青の箱舟   作:トクサン

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自壊自損

 

 ギルとハイリオの宙船潜入は一応の成功を見せた。帰りがけに設置していたスパイカメラを回収し、特に誰にも発見される事無く脱出。絞め落とした警備についても代表に一報してある、悪い様にはしないだろう。ギルとハイリオはセンターに戻り、ミリシアとユリの出迎えを受けた。二人は大分心配していた様で私室へと戻ってきた二人に怪我がないかしきりに気にしていた。

 ハイリオは二人を宥めつつ船内での事を説明し、今すぐ協力を得られるという形は取れなかったが此方の有用性を示せれば十二分に協力は得られると告げた。全ては結果だ、今現在も進んでいる計画の成否に掛かっている。

 

 数日後、第二、第三共生派プラントに向けて人類派からの宣言が成された。それは人類派が信仰派に対し宣戦布告――共生派第一プラント奪還、及び信仰派プラントに対する明確な攻撃を告げる宣言だった。

 反応は三種類に分かれた。

 人類派の侵攻を他人ごとの様に捉え、自身のプラントが襲われる筈がないと根拠のない自信を抱き、外交と話し合いで総てが解決できると腹の底から信じている者。

 戦争の恐怖に震え、出来る事なら戦いたくない、人類派が戦ってくれるのならば有難いと自身のプラントを守る為だけに資源を割くべきだと考える者。

 そして自身の三つある内の一つ、プラントを奪われ破壊され、それでも尚黙っているのかと――人類派に続き共生派も信仰派に報復すべきと主張する者。

 

 外交・専守・抗戦。

 

 それぞれ意見を持った勢力は方々に言葉を発しグループを作り、こうするべきだと主張を始めた。

 それは概ねハイリオが予想した通りの反応だった。主に外交・専守は共生派の思想に共感している世代、即ち高齢者や中年層に多く、逆に徹底的な抗戦を望む声は若年層に多く見られた。全体的な声としては専守がやや優勢。外交が一番少なく、抗戦は第二プラントを中心にそれなり第二勢力となっていた。ミリシアとユリの努力が実を結んだ、第一プラントの惨状とその子供達の現状を知る職員や住民は揃って抗戦の声を上げていた。それは単なる同情や憐みも含まれていただろうが、何より【第二・第三プラントにも侵攻してくるかもしれない】という強迫観念があった。第一プラントを焼かれたのだ、だというのにどうして第二、第三が攻撃されないなどと断言できよう?

 共生派は民主主義だ、民主主義とは即ち多数によって指針が決定される。ハイリオは人類派の宣言が出され、それぞれの主張が出揃い勢力が固まった次の日から切り崩し工作を始めた。

 抗戦を主張するグループの数は少なくなくない、主に若年層を中心としたこの勢力は声が大きい。これはギルの抱き込んだ不良集団の働きもあった、基本的に自分の意志で共生派に来たわけではない青少年にとって、『自身に非のない暴力』というのは飲み下すのに多大なストレスを強いた。

 

 何故我慢しなければならないのか? そもそも話し合いで何とか出来るのか? 相手は何の通告もなしにプラントを焼いたんだぞ? 明日には第二プラント、第三プラントも火の海かもしれないのに、どうして戦いの準備をしないんだ?

 不良少年たちは周囲を兎に角、煽りに煽った。正しいとか、正しくないとか、そんな事はどうでも良い。どこまでも感情的に、そして『許せるか許せないか』という点を責めた。無論、心情的に許せる筈もないのだ。感情のコントロールに長けた生粋の共生派ならば兎も角、彼らは未だ年若い。兎に角声だけは大きい不良少年達である、教育施設の生徒を中心に徐々に、徐々にだが勢力は拡大していた。

 

 この頃になるとミリシアやユリといった第一プラントの面々も抗戦をするべきだと姿を隠すことなく声を上げ、大々的に第一プラントの惨状を伝えて回った。事この時点に於いて、『誰が徹底抗戦すべきだ』なんて言い出したのなんて分からなくなっていた。少なくとも第二プラントでは南部を中心に抗戦派の勢力が著しく増加し――これはギル、ミリシア、ユリの種が芽吹いた結果であった――他の区画もその声の大きさに数を抗戦派へと流していた。無論、若年層ばかりの取り込みだけでなく、企業による組織票の獲得にも動いた。

 抗戦を主張する少年少女の両親、または単純に自身の会社や財産を守る為に抗戦すべきだと判断した上役を足掛かりに、団体や組織を巻き込む。規模が大きくなればやがて騒動はギル達の手を離れ、何をせずとも勝手に数は膨れていく。

 

 これに慌てたのは現代表一派である。

 思った以上に――いや、想定以上に抗戦グループの声が大きい。共生派としてもこのまま黙って外交に総てを任せるような事はしない。無論、第一プラント侵攻に対する非難、追及、同時に停戦の交渉なども並行して行うつもりだが、丸腰でいるつもりはなかった。代表は現在稼働中の防衛機構、無人機などの改良、増産を決定し防備を固めている。しかし反対に徴兵や軍部の発足などを行う様子はなく、専ら防衛に力を注ぐ姿勢を見せていた。

 それに納得出来ない抗戦グループは兎に角現代表一派に非難の声を上げた。そもそもどのグループが一番人数が多いかなんて分からない。専守・外交グループの声は小さい、一番勢いのあるグループが抗戦派なのだ。しかし代表は抗戦派の声を聞きながらも、決して軍部創設を良しとしなかった。それどころか抗戦派を掲げる広報部やマスメディアを抱き込もうと動き、その声を黙殺しようとする有様。上からの圧力があると語った彼らの言葉を聞いたハイリオは激し、またいつまでも姿勢を変えない現代表に痺れを切らした彼は、皆を集め一計を案じた。

 それは信仰派に見せかけた共生派への自爆攻撃であった。

 

 

「やる事は至極単純で、簡単だ、共生派の生産プラントの一つを破壊して、ソイツを信仰派のせいにする、そうすれば日和見を決め込んでいる連中の尻にも火がついて、俺達抗戦派に合流するって考えだ、今以上に声がデカくなれば流石に代表も無視は出来まい」

 

 私室で輪になった四人、ハイリオは三人を見渡しながらそう口にした。

 状況はハイリオ達抗戦派が優勢、撒きに撒いた火種が燃え上がり始めていた。依然として共生派上層は沈黙を守っているが、このまま数が膨らめば必ず何かしらの対処を余儀なくされる。最悪そのまま中央に乗り込んでいきそうな勢いだ、しかしあと一手――燃え上がった現状を更に爆発させるような何かが必要だった。

 それが今回の作戦だ。

 最初にその案を聞かされた時、ユリ、ミリシア、ギルの三人は渋った。幾ら復讐の為とはいえ味方に手を出すなど。無論、人的被害のない様計画は練られてはいる。元より復讐の為、共生派を巻き込むという大罪を犯すのだ。今更何を――と言えるかもしれない。しかし、それでも心情的に受け入れがたいのは確かだった。そんな三人の意を汲んでか、ハイリオは終始穏やかな口調で続けた。

 

「流石にデカイところは狙わない、現在メンテナンスで稼働待ちのプラントを狙う、共生派への影響は微々たるものだ」

「やる事は理解出来たけれど……どうやって信仰派の仕業に見せかけるの?」

 

 ミリシアは未だ気乗りしない、しかし頭から否定するのはどうかと一応聞く姿勢を見せる。ユリも不安げな表情こそ隠さないが、その眼はハイリオに向けられていた。ギルは何も言わず耳を傾けている。

 

「方法は――色々考えた、例えばプラントの監視ドローンやカメラに信仰派に見せかけた衣服を着こんで、こう、ワザと映り込むとかな、或いは周囲の人間に証言させれば良い、逃げ出す場面何て見られれば一発だ、けれどこれは後々解析された場合、偽物だと露呈する可能性があるから却下だ、できれば証拠は残したくない、データでも、物質的にも」

 

 ハイリオは顎を擦り考え込む。物的証拠を残した場合、上手く信仰派と戦いになったとしても後々検証が行われ、偽装工作だと見破られるかもしれない。そうなると行われるのは魔女狩りだ、ハイリオは自分に絶対の自信を持っていなかった。故に、もっと確実な方法を取るべきだと口にする。

 

「信仰派にしか出来ないようなやり方でプラントを壊す、ギル」

「なに?」

「お前の力で生産プラントを破壊する事は可能か?」

 

 そう、通常の兵器や爆弾などではない――純然たる超常の力であれば、それは信仰派の神に類する存在の仕業にしか見えない。少なくとも、ギルという存在が露呈しない限り、同じ共生派の仕業だなんて思わないだろう。

 ギルはハイリオの問いかけに一瞬息を止め、しかし一拍後には確りと頷いた。

 

「出来るよ……多分、施設丸ごとは分からないけれど、半壊位なら絶対に」

「よし――なら、ユリとミリシアは施設の何人か誘って、破壊予定プラント周辺の店にでも行ってくれ、店は何でも良い、あぁ、第一プラントだけの人間で固めるなよ、信憑性を高める為にも第二プラントの市民が必要だ」

「えっと、つまり」

 

 ユリが恐る恐る問いかける。

 

「ギルがプラントを壊す、それをユリと私で集めた連中に目撃させる、あとは騒いで貰うだけ――それで、ハイリオは?」

「火付けだ」

 

 ミリシアの言葉にハイリオはハッキリとした口調で告げた。火付け――騒ぎを外に波及させるつもりなのだろう。ミリシアは一度大きく息を吸った後、軽く自身の頬を叩き気合を入れる。ユリは未だ暗い顔のままだ、頻りに手を握ったり開いたりを繰り返している。

 

「この作戦で一気に流れを俺達の方へと引き寄せる、代表は今防備を固めているからな、専守派も内部に入り込まれたと知れば見方を変えるだろう――吹き飛ばすプラントは、此処だ」

 

 ハイリオは予め持ち込んでいたプリント紙を広げ、その内自分たちの居る区画、その生産プラントの一つを指差した。比較的商業区に近く、住居区よりは少し離れているがそれほど遠いという距離でもない。ギルは何度かその地図上の生産プラントを指先でなぞり、地形や位置を記憶した。

 

「ここが一番吹き飛ばしたとしても被害が少ない、現在メンテナンス中のボックスは六つ、内二つが内部パーツの劣化で廃棄予定、残り四つもかなり年代ものだ、最新鋭のプラントを叩くより余程経済的で優しい……それと、機能している監視カメラや警備ドローンは最低限、カメラは……此処に二つ、こっちに二つ、そして此処にひとつ、ドローンは飛行じゃなくてホイールタイプだ、周辺を同じルートで徘徊している」

 

 プリント紙にペンで書き込み、それを三人に見える形で指差す。そしてふと、ハイリオは今気づいたとばかりにギルの方へと顔を向け問うた。

 

「……今更だが、ギルの能力は外部からでも破壊は可能なのか? これはギルが機材に触れた状態で火を撒くという前提の話なんだが」

「えっと、別に触れていなくても問題ないよ、一瞬で跡形もなく――って感じなら直接触れないと厳しいけれど、時間を掛けて良いなら、やり方は他にもある」

「そうか、なら別にこのドローンと監視カメラの情報は要らないな、態々中に入り込む必要はない、もっと別の……そう、確かここに鉄塔があった筈だ、過去使われていた、いや、今も使われているのかもしれないが、送電施設の一部だ、コレに登れば生産プラントを見渡させると思う」

 

 ハイリオはそう言ってプラント傍にある空白を叩いた。ここにその鉄塔があるのだろう、高所であれば狙いも良く絞れる筈だ。下手に他所の区画に飛び火などしたら目も当てられない。ギルは彼の指差した鉄塔の位置を良く記憶する。

 

「壊すなら派手に、見せつける様に、だ……なるべく強烈な印象を『信仰派の仕業』として広めたい、最終的に壊せるなら方法は問わないが、どうだギル、やれそうか?」

「うん、分かった、やるだけやってみるよ」

「それで、ハイリオ、私達には細かな指示はなし?」

 

 地図を前にしてミリシアが声を上げる。ユリも不安そうな表情で彼を見ていた。ハイリオは二人を順に見ると、「正直、そっちに関しては流れというか、その場の雰囲気でやって欲しいというか、細かい指定はないんだ」と肩を竦めた。

 

「段取りは全てそっちに任せる、人の機微に関しては俺よりミリシアとユリの方が敏感だろう? ただ利用する店はプラントに近い――そうだな、この辺りだと嬉しい、ギルがどういう形で破壊するかは分からないが、近い程効果的に映るだろう」

 

 ギルはどういう形で襲撃するかを脳裏に描きながら、「なら、火が外に出ない様に注意しないとね」とおどけて言った。

 

「お、お願いだから私達まで吹き飛ばさないでよ、ギル?」

 

 どこか落ち着きのない様子でそう捲し立てるユリ。ギルは小さく笑って、「大丈夫、そんなヘマはしないよ」と肩を竦める。当然だ、今回の作戦で仲間を攻撃することにはなるが――この三人は別だ、例え何があっても友人たちは傷つける事はしない。

 

「ある意味、此処が俺達の始まりかもしれないな」

 

 ボソリと、ハイリオは囁くような声量で言葉を零した。ギルは彼の言葉に頷き、「かもしれないね」と口にする。すると俯いたままユリが早口で告げた。

 

「火種を撒いて戦争を煽るのもそうだけれど、自分のプラントを爆破して信仰派の仕業に見せかけるなんて――多分、死んだら地獄行き、だよね」

「地獄か……神様なんて名乗る存在が出てきたんだ、死後の世界なんてあるのか眉唾物だろう、もしアレが本物なら、信仰派以外全員地獄行きだ、きっと」

「神様を信仰しなければ全員地獄だなんて、随分俗物的な神様じゃないの」

 

 まぁ私は宗教に疎いから、本当にそうなのか知らないけれど。地図を指先で擦りながらミリシアはそう言って鼻を鳴らす。けれど確かに、ギル達の想像する神様という奴は公正で平等で普遍的だ。宗教、仏教を知らぬ無学な子供の考えに過ぎないが――もし神様というのが己を信仰する者のみを救い、他を救わぬと宣うのならば。

 それはなんて『人間的』で『感情的』な存在だろう、ギルはそう思う。

 

「じゃあ何かの間違いで、僕達が地獄以外の場所、例えば天国とかに行ったら、あの神様は偽物って事だ」

「神様の偽物か、それは大罪だな」

 

 ギルの言葉に皆がつられて笑う。四人が薄ら笑いで顔を見合わせ、ふと笑みを浮かべながらユリが俯き、笑みの中に寂しさを含ませ言った。

 

「私は、別に地獄でも良いから、皆と一緒が良いな」

「ユリ……」

 

 ミリシアが目を細め、ギルとハイリオは顔を見合わせた。そして二人は肩を竦め、ユリに告げる。

 

「ユリ、心配しなくてもきっと、この四人は昇るにしても堕ちるにしても、行き先は一緒さ」

「そうだな、俺達は少し格好つけて言えば共犯者って奴だ、信仰派にいる奴じゃない、もっと公平で、平等で、神秘的な神様がこの世界にいるのなら、俺達は全員同じ場所だ」

 

 善い事も悪い事も、ギル達は一緒になってやって来た。家族はどうか知らないが、もし地獄に落ちるなら全員同じ場所だろう。これだけの事をしでかした今、極楽浄土、天国に行けるとは微塵も思っていない。だからきっと、大丈夫。

 

「地獄ってところがどんなところかは知らないけれど、四人一緒なら何とかなる気がするわね」

「そうだな」

 

 

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