改めて、呼び出した人影を見る。
少し朱が差し桜のような色合いにも見える髪と、それを結っている黒いリボン。
髪に合わせて誂えたのではないかと思わせる桜色の和服。
その端々からは、マシュちゃんにも似た病的なまでに白い肌が覗く。
召喚の余波ではためいていた袴は、和服とは真逆に濃い赤紫色だ。
その袴の裾からは……編み上げブーツかソレ?
そしてセイバーのクラスの由来であろう獲物――日本刀を携えている。
どこか既視感があると思ったら、日本刀の鍔の形状が俺の命を救ってくれたらしきあのお守りと全く一緒だった。
どういうこと?
総括すると―――日本人、だよなぁコレ。多分服装的には大正時代とかそこらの。
そんで刀持ってるってことは世界大戦で戦ってた軍人……なわきゃねえよなぁどう見ても女の子だもの。
うーーーーん………
「あのー、すみません。無言でじっと見つめられても、その、ちょっと困ると申しますか。そろそろ自己紹介の方をですね………あなたが私のマスター、ですよね?」
ジロジロと見ていたせいか、やや躊躇いがちに声をかけてくるセイバー。
視線もどことなく胡乱気……というか視線が合わないんだがどこ見て……?
と、視線を辿った先には自分の左手。
なんかおかしいモノでも付いているのかとよくよく見ると――
――左の手の甲に、全く持って見覚えのない、さっきまでなかったはずの赤い紋様が現れていた。なぁにこれぇ。
こういうの、何て言うんだったか……トライバルパターンだっけ?
薄暗いせいで判然としないが、なんというか全体的に、星? 花? みたいな形状をしているように見える。
というか、今更ながら気づいたんだがコレのとこちょっと痛い。ジンジンする。
これ見てんのかなぁと思って左手を左右にゆっくり揺らしてみると、彼女の視線も一緒にゆーらゆら――
「あの?」
――いかん。召喚成功と第三種……もとい、
問いを放置して無言でジロジロ見たり徐に手を揺らしてみたりと若干おかしな挙動を取ってしまったせいか、なんかこっちを見る視線がちょっと鋭くなったような気がする。
不快にさせても互いに良いことは何もない。
急いで答えねば――
「……んあぁ! すみませんねどうも。私は斬牟瀨徒と申します。此度は此方の勝手な都合で呼びつけてしまい申し訳あr」
「ストップ! ストップです! ……あの、差支えないようならもっと砕けた感じでお願いします、はい。一緒に戦う間柄でその対応は、私的に正直座りが悪いと言いますか、なんといいますか……」
「あー、んー。えっ、と」
「(じーっ)」
――答えねばーと思い、こっちの都合で呼び出した負い目もあるのでとりあえず超下手に出てみたが、速攻でツッコまれた。
どうやらお気に召さなかったらしい。……儚気な印象に反して意外とぐいぐいくるタイプと見える。
上目遣いでじっと見つめるの止めてほしい。……俺だって人並みにはドキドキするんだい。
まあ、向こうが嫌ってーなら合わせるか……。
「……解った、んじゃ改めて。斬牟瀨徒だ。マスターとしても魔術師としてもド素人。ついでに今回はサーヴァントに殺されそうだから助けてほしくて貴方を呼んだ。……ここまでで質問ある?」
「いえ。特にはありませんね」
「そか。じゃあこっちからまず二ついいかね?」
「ええ。どうぞどうぞ」
「日本人、でいいんだよな? あと、自分で言うのもあれだが俺の呼びかけに応えてくれたのは何でだ? かなり自分勝手というか、そっちに利益が無いってのはニュアンスとして伝わってたと思うんだが……?」
どうしても確認しておきたかったことを改めて問いかける。日本人かどうかの確認はついでだ。
例として聖杯戦争においては聖杯を景品とすることで「叶えたい望み」があるサーヴァントが召喚に応じているという話だが、要はサーヴァントが召喚に応えて現世に来るのはそれなりの目的あっての話だということだ。
正直あんな利益0としか思えない呼びかけに応えるようなモノ好きがいるとは思ってなかったのでどういう事なのかははっきり聞いておきたい。
他人と契約を結ぶ上で「何ができるのか」「何を求めているのか」をはっきりさせるのは重要だ。こういうのをキッチリしなかったせいで後々険悪になるのは避けたい。……サーヴァントと戦闘中の土壇場とかに契約破棄でもされたら俺余裕で死ねるだろうし。
「えぇー、呼んだ後にそういうこと言っちゃいますかー……。まぁとりあえず、私は日本人で合ってますよ。あとは応えた理由、ですか……まあ、お気になさらず! 新しく得るモノが無いというのはきちんと納得ずくでの現界ですので!」
「むぅ、そうか……んじゃあまあ、今は置いとこうか」
言い淀むってことはやっぱりなんかあるんだろうが……まあ、その辺は問題ないって言いきられちゃえばそれまでだしな。
追及はしないで次行きますかね。
「んじゃ次に、名前は?」
「それも今は秘密にさせてください。とりあえずは、セイバー、でお願いします」
ふむん、これも秘密、と。
和風の容姿からして
聞かれたくないことはひとまずそのままに。詮索はご法度、っと。
「よし、了解だ。じゃあ質問は切り上げてもう少し細かく現状の説明を――――」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「はぁっ!? サーヴァントを召喚したですって!? ……許可は出せないって言わなかったかしら!!」
「現実問題戦力はあった方が良いはずですが? キャスターの話では残った敵はいずれも強者揃い。万が一、一斉に襲われても対処できるように備えただけです。というか、カルデアの監理下で召喚システムを使うならともかく今回は私が、管轄外で、勝手に召喚したんですよ? ……これにあなたの許可が必要で?」
「…………ッ!!」
プルプルしてらっしゃる。沸点低っくいなぁもっと気楽に生きようぜ?
互いの簡単な事情説明といくつかの相談が終わったところで外から物音が聞こえなくなっていることに気づいたので、後の細かい話は移動しながらと言うことで纏まった。
んで、外に出たのだが……なんでかこっちに杖向けてるキャスターとか盾構えてるマシュちゃんとかいるわけ。
すわ裏切りか……と思ったが、間近でサーヴァントが召喚されたのに気づいて何が出てくるか判らないから警戒してただけらしい。
まあバーサーカーとか出てくると言うこと聞かないとか全然在り得るらしいし、さもありなん。
あ、特訓はもう終わって後は俺待ちだったそうです。
「くっ……私よりも大きい……!」
「いやコレ結構邪魔なんですよ。成長期に稽古してた時とかもう大変で……」
「畜生理不尽だー!」
「せ、先輩! よろしければ私のを分けます!」
「いや無理でしょ。何言ってるんですかマシュさん」
「ううん……マシュはいいの……ふかふかマシュマロサーヴァントじゃなきゃダメなの……」
……にしても女子組が姦しい。所長もあっちに混ざってくりゃ良いのに。
というか立花ちゃんのこみゅちからスゲェ。
最初は互いに武器突きつけ合ってたのに二言三言会話したらあっという間にアレだよ。
俺にゃあ真似できんな。
俺他人と会話するときは何かしら事前に話題ないと会話続かないタイプのコミュ障なモンで……。
「ふーん、腕は立ちそうだが、体つきはもう一つかねぇ。
「……ノーコメントで頼む」
「あんだよツレねえなぁ」
そんな女子会を横目に見つつキャスターが絡んでくる。
返答に困る問いは止めてほしい。ニヤニヤすんな。
本人たちが目の前にいるのに会話の肴なんぞ提供したくない。恥ずかしすぎる。
そして周囲で交わされる会話の平和すぎる内容のせいか、さっきまでほぼキレていた所長が頭を激しくシェイクして発狂し始めた。
軽すぎなんだけどマジ!
誰だよこいつを偉業を成した英雄とかって言った奴は!出てこいよ!
ブン殴ってやるよ私が!威厳の欠片もありゃしねぇ!女の尻追っかけてるだけじゃねえか!
そういう状況じゃねえから今!
きっとあのヘッドバンギングしてる頭の中ではこんな感じでこ○じん似の何かが喚いているはずだ。
……キャスターの提示した選択肢に自分が入ってなかったからではないと思う。多分。メイビー。
あ、マロンに八つ当たり始めた。合掌。
さて、とりあえず移動開始しますかね。
「キャスター。どっち行けばいいんだ?」
「おまえさんたち大橋渡ってきたんだったよな? んじゃ、ひとまずそこまで戻ろうか」
:
:
:
現在大橋を越えて深山町に戻ってきました。
なんでも真正面に聳えている山――今麓にいる「円蔵山」の内部が目的地なんだそうで。これから山歩きだってよ。
散発的に襲ってくるガイコツ兵はサーヴァント三人と人間三人のペアでローテーション組んでサックリ処理できてるからここまではかなり安全だった。警戒自体は切らせないが、合間に軽く会話する余裕すらある。
……そういや薄々わかっちゃいたがセイバー結構強いんだよな。
マシュちゃんが二発か三発は殴らないと斃れない骨共を一撃でサックリ斬り倒してんだもん。
今も瞬間移動でもしているかの如く動くセイバーに斬られて、ガイコツ兵2ダース強が10秒程度で塵になった。
こんな真似はキャスターにも、マシュちゃんにも、ましてやあの黒サーヴァント共にもできていなかった。
どうやらこの「瞬間移動でもしたかのように速い動き」がセイバーの強みの様だ。
さて、あっちは任せっぱなしでも問題なさそうなので今になって思い出したがまだ訊いてなかった肝心なこと――
「ハァ……もう! とにかく! 喚んでしまったものはしかたありません。状況が状況ですのでこの場は黙認しますが、今後! 一切! 絶対に! 許可なくこういった行動は慎むように!」
「なぁキャスター。聞きそびれてたことが一つあるんだがいいかね?」
「ぉん? なんだよ?」
「聴きなさい! 聴けっ!」
アンタ自身がさんざ言ってたと思うが、俺アンタの部下じゃねーかんなー。
今回の出向、当初の予定通り行っていれば俺は48人目のマスター候補として最低限の訓練だけ受けてから、今となってはこの世の地獄としか思えないこの都市に派遣となる予定だった。
レイシフト実験の監査役という役目こそあれど、カルデアの指揮下に入って動くことになる手筈だったのだ。
だがこの所長が直前になって俺の枠に立花ちゃんを捻じ込んだせいで俺の立場は宙ぶらりんになり、最終的に所属も指揮命令権も国連のままの状態でカルデア行き、という「出向」というワード自体が若干怪しい感じになってしまったのである。
ちなみに以前の、俺が召喚したら後々揉めるかもしれない、という話はこの辺の事情が関係している。
まあ今は生き延びるためにやったと開き直ることにしたので知ったこっちゃねーのだが。
要約すると、無視しても全く問題ない。ので、キャスターへの質問を続行する。
「いや、あんた敵方のサーヴァントの、何つーんだ、正体? って知ってんのか?」
「正体? ……あぁ、真名のことか? そうさな、アーチャーの野郎とバーサーカーに関しちゃ、知らん。だがセイバーには心当たりあるぜ。あの宝具を見りゃあ誰だってその正体に気づく」
『そういえば、何度か戦った経験があるような口ぶりだったね』
マロンが話に乗ってきた。
どうやら案の定と言うべきか。キャスターはターゲットの情報をきちんと知っていたらしい。
同盟相手に情報共有徹底してない辺りはちょっと度し難い、というか疑心が深まるが……まあ内容次第だな。
と、今度は女子トリオが寄ってきた。セイバーのガイコツ狩りもいつの間にか終わっていたようだ。
「有名な人なの?」
「そりゃあな。俺以外の5騎がセイバーになぎ倒されたのも、ヤツの宝具があまりにも強力だったからだ」
「強力な宝具、ですか? それは、どのような……?」
「王を選定する岩の剣の二振り目。お前さんたちの時代において最も有名な聖剣」
「なっ、それって――」
「そうだ。聖剣『
立花ちゃんとマシュちゃんの問いかけに、キャスターはもったいぶらずに正解を明かした。
一足先に正体を察したらしい所長を始め、ターゲットの正体を知らされた面々が驚きを露わにする。
元より知っていたキャスターを除けば、動じてないのは俺とセイバーだけだ。
「ちょっ、あなたなんでそんなに平気そうな顔してるの!? アーサー王よ!?」
テンパって肩を掴んでくる所長と、それを見つめてくるマシュちゃんと立花ちゃん。
こんな、なんというか、ものすごい強敵の存在が明らかになった! 的な空気の中で言うのは非常に、非常に申し訳ないのだがとりあえず後々のために問うておきたい。
「アーサー王……って、誰だ?」
『「「「「は?」」」」』
「フォウ?」
「いや、だから。アーサー王って誰ぞ? 聞いた事ないんだが。どこの人なん?」
『「「「「えええぇぇぇぇぇぇ!?」」」」』
「フォォォォォォォォォウ!?」
そんなに驚くようなことなんかねぇ?
アーサー王すら知らないFate二次の主人公w
主人公はファンタジックな知識などにはあまり明るくありません。
ド定番のドラゴンやエルフなどは(日本住まいの頃のCMや書店の広告などもあって)流石に知ってますが、
「○○の神話や伝説に出てくる人物とかキーアイテム」みたいな固有名詞になると全く知りません。仮に知っててもその伝承と結びつきません。
なのでアーサー王とかジークフリートとか「誰それ?」ってなります。
知ってるのは精々ヘラクレス(それも名前とギリシャ神話出身ってことだけ)位です。ディズニーは偉大だった。
以前文中で「聖杯とかいう~」と発言しているのも"聖杯という言葉自体を知らなかったから"です。
ちなみにこの昔の物語に無知な部分はFateシリーズに触れる以前の私自身がモデルの実話です(笑)