようとしている。

 

 

 

 

 

春直が自身の精神世界へと入り込んで二か月程だろうか。その間、童子丸は指を組んでその場に立ち続けていた。そこへ不意に声がかかる。

 

「これは……。」

 

大虚の目撃があり、その確認という任務で現世に来ていた藍染惣右介。だが、それは惣右介の息のかかった虚であり、ここの様子を直接見に来るための物だった。その任務は早々に終え、この場にやってきた。

 

(未だに原型を保っているとは驚いた。)

 

春直が遭遇した虚。それは惣右介が実験で生み出した虚だった。身体の内部に侵入し、無理やり虚化させるという物だ。まだ実験段階だったため、自我はなく、唯の獣に過ぎない。だが、その力は並の大虚を軽く上回る力を秘めていた。

 

(彼を実験体に選んだのは正解だったかな?)

 

一人目の実験体にした死神は、虚の霊圧に耐え切れず肉体が消滅した。だが、霊圧感知やコントロールに長けている彼ならばと思い試してみた所、意識は無く斬魄刀の力を頼ったとは言え、未だに原型を保っている。

 

「あなたは……藍染副隊長か。」

 

童子丸が振り返ることなく尋ねた。惣右介は困惑した表情で斬魄刀を抜刀する。

 

「彼は……荒木部春直二十席はどうしたんです?これはどういう状況ですか?」

 

状況はすべてわかっている。だが、あえて何もわからない風を装う。

 

「主殿は今、自身の中で虚とッ!?クッ……!」

 

突然童子丸が苦しみだし、その体が薄くなり始めた。具現化が保てなくなっている。それは即ち、春直の力が急激に弱まっているという事だ。

 

「申しわ……け……ありま……。」

 

童子丸が完全に消滅した。同時に春直を縛る縛道も消える。即ち―――

 

「――――――――!!!!」

 

『春直だった者』が吠えた。その咆哮だけで周りに木々が揺らめく。惣右介が深い笑みを浮かべ、眼鏡を外した。

 

「素晴らしい……。さぁ、その力を見せてくれたまえ。」

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