「やああぁぁぁぁぁぁっ!」
「……ッ!」
裂帛の声が響いたかと思うと、全力疾走する自動車が衝突事故を起こしたかのような爆音を響かせて黒い人影が吹き飛ぶ。
しかし、この衝突事故を引き起こしたのは機械の類ではなかった。
華奢な女性的な丸みのある体を包むピッタリとしたスーツと部分鎧。
片目が隠れるように伸びた藤の髪の下から覗くのは、若干の怯えを窺わせる紫の瞳。
しかし最も目を引くのはその全身黒一色の装いでもなく、体の弱さをうかがわせる白い肌でもなく、身の丈よりも巨大な十字架状の大盾を構えていることであった。
その大盾による渾身のシールドバッシュによって撥ねられ地に伏した黒い人影は、起き上がろうと試みるのもつかの間、手足が炭のようにボロボロと折れ崩れたかと思うと、全身を粒子と化して完全に消滅した。
超常的なナニカの絡む犯行現場……では、もちろんない。
「マシュ! 無事!?」
「ハァ……ハァ……」
汗だくになってその場に頽れる紫の少女に、すぐ傍で様子を窺っていた二人の女性が駆け寄る。
真っ先に心配する声を上げた明るい赤銅色の頭髪をした少女と、白髪に刺々しい眼差しの下の濃い隈が印象的な女性。
紫の少女――マシュ・キリエライトは血の気が引いた顔で疲れ切った笑みを浮かべると立ち上がり、赤銅の髪の少女の抱擁を受け入れた。
「よく頑張ったね……マシュは今期世界でナンバーワンの後輩だよっ」
「あっ………その、先輩……うぅ」
『本当によく頑張ったね……ひとまず周辺一帯に動体反応もない。警戒は解いても大丈夫そうだ。ってそれよりも――!』
「それにしても……どういう事よ! なんでサーヴァントがいるの!?」
『所長、疑問は後回しにしてください! 要救助者の容体は!』
笑いながら頭を撫で、撫でられて赤面する二人の少女の傍で苛立ち吼える白髪の女性――オルガマリー・アニムスフィアに、どこからか聞こえてくる男性の声が焦った様子で呼びかける。
彼女たちが戦っていたのは数分前、先刻消滅した黒い人影――サーヴァントが何者かを殺害しようとしていたからであった。
見捨てることはできぬと救出を決めた赤銅の髪の少女――藤丸立花と、それに同意したマシュ。
わざわざ危険に飛び込むことに難色を示していたオルガマリーも、情報源となるかもしれないという姿なき声――Dr.ロマンの提言に渋々同意し、黒い人影を排除すべく戦いが行われていたのである。
しかし常人では目で追うことすらままならない黒と紫の戦闘に、他二人はなんとか援護を挟むのがやっとの状況であり、オペレーターのロマニもサーヴァント出現のショックで思考が飛んでいたため、件の救出対象は今の今まで放置されていたのであった。
「胸に穴が空いてる……あの杭に刺されたみたいだね。意外と傷口小さいし何でか貫通はしてないけど」
『……バイタルもそこまで致命的じゃないな。胸の傷以外にも骨がいくらか折れてるみたいだけど、そこは所長にお願いすればどうにかなる』
ロマニの声を聞いて殺されかけていた人影を屈み込んで観察する立花。
その要救助者が大変見覚えのある人物だったことに驚きを隠せないが、とりあえずその辺は後回しにし外見からも判る致命的な負傷がないかどうかだけ報告を済ませる。
負傷者はまず何を置いても命に別状ないかの確認が大事であり、素性やら
「っていうかドクター、この人って……」
『うん。こっちのデータとの照合も終わった。間違いなく本人だ。後は治療だけなんだけど……』
「ハァ!? 例の監察官!? こっちの失態を挽回するための成果が欲しいのに、何でその失態を克明に報告するのが仕事の奴が来ちゃうわけ!? ああもう最悪だわ……」
「所長、ライトさんはレイシフト実験のメンバーですらない外部の方です。結果的とはいえ巻き込んでしまった以上は無事に生還させる必要があるかと。すぐに治療をお願いします」
『もう少しかかりそうだね。幸い今すぐ命に別状はなさそうだけど……出来るだけ早くしてほしいしボクも行ってこようかな』
「………ハァ」
本人確認も終わったところで後ろを振り向くと、溜まっていたものが噴き出した所長とそれを宥めようとするマシュの二人が戦っている。
それを認めた立花はとりあえずの危機が去ったことを実感し、安堵のため息をつくと炎に照り返されて光る巨大な橋のアーチを見上げつつ、どこからか現れた白い獣を抱えると腰を下ろした。
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こんな短期間に二度も気絶する羽目になろうとは。
我が身に起こった事ながら軽く恐怖である。後遺症とか残らないだろうか。
ちなみにいきなり胸に金属棒を植樹されたあの光景は錯覚とかじゃなかったらしい。
実家の蔵から持ち出してきた金属板をお守り代わりに懐に入れてなきゃ普通に死んでたかもしれん。
アレがコ○ンの手錠の鎖入りのお守りよろしく杭が深く突き刺さるのを防いでくれたらしい。
代わりに飛来した杭の衝撃を面で受けることになって胸が強く圧迫され気絶したわけだが。
どこの誰の物かもわからないしなんとなく気に入って選んだだけの代物だったのだが、こうして命を救ってくれた以上感謝しかない。
折れてた骨を直してくれたのがあのヒス女ってことだけが気に喰わんが。
まあまともに動くのが厳しい状態から治療してもらったのは間違いないので礼は言っておく。
「治療していただいてありがとうございました。ヒs…オルガマリー所長」
「別に。アナタが死んでは困るからそうしただけです。感謝されることなどありません……こんなもの、出来て当たり前なんだから」
「いえ、当たり前なんてことは――」
「こんな程度で一々誇っていられる程魔術の世界は甘くないの! 判りきったことを一々言わせないで!!」
『ちょっ、所長!?』
……なんでそこで卑屈になるかなぁ? しかもヒスるし。
もうわけわからん。ちょっと呼称を改めようかとも思ったがやっぱりこいつはヒス女だな。
さて、図らずも特異点Fに48番目の彼女――改めて自己紹介したが藤丸立花ちゃんという名前らしい――とマシュちゃんに……何故かあのヒス女の三人が飛ばされていたという事実の判明と彼女たちとの合流に成功した。
正直、実は俺一人しかここに来てなくて頑張って一人で生存せにゃならない可能性まで考えていた。
いや、だって適正値?とやらは立花ちゃんの方が高かったし。レイシフトしたらしい意識がブラックアウトした時も位置大分離れてたし。FE○醒の○ランの如く一人だけ違う時間軸に~とか普通に在り得そうだと……。
現在は認識のすり合わせも兼ねて話し合いの真っ最中……なのだが、立花ちゃんが「サーヴァントってナニ?」と会話に出てくる単語やらがいくつか理解できないとぶっちゃけたため中断して講義中である。
資料の内容の復習も兼ねて俺も一応耳は傾けているが、内心はマシュちゃんの現状にびっくりしててそれどころじゃない。
下半身潰されて死亡一歩手前だったはずなのにピンピンしててびっくり、なんか端的に言ってかなりエロい格好になってて更にびっくり、彼女どころか俺の体よりデカい盾を持ち歩いてて更に更にびっくり、「まじゅつの ちからって スゲー!」とか思ってたら魔術関係ない? 恩人? デミ・サーヴァント? 英霊との一体化? とか言われて更に更に更にびっくり。
んでまぁ、講義の内容だが。
サーヴァントとは人類の歴史に大きく名を残す偉業を成しこの世を去った人物「英霊」の一部分を使い魔――魔術師が遠距離との連絡や資材の運搬などの雑務を代行させるために契約し使役する生物や自作の人形などのことらしい――として現世に召喚した者である。
人間の技術で英霊を完全再現するのは不可能に等しいため、英霊の辿った生涯の経歴の一側面を強調しクラスと呼ばれる型――剣を扱うないし高名な剣を所有した「
……マシュちゃんの外見的特徴――デカい盾"のみ"を所持している――に当てはまりそうなクラスがないが、それはとりあえず置いといて。
対象となる「英霊」は創作された神話や物語の英雄、史実に生きた軍人や為政者、科学者、芸術家、挙句は特定の概念など枚挙に暇がない。
そしてそんなサーヴァントと契約、使役(マシュちゃんを見る限り使役ってのも怪しいが)して、景品である「聖杯」とかいうド○ゴンボール的なナニカ(ちょっと違うかもしれないが)の所有権を争う『聖杯戦争』とやらいう魔術の儀式が存在し、この冬木市で実際に開催されていた。
と、こんなところか。『聖杯戦争』については資料に記載がなかったので俺も初めて知った。
で、俺を気づく間もなく一瞬で気絶させたのは冬木市でやってた聖杯戦争に参加してたサーヴァント、と推測されるそうだ。
……ほんの一秒か二秒目を瞑ってた間に殺される一歩手前だった辺り、サーヴァントってのは人間よりも大分ハイスペックらしいな。
お守りとマシュちゃんたちがいなかったら間違いなくそのまま死んでたっぽい事実に改めて震える。
後で両方拝んどこう。
……まだ解説が終わらないようなのでここまでの話の復習を続けよう。
次は俺たちが飛ばされた後のカルデアについてだな。
カルデア側も被害が深刻なようで、数百人はいたスタッフは爆破と二次被害で20人ちょい程度まで減少、館内の消火は終わったが機材などはボロボロで8割が機能していないとのことで、今すぐカルデアへ帰還、というのは難しいらしい。
ヒス女が失態を挽回するための成果を欲していることもあって、カルデア側で急ピッチで機材の復旧を進める傍らこちらも『特異点F』の探索を続行するという運びになっているらしい。
……俺は外部の人間なんだがなぁ。
まあまだカルデアに帰れない以上こんな人外魔境に一人置き去りは困るからどうするにしろ着いて行くしかないんだけども。
しかし……「聖杯戦争」は参加するサーヴァントが7体いるって話だが。
残り6体は何処にいんのかね。
仮に徒党を組んで襲ってこられたらマシュちゃん一人じゃ俺たちの防衛どころか戦いそのものすら危ういんじゃないだろうか。
いや、ヒス女ですら自衛の手段は持ってるらしいことを考えると俺一人だけがいても邪魔なただの足手まといだよなぁ。
ハァ……自分の身ぐらいは守れるような力が欲しいとは言ったし思ってたが、まさかこんな早々に必要になるとは思わなかったわ……。
……本当はあんまりやりたかないが四の五の言ってられるような状況でもないようだし。
今の話終わったら俺にもサーヴァントの召喚が可能かどうか訊いてみるか?
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認識のすり合わせと解説が終わったので出発することになった。
目指すのは冬木大橋を渡った対岸、「新都」と呼ばれていたらしいオフィス街や工業地帯、港等を有する都市エリアだ。
ちなみに今いる側の住宅街エリアは「深山町」と言うらしい。
by.俺の目覚めた海浜公園の地図看板。
俺が骨共から逃げ回っている間に立花ちゃんたちは深山町エリアを北から南まで縦断するように探索していたらしく、ヒス女と合流した地点が何かの爆心地のような地形になっていた以外は取り立てて大きな異変などは何も見られなかったとのことだ。
……無論、この「異変」に散発的に遭遇するガイコツ兵やそこかしこで衰え無しに燃え続けている炎はカウントしていない。
なので真新しい異常がないか捜索範囲を広げようということらしい。
なお新しくサーヴァントを呼ぶ件についてだが、現段階では保留とするらしい。
カルデアがボロボロだから割けるリソースがないのかと思っていたが、召喚自体はカルデアのリソースとかシステムは特に関係なく可能らしい。
ただ、実行が可能であるというだけで召喚には相応のリソースが必要なのは変わらない上、マスター候補でも補欠でもないあくまで外部の人間である俺が非常事態とはいえサーヴァントを召喚して契約すること自体が後々問題になる可能性が高いらしい。ここでもあのヒス女の独断が足を引っ張る……なまじマシュちゃんだけで現状どうにかなってんのも向かい風だ。
あの女「必要に迫られない以上は余計なことに手を出さないで」だと。
追い詰められてから出来る程召喚とやらはお手軽なのか? 違うだろ? あらかじめ非常事態に備えておくのは当たり前と違うんかと。
そんで、だったらお前が呼べばええやんって言ったら逆ギレするし。
……どうも断片的に話を聞く限りサーヴァントの召喚や契約に先天的に適性が全く無いらしいことが解った辺りでちょっとだけ申し訳ない気分になったがそれはそれ、これはこれだ。
……話が逸れたが、更に言えば呼び出すサーヴァントを絞り込む手段がないためきちんと意思疎通出来て協力してくれる英霊が来てくれるかどうかも不明瞭、現状カルデアにある英霊維持のための補助システムが完全に死んでいるのでサーヴァントの維持に必要な魔力は俺持ちになり、魔力が枯渇すると気絶するため消費が重すぎるサーヴァントが呼ばれてしまうと却って足手まとい……と、実行するに当たって大きな問題二つと「かもしれない」系のリスクが多いため今は置いておくらしい。
ただ客観的に見てその内戦力が足らなくなる可能性が見えるのは事実であるため、必要なリソースが現地で賄えるようなら考慮はする、ってマロンが言ってた。
あんまり期待はしないでおくとしよう。
それはさておき……怪しいよなぁ。
何がってあのヒス女だよ。
ガイコツ兵の群れから逃げてるときにも考えてた話だ。
あの意識がブラックアウトした瞬間がレイシフトが行われたまさにその時だったというのは既に説明があった。
だが、アレが起こったときに俺がいたのは管制室から退室する前に立ってた場所―――あのヒス女がスタッフに指示飛ばしてたまさにその場所だった訳だ。
俺が退室してからもあの女はあそこから動いてないだろう。
退室前もあの女の指示でスタッフが動き回ってたが本人は口出すだけで動いてなかったし。
つまりあそこが木っ端微塵に吹き飛んでた以上、このヒス女も一緒に木っ端微塵になってなきゃおかしい。
爆破痕がはっきりわかる程度には床が見えてたし、仮に原型留めて生き延びてたのなら何かしら目に見える痕跡の一つでも残っていたはずだ。
総括するとここにいるヒス女は本物ではない、ないし本物でも生きていない可能性が高い訳だ。
誰かが化けてるとか、俺たちが見てる集団幻覚とか。あるいはサーヴァントみたく触れる霊の類とかその辺りが妥当じゃなかろうか。
アルセーヌ・ルパンの英霊とかなら余裕でできそう。サーヴァントは架空の存在も呼べるらしいし、在り得ん話じゃないはずだ。
……最悪、大穴でコイツがカルデア爆破事件の犯人だったりするかもだ。
動機が無いと言われればそれまでだが……確実にあの爆破に巻き込まれた上に防御したらしい痕跡もなかったのに、衣服にすら焦げ跡の一つもない五体満足でピンピンしているってのが怪しすぎる。
無論、その辺の推測は一度も口に出していない。
あの女も俺を切り捨てたい感じだし、立花ちゃんとマシュちゃんがこちらの生命線でもある以上は二人(あとマロン)が完全に信用しきっているヒス女に否定的な発言はこれからの関係や生存率にも響くだろう。
つか単純にヒス女以外に嫌われたくない。帰ってから針の筵は御免だ。
そんなわけで、今後もこいつはヒス女……カルデア所長として暫定的に扱うとしよう。その方がボロも出ない。
ま、とりあえずは俺一人でも警戒してればよかろう。
ガイコツ兵をまともに相手して普通に生き残っていたらしいが、一人だし、ポンコツそうだし、咄嗟に使える攻撃手段は射撃系のみの様だし……実際に手で触れられる以上はいざとなれば隙を突いて取り押さえる位は何とかなるだろう。多分。
はい、というわけでライダー戦丸々カット!
原作より早いですがライダーさん消滅です。
ちなみに前回ガイコツ兵たちが追跡を止めたのはたまたますぐそばに三人がいたからです。
つまり、前回主人公が聞き逃した声の持ち主は彼女たちでした。
ついでに言うと主人公がトレインしてきた大量のガイコツ兵と戦う羽目になってそこそこ消耗し、更にガイコツ兵に追われてた謎の動体反応を急いで追ってきたところで今回のライダー戦(過程省略)でした。
要するにマシュちゃん原作より頑張ってます。
そして主人公は知らないうちにかなり迷惑かけてます。
まあどっちも気づいてない&忘れてるのでこのまま埋葬される裏話なんですが。