次の日の昼を過ぎたころ。イヅルと恋次に誘われてやってきたのは外にある練兵場。利用の申請が通っていたため、この時間は貸し切りである。
「面をあげろ『侘助』。」
始解を解放したイヅルが春直に斬りかかった。春直は手にしていた『杖』でそれを受ける。鍔迫り合いのような形になり、イヅルが距離を取ろうと下がるが、それと全く同じタイミング、速度で春直も踏み込んだ。
「ッ!?」
振り払おうと刀を横に振るう。春直は杖を片手で持って腕を伸ばし、やはり刃と離さない。それどころかさらに密着し、イヅルの腹部に掌打を打ち込んだ。
思わず咳き込み、膝を突く。
「吉良の斬魄刀は初見殺しだけれど、能力がわかってしまえば対策は容易いですからね。何か二の矢、三の矢がなければ辛いですよ。例えば、今のような場合は綴雷電とかが有効かと。」
「な、成程。ありがとうございます。」
鬼道の使用は禁止していない。だが、不意の行動に対して咄嗟に放つのは難しいのだろう。今後の課題の一つだ。
「次は俺っす。行きます!吠えろ『蛇尾丸』!」
呼吸を落ち着けたイヅルと入れ替わるように恋次が斬魄刀を解放。少し離れた位置から刃を伸ばしてきた。伸びてくる刃を杖で上へ弾く。弾かれた刃が上から落ちてきた。刃の腹を叩いて横へ弾く。今度は横からの薙ぎ払い。それを杖で上から押さえつける。
(なッ!?お、重くて引き戻せない!?)
春直は杖を軽く手に持っているだけに見える。だが、実際は自身の重心を完全に刃の上に乗せている。つまり人間一人分の体重が乗っていることになる訳だ。易々と片手で引き寄せられる重さではない。
「阿散井は直線すぎますね。パワーは流石ですが、もう少し絡め手を考えてみましょう。折角のリーチが台無しです。」
「ぐ……ウッス。」
春直が杖を持ち上げ、恋次が斬魄刀を戻すと、小走りで一人の少女がやってきた。そちらに目線が集まると同時に、春直は手にしていた『刀』を納刀する。
「お水持ってきました。休憩にしましょう。」
「ありがとうございます、雛森。」
春直の返事に、五番隊副隊長 雛森桃が笑顔で水の入った竹筒を手渡した。イヅルと恋次にも笑顔で渡す。
「二人とも、また手も足も出なかったの?」
桃のその言葉に、二人が苦虫を噛み潰したような顔をする。前に手を合わせたときはまだ副隊長になる前だったから仕方がないが、今は違う。春直も苦笑いを浮かべていた。
「まあ、伊達に年食ってないですからね。経験はやっぱり強いですよ。」
「でも、それじゃあなんで未だに第二十席なんですか?」
「面d……剣技だけでは出世できないという事でしょう、うん。」
雛森の問いを適当にごまかした。三人は顔を見合わせ首を傾げたが、春直から感じられる霊圧は決して高くない。それこそ、所謂平隊員と同レベル程度だ。始解は出来ている様なので、それでなんとか席官クラスなのだろうと、納得してしまった。それと同時にイヅルと恋次は気落ちしてしまう。
((ギリギリ席官クラス相手に手も足も出なかった……。))
お互い全力では無かったとはいえ、だ。これはかなり悔しい。というか、プライドが相当傷つく。
「もう一回お願いします!」
「ボクもお願いします!」
気合を入れ直し、もう一度挑む。その気迫に僅かに気おくれしてしまうが、笑顔で春直は刀を抜いた。
「お手柔らかに。」
先ほどよりは長く打ち合ったが、結局春直から一本取ることなく手合わせは終わった。そして翌日、春直はまた現世へと戻っていった。休養?知らんな。そんな事よりお仕事したい。
現世に戻ってから、はやくも二十年ほどたっただろうか。相変わらず春直は現世で虚を狩り続けていた。
そんなある日の事である。このあたりで一番高いビルの上で、周辺の霊圧を探るために目を閉じていると大きな霊圧を感じ取った。
「!?この霊圧は……なんであの二人が?」
ここからかなり離れた所。つい先日虚が大量に現われ、ちょうど暇だったので担当外だが虚を狩りに行った場所。滅却師の生き残りと若い死神に、よくわからない能力者っぽい奴らがいた町だ。そこから感じられるよく知った霊圧。
「……流石に無視はできないか?」
今、周辺に虚の気配はない。暇なので首を突っ込みに行こう。
春直は基本的に暇を嫌う。というよりは、体を動かしておきたい人種だ。だから現世で仕事をしたがり、座っているだけの事務職を嫌う。また、割と自由な性格ゆえに、単独行動を好む傾向がある。だから隊長や副隊長になりたくない。
典型的に出世できないタイプだろうか。そこ、だからボッチとか言わない。これでも、後輩からは良い先輩として慕われている(はず)。
移動しようと足の裏に力を入れ始めた所で通信機が鳴った。
『荒木部二十席。帰還命令です。』
「は……?あ、失礼しました、了解です。いきなりですね。」
『京楽隊長からの命令です。すぐに代わりの者が4名行きますので、その場で待機していてください。』
「わかりました。」
通信を切ると同時に表情を厳しいものにした。あの京楽隊長がわざわざ自分を呼び戻す。
(……きな臭いな。)
そう思いつつも、情報が無いから考えても仕方がない。開き直ったところですぐそばに穿界門が開いた。
「んな阿呆な。」
思わず素が出てしまった。尸魂界に戻って翌日。春水の執務室で話を聞いた。内容は朽木ルキアの処刑。死神の力の譲渡は重罪だが、処刑するほどの事だろうか?
「これに関してどう思う?」
「いや、流石にありえないだろ。」
春水の問いに春直が答えた。今この部屋には二人しかいないため、いつものような丁寧な言葉遣いではない。だが、二人の様子は決して親しい友人との話をしているような雰囲気ではなかった。
「ボクもそう思うよ。だから君を呼んだんだ。」
「……しょうがない、少々調べてみる。今度奢れよ。」
「頼むよ。」
面倒くさそうに頭をかきながら答えた春直に向って、春水が笑みを浮かべながら二人そろって部屋を出た。そして直ぐに春直が瞬歩で姿を消した。
(先ずは……。ん?)
屋根伝いに進んでいると強い霊圧を感じ、足を止める。廊下の屋根の上で三番隊隊長 市丸ギンの手によってグルグル巻きにされた十一番隊隊長 更木剣八がわめいていた。
(なんでやねん。)
状況がわからず内心突っ込みをいれながら、廊下に降り立つ。
「兄は……戻っていたのか。」
そこには六番隊隊長 朽木白哉が立っていた。その瞳の奥に僅かな陰り。そして霊圧には極々微量だが揺らぎ。はっきり言ってらしくない姿が見えた。
「お久しぶりです、朽木隊長……。自分で良ければ話を聞きますよ。」
「……済まぬ。」
春直が優しく微笑むと、白哉は目を閉じ、語りだした。
妻として、緋真を迎え入れた時。そして別れと約束。そして墓前で誓った覚悟。
貴族としての自分が訴える。「決定に逆らう事は出来ない」と。男としての自分が訴える。「約束を守るべきだ」と。
隊長としての自分が訴える。「真に守るべき物は掟なのだ」と。兄としての自分が訴える。「家族を救うべきだ」と。
「私は……いや、これ以上兄に迷惑をかけるわけにはいかぬな。」
伏せていた目を開く。先ほどよりは、揺らぎは小さくなっていた。自分の中での葛藤を口に出せたことで落ち着けたのだろう。
「焦ってはだめですよ、朽木隊長。先ずは状況を一度検める事。そして、今できる最善を尽くしましょう。」
「今の私にできる事……か。」
春直の答えに、僅かな長考。そしてすぐに踵を返した。
「礼を言う。兄にはいつも世話になってばかりだな。」
「後輩を助けるのは先輩の務めです。といっても、肩書きも腕前も、もう抜かされてしまいましたけどね。」
「謙遜も過ぎると嫌味にしか聞こえぬな。」
微笑む春直に、白哉もわずかだか口角を上げているように見えた。
実はオリ主の名前には由来と言っていいかわかりませんが、ちゃんと意味あります。斬魄刀の名前が出ると一発ですけどね。
ちなみに、このオリ主はどちらかと言えば鬼道の方が得意だったりして。