結局、現場主義が一番強いと思うんだ。   作:そこらの雑兵A

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惣右介「君を消して、踏み倒させてもらうよ。」

中央四十六室へと向かって走る春直。

 

(大きな霊圧が一旦離れ、また戻っていった。これは日番谷隊長か。)

 

冬獅郎の霊圧が大きくなる。恐らく卍解したのだろう。しかし、それは急速に小さくなってく。

 

「よし、着いた!」

 

四十六室へと入る。微かに感じる血の匂い。最悪な予想が当たってしまった。冷や汗を一筋流しながら、奥へと入る。

 

「藍染……惣右介……。やっぱりお前か……。市丸隊長も一緒なのは予想外だった……。」

 

部屋一面を氷が覆い、吐く息を白くする。冬獅郎の卍解によって生み出された氷の上に、藍染惣右介と市丸ギンが立っていた。

 

「やあ、荒木部二十席。君が巻き込むなというから、巻き込まれない様にわざわざ牢に入ってもらったのに。」

 

睨みつける春直に対して、惣右介はいつも通りの笑みを浮かべていた。前からそうだったが、やはりあいつの笑みは胡散臭くて腹が立つ。

 

「ぬかせ。それが俺を巻き込んだって事だ。ここでそのツケ払ってもらおうか。」

 

いつもとは全く違う口調と殺気。腰を落として斬魄刀の柄に右手を添える。いわゆる居合いの構えだ。それと同時に霊圧が跳ね上がる。その霊圧は高々二十席が放ってよいレベルの霊圧ではなかった。それでも隊長には劣るが、そこは経験と技術でカバーする。

それを見てギンが目を開き斬魄刀を抜こうとするが、その前に手を軽く上げた惣右介が一歩踏み出す。

 

「ツケたつもりはないんだけど、いいよ僕が相手をしよう。」

 

斬魄刀を抜き、見下す様な笑みを浮かべる。

 

「君を消して、踏み倒させてもらうよ。」

 

『下がって!!』

 

春直の頭に声が響いた。童子丸の声だ。同時に春直は後方へと跳躍する。右肩から肘にかけての裂傷。不意の痛みに、思わず膝をついてしまう。動いていなければ致命傷だった。

 

斬られた?誰に?どうやって?

惣右介は一歩も動いていない。後ろに居るギンも抜刀すらしていない。困惑する春直は、自身の斬魄刀に感謝しながら必死に頭を巡らせる。

 

「今のを避けたのか、凄いじゃないか。」

 

変わらず惣右介はギンの隣に立ったままだ。笑みも崩れていない。

 

「速さではない……幻覚か?いや……これは……。」

 

(見えているか?)

 

『見えています。ですが、なぜか主殿には見えない様で。』

 

よくわからない。だが、一つ分かった事がある。『藍染惣右介』の攻撃を『春直自身は認識できない』。なら、手はまだある。

 

「交じり染まるは 『童子丸』。五の型 双流。」

 

春直が斬魄刀を抜き、横向きにして解号。青白くなった刃と、少し長くなった柄頭から脇差しほどの長さの両刃が伸びる。そして、氷輪丸の影響もあったのか、急激に周辺の湿度が上がっていった。

 

「それは初めてだね。面白い。」

 

今度は一瞬で春直の前に現れた惣右介が斬魄刀を振り下ろす。狙いは肩からの袈裟切り。当たれば今度こそ致命傷だ。だが春直は立ち上がり、振り返って自身の真後ろを横に薙いだ。

 

刃と刃がぶつかり合う音が響く。衝撃を押さえきれず、春直は僅かに後ろへと飛ばされるが踏ん張り、今度は所謂三所避けの形をとると、また刃が打つかり合う音が響く。そして刺突。だが、それは空振りだったようだ。

 

二回の防御に一度の反撃。たった三回のやり取りだが、ギンは目を見開き驚愕した。

 

「……見えているのか?」

 

抜き身の斬魄刀を手にし、ギンの隣に現れた惣右介も僅かに驚いた顔をしていた。

 

「いや、俺には見えていないさ。」

 

本当なら、相手が困惑している間に追撃をしたい。だが、先に斬られた右腕の出血、痛み。そして、ここに向かってきてくれている人物の霊圧。

焦って1対2では勝率が低いどころか、限りなく0だ。故に、ここは時間稼ぎを優先し、援軍を待つ。

 

「お前の能力は、おそらく俺自身になんらかの形で催眠か、幻覚を見せているのだろう?なら、俺自身の感覚は一切信じない事にした。」

 

「なるほど。この霧、斬魄刀による察知能力か。」

 

そう言いながら惣右介がスッと左手を前に出す。その腕に触れている小さな水の粒一つ一つから、斬魄刀に伝わり、春直の五感を一切無視して春直の魂その物へと触れたものを伝える。そこに偽りは皆無だ。

 

「そういう事だ。これでお前の一挙手一投足、見逃しはしない。」

 

「そんな能力もあるなんてね。なかなか面白い斬魄刀だ。だが、無意味だ。」

 

惣右介が微笑んだ。瞬間、姿が消える。突然目の前に現れ、横に一閃。

 

「なっ……ん……!?」

 

咄嗟に一歩引いていなければ即死だった。斬魄刀を突き立て、なんとかその場で立ち尽くす。

 

「たとえ見えていても、避けられない程の速さで斬れば問題ない。ただそれだけの事。」

 

惣右介が春直の前に立ち、片手で持った斬魄刀を大きく天に掲げる。あとは振り下ろして命を絶つだけだ。

 

「荒木部春直。君がどんなに優れた経験と技術を持っていても、圧倒的な霊圧の差は覆せない。だから君は僕にとって、脅威に足り得ない。もっとも。」

 

春直の左腕を見る。

 

「早々にそれを解放していれば……また違ったのかもしれないけどね。」

 

「……俺に近づいたな?」

 

春直がニヤリとした。惣右介が目を見開き、後ろへと跳躍しようとする。

 

「二の型 炎刃。 秘技・流炎発破!」

 

春直の斬魄刀が形を変える。波打つ形状の諸刃。まるで炎を模したような刃を中心に大きな爆発が起こった。周りの水滴を集め、それを自身の斬魄刀の能力で急激に温度を上昇させる。所謂小規模な水蒸気爆発を起こす技だ。

 

肩から先の袖が破れ、ひどい火傷をした右手に斬魄刀を握り、何とか立っている春直。その視線の先には、隊長羽織の一部が破れ、頬から僅かに血を流している惣右介が笑みを浮かべて立っていた。

 

「チッ……これでもかすり傷程度かよ……。」

 

「今のは本当に驚いた。やはり君の手数の豊富さは称賛に価するよ。ここで殺すのが、本当に惜しいな。」

 

(これ以上出し惜しみは出来ないな……。)

 

春直が左手の手甲に手をかける。

 

「やはり、ここでしたか。藍染隊長。」

 

入り口から入ってきたのは、卯ノ花烈と虎徹勇音。二人は共に鋭い視線を惣右介へと向けた。

 

「いえ、最早隊長と呼ぶべきではないのでしょうね。大逆の罪人、藍染惣右介。」

 

少し悲しそうな目で、烈が春直の隣に立った。勇音が春直に寄り添い、スッと腕を取り支える。

 

「来られるとすればそろそろだろうと思っていましたよ。すぐに此処だとわかりましたか?」

 

笑みを浮かべた表情を変える事無く惣右介が問う。

 

「いかなる理由があろうとも立ち入ることを許されない完全禁踏区域は、瀞霊廷内にはここただ一か所のみ。」

 

烈が一歩前に踏み出しながら話す。その言葉を紡ぐ度に、霊圧が少しずつ高まっていく。

 

「貴方があれほどまでに精巧な『死体の人形』を作ってまで身を隠そうとしたのなら、瀞霊廷内で最も安全で見つかりにくいここを置いてほかにありません。」

 

「惜しいな。読みは良いが間違いが二つある。一つ目は、僕は身を隠す為にここに来た訳じゃない。そしてもう一つ。これは『死体の人形』じゃあ無い。」

 

突然惣右介の手に現れたのは「藍染惣右介の死体」。突然現れたそれに驚く。

 

「……それも幻覚……とでもいうのか?」

 

驚き口を開く春直に、惣右介が先ほどより深い笑みを浮かべる。

 

「惜しいね。種明かしをしよう。砕けろ 『鏡花水月』。」

 

惣右介の手にしていた「死体」が一本の斬魄刀に変わった。春直も含め、三人が目を見開き驚愕する。

 

「僕の斬魄刀『鏡花水月』が有する能力は『完全催眠』だ。」

 

「嘘……だって、鏡花水月は流水系の斬魄刀で……霧と水流の乱反射で敵をかく乱して同士討ちさせるって……。」

 

「……なるほど。その能力ってのも嘘……催眠だったって事だろうよ。一度でも目にしてかかってしまえばあとは自由自在。今までの事もすべてが催眠だった訳か。」

 

勇音が声を震わせる。

最悪だ。催眠の対象が一人ではなく、この場にいる三人ともに効果がある。つまり数の利が全くないどころか、同士討ちの可能性もあり、むしろ不利になる。相手の能力に対して思わず春直が舌打ちした。そして烈が気付く。

 

「一度でも、目に……!!!」

 

「ッ……!」

 

その烈の一言に春直も気が付いた。『一度でも目にする』という事は―――。

 

「……気付いたようだね。流石だよ二人とも。そう、一度でも目にすれば術に堕ちるという事は、目の見えぬものは術に堕ちることはない。……つまり最初から東仙要は僕の部下だ。」

 

三度目の驚愕。藍染惣右介、市丸ギン、そして東仙要の三人の隊長が敵であった。そして、その一人がここには居ない。

ギンが懐から取り出した布を伸ばす。渦を巻き、惣右介とギンの二人の姿を隠していく。

 

「最後に褒めておこうか。完全催眠下でありながら、僕の死体にわずかでも違和感を感じた卯ノ花隊長。そして、同じく完全催眠下でありながら、僕の斬撃を二度も防いだ荒木部二十席。見事だった。」

 

目を細め笑みを浮かべる惣右介。

 

「さようなら。君達とはもう会う事もあるまい。」

 

バッと光と風を放ち、惣右介とギンは姿を消した。同時に春直が膝から崩れる。

 

「荒木部二十席!?だ、大丈夫ですか!?」

 

「俺は良い。藍染惣右介の行先の特定を!」

 

「勇音。」

 

「は、はい!」

 

烈が春直に肩を貸し、近くにあった柱に背をもたれる様に座らせた。その間に勇音が鬼道で惣右介を探す。

 

「卯ノ花隊長からいただいたこれが、盾になってくれました。見かけほど傷は深くないので大丈夫ですから。日番谷隊長と、雛森副隊長の方が危険です。そちらを先に。自分は自力で治療できますから。」

 

深く深呼吸し落ち着いた春直が、懐から二つに割れた小さな箱を出し、そう言う。これが無ければ、惣右介の凶刃は内臓へと届いていたかもしれなかった。口調も普段の話し方に戻っていた。だがそれを無視し、烈は春直の死覇装を脱がして腹部の傷を確認する。

 

「それでも、決して浅くは無いじゃないですか。あの二人が危険なのはわかっていますが、先ずは止血だけでも先にしておきます。黙って大人しくしていてください。」

 

少し怒気を込めながらそう言って、傷口に麻酔を突っ込む。ならせめて、もう少し優しく処置してくれたらよかったのにと、内心で愚痴りながらも腹部の痛みと麻酔によって春直は意識を失った。




ここまで春直の勝率が0%。
本当に現場主義が一番強いんですかねぇ……?(白目

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