真っ白な廊下を春直が歩く。服装はいつもの死覇装ではなく、真っ白な病衣。左手にはいつもの手甲。右手は指の先まで包帯で巻かれている。
「荒木部二十席!?まだ立ち歩いては駄目ですよ!」
たまたまカルテを持って歩いていた勇音が、慌てて駆け寄ってきた。それを見て荒木部が少し戸惑ったような笑みで目を逸らす。
「いやぁ……ただベッドで転がっているだけってのが落ち着かなくてですね……。」
そんな春直に勇音が困った様に笑みを浮かべた。
「駄目ですよ。腹部の傷は塞がったと言っても、完全じゃありませんし、右手の火傷も相当ひどかったんですからね!ほら、病室に戻ってください!」
そう言って春直の背中を押して病室へと向きを変えさせる。勇音に押される形で渋々病室へと戻って行く。すると、病室の前には冬獅郎が立っていた。
「荒木部二十席……。」
「これは、日番谷隊長。お疲れさまです。」
冬獅郎は重傷だったが、緊急とはいえ烈が治療したため、春直より退院が早く、今日から既に業務に復帰していた。その冬獅郎が業務の合間をぬって春直の所に来ていた。
「……済まなかった。」
早々に頭を下げてきた事に春直と勇音が驚く。
「藍染の策にはまり、お前を疑ってしまった。それどころか、拘留までしてしまった。それに、あの時お前が来ていなければ俺も、雛森も死んでいたかもしれない。改めて、礼を言わせてくれ。」
真剣な表情で頭を下げている冬獅郎に、春直は笑みを浮かべた。
「顔を上げてください、日番谷隊長。自分が隊長と同じような状況であったなら、やはり同じ様に疑ったと思います。それに、こうやってお互い無事だったのですから、もう良いですよ。」
「……ありがとう。」
弱々しい笑みを浮かべ、冬獅郎は帰っていった。その背を見送り、春直も踵を返す。勇音が焦って手を伸ばす。
「あ、ちょ、ちょっと!?」
「病室はここですよ?どこに向かう気ですか。」
「ア、ハイ。スミマセンデシタ。」
烈が春直の襟をつかんで笑みを浮かべていた。片言で返事をする春直に烈が溜息を吐く。引きずる様に病室のベッドに座らせ、春直の右手をとった。
「明日には退院出来る様にするので、今日はおとなしくしていてください。」
烈の手が柔らかい光を放ち、その光が春直の腕を包む。その温かさに何となく気恥ずかしくなった春直は頬をかきながら視線をそらした。
そして翌日。
「御加減はいかがでしょうか。朽木隊長。」
退院する前に春直が訪れた病室のベッドには白哉が座っていた。
「兄か。もう良いのか?」
「はい。運良く、朽木隊長ほどの重傷では無かったので。それで、朽木女史とは、和解できたようですね。」
「うむ。だが、今度は別の意味で心配事が増えそうだ。」
白哉が苦笑いをする。普段は全くと言ってよいほど表情を変えない白哉だ。この場に他の死神が居たら相当驚いた顔をしただろう。その白哉に、春直が首を傾げた。
「ルキアに十三番隊の副隊長就任の話が出ている。そうなると、今までより責任も増え、有事の際は危ない任をまかされる事も増えるだろう。」
「ああ、成る程。それは素直に喜べない事ですね。」
守ると約束をした以上、危険な目には遭わせたくないのだろうが、本人が守られる事を望んでいないのだろう。仲直り出来ても、なかなかうまく事が進まないものだ。笑みを浮かべる春直に、白哉はいつもの様な表情に引き締め直した。
「それで、兄はどうする?状況は既に大きく動いてしまった。このまま……という訳にはいくまい?」
「あー……まぁ、そうでしょうけど。一応まだ保留です。」
困った顔をしながら春直は腕を組む。
「止むを得ない事情ですからね。ただ、こちらとしても一応訳ありなので……。」
「その訳を話してもらう事はできぬのか?」
白哉の言葉に春直が顔を上げる。その目はルキアを見る時ほどでは無いが、優しい目をしていた。
「兄には世話になりっぱなしだ。出来るなら、兄の力になりたい。」
「……ありがとうございます。ですが、こればかりは誰かに相談する訳にはいかないので……。」
「そうか……。」
白哉が目を伏せる。
「ただ、覚悟はできました。ありがとうございます。」
「そうか。」
白哉が顔を上げると、春直が笑みを浮かべていた。それを見て、白哉も小さく笑みを浮かべた。
「あ、春直さん!」
「おや。黒崎君と……そのお仲間の方ですね。」
「あ、はじめまして!井上織姫です!」
やる事も無く外を歩いていた所に、正式に死神代行となった、黒崎一護とその友人である井上織姫が走ってきた。
丁寧にお辞儀をする織姫に、春直も自己紹介して頭を下げた。
「そんなに急いでどうかなされましたか?」
「朽木さんを見ませんでしたか?」
「朽木さん……妹の方の朽木さんですか。」
織姫がたずねてきたが、生憎見ていない。なにか急ぎのようなのだろうか?
「場所を特定しましょうか?」
「え、そんな事できるんですか!?」
春直が言うと、織姫が興味深そうに身を乗り出す。強調される胸部から目をそらしながら小さく咳払い。しゃがんで地面に文字を書く。
「縛道の五十八 摑趾追雀。」
円の中にかかれた文字が変わり、数字を表す。摑趾追雀は特定の人物の居場所を探す鬼道だ。その方法は2つ。1つは現在地からどちらの方に、どれだけ離れているか。もう1つは、住所など特定の数値が宛がわれている場所を指す。
今回は後者だった為、その数字に織姫は見覚えがあった。尸魂界に来てわりとすぐだった頃に長老にもらった地図に書かれていた数字と同じ。
「あれ?ここって……。」
「おー。やっぱりここだ。」
春直が特定した場所にルキアはいた。
「……一護、井上……。(あと……どこかで見た気がするが誰だ?)」
実は、春直は朽木ルキアと直接話をしたことがない。あれだけやっておきながら知られていないとか少々可哀そうな気がするがしかたがないね。
「おひさしぶりですね。志波さん。せめてもう少ししっかりした服着てください。」
「おう、春直か。夜一から聞いてたが、相変わらずだなぁ!」
笑みを浮かべながら近寄って来て春直と腕を組む。顔を真っ赤にしながら腰が引けてしまっている春直を見て、一護も織姫も意外そうな顔をしていた。
「まぁ、これ位にしておいてやる。」
そう言いながら組んだ腕を外し、笑いながら春直の背中をたたいた。
「それで、もう上位の席官にはなったんだろう?」
空鶴がたずねると、春直は目をそらした。回り込んだ空鶴が春直と目をあわせようとすると、また目をそらした。
「おいこらてめー!なんでいつまで経っても下っ端のままなんだよ!」
「ちょ、志波さん!!くるしい!あと、当たってる!やめて!」
「口答えすんな!おら!」
空鶴が片手で春直の頭をつかみ、脇でしめた。所謂ヘッドロックだ。押さえつけられる痛みとは別に頬に感じる柔らかさと温かさに、また春直が顔を真っ赤にして腕をたたく。その様を空鶴が笑みを浮かべながら騒いでいた。
一護たちがまじめな話をしている隣で何をしているんだかこの二人は。
そんな様を岩鷲が困惑しながら見ていた。
(あんな楽しそうなねーちゃんを見たのは、いつ以来だ……?)
活動報告の方で、繋ぎの回その2についてのアンケートやってますので、よろしくお願いします。