Fate / Bonjin survivor   作:墓守幽也

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7:標的が地球外生命体っぽいんだけどどうすりゃいいの

 「フォwフォwフォウwフォウw」

 

 『い、いやいやいや。アーサー王だよ!? アーサー王!』

 

 「いやだから誰」

 

 「オイこいつマジかよ……」

 

 「とっくに成人してる現代人のくせしてアーサー王を知らないって……何、コイツどういう育ち方してきたの?」

 

 

 何か笑ってるっぽいフォウ君。

 そんな存在がいることすら信じられない! とばかりに壊れたレコーダーの如く名前を連呼するマロン。

 呆れた様子のキャスターに、呆れるを通り越してドン引きした様子の所長。

 あちゃーっと額に手をやるジェスチャーをしている立花ちゃんに、すごく焦ったような顔色で俺に詰めよってくるマシュちゃん。

 

 

 どうも俺の常識は皆にとっての非常識だったらしい。

 

 

 「で、ではライトさん。『裏切りの騎士ランスロット』はご存じではないでしょうか?」

 

 「(ランス)・スロット……? 槍で有名なのか? それとも賭博に失敗して国の運営資金でもちょろまかしたとか?」

 

 「『反逆の騎士 モードレッド』は?」

 

 「モー、ド、レッド……? ……赤い牛? ドレッドヘアーの牛?……食用の牛飼ってた、とか?」

 

 「なっ、『嘆きの騎士トリスタン』は!?」

 

 「(トリ)スタン……? 動けない……飛べない鳥? ……鶏?」 

 

 「じゃ、じゃあ『魔術師マーリン』は!?」

 

 「マーリン……マーガリン? を、作ったとか? ……料理人か?」

 

 「駄目です先輩! 全滅です! どうやら本当にご存じないようです!」

 

 『ま、マーリンが、マーガリン………ブッ、くくくくっ』

 

 「フォーwウwフォウwフォウwフォウw」

 

 「ええー……でも流石にエクスカリバーは知ってるんじゃない? アーサー王関係なくてもあの剣の名前だけ使ってる作品とか結構多いよ?」

 

 「エクスカリバー、エクスカリバー………ああ、相手に消耗品として投げつける以外じゃたった1のカスダメージしか与えられない武器k」

 

 「それエクスカリ"パ"ーだよライトさん! 本物じゃなくてパチモノの方だよ!」

 

 「んぁ、そうだったか? "パ"ーの方が超凄い剣で"バ"ーの方がパチモンじゃなかったっけ?」

 

 「逆だよ!」

 

 『うわぁ……これはちょっとすごいなぁ』

 

 

 「アーサー王って誰ぞ?」から始まったマシュちゃんによる怒涛の質問ラッシュ。

 

 スロットマシンだとか鳥がスタンだとかマーガリンだとかいうキャラを知っているか訊かれたが、知らんもんは知らんわけで。

 何でかマシュちゃんがすっごいショック受けてて足元がおぼつかない感じになってる。ちょっと罪悪感。

 代わって立花ちゃんがフォローしてくれたおかげで武器の方には聴き覚えがあることに思い至るがそれすら記憶があやふやである。

 

 

 

 結論。なんか超凄い王様らしいがよくわからん。

 

 

 

 

 「いえ、これから戦う相手ですよ!?」

 

 「「判らん!」で片づけるのは、流石にどうかと思いますよ? 「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」です!」

 

 「それ軍団対軍団の心得の一つじゃじゃなかったっけか? 今の俺たちってどっちかっつーと暗殺者じゃね?」

 

 「いいじゃないですか暗殺者(アサシン)。どこの馬の骨とも知れない王様如き、私の刀でイチコロですとも!」

 

 「……え、あれ? ひょっとしてセイバーも知らないの? アーサー王とかいうの」

 

 「知りませんよ? 外つ国なんか生まれてこのかた見たことも無い日本人に何を期待してるんですかマスター」

 

 「『彼を知る』どころかちっとも知らないんじゃねえか……そんなんで勝ち目あるのか?」

 

 「己は嫌って程知ってるから勝ち目ありまくりなんですー」

 

 「この主従は……ッ!」

 

 『聖杯に召喚されるサーヴァントは現代では既知の事柄に関する知識を与えられてるはずなんだけど……うーん?』

 

 俺のワカラン宣言に即座にマシュちゃんとセイバーからツッコミが入る。

 が、どうやらセイバーの方もアーサー王については知らなかったらしい。

 俺以外で一人だけ動揺してなかったのはそういう事だったのか……。

 

 「というか、アーサー王は知らないのに孫子はご存じなんですね……」

 

 「昔っから雑学書はよく読んでたからなぁ。まぁ、逸話とかそういう詳しい説明は帰ってからにしてもらうとして、とりあえず実際戦う時どこに気を付ければいいかだけ教えてもらえるか?」

 

 「お、おう。わかったぜ」

 

 戦力に余裕ができたとは言ってもいつ敵が湧くか解らない状況なのは変わりなく。

 そんな状況で多分長々かかるだろうアーサー王の伝説とやらを聞いても対して覚えられもしないし役に立たないだろうからパス。

 教会前の特訓の時のように実戦的な情報だけを貰えるようキャスターに打診する。

 ってなんでコイツこんなに引いてんだろう。

 

 心配しなくてもお前(キャスター)の名前も間違いなく知らないと思うよ?

 

 

 「何か大分不名誉なこと考えてるような気がするが……まあいいか。で、情報だったか? そうさな、あの騎士王は身形(ナリ)は大分小せえが一撃一撃が重い。筋肉じゃなくて有り余る魔力に任せた怪力で、おまけにそいつを放出してカッ飛んでくる化け物だ。気を抜けば防御しても勢いで上半身ぶっ飛ばされかねねえ」

 

 「なにそれこわい」

 

 昔の王様って自力で飛行できたのかー……ってアホか。

 そんなロケット擬きみたいな生命体地球上にいてたまるか。エイリアンかなんかじゃねえのかそいつ。

 

 「ロケットの擬人化のようなモノでしょうか」

 

 「アーサー王でそれなら円卓の騎士って……」

 

 マシュちゃんと立花ちゃんもちょっと引き攣った顔をしている。

 だがまあ、まだ肝心なことを聞いてない。

 

 「で、肝心のエクスカリバーとかいうのはどういう兵器なんだ?」

 

 「ありゃあ、そうだな……解りやすく言うなら、さっきまでいた街の中心部ぐれーなら余裕で吹っ飛ばせる極太の光線だ。しかも聖杯を奴が抑えてるせいか魔力消費の心配なんざちっともせずにガンガンぶっ放して来やがる」

 

 「なにそれこわい」〔セイバー。クラス同じなんだし対抗するようなビームとか撃てちゃったり――〕

 

 〔――するわけないじゃないですか。ビーム出す剣術とか嫌ですよ。そんなもんあってたまりますか〕

 

 〔まぁそうだよなぁ……悪い。変なこと訊いたな〕

 

 〔……まあ今聞いた話が全て本当だとしても、回避ぐらいなら頑張れば何とかならなくもないと思いますが。その場合でも生き残れるのは私一人、令呪で強化すればマスターも一緒にってとこですかね。どっち道マシュさんや立花さんは助かりません〕

 

 〔んじゃあ駄目だな……〕

 

 念話――口に出さず思考だけで会話する手法。正常に契約できているマスターとサーヴァントの間にはデフォルトで回線が通っている――で確認してみたが、ウチのセイバーでは件の超凄い聖剣とか言うのを止めるのは難しいようだ。

 まあ、さもありなん。市街地を一区画根こそぎぶっ飛ばすとかいう大量破壊兵器に人間サイズで対抗しようってのがそもそもどうかしてんだ。光の巨人呼んで来い。

 

 「え、それ勝ち目なくない? 先制とられてビームされたらこっちは何もできずに蒸発するしかないんじゃないの!?」

 

 「……まあ、何も対策が無きゃそうなるな。現に俺以外の5騎は概ねそうなったし、俺もそうなるから戦闘を回避してた。だが今なら勝算がある――っと、そろそろだな。オイ、油断すんなよ」

 

 立花ちゃんが最もな問いを投げるが、キャスターにはどうやら秘策があるらしい。

 その勝算とやらについてもっとちゃんと聞きたかったのだが、キャスターはいきなり話を切り上げると周囲に油断なく視線を配り始めた。

 

 「セイバー、周辺警戒頼む」

 

 「承知です。お任せを」

 

 「マシュ、お願い」

 

 「了解です、先輩」

 

 キャスターが周囲を気にしだしたので、セイバーにも警戒態勢を取るように伝える――意味はあんまなかったっぽいな。俺が言う前から既に警戒態勢だ。

 続いてマシュちゃんも後背に警戒を向ける。

 

 騎士王はこの、目の前にある洞窟の最奥に居るという話だったはずだ。

 バーサーカーもここから離れた場所に留まったまま動かないと聞いた。

 

 つまり、キャスターが警戒しているのは――

 

 「マスター!」

 

 セイバーが声をかけてきたかと思うと、同時に風切り音が鳴り、ほんの少し遅れてガギッ、と金属音が響いた。

 見れば刀を振り切ったらしいセイバーの足元に、破壊されて消滅していく最中の剣のような、槍のような、それでいて矢のような奇妙な物体が複数転がっていた。

 狙われていたのは……どうも俺の様だ。守ってくれて感謝だな。

 

 「フム、迅速(はや)いな。一網打尽にするつもりだったのだが……」

 

 「来やがったな、信奉者。相変わらず騎士王サマを護ってんのかテメエ」

 

 「……かの王の信奉者になった覚えなどないがね。まあ、つまらん来客を追い返す程度の仕事はするさ」

 

 「アーチャーのサーヴァント……!」

 

 〔――マスター〕

 

 〔もう少し待ってくれ。情報は重要だ。合図したら頼む〕

 

 少々遠い物陰から思わず、といった感じに言葉を漏らしながら現れたのはやはり全身真っ黒の、しかして非常に流暢に喋る人影だった。

 所長はこの期に及んでビビってないでいい加減に慣れてほしい。今日一日で何人のサーヴァントに遭ったと思っているのか。

 ……ってあれ? 黒サーヴァントって皆言語能力が怪しいんじゃなかったのか?

 これは、情報を得るチャンスか。姿を晒した時点でセイバーが飛び出そうとしたのですぐに止める。不意打ちで倒してしまいたいようだが、待機してもらって少し様子を見ようか。

 

 「要は門番だろうが。何から騎士王を守ってんのか(・・・・・・・・・・・・・)は知らねぇが……ここらで決着つけようや。永遠に終わらんゲームなんざ退屈でしょうがねえだろ? 結果がどう転ぼうと駒は先に進めねえとな!」

 

 「その口ぶりでは事のあらましは理解済みのようだな。大局を理解しつつも、それはさておき自らの欲望に熱中する……魔術師(キャスター)となってもその性根は変わりないと見える。この剣で文字通り叩き直してやろう」

 

 「ハッ、弓兵が剣だとか何をほざいてやがる。寝言は寝て言いな!」

 

 ……やはりキャスターはまだ情報を秘匿していたらしいな。

 そしてそれは相手のアーチャーも知っていると。

 キャスターの不審度合いは更に深まったな。

 

 ――ただまぁ、だからといってアーチャーの側に付くという選択肢がある訳じゃなさそうだが。

 

 何故ならアーチャーから「貴様らを全員殺す」という無言の圧が俺たち全員にかけられているからだ。どうも話し合いの余地すらないらしい。

 奴が姿を現してから背筋が冷えっぱなしだ。アサシンやランサーたちの放っていたどこか漠然としたもの――「まあ、とりあえず殺しとくかー」程度のものとは比べ物にならない程に明確で冷たい本気の殺意――"殺気"とでも表現するしかないものをひしひしと感じる。

 

 会話の内容はなんというか、むしろ気が抜けるような口喧嘩のようになってきているが。多少は情報も拾えたが、これ以上欲張ると仕掛け時を逸しそうだ。本格的に始まる前に行くならおそらく今が一番いい。

 

 こちらの陣容を「一網打尽にする」ことの出来る手札もあるようだし、長期戦は不利――速攻でカタをつけるべし!

 

 〔――今だ! 頼む!〕

 

 〔承知っ!〕

 

 「何っ!?」

 

 例の短距離転移でいきなり目の前に現れたセイバーに驚愕の声を上げるアーチャー。

 セイバーはそのままアーチャーに斬りかかるが、アーチャーは手に持っていた矢をブチ砕かれ胴をざっくり斬られながらもぎりぎり致命傷は避けたようだ。そのままセイバーが畳みかけるように連続で斬りかかるがすべて皮一枚で躱されている。クッソ。惜しい。

 ……ってアレ、よく見たらマジで剣で戦ってる!? オイお前アーチャーじゃないんかい。遠距離攻撃手段はどうした。もしかしてその剣は投げるためのモンなのか?

 

 ……まあ今は置いとくか。

 

 展開としては悪くない。

 長距離狙撃で狙い撃ちされているとかならともかく、あの瞬間移動染みた超高速移動手段のあるセイバーにとって目で見えて声が届く範囲なぞ全て射程圏内だ。

 近接戦を得手とするはずのセイバーが攻めきれない辺り近接戦にもそれなり以上に心得があると見えるが、こっちとしちゃあそんなもんより狙撃に徹される方が万倍脅威だわ!

 こんな距離にわざわざ姿を晒したのがうぬの敗因よーーッ!

 

 それに――こっちの札はセイバー一人じゃないしな。

 

 「キャスター、援護お願い!」

 

 「おうよ! そぉら、未練なんぞ残さず綺麗に燃えろォ!」

 

 「くっ、ぬっ」

 

 「そこっ!」

 

 「ぬぉあっ!」

 

 初撃の不意打ちから続く連撃を躱したアーチャーだったが、追い打ちをかけるようにキャスターの火炎弾が連射される。

 流石キャスターが暗に同格と評するだけあってか、両手の剣で打ち払われたり回避されたりで火炎弾は一発も当たっていない。

 が、そちらの処理に注力すれば今度は死角からセイバーが襲い掛かる。

 今のところはまだ凌げているが……さて、こんな無理がいつまで持つかな?

 

 「おのれっ、いけっ!」

 

 「なぁっ!?」

 

 「チィッ、相変わらず趣味の悪ィ……!」

 

 アーチャーは苦し紛れなのか、両手の剣をセイバーとキャスターに投げつけて――って剣が爆発したぁ!?

 

 「喰らいつけ、緋の猟犬!」

 

 「マシュ! 防御!」

 

 「はい!」

 

 幸い二人にはヒットしていないようだが、そうして作った隙で俺たちに向けて放たれた紅い光を纏った矢を、マシュちゃんが盾で防いで弾き飛ばす。

 しかし矢が弾かれたのを見たアーチャーの雰囲気からは先刻までの焦った気配が何故か消え、劣勢は全く変わっていないにも関わらず逆に余裕を取り戻しているように見える。

 

 その余裕の正体はすぐにでも判明した。

 

 「なっ、これは!?」

 

 「マシュ、後ろッ!」

 

 「くぅっ!」

 

 「オイオイ、何時から弓矢ってのはホーミングするようになったんだ?」

 

 マシュちゃんが弾いたはずの矢が再びこちらを狙ってきているのを見て俺は思わず震える声で呟いた。

 しかも弾いているにも関わらず破壊力は減衰無しの据え置きの様で、再度防いだマシュちゃんの顔が歪む。

 

 セイバーとキャスターはアーチャーをとっとと仕留めようと頑張っているのだが……恐るべきはアーチャーの技量か。

 2対1で袋にされて既にかなりボロボロのはずなのに、活動不能に至らない程度の手傷に留めているばかりかこちらへ向けて二の矢、三の矢まで放っている――都度二人に妨害されて明後日の方向に飛んでいってるが。

 

 〔マスター、そちらは――〕

 

 〔解ってると思うが来るなよ。とっととそいつ倒してくれ〕

 

 〔…………承知しました〕

 

 後ろが心配なのかセイバーから念話が飛んでくるがバッサリ切り捨てる。

 元々死にたくないから身を守ってほしくて喚んだのに傍から離して攻撃に行ってもらうとか本末転倒だなと自分でもちょっと思うが、一日にも満たない期間で気を抜けば即死にそうな場面に何度も直面して感覚がマヒしたのか、考えるのは死なないためにどうすべきかというただそれだけで、保身的な思考はちっとも働かない。

 

 先刻奴の投げた双剣が盛大に爆裂したのを見るに、奴の使う武器は任意のタイミングで爆破出来るのだろう。最初の矢の「一網打尽」の正体もおそらくはそれだ。

 あのホーミングミサイルじみた紅い矢はまだ一本しか飛んでないが、これ以上増やされるとマシュちゃん一人では対処しきれない可能性が高い。

 最初にセイバーのやったように一撃で粉砕できれば爆破はできない様子だが、万が一取りこぼしたら人間組はオシャカ確定だ。

 もうこれ以上あの矢を撃たせずにこのまま押し切らにゃならん。

 

 立花ちゃんも考えは同じなのか、矢への対処にキャスターを呼び戻そうとはしない。

 そして対案を思いついたのかすぐさまマシュちゃんに指示を飛ばす。

 

 「マシュ! その矢と距離をとって!」

 

 「はい! やぁあっ!」

 

 マシュちゃんは立花ちゃんの声を聞き届けると、盾を力いっぱいスイングしてしつこくホーミングする矢をホームランした。

 ……さて、指示通り距離はとれたがこっからどうする?

 

 「令呪を以て命じる! マシュ、宝具発動!」

 

 「っ、はい! 真名、偽装登録───行けます!」

 

 

 令呪というのはサーヴァントと契約したマスターが持つことになる特殊な紋章だ。

 冬木のシステムでもカルデアのシステムでも、細かい部分は違うようだが根本の部分では同じ。

 

 ――それはサーヴァントに対する強制力を伴った三回限りの命令権。

 

 令呪システムはサーヴァントが召喚に応じる際に契約の一部として盛り込まれており、マスターを持つサーヴァントは原則この令呪を消費しての指令には逆らえないという。

 ……逆に言うとサーヴァントには令呪以外の命令に従う必要が無いため、きちんとした信頼関係を構築しないとマスターを容赦なくぶち殺しにかかるサーヴァントが出る可能性は十二分にあるという話だ。

 ……セイバーとはそういう関係にならないよう願いたい。反逆されたら俺コンマ何秒かで死んじゃうよ。

 

 だが令呪は「命令の強制」以外にも「サーヴァントの能力強化」や「活動のための魔力の充填」にも使えるという特性がある。

 令呪、マスター、サーヴァントの三つの魔力の合計で届く範囲ならば、サーヴァントの長距離転移をはじめとする通常は行使不可能な奇跡を実現可能なのだとか。

 要はサーヴァントにとってもデメリットだけではなくメリットもあるものであるということだ。

 

 今の立花ちゃんのように、本来は発動までにある程度溜めの必要な「宝具の発動」をノータイムで実行させ、更にスペックを底上げするような荒業も十分可能だ。

 単純に宝具のスペック強化に使うよりは持続時間も障壁の強度も伸びないだろうが、その分速効性は高い。

 

 

 しかし三回分しかない令呪を前座のここで切るか。火災現場に躊躇なく踏み込んだ時も思ったが、思い切りが良いな――って立花ちゃん倒れてるー!?

 

 「ちょっ、どうなってるんですか!?」

 

 「……当然よね。開いたばかりで未熟に過ぎる上貧弱な魔術回路に令呪級の魔力なんか流したらこうもなるわよ」

 

 ……令呪は莫大な魔力の塊である。

 どうやら魔術師として未熟以下のレベルであり運用魔力量の少ない立花ちゃんでは、急激に大量の魔力を運用することに耐えられなかったようだ。

 息の荒い立花ちゃんを所長と一緒に脇から支える。

 

 ――この自分を顧みない感じ、ますます似てる気がするなぁ。

 

 

 「宝具展開―――『疑似展開(ロード)/―――人理の礎(カルデアス)』!」

 

 マシュちゃんが頭上に振りかぶった十字架状の盾を地面に突き刺すように叩きつけると、盾の前面に巨大な青白く光る魔法陣が出現する。

 

 これがマシュちゃんの宝具――サーヴァントが持つ、戦局を一気に変えられる切り札だ。

 

 宝具はそのサーヴァント――英霊の持つ装備や成した偉業、その精神性等がカタチを成した唯一無二の、その英霊を象徴する必殺技のようなものを指す。

 なので「こんな武器を持っていた」「こんなことをやった」という記録があったとしても、あまり木端なものは宝具にはなれないそうな。

 

 アーサー王のエクスカリバ―のように武器や装飾品などの装備品が元となったものは当然有形だが、成した偉業や精神性等が元となった宝具の場合は特殊能力(スキル)のようにサーヴァントの体に宿ったり、発動すると非実体の存在として現れる――すなわち無形となる場合もあるとか。

 宝具の種類は様々で、単純に攻撃するものから味方や自身を回復するもの、戦闘に有利な空間を作るものなど色々あるらしい。

 

 そしてマシュちゃんのこの宝具は――「護る」ことを第一とする防御型宝具、というわけだ。

 

 なんか「人からサーヴァントになる」という特殊過ぎる経緯のせいで上手く使えなかったらしいが、俺が教会を家探ししてるうちに特訓で物にしたらしい。キャスター様様だな。まあ怪しいのは変わらんわけだが。

 

 さて、マシュちゃんの展開した宝具で紅い矢は弾かれては戻り弾かれては戻りしている。

 先程までと違って防御が安定しているためかあの紅い矢が四方八方飛び回らずにほぼ一方向から飛んでくるようになり危険は大きく減じている。

 これでセイバーとキャスターが後背を気にする必要は―――!?

 

 

 

 ……おいちょっと待て。

 

 

 

 セイバーが背後で突きを放とうと腕を引き絞っているのに。

 

 キャスターが火炎弾を今にも放とうとしているのに。

 

 

 

 何でお前はそれを防ごうともせずにこっちに狙い定めてるわけ?

 

 

 

 

 「―――I am the bone of my sword.(我が骨子は捻れ狂う)

 

 

 

 

 ……あの野郎弱点(俺たち)があっても流石に数の不利は覆せないと見て自分の身も構わずこっちを消しに来たか。

 気づけば戦場がかなり離れている。

 マシュちゃんの宝具展開以前から徐々に距離を取られていたようだが、あの魔法陣に視界を塞がれ、更に倒れた立花ちゃんに気を取られているうちにはっきり違和感を覚える程に距離を離されていた。

 

 あれはおそらくはアーチャーの宝具……しかしヤベェぞ。

 番えられていた矢の形状はドリルのような螺旋形……要は安直だが貫通力が高いと予想できる。

 

 既にマシュちゃんの宝具は発動して十数発の攻撃を凌いでいる。

 令呪ブーストによる速効展開を行った分限界が来るのもおそらく時間の問題であり、最も防御力を発揮できたろう発動直後と比較すると防御効果は大分減衰しているはずだ。 

 宝具を早めに切ったのが裏目に出たか……?

 

 

 「アーチャー、テメエ……ッ!」

 

 「……ッ!」

 

 「私が勝つか、君たちが勝つか、博打と行こう――偽・螺旋剣(カラドボルグ)!!」

 

 

 アーチャーの放った矢がマシュちゃんの宝具と接触するとほぼ同時に、セイバーとキャスターの攻撃がアーチャーに命中した。どう見ても致命傷だ。

 

 が、あの紅い矢も、ドリルの矢も止まらない。

 

 「くっ、このっ!」

 

 「刀を抑えたとて天然理心流が相手なら本来時間稼ぎにもならんが……」

 

 「こんな時にっ……こ、フッ」

 

 「……生憎、今の君では私は倒せん」

 

 見ればアーチャーはセイバーがブッ刺した刀を、どこからか出してきた鎖で雁字搦めにして自身に縛り付け抜けないようにしている。

 セイバーも剣がダメになったからと言って諦めず、すかさず鞘や徒手で殴りかかってトドメを刺そうとしているが、アーチャーが巻き付けている鎖に阻まれてまともにダメージが通っているようには見えない。と言うかさっきからなんか動きに精彩を欠いているような……?

 

 キャスターの方は時たま杖で殴りかかったりと中途半端な距離にいたせいで、マシュちゃんの補助には少し遠く間に合わない。

 

 

 「うっ、あああああっ!」

 

 「マシュ!」

 

 「せん、ぱいっ……!」

 

 「チィッ、嬢ちゃん! 諦めんな! アンタが盾から手を放したら後ろの連中は肉片だ! 勝つことなんぞ考えんな! ただ護ることだけ考えろ!」

 

 

 ダメ押しとばかりに紅い矢が爆ぜたのを皮切りにマシュちゃんの展開した魔法陣に罅が入っていく中、急ぎアーチャーへトドメを刺すべく駆け寄るキャスターが檄を飛ばす。

 アーチャー本体は既に消滅まで秒読み段階だが、この攻撃を止めきれなければこちらの負けだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 (守らないと――私が、守らないと、皆――所長――ライトさん――フォウさん――先、輩っ――!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ、ああああぁぁぁぁぁぁああああっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「賭けは……私の、敗北か。――しかし、考えたな花の魔術師……! まさかその宝具にそんな使い(みち)があったとは……!」

 

 

 

 

 感嘆したような、呆れたような、あるいは他の何かしらか。

 

 

 

 

 キャスターの火炎を纏った杖の一撃を喰らい倒れ伏したアーチャーは、何とも感情を読み取り辛い声を絞り出すようにして呟いた後、その身を黒い粒子と変えて消滅した。

 

 

 

 

 

 

 




はい、と言うわけで中盤戦でした。
ちなみに主人公がサーヴァントの戦闘を目で追えてるのは自力で視力強化してるから……ではなくカルデアから支給された制服の効果ということになっています。
これは立花ちゃんも同様ですね。

あと紅茶が急所ぶち抜かれてもすぐ死なないのはISHIのおかげです。

どうでもいいですが、主人公も立花ちゃんもD○FFでカリ"パ"ーを知りました。
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