Fate / Bonjin survivor   作:墓守幽也

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9:置き土産が洒落にならないんだがどうすりゃいいの

 

 「なっ!? 馬鹿な、この声は……っ!」

 

 

 『これは……木か? 南の方から凄い速度で何本も木が飛んできてる! 何かがこっちに向かってきてるのか!?』

 

 「い、今のは空耳、空耳よね? そうよね!?」

 

 「所長、落ち着いてください!」

 

 「フォウフォーウ!」

 

 「今のってひょっとして……」

 

 「ううっ……何ですか今の。目覚ましとしては最悪ですよマスター」

 

 「……お、おお。起きたのか。すぐ動かにゃならんだろうから準備するぞ。しかしどうしてだ……?」

 

 視界の端に映った非現実的な光景と、響き渡る声に滲む殺気。

 それに()てられて動きを止めていた俺たちを正気に戻したのは、キャスターの声だった。

 

 ここまで飄々とした態度を崩さなかったキャスターが初めて焦りの色を見せている。

 そしてさっきの轟音はやはり"声"だったらしい。

 

 

 繰り返しになるが、この特異点に生物の類はもはやいない。

 

 声と呼べるものを発することができるのは、生き残っていた七人のサーヴァントのみ。

 

 そして、現状生き残っているサーヴァントで今の声の主である可能性があるのはただ一人である。

 

 

 狂気に染まり、我を忘れて暴れた逸話を持つ英霊が該当するクラス。

 

 

 キャスターが単騎では勝ち目がないと評したアーサー王ですら、直接対決において苦戦は免れなかったという強者。

 

 

 

 ―――バーサーカーのサーヴァント。

 

 

 

 「どうしてバーサーカーが……というか何でこっち来てるの!? ちょっかい出さなきゃ動かないはずじゃなかったの!?」

 

 「じゃ、じゃあ、何かちょっかいがあったってことじゃないんですか?」

 

 「んなモンどこに―――」

 

 例によって取り乱す所長や眉間にしわを寄せて考え込んでいるキャスターを尻目に、命の危機で逆に冷えた頭で少し考える。

 

 何故今だ(・・・・)

 

 ちょっかいを出さねば動かないというのが正しいなら、立花ちゃんの言う通り何かしらの干渉があったということだろう。

 そして、今になって動き出したということは今しがたそのちょっかいが起こったということで。

 

 更に何故かこちらに向かっているらしいことを考えると、こっちの方角から―――!!

 

 思考が纏まり顔をあげると、おそらく同じ結論に至ったのかキャスターが渋い顔でこちらを見ている。

 

 「………アーチャー、か?」

 

 「ああ。多分間違いねえ。クッソあの野郎とんでもねぇ置き土産残していきやがったーーッ!!」

 

 「で、何でかバーサーカー来てるんですよね? 原因判ったんです?」

 

 元々仲が悪かったようだが人目もはばからず絶叫する程に腹立たしいらしい。

 と、完全に目が覚めたらしいセイバーが声をかけてきた。

 結局10分程度しか休めなかったがそれでもそこそこ回復はしたようで自力で立って歩けている。

 ……まだ多少ふらついているが。

 

 「簡単な消去法だ。今、この場にバーサーカーが向かってきているということは、今、この場から何かちょっかいかけられたってことだ。そしてここから遠方にいるバーサーカー相手に攻撃を仕掛けられるようなヤツは一人しかいなかった」

 

 「…………ああっ、あの的外れの矢!」

 

 「そういうこったな。野郎、攻撃が失敗したフリして自分が死んでも確実に俺たちを仕留められるように保険かけてたってわけだ。相変わらず性格悪ぃぜ」

 

 「ドクター、バーサーカーがここに来るまでどのくらい!?」

 

 『今それらしい動体反応が感知範囲に入った! 到達予測時間は……あと3分も無い……!? なんだこれは。いくらなんでも速すぎるだろう!』

 

 「賭け」と今で二度も煮え湯を飲まされて悪態をつくキャスターを横目に、立花ちゃんの声を受けたマロンが現状の不味さを端的に教えてくれた。

 

 3分切ってるだと……どうする!?

 

 「ど、どうしましょう。一旦この洞窟前を離れますか?」

 

 「いえ、時間に余裕がなさ過ぎるわ。3分弱しかないんじゃまず間違いなく追いつかれる。でも正直言ってこれ以上の戦闘は避けた方が賢明よ。騎士王に挑む前に少しでも消耗を回復しようと休憩したのに連戦したんじゃ本末転倒じゃない! ……ああもう、レフ、どうしてこんな時にいてくれないのよ……どんな時だってあなたは助けてくれたじゃない……!」

 

 「レフタスケテ症候群(ヘルプミーシンドローム)は後にしてくれ! キャスター! 何かよさげな逃走ルートとかないか!?」

 

 「ちょっ、その病名みたいな呼び方止めてくれない!?」

 

 迅速な撤退を提案したマシュちゃんに対し、恐怖が極まりすぎたのか超冷静な意見を述べ出す……かと思ったらやっぱり発狂しだした所長に物申しつつ、この場を打開可能な情報を握っている可能性のある唯一の人物、キャスターに活路を求める。

 こいつは現状かなり怪しいが当座の目的がアーサー王打倒であることはまず間違いない様だ。

 現状俺たちが脱落するのは旨くないはず……策があるなら素直に提示するだろう。

 

 「……あるっちゃあ、あるな。当初の予定通りそこの洞窟に突入する」

 

 「それじゃ袋小路になるじゃない!」

 

 「洞窟の中はかなり入り組んでる。汚染される前ならともかく、完全に理性がすっ飛んでるバーサーカーが案内無しで正しい道順を進めるか大いに疑問だね。最悪時間は稼げるだろ」

 

 「……他に手はないんだね?」

 

 「バーサーカーとガチンコって手もあるが、さっきそこの姉ちゃんが言った通り消耗は避けられん。アレとやるとなると俺も正直余裕がないんでな。最悪脱落者が出る」

 

 「……よし。行こう!」

 

 「はい、行きましょう!」

 

 『バーサーカー到達予測時間まで2分を切った! 急いでくれ!』

 

 所長が何か喚いているが、現状危機回避にはそれが最適解だろうことは心中で理解はしていたのだろう。

 立花ちゃんに号令をかけられ、そしてマシュちゃんとマロンに促されると、渋っていたのは何だったのかと言いたくなる程の速さで脱兎のごとく走り出した。

 

 「マスター、私たちも……って!?」

 

 「このまま行くぞ」

 

 「ちょっ、降ろしてください! 私ならもう大丈夫で――」

 

 「多分このままなし崩し的にアーサー王とかち合うだろう。安定感無くてスマンが少しでも休んでくれ。必要経費ってやつだ」

 

 「でもっ……。……いえ、解りました。お願いしますね」

 

 「おう」

 

 そもそも消耗がそこまで多くなかったというのもあって10分程度の休憩でも魔力はほぼ全快だ。

 体に魔力を回して身体強化し、セイバーを背負って立花ちゃんたちの後を追う。

 

 マシュちゃんは防御全振り、キャスターは前衛の心得があるとはいっても基本は後衛だ。

 このまま騎士王と戦るにしろ、追いつかれてバーサーカーと戦るにしろ、いつ倒れるか判らない爆弾持ちとはいっても前衛で攻撃できる奴の有無は大きいだろう。

 

 活動時間を安定させるためにもまだおとなしく休んでてもらおうかね。

 

 

 

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 「ハァ、ハァッ……!」

 

 「ハッ、ハッ、キャスター、まだ!?」

 

 「もうそこまで遠くねえ! ここまで来てはぐれんなよ!」

 

 「も、駄目、何で、私ばっかり、こんな目に……!」

 

 「周りも死にそうになってんだからその台詞はどうかと思いますよ! ヘタレてないで頑張ってください!」

 

 「な、なによっ! どうせ『■■■■■■■■■■■―――!!!!』ヒィィィッッ!?」

 

 「もー、こんな時になーにしてんですかマスター……」

 

 「えぇ……今の俺が悪いの?」

 

 「……さっきよりは距離が離れたみてえだな。まあ、それでも安心ってわけにゃいかねえが」

 

 

 道筋を完全に把握してるらしいキャスターに導かれて現在洞窟内を疾走中。

 

 この洞窟内にはちょっと強くなったガイコツ兵……っぽい敵性体――所長ら曰く竜の牙を素材に造られた「竜牙兵(スパルトイ)」というらしい――が闊歩していたが、バーサーカーへの足止めも兼ねて進路を塞いでいる個体以外はほぼ倒さずに押しのけるに留めてひたすら走っている。

 

 足を止めたらほぼ確実に息の音が止まるというこの状況、この特異点に来たばかりの頃のガイコツ兵ランニングを思い出す。

 身体強化による膂力の増強と疲労の軽減、後はセイバーを背負っているのも考えると、あのランニングと比べて差し引き若干プラスと言ったところか。

 ……実際のところ、後ろに迫っている"死"はガイコツ兵なんぞ比較に出すことすらおこがましいレベルの脅威なので若干のプラスすら意味を成してるか怪しいのだが。

 まだガイコツ兵ランニングから半日も経過していないのに、アレを遥かに上回る危地に放り込まれているという事実に戦慄を禁じ得ない。

 

 背後の鬼さんのかけてくるプレッシャーの凄まじさにマシュちゃんも含む人間メンバーは息も絶え絶え。

 精神を圧し潰すような殺気は直近に戦ったアーチャーのそれとは比べ物にならない恐ろしさだ。

 だというのに所長はこんな状況下でも相変わらずの様子で逆に尊敬の念すら覚える。

 

 「さっきから後ろの破砕音が凄いがこの洞窟崩落しねえだろうな」

 

 「天然の洞窟っぽいし多分大丈夫だと思うんだけど……」

 

 「……ここは半分天然、半分人工よ。魔術師が長い年月をかけて拡張した地下工房です」

 

 「なるほど。おかげさまでそこそこ動きやすいのは結構なんだが……」

 

 自然にできた洞窟を全力疾走してりゃ転ぶ奴の一人や二人出て当然だろうが、キャスターの案内してくれてる正解ルートは殆ど躓く要素も無く、速度をあまり落とさずにダッシュしてこれた。

 周囲も特殊な装備がなくとも見える程度には薄ぼんやりと明るい。

 余計な所に意識を割かなくていいのは切羽詰まってる現状を考えると正直ありがたいがのは確かだが、手放しで歓迎もできない。

 

 俺たちが移動しやすいということは、後ろを追っかけてくるバーサーカー君の移動速度も落ちていないということだからだ。

 キャスターの言った通り、何時追いつかれてもおかしくない。

 

 「このまま行っても戦ってる最中に乱入されるんじゃない?」

 

 「じゃあどうするって言うのよ! 足止め役でも残す気!? だったらそこで負ぶさってるセイバーにしなさい、現状ただの足手まといなんだから!」

 

 「こふっ」

 

 「あぁっ、セイバーさんが吐血しました!」

 

 〔……セイバー。今の状態で足止めに残ったとして、俺が令呪でサポートすればバーサーカーに勝てると思うか?〕

 

 〔ううっ……多分、厳しいかと。病弱スキルが発動している状態の私って令呪を使っても正常に機能してくれない可能性があるんですよね……その癖しっかり令呪は消費されちゃいますし〕

 

 〔……Oh〕

 

 今のセイバーを一人残したところでバーサーカー相手には時間稼ぎすら厳しいだろう。

 一応俺も残って令呪でサポートするという手が考えられないでもなかったが、それもたった今ボツになった。

 休憩してた時の冗談じゃないが戦闘要員としては本当に致命的だな病弱スキル……。

 

 「……他にできる面子もいねえ。俺が足止めに残る」

 

 「オイ言い出しっぺ。アーサー王とやらはあんたが倒さなきゃならないんじゃないのか? というか勝ち目あるのか?」

 

 「実のところバーサーカーを倒すだけなら何とかならんでもない。アーチャーの野郎もな。問題はそこで俺もかなり削られるし、肝心のセイバーには手が届かないってことだったんだが……」

 

 そういってキャスターはマシュちゃんをチラッと見やった。

 

 「聖剣攻略の要は嬢ちゃんだ。あとは後詰がいりゃなんとかなる。そこのセイバーでも十分だろう。俺も片づけたらすぐ合流する」

 

 「……信頼していただけるのは嬉しいのですが、その、私に防げるのでしょうか。伝説に名高い、アーサー王の聖剣を。私には過ぎた役割ではないかと……今も不安で手が震えます」

 

 ……後ろがヤバい時に先の心配できる辺り実は結構余裕だったりしないだろうか?

 などと少し考えはするが、口には出さない。

 ここまでの戦いでマシュちゃんは自信よりも不安を覚えているようだ。

 おそらくだがアーチャーの宝具を防いだ時結構ギリギリだったのが原因だろう。

 

 ――あれより強力なのは間違いない聖剣を、自分は防げるのか、と。

 

 そんな心中が透けて見えるような暗い顔の彼女に、キャスターは特に気にした風もなく答えを返した。

 

 「心配すんな。その盾は壊れねえ。俺の見立てじゃ奴と嬢ちゃんの相性は抜群に良いからな。あとは嬢ちゃん自身の根性(ガッツ)の問題だ。……どうしても不安なようなら、アーチャーと戦ってた時に俺が言った言葉を思い出せ。聖剣に勝つ、なんて余分は考えなくていい。やるべきこと、やりたいことだけに集中しろ」

 

 「……! はい。その、アドバイスありがとうございます」

 

 「さぁて、言うべきことは言い切ったし、準備もある。そろそろ分かれるぜ」

 

 長々としたアドバイスを一息で言い切ったキャスターは、自分の言葉が齎す結果を見届ける前に後ろへと向き直った。

 周囲はここまでの通路と違い、俺たち全員が横一杯に広がってぶつからないように槍を振り回してもまだまだ余裕がありそうな程度の幅と高さのある広間になっていた。

 

 ……事ここに至って、俺もキャスターを信頼はしないが信用はしよう。

 

 アーチャーが騎士王に仕えて(?)いたのは間違いない。

 アーチャーが守っていたこの洞窟の奥に騎士王がいるというのは多分本当だ。

 キャスターとアーチャー(ひいては騎士王)が敵対していたのも正しいだろう。

 

 であればキャスターがバーサーカーと組んで俺たちを背後から挟み撃ちに、とかいう可能性は低かろう。

 今は騎士王だけ警戒していればいい。

 

 「ちょっと、道案内はどうするのよ!」

 

 「こっから先は一本道だ。もう迷う心配はねえ。解ったらとっとと行きな!」

 

 「所長! 足を止めないでください!」

 

 「キャスター! 負けないでね!」

 

 所長がつられて歩みを緩めるがマシュちゃんに引っ掴まれて引きずられていく。

 最後にキャスターの横を通った立花ちゃんは、奴に激励の言葉をかけつつ広間を走り抜けた。

 

 

 「応。マスターからの命令(オーダー)、確かに承った」

 

 

 全員が通過し終えた後の広間。

 キャスターがニヤリと笑って呟いた返答を背に、俺たちは先へと進んだ。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 迎撃のための()()()を終えて広間のど真ん中で堂々と佇むキャスターは、目前に迫った脅威ではなく、背後に消えた一時の協力者達のことを考えていた。

 

 殺意と敵意に怯えながらも、それでもと。背後のマスター(大切な者)を護るのだと前へ出られる見所ある盾の少女。

 

 魔術師としては最弱以下だが「運命を掴む天運」と「それを前にした時の決断力」を持っているマスターの少女。

 

 あの二人ならば間違いなく聖剣も跳ね返せるだろうとキャスターには確信があった。

 彼女たちの雄姿を間近で拝めないのは残念ではあるが。

 

 そして、病死したという事実ばかりが強調して後世に伝わった結果か、サーヴァントの身で「病弱」さをスキルとして保持しているというセイバー。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という点が不審だったので警戒は向けていたが、まあおそらく大丈夫だろうとキャスターは踏んでいた。

 

 道中の立ち回りを見ていておのずと判断できたことだが、あのセイバーは良くも悪くもマスターを第一として動く手合い。

 そしてそのマスターだが……直属のサーヴァントであるセイバー以外の三人は全く気付いていなかったようだが、港での接触以降ずっとこちらを警戒していたことにキャスターは気づいていた。

 というより、あの男は盾の少女とそのマスター以外の全員に――キャスター以外では魔術師の女と白いケモノの二者を特に――警戒を向けていたのだが。

 

 逆に言えばあの男は盾の主従は味方として信用しているのだろうことが解る。

 それならば土壇場で裏切ることも無いだろう。

 

 そして、現代の魔術師としては一級品だろうに何故かサーヴァントのマスターとなることができないという呪われたような体質の魔術師の女。

 

 あの女は――と、思考を続けようとしたところでこれまでよりも一際大きな咆哮が響いた。

 

 

 

 『■■■■■■■■■■■―――!!!!』

 

 

 

 ――バーサーカー到達まで、あと20秒ってとこか。

 

 

 響いてくる音から敵が近いことを悟ったキャスターは杖を構え、静かな声で言葉を紡ぎ始める。

 

 

 カルデアから来たマスター達は知る由もないが……冬木の『聖杯戦争』には一つのセオリーが存在する。

 

 「魔術師の英霊」はサーヴァント戦においては不利を強いられるケースが多い。が――

 

 

 「■■■■■■■■■■■―――!!!!!!」

 

 

 自身の構築した陣地においてはその限りではない、と。

 

 それを知ってか知らずか。

 

 そこかしこに骨の欠片と殺意の波動を撒き散らしながら大広間に踏み込んできた黒い巨躯の男へ。

 

 

 キャスターは不敵な笑みと共に杖を向け、最後の言葉を紡いだ。

 

 




あとはオルタ戦消化したら序章はようやくおしまいです。
二話ぐらいですかねぇ……。
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