青の箱舟   作:トクサン

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開戦

 

 高揚感だ、高揚感をギルは抱いた。

 漸く、此処まで来た。

 ギルは揺れるゴムボートの中でそう思った。無人航空機の下に搭載されたゴムボート。簡易的な装甲で守られたボートの上に寝そべり、体を固定したまま横のフックを握りしめる乗員、兵士が八名。ボートを運ぶ頭上のソレは大きくもなく、小さくもなく、航空機というよりはドローンというべきサイズ。第二プラントから第一プラントへと自分たちを運ぶ役割を担っている機械。左右の小さな窓を覗けば自身と同じ、無人機に輸送されるボートが無数に見える。その更に上には大型の兵員輸送機とVTOL機が列を為して飛行していた。彼らの速度は自分達より速く、簡易窓越しに前進する航空機群が見える。直ぐ後ろにはハイリオが搭乗していた。けれど今はその姿を目に入れる事は出来ない。

 

『――指定ポイント通過、固定ボルト解除、降下準備開始』

 

 無機質な音声が頭上より降り注いだ。一拍後、みっちりと閉まっていた無人機とボートに隙間が出来る。装甲と無人機の隙間から強烈な突風が吹き荒れ、搭乗員は皆顔を伏せ風をやり過ごす。

 

『搭乗員のベルト装着情報確認、クリア、AEM同期開始、降下同調――カウント、十、九』

 

 全員が自身の体を締め上げるベルトを掴み、確りと固定されている事を確認する。そして大きく息を吸い込み衝撃に備える。無人機がみるみる高度を下げ、水面の直ぐ上を飛行し始めた。

 

『三、二、一――コメット、フォール』

 

 カウントが終わりを告げた。瞬間、ガコン! と音が鳴り響き、ボートが無人機より切り離される。そして僅かな浮遊感の後、大きな水音と共にボートが着水、二度、三度大きく跳ね、それから後部のエンジンが唸りを上げた。

 

『切り離し完了、帰投します、ご武運を』

 

 AIに言われたって、何とも思わない。

 ボートの着水を確認した無人機はそのまま失速し、後方へと消えていく。反対にボートは加速、波を掻き分け第一プラント目掛けて突き進む。前方には先遣隊の人類派、その上陸用ボートやヘリ、航空機が続々と集結する姿。そんな航空機やヘリに向けて瞬く閃光、飛び出す黒い何か。そして時折大きな音共にヘリや航空機が火を噴き、失速する。

 

 いつか見た、第一プラントの光景が脳裏を過った。時折、プラントの端からヒュン、ヒュンと音が飛んで来る。それの幾つかは装甲に着弾し、甲高い金属音を掻き鳴らした。ハイリオは自身の額に手を当て、滲んでいた汗を拭う。第一プラントがどんどん近づいてくる、同時に鳴り響く銃声、砲撃音、爆音が耳に届く。

 そして遂に四人の乗るボートが勢い良く第一プラント、そのメガフロートの外装にぶち当たった。アスファルト舗装され、斜めに設置された防波堤を登り、ボートはその中程で停止する。乗員たちは顔を伏せながら衝撃を堪え、そして船が停止した瞬間ベルトを弾き、立ち上がった。

 

「行け! 行け、行け、行けッ!」

 

 ハイリオが叫んだ、同時に乗員たちが小銃――光線銃を抱えたまま駆け出し、ギルとハイリオもそれに続いた。ユリとミリシアが最後に駆け出し、抱えた光線銃の安全装置を弾く。弾薬は多くない、全員に配られたエネルギーパックはひとりにつき三つ、考え無しに撃ちまくれば直ぐ無くなる量だ。防波堤を登り、アスファルトに体を押し付けながら第一プラントを覗き込むギル。焼け落ち、黒ずんだ居住区だった場所。その障害物越しに人類派と信仰派が撃ちあっているのが見えた。

 

 武装の差は歴然で、人類派が信仰派を圧倒している。前線を押し上げているのは専ら無人機で、その後ろから人間が光線銃や電磁投射機による援護射撃を行っていた。信仰派は海岸線からじりじりと後退しており地面には無人機の残骸と信仰派の死体が散乱している。中には人類派の人間、その死体もあったが数の差は歴然だ。その死体を見たユリが思わず口元を押さえ、ミリシアが背中を軽く撫でた。

 

 人類派は単独で作戦を成功させる見通しが立っていた。だから共生派が参戦しようがしまいがどちらでも良かったんだ。戦況を見たハイリオは確信した。連中は、いつか信仰派とこうやってぶつかる事を想定していた。

 ハイリオは光線銃を握りしめ、ハッキリと通る声で告げた。

 

「無理に前に出る必要はない、人類派と足を揃えて動こう、当たると思ったら撃てば良い、ただ頭は不用意に上げるな」

「分かった」

 

 ハイリオの隣に陣取っていた同じボートの乗員――ハイリオ達より二つ三つ歳上に見える青年が頷いた。訓練期間は一週間、その期間中に学んだ事は決して多くない。憶え鍛えた必要最低限の知識と肉体、口が裂けても一人前とは言えず、精々が半人前どまり。速成学校は一人前を作らず半人前を作って戦場に送るというが正にそれだ。人類派の教官が教えたことは必要な時に引き金を引き、集団で動く事の重要さだった。周囲を見ればハイリオ達と同じように防波堤へと張り付いた共生派の仲間たちが疎らに射撃を敢行している。

 ハイリオは頭に被せた防弾ヘルムのつばを指先で摘まみ、大きく息を吐いた。

 

「ギル」

「うん」

 

 頷き、ギルが防波堤から半分顔を出し向こう側を覗き込んだ。形を保っている建築物は少なくない、大きな通りから信仰派は徐々に後退しており、人類派は海岸線から這い出て市街地へと踏み込んでいる。

 

「信仰派は大通りを中心にジリジリと後退していて、人類派が押し込んでいる、僕らを狙っている敵は見た限り居ない、これ以上離れると僕達の腕じゃちょっと当てられないかな」

「俺達のボートを叩いたのはドローンか何かだったか……分かった、人類派に続く形で距離を詰めよう」

 

 腹這いになったハイリオが上を覗き込み引き金に指を掛けた。「援護する、ギル、防波堤から向こうの――あの建物の影に移れるか?」、そう言ってハイリオは目線で海岸線付近にある半壊した住宅を見た。

 

「うん、大丈夫」

「なら、行くぞ」

 

 頷いた瞬間、ハイリオが腕を突き出し信仰派の居る方向に向かって銃撃を開始した。軽い反動と共に閃光が空気を穿った。射出されたエネルギーが着弾したか、ギルの目には分からない。目に見える信仰派の面々は障害物や住居に身を隠している。その内の一人が潜む住居の壁にエネルギー弾は着弾し、黒ずんだ穴を空けた。反撃は無かった。ギルに続く形でミリシアとユリも攻撃に参加し、小隊の青年達も引き金を引いた。

 ギルは素早く防波堤から駆け出し、銃声や爆音轟く戦場を通過した。そして目標とした住居の壁に肩を押し付け、大きく息を吐く。ギルに続く形でハイリオも飛び出し、ギルが代わりに光線銃を撃って牽制した。

 

「ユリ、ミリシア!」

 

 ハイリオが叫び腕を振った。ハイリオとギルが住居の角から銃撃を敢行、背後からミリシアとユリが駆けてくる。便乗する形で青年も駆け出し、その次に小隊のメンバーも住居の影に駆け込んできた。共生派の他の面々も海岸線を脱し、住居区画に踏み込んでいる。上陸部は完全に制圧した。ハイリオは頭上を飛んで行く武装したドローンを仰いだ。

 

「――本当に、俺達は必要なかったみたいだな」

 

 人類派単独でも作戦は完遂出来た。ハイリオはその事実に歯噛みする。そんな彼の直ぐ近くから、聞き覚えのある声が響く。

 

「火力を上げろ、前線を押し上げるんだ、後続の連中を安全に降下させる」

 

 声はそれ程大きなものではなかったが、戦場に良く通った。身を隠すこともなく、大通りへと飛び出す影。四人は建物の壁に張り付きながら飛び出してきた影に目を向ける。

 

「あれは……まさか、代表か? おいおい、まさかトップ自ら戦場に出るなんて」

 

 代表だと分かったのはギルとハイリオの二人。声に聞き覚えがあった、それに彼の姿。全身を装甲で覆いつくし、宛ら自動機械の如き容貌。左腕に何層にも重ねられた鉄塊、右腕に剣、この時代にそんな武装で戦場へと飛び出す人物――他に心当たりがない。

 

「ハイリオ、あの、アレは何……?」

 

 影から顔を覗かせたユリが小さな声で問いかける。ハイリオは代表の姿をじっと見つめ、目を細めると口を開いた。

 

強化外骨格(パワードスーツ)だ、骨董品、いや、一部では未だ現役って聞いていたが、軍用の強化外骨格何て随分昔に開発が終了したって聞いていた――まだ残っていたのか、それもこんな星に持ち込むなんて」

 

 強化外骨格、それは人間の筋力補助を目的として開発された近代の鎧。資材運搬や工事、医療の場や戦場にまで手を伸ばす汎用性に富んだマルチスーツ。しかしその殆どはドローンや自動人形、即ちAI制御によるロボット、その登場によって姿を消した。人工知能技術の発達によりコストの面で強化外骨格と自動人形の製造コストの差が埋まったのだ。

 

 最早人間が態々鎧を纏い動くより、全て機械に任せてしまう場面の方が増えた――ハイリオは知識として強化外骨格を知っている。しかし、データベースの参照画像に目の前の鎧と似たようなものを見た。ならばきっと、アレがそうなのだろうと考える。

 

 そうこうしている内に、飛び出した代表に向けて信仰派の一部が射撃を開始した。退きながらの苦し紛れの射撃。しかし的を絞った弾丸は突出した代表に殺到した。

 

「代表!」

 

 背後に続いていた兵士が瓦礫に身を隠しながら叫ぶ。瞬間、代表は左腕に纏っていた鉄塊――何層にも重ねて折りたたまれていた装甲を、腕を振り被って展開。体の八割以上を覆い隠すひし形の装甲板が出現し、その場に膝を着いた。

 着弾、甲高い金属音と共に火花が散り跳弾音が耳に届く。弾丸は膝を着き、斜めに装甲板を構えた代表の上を滑って行く。盾で弾丸を逸らし、弾いたのだ。

 そして弾幕が薄くなった頃を見計らって、中腰になって盾を構えながら突進。逃げ出そうとする信仰派の兵士に盾ごとぶつかり、衝撃で地面を転がったところに心臓一突き。最低限の動作で殺人を行う代表は流れ作業の如く、次々と兵士を屠って見せた。

 射撃に対しては常に装甲板を構え、武装は右手に持つ黒い刀剣のみ。柄の部分がケーブルで強化外骨格と繋がっており、時折刀身が赤く発熱する。どういうものなのか分からない、しかしその刀剣が熱による溶断を可能とする武装だという事は分かった。

 

 尚も突出する代表、後退りながら信仰派の兵士の一人が射撃を敢行する。

 頭部を狙い発砲、盾上部で防御。ならばと足を狙う、装甲を素早く下げ足元を防御。空かさず腕のブレードを狙う、盾を横に傾け手元を防御。

 銃口の向けられた箇所を素早く察知し盾で防ぐ。その反応、判断速度が異常の一言。射撃の悉くが盾に防がれ、追い付かれれば一刀の元斬り伏せられる。

 防御、突進、斬殺――言葉にすれば何と簡素な事か。

 

「前進せよ」

 

 剣を突きつけ代表が告げる。結局代表と人類派による信仰派兵士の撃退をギル達は眺める事しか出来なかった。その戦いぶりが凄まじく、魅入ってしまったのだ。

 

「……あの代表、本当に人間? この時代に剣と盾で戦うなんて――」

「正直、信じたくない光景だな」

 

 ミリシアが若干引いた声でそう口にし、ハイリオも口元を歪に歪ませながら頷く。光線銃と電磁投射機による射撃戦が歩兵の領分だ。そうでなくとも戦場の主力は無人機に移っている。ただの人間、歩兵であんな戦い方をするなんて。

 正直信じられない、こうして目の前で見なければ絶対に信じなかっただろう。

 成程、神様に歯向かう派閥のトップというのは――こうも【極まった人間】でしか務まらないという事か。

 そんな代表の前に、ひとつの影が落ちる。

 

「へぇ、アンタが人類派の代表か――確か、日埜政景……だっけ」

「――!」

 

 声は直ぐ傍から。見れば半壊した建物、その屋上に立って代表を見下ろす人物が居た。他の信仰派兵とは異なり、きっちりとした装い。それは神父の纏う黒服に似通った衣服だった。手には何も持っていない、代わりに腰には太いベルトを巻き付けており、シリンダーの様なものが幾つも括りつけてあった。髪は茶色、顔立ちはアジア系。これといって特徴はない、しかし張り付いた薄ら笑いが不気味だった。

 

「貴様は?」

「ジルギッド――あぁ、覚えなくて良いよ、アンタは俺が殺す、そう決まっているんだ、これから死ぬ人間が名前を覚えておく必要なんてないからな」

 

 ジルギッド、そう名乗った男はベルトからシリンダーを一本抜き出し、自身の首筋に当てがった。

 プシュ、という空気の抜ける音。同時に中にあった液体がジルギッドの中に流れ込む。次の瞬間、彼は満面の笑みを浮かべながら屋上から飛び降り、代表に飛び掛かった。

 生身の人間があの高さから――ハイリオが驚きに声を失くした。その脳裏に地面に叩きつけられ、赤い花を咲かせる骸を思い描く。

 しかしそうはならない、ジルギッドは宙を舞いながら両手を振り上げ――一閃。

 甲高い音、ジルギッドの落下地点に居た代表は装甲板である盾を構えていた。その盾に叩きつけられているのは――剣を象った氷塊。その場に居た全員が目を剥いた。

 

「本当、大したものだよな、神様って奴の力はさァ!」

 

 怒涛の連撃。

 屋上から飛び降り、地面に難なく着地したジルギッドは両手に氷柱を握り凄まじい速度でソレを振り回す。弾丸を難なく弾いていた代表の盾が甲高い音を鳴らし、その表面が凸凹に窪んだ。ジリジリと後退する代表の体、同時にジルギッドがひと際強い一撃を繰り出し、強化外骨格を纏った代表の体が後方へと吹き飛んだ。

 

「代表!」

 

 人類派の兵士が叫び、代表は盾の下部で地面を擦りながら後退。しかし本体に傷はない、盾は傷つき凹んでいるが、その全てが適切に防がれている。なんて硬度の氷だ、銃弾で僅かに黒ずむ程度の盾をあんなに――それに、強化外骨格を纏った人間を生身で吹き飛ばす膂力、凡そ人間業とは思えない。

 

「ギル」

 

 ハイリオは呟き、隣で息を潜めるギルに目を向けた。しかしギルは首を横に振る。

 

「あれは――違う、現人神じゃない」

「本当か?」

「うん、何ていうか……感覚が、薄い」

 

 ギルは自身の手の甲を擦りながらそう言った。恐らく――恐らくだが、あのシリンダーの様な物。アレに何か仕掛けがある。遠目で良く分からないが――血液、だろうか。

 あのメモリから見える赤色。あのシリンダーを使うことで、一時的に現人神としての力を行使する事が出来る――そんなところだろうか。無論、ただの憶測だ、確証はない。しかし自分の中の何かが囁いていた、あの男から感じる匂いは余りに薄い。

 再びジルギッドが肉薄、両手に持った氷塊を叩きつけ、時折体の彼方此方を氷結させ氷柱を作り射出する。その悉くを代表は防ぎ、躱す。しかし一向に攻めに転じる事は無く、着かず離れずの距離を保つため周囲の兵士も下手に手を出せない。

 至近距離から氷塊を振り上げ盾に叩き付ける。同時にもう一方の氷塊で横合いから殴りつけようとし、それを代表は剣で受けた。甲高い金属音、ギチギチと不快な音が鳴る。

 真正面から視線を交わす双方。代表の顔は装甲に覆われて見えないが、その声はハッキリと聞こえた。

 

「やはり、今確信した……俺は間違ってなどいなかったと」

「あァ?」

 

 呟き、代表が一歩踏み出し盾を押し出す。弾かれたジルギッドは舌打ちを零し氷塊を奮う。都合三連、流れる様な動作で繰り出されたソレを盾で防ぎ、火花と氷片を散らしながら代表は言った。

 

「その力、人間には過ぎたるモノ、【必要のない物】だ――人は自らの力と知恵で未来を切り開かなくてはならない」

 

 淡々と、それでいて淀みなく動き、盾を奮う代表。その言葉にジルギッドは露骨に顔を顰め答えた。

 

「ロートルが……時代遅れの腐れ理論なんざどうでも良いんだよ、勝利こそがすべてだ、どんな力であれ勝ったもん勝ち、強い奴に従う、死ねば終わりなんだ――なら、自分より強い主神に従うのも当然だろうが」

 

 氷塊と盾が鈍い音を鳴らす。視線を絡ませた二人が一層手に力を込めた。

 

「他者の存在を前提とするか――その根性、気に入らん」

「何とでも言えよ堅物、屍になりゃンな戯言を口にする事も出来ねぇだろうが!」

 

 ジルギッドが吠え足を振り上げた。その動きを見た代表は僅かに盾を動かし繰り出された前蹴りを防ぐ。氷で覆われた足、そこから繰り出される蹴撃。大きな音を立てて弾かれた代表はしかし、決して姿勢を崩さない。

 追撃とばかりに振り上げられた氷塊、凄まじい勢いで振るわれたソレをパリィの要領で防ぐ。バキン! と音が鳴り、弾かれた氷塊が根元から折れ、回転しながら後方へ消えた。得物を一本失ったジルギッド、好機と見た代表は装甲板である盾を構えながら突進。

 肩から盾にぶち当たったジルギッドは顔を歪め、そのまま数メートル程押し込まれる。

 

「ッチ、どういう体してンだ、強化外骨格で底上げしているって言ったって尋常じゃねぇぞ」

「お前の限界を人類の限界と決めつけたのだろう、神の力などなくとも、俺はお前を殺せるぞ?」

「――はッ! やってみろよォッ!」

 

 挑発とも取れる言葉に獰猛な笑みを浮かべたジルギッドは再び手に氷塊を生み出す。そして一旦大きく跳躍し距離を取ると、氷塊と手を凍結させ固定し始めた。

 代表から距離を取った瞬間、「代表を援護しろッ!」と周囲の兵士が一斉に顔を出し、ジルギッドに向けて銃撃を開始する。その声に舌打ちを零した彼は地面に膝を着き、自身の周囲をぶ厚い氷で覆った。弾丸は悉くその氷壁に拒まれ、本人に届かない。

 

「クソがッ、引っ込んでろ雑兵! 選ばれなかった屑が俺に立てつくんじゃねぇッ!」

 

 苛立ちを隠す事無く叫ぶ。そんな敵の姿を眺めながらハイリオは光線銃の引き金に指を掛けた。「ギル」と隣にいる友の名を呼ぶ。少なくとも異能を操る兵士だ、階級が低いという事は無いだろう。もしかしたら現人神に近い地位の人間かもしれない。

 そう考え全員で討ち取るために動こうと考えていたが――ふと、隣のギルが弾かれたように顔を上げた。

 黒ずみ、崩れ落ちた建物群。変わり果てた第一プラント、その残骸の遥か向こう――その先にギルは何か胸のざわつく、表現する事の出来ない『何か』を感じた。それが何であるか、ギルは経験や知識ではない、直感によって理解した。突然体を硬直させ、虚空を見るギルにハイリオは再度その名を呼ぶ。

 

「ギル?」

「……ハイリオ、居たよ」

 

 呟き、ギルは自身の胸元をぎゅっと握りしめた。

 

「居たって、一体」

「薄くない――本物の現人神」

 

 その一言にハイリオは大きく目を見開き一瞬息を止めた。それからゆっくりと、落ち着くように呼吸を繰り返し、問いかけた。

 

「それは……本当だな?」

「言い表すのは難しいのだけれど、この肌がざわつく様な感じ、血液が冷たくなって、落ち着かない、理屈じゃないんだ――それに、目の前の男と似た感じがする、それもあっちは、薄くない」

 

 存在感、とでも言えば良いのだろうか。ギルは強い【熱】のようなものを遥か先に捉えた。もしこれが現人神ではないというのなら、一体なんだというのか。ハイリオは暫くの間口を噤み考え込んだ。それからギルの後ろに続くユリとミリシアを見た。二人は何も言わない。ミリシアは覚悟を決めた瞳で二人を見つめ、ユリは心配そうな表情を浮かべながら唇を噛みしめている。しかし、その瞳の中には恐怖の他に勇気が輝いていた。

 元より――第一プラントに現人神が居た場合、どのようにして動くかは決めている。

 

「分かった、ギル――頼んだ」

「――うん」

 

 ハイリオの言葉を受け、ギルは小さく頷いた。

 素早く建物から身を離し、代表の居る方向とは逆の方へ駆け出す。その後姿をハイリオ、ユリ、ミリシアは心配げに見つめ、同じ小隊の隊員たちは疑問符を浮かべながら何か言いたげに見送った。

 

「別動隊だ、個人で隊とは呼べないが、あいつにしか出来ない事がある」

 

 小隊の隊長はハイリオだった、故に彼の判断に何か口を挟むことはしない。「代表を援護するぞ」と彼が口にすれば、小隊全員が光線銃を強く握りしめ、ジルギッドを見た。

 今は、自分に出来る事を。

 ハイリオの指が引き金に掛かり、その銃口はジルギッドに向けられた。

 

 





 警戒レベル4、直ちに避難の通知が先程届きましたが皆さまの方は大丈夫でしょうか。
 避難しようにも外は風と雨が凄いので、いやはやどうにも。
 こちらは山なので土砂崩れの恐れがあると、ご近所さんは避難所に行くようです。
 私もいよいよとなったらスタコラッサッサします。
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