キャスターつおい。
遠巻きに見ていたが、一人で弾幕張るわ、地雷みたく地面に仕込んだ魔術でランサー吹っ飛ばすわ、挙句後衛キャラのはずなのにアサシンを杖で殴り飛ばすわやりたい放題だった。
まあ、攻撃一辺倒でいられたのはマシュちゃんに前衛完全に任せきってたからなんだがな。
キャスターが出現したことで向こうの警戒というかヘイトが立花ちゃんからそちらに向いたのも追い風だった。
最後は殴り飛ばされたアサシンをキャスターが空中で丸焼きに、ランサーはアサシン撃破に気を取られた隙に空中からダイブしたマシュちゃんに地面と盾でサンドイッチされて叩き潰され終了となった。
「うっし、一丁上がりっと」
「あ、あの……改めて、ありがとうございます。危ない所を助けていただいて……」
「おう、おつかれさん。さっきも言ったと思うが、この程度じゃ貸しにもなんねえから気にすんなって。それよか体の心配だな。一応あん時ざっくり治したが、尻の辺りとか――」
「ひゃん…!」
「おう、なよっとしてるようで良い体してるじゃねえか。役得役得っと。……しかし、盾"だけ"を装備したサーヴァントってなぁ初めて見るな。随分頑丈だったが何のクラスだ? 全く判らん」
戦闘が終了したのを見計らってキャスターに礼を述べに行くマシュちゃん。
キャスターの方も戦いの時のピリピリした雰囲気はとうにどこかに霧散し、人懐っこそうな笑みを浮かべて会話している。
あ、そうそう。こっちの残敵処理はそれなりに順調だった。早めに終わったのでサーヴァント同士の戦闘を見学する余裕すらあった。
……二回も助けられたし(そもそも何で俺がこんなとこに居るのかについてはもう一旦横に置いといて)内心の呼び名をヒス女から所長にランクアップさせてやろう。
頻繁に起こすヒステリーもそういう
ま、それはさておき――
「……ちょっと、立花。あと……ライトも。あれ、どう思う?」
「まごう事なきセクハラオヤジでしょ」
「訴えたら勝てると思うぞ」
『と、とりあえず話を聞かないかい? 彼はまともな英霊のようだし』
まさか戦闘が終了していきなりセクハラに走るとは思わなかった。
所長がどう思うか聞いてきたので正直な所感を言うことにする。煽っている訳ではない。
……隣の立花ちゃんがちょっと怖いって言うのも少しあるが。この娘真顔でキャスター凝視してんだよ……。
つーかマロン曰くこいつはまともな――これでもまともな方なのか?――英霊って話だが。
そりゃそうだよな。 さっきのほぼ黒一色だったアサシンとかランサーと違って色ついてるもんな。
呂律も怪しくないし流暢に喋って……そういやコイツどこの国の英霊だ?
青の髪とか染める以外にないと思うんだがどうも地毛っぽいし、そもそもなんで言葉が通じてる? まさか日本人じゃねえよな?
頭に疑問符が浮かんでは消える俺をよそに話は進んでいく。
「おっ、話の早えヤツがいるじゃねえか。声しか聞こえねえが……オタクのそりゃ、魔術による通信手段か?」
『ええ、そうです。はじめまして、キャスターのサーヴァント。御身がどこの英霊かは存じませんが、我々は尊敬と畏怖をもっt』
「あーそういうの要らねえよ。聞き飽きてんだ。手っ取り早く用件だけ言えよ。そういうの得意だろ軟弱男?」
『うっ……そ、そうですか、では早速。……軟弱……また初対面の相手に軟弱男とか言われちゃったぞう……』
挑戦者マロン選手、キャスター選手の容赦ない
キャスターが堅苦しいのを好まない人柄ってのは見てりゃ何となく判ることなんだがなぁ……まあ、実際接するのとモニター越しで見てるだけでしかないことの差と思うべきか。
つーかアレだ、あの医者自分に自信が持てないタイプのチキンだかんなー……うん、しょうがないね。
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そんなこんなで情報交換が終了した。
例によってキャスターの証言一つだけしか情報源がない状況で鵜呑みは危険だと思うが、周りの連中はすっかり信用してやがる。
キャスターが実は敵側とか、キャスターも把握してない事実が出てくるとかそういうの微塵も考慮してなさそう。
……はぁ、胃が痛い。
警戒対象が二人と一匹に増えちまった。
キャスターから新しく仕入れた情報によると、この都市ではマロンの知る正史通り聖杯戦争が行われていたらしい。
その頃はマスターもいたし、街も燃えてなくて人もちゃんと生活していた。
が、一夜にして街は炎の海、人間は跡形残さず消滅し街並みも崩壊、マスターも消えて残ったのは7体のサーヴァント達とどこからともなく湧き続ける骨共だけ、トドメに一切原因不明ときた。
で、どう考えても異常事態なんで周りが様子見してるところにセイバーのサーヴァントが問答無用で聖杯戦争を再開。
キャスター以外の5体のサーヴァントは倒された上に真っ黒にされてセイバーの部下状態だそうだ。
そしてセイバーは部下にした5体とその辺の骨を動員して何かを探しているとのこと。
その探し物には、セイバー以外で唯一脱落判定を喰らわずに生き残っているキャスターも含まれていると、そういうことらしい。
ただそうなると何で俺たちが狙われたのかが疑問なんだよなぁ……聖杯戦争云々だけが問題なら迷い込んだ異邦人なんぞ放っておいて、物量に任せてキャスターをローラー作戦で捕獲でもなんでもすりゃいいのに。
で、キャスターはこんな状況下であってもセイバーの撃破を諦めていないらしい。
キャスターがセイバーを打倒するか、セイバーがキャスターを打倒するか。
そのどちらかを成せばこの特異点における聖杯戦争は終わりを告げる。
ただ、それでこの特異点の異常が解消されるかどうかは不明瞭。
こっちは無限湧きする骨共に休む間もなく対処せねばならない可能性のある状態を脱し、調査を有利に進めたい。そしてゆくゆくは特異点の修復を。
あちらはセイバーを打倒し、聖杯戦争の幕引きを図りたいが戦力が足らず協力を要請したい。
……キャスターは利害は一致してると言い切ったが、ちっともそんなこたぁない。
仮に『セイバーを打倒してはこの特異点の解消に失敗する』とでもなったらどうするつもりなのか。
まあしばらくの同道は可能だろうし、その間こちらに得が無いでもないから所長の言う通り合理的ではあるが。
で、とりあえず協同態勢をとるということで話はまとまった。
協力してる間キャスターの指揮を執るマスター役は――もちろん立花ちゃんである。
ん? 俺?
外部の人間だからマスター以下略。
いや、確かになんもできずに見てるだけを脱却するチャンスではあったんだが。
ぶっちゃけた話俺に指揮権渡されてもどうにもならん。
戦うサーヴァントが二人しかいない上マスター間の信頼や意志疎通の精度も十分じゃない、そんな状態で指揮系統を分けて同じ場所で戦っても連携もクソも無い。むしろ誤爆の危険が高まるだけだ。
それならわざわざ俺に指揮を執らせずにキャスターが自己判断で戦った方が間違いなく強い。
戦闘経験が少ないから俯瞰的な視点があると助かるだろうマシュちゃんとは事情が違うのだ。
そもそもキャスターが先の戦いで肩を並べた立花ちゃんではなく、ガイコツ兵を牽制していただけの俺を認めて指示に従ってくれるかすら怪しい。
加えてこのキャスターは存在維持にマスターの魔力が必要ない。となるとますます組む意味が無い。
そんなこんなで、所長の言い分に乗っからせてもらってキャスターの仮マスターは辞退させていただいた。
以前サーヴァント云々の話をしたロマn――マロンが何か言いたそうだったが黙ってもらった。
別段後悔はしてない。キャスターには頼みたいことがあるがそれと必要性の薄い契約するのは別問題だ。
さて、本題に戻る。
キャスターは協力するなら目的の確認をと言って『大聖杯』なるものについて情報を寄越した。
曰く「この冬木という土地そのものの"心臓"部」であり「特異点とやらがあるとしたらそこ以外ない」と断言。
そして大聖杯にはセイバーと、まだ倒されていない他の黒サーヴァントの片割れが陣取っているらしい。
残るはアーチャーとバーサーカーだが、アーチャーはふたりでかかればどうとでもなるとのこと。
対してバーサーカーはセイバーも苦戦を強いられた怪物という触れ込みであり、何より近づかなきゃ無視できるから放置でも構わないそうだ。
最後に、道案内はするが踏み込むタイミングはこちらに一任するということで話は纏まった。
よし、こっちの提案……と言うかお願いを切り出すならこのタイミングしかない。
「キャスター。ちょっとお願いがあるんだがいいか?」
「あん? 何だよ」
「魔力の使い方、基礎の基礎で構わんから教えてもらえないか?」
いい加減自衛できるようになっときたいんでな。
今すぐ行くんじゃないなら特訓じゃぁーーーー!
選択肢間違えたかもしれん。
「そらそらそらっ!」
「ぬわぁぁぁぁぁぁスパルタすぎんだろぉっ!」
現在、探索中に見つけたそこそこ広くて火の手も薄い場所――街外れの教会前で探索を一時中断して特訓中。
探索の手を止めることに所長がちょっと渋っていたが、セイバーと戦うならまた雑魚に集られて戦力を割かないとならなくなるのは悪手だから最低限の自衛手段が欲しい、と説得したら「何で魔術回路開いてんだお前ド素人のはずだろ経歴詐称か国連の手先め」みたいな感じでまたヒスってたが、これまでの荒れ様から予想してたよりあっさり引いてくれた。
つーか、そんなもん聞かれても俺だって知らん。そもそも魔術回路ってなんじゃ。
まーたあの資料か。
今すぐ訊いとかにゃまずそうだし後で機会見つけて訊くかねぇ、っと。
うん。ここまではまだ問題なかった。
問題は「魔術師のサーヴァントやしちょうどええやろ!」と思って教師役に選んだキャスターがとんでもねえスパルタだったことだ。
一番最初、魔力の作り方とか物体への魔力の流し方等の超基礎的らしい部分を教えてもらった……までは良かったんだが。
「そっからは実戦で覚えろ!」っつって港で俺がガイコツ兵からパクってそのまま持ってきていた槍をよこすと、何をトチ狂ったか火炎弾飛ばして攻撃してきた。
「当たったら死ぬわ!」って抗議しても「だったら死ぬ気で頑張んな!」で取り付く島も無し。
槍で攻撃を凌がせて近接戦闘と魔術の両方を鍛えてくれようとしているらしいのはなんとなく理解できる。
理解できるんだが……サーヴァント相手にやってたような弾幕を使わない辺り一応加減はしてくれてるっぽいにしても、かするだけでもそこそこ痛いし熱い。
防御し損ねてまともに全弾喰らったら間違いなく丸焼きだろう。
教えてもらったばっかのまだまだ粗の多い身体強化を併用して、ひたすら飛んでくる火炎弾を避けて、突いて、払って、受けて消していく。
事前にキャスターが例の記号を描く魔術で強化してくれたらしくガイコツ兵産の槍でもまだどうにかなってるが、このセットが終わったら次は槍にかける強化も自前でやらにゃならんらしい。
………コイツ俺を殺す気なんかねぇ?
魔術に付いて触り程度の知識(しかもそれすら内容が虫食いの中途半端)しかない主人公ですので、
「とりあえず戦う方法」として覚える時間が短くて済みそうな基本的なものを選び、
ついでに実戦的な訓練をさせることで「理論が半端でもとりあえず使える状態に急いで仕立て上げる」ための特訓です。
なので師匠が誰かってのも踏まえると、実は全然スパルタじゃないというかむしろ気を使ってくれてる方だったりします。
魔術の造詣が浅い主人公はそんなことちっとも知りませんが。