連盟の狩人、鬼を狩る   作:まるっぷ

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アニメを見ていて衝動的に書きたくなったので書きました。原作未読なので細かい設定とか間違っていても、どうかご了承下さい。

※短編ですので続きません


連盟の狩人による“鬼”狩り

場所は日本。

 

時代は大正。

 

そのとある田舎町に、一人の異邦人がやってきた。

 

 

 

 

 

「失礼、少しよろしいか」

 

「はい?何でしょう……」

 

まだ雪の残る季節。息を吐けば白く変わり、空に混じって消えてゆく。

 

そんな日の夕暮れ。家の前を掃除していた若い女性が、背後から声をかけられた。

 

こんな時間に珍しい、誰かしら?と思い振り返ると……そこに立っていたのは、一人の異邦人だった。

 

日本人よりもずっと高い背丈。恐らくは180cm以上か、小柄なこの女性は必然、見上げるような恰好になる。

 

服装は黒いコートのようなものを着ており、そこに短いマントが取り付けられている。手袋、ズボンも共に黒く、まさに黒づくめといった風貌だ。

 

唯一肌を晒した部分……ぼんやりとした陽の光を背にした壮年の異邦人の顔は、にっこりと優し気に微笑んでいた。

 

 

 

 

 

「まぁ。それではフランシスさんは、その“ヤマムラさん”という方の故郷をお探しに?」

 

「ええ。異国で亡くなった彼の遺品を、せめて彼の生まれた場所に埋葬したいのです。俶子(としこ)殿は何かご存知ありませんか」

 

囲炉裏を挟み、若い女性と異邦人という奇妙な組み合わせの二人が会話をしている。

 

フランシスと名乗った異邦人は女性のはからいにより、こうして囲炉裏で暖をとっていた。まだまだ外は寒く、立ち話もなんだから……との事だった。

 

「ええっと……すみません。そのような苗字の方はこの辺りにはいないですね。そもそも、あんまりこの辺りは人がいませんので」

 

「そうですか……彼は私と同じ仕事仲間だったのですが、不慮の事故で亡くなってしまい。こうして供養の旅をしている訳です」

 

「それは何とも大変な……あ。よろしければ、どうぞ」

 

「いえ。旅は慣れておりますし、道中それほど不便を感じた事はありません。ただ彼はあまり自身を語る事がなかったので、生まれ故郷を探すのには苦労しておりますが……ああ、かたじけない」

 

フッ、と。フランシスは過去を懐かしむように微笑み、女性より差し出された茶を啜る。

 

「ふむ……これは美味しい茶だ。そう言えば、廻しつぎも手慣れておりましたな」

 

「あら!お分かりになるので?」

 

「以前に彼が教えてくれた、数少ない知識の一つでしてね。よく故郷の茶の味を懐かしんでおりました」

 

和気あいあいとした雰囲気の中、話は弾み。

 

気が付けば、外はすでに夜になっていた。

 

満月が照らす、雪の残る寒い夜だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハァァ、と獣が森の中より這い寄ってくる。

 

爪をざわつかせ、歯を鳴らし、だらだらと涎を垂らしながら。

 

充血した目が捉えるのは民家の明かり。

 

 

 

ああ、もう我慢の限界だ。

 

腹が減って仕方がない。

 

中にいるのは男?女? 

 

女がいいな。

 

年の頃は?十代?二十代?

 

最後に喰ったのはいつだったか。

 

美味かったなぁ。

 

瑞々しい肌に歯を突き立てた感覚が忘れられない、まさに至上の味だ。

 

ああ、ああ、ああ!

 

もう、我慢できない!!

 

 

 

堪え性のない獣は駆け出し。

 

民家の戸を、勢いよく蹴り破った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ふん」

 

閉ざしていた瞳を開き、そして鼻を鳴らす。

 

「ふぁ……どうかされましたか、フランシスさん?」

 

布団に入っていた俶子が眠たそうにしながら問いかける。

 

すっかり夜も更けてしまったが故、フランシスは今夜はこの家に一泊する事となったのだ。食事を振舞われ、風呂まで頂き、しかし布団に入ってはいなかった。

 

こうしていると落ち着くので、と家の壁に寄りかかっていた彼はおもむろに立ち上がると、俶子に振り向く事もせずに口を開いた。

 

「俶子殿。布団をかぶり、しばし耳を塞いでいなさい」

 

「へ?」

 

「それから……寒い夜に気の毒だが、少しこの家の風通し(・・・)が良くなる」

 

頭に疑問符を浮かべる俶子。

 

その疑問を口にしようとした―――――その瞬間。

 

 

 

「がああぁ―――――ッッ!!?」

 

 

 

突如として戸が蹴破られ。

 

何者かが侵入してきて。

 

そして―――――いつの間にか散弾銃(・・・)を構えていたフランシスが、その引き金を引いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぉ―――――ッッあがぁ!?」

 

飛び込んできた獣を迎えたのは女性の柔肌ではなく、無慈悲な散弾だった。

 

ズドンッ!!と銃口より吐き出された血と水銀の弾丸は獣の身体に深く食い込み、その衝撃によって弾かれたように屋外へと叩き出された。

 

「きゃあぁぁぁああああああ!?」

 

戸が蹴破られる音とけたたましい銃声に、俶子から鋭い悲鳴が上がる。

 

そんな中であっても顔色一つ変えないフランシスは、懐に忍ばせていたある帽子を取り出す。地味な色合いの帽子。しかしそれこそが、彼が供養したいと言っていた“ヤマムラ”の遺品であった。

 

「さぁ、友よ……共に獣を狩ろうじゃあないか」

 

そう言葉を漏らした口が、弓なりに曲がる。

 

タンッ、という軽い音が響き……次の瞬間には、家の中にいるのは俶子だけとなっていた。

 

 

 

 

 

「ぐぁ……畜生、痛ぇ……!!」

 

獣は悶え苦しんでいた。

 

この身体になって、かれこれもう数十年の時を過ごしてきたが、こんな痛みは初めてだった。そもそも銃で撃たれるという事自体、そうある事ではない。

 

「やあ、こんばんは」

 

「ぁあ!?」

 

げほっ、と血の塊を吐き出し、見上げれば、そこには一人の男が立っていた。

 

着物ではない服装と高い身長、そして月下の下に晒された堀りの深い顔が、彼を異邦人であると雄弁に語っている。左手には武骨な散弾銃が携えられており、それを見た獣は頭の中がカッと熱くなる。

 

こいつだ、こいつが俺を撃ちやがった!人間の分際で!!

 

怒りと屈辱、そしてそれに勝る飢餓感が、獣を瞬時に行動へと移らせた。

 

「喰い殺してやるうぅうううう!!」

 

牙を剥いて襲い掛かる獣。

 

目の前の異邦人の喉元に噛み付き、そして思い切り食い千切ってやろうと、欲に塗れた眼球を血走らせる。

 

「良い満月(つき)だ」

 

一方の異邦人。

 

彼はゆるりと、右手を宙に彷徨させ―――――。

 

 

 

 

 

「獣狩りには……ああ、うってつけの夜じゃあないか」

 

 

 

 

 

―――――がしり、と。

 

虚空より、己の得物を掴み取った。

 

「―――あ?」

 

大口を開いた間抜け面の獣。その顔面に、歪に並んだノコギリの刃を叩き込む。

 

「ごっっ!!?」

 

ヂャリッッ!という悍ましい音を奏で、獣は地面に叩きつけられた。溶け残った雪を赤く染め、痛みのあまりに獣が絶叫を上げる。

 

「ぎゃああぁぁあああああああ!!痛ぇ、痛ぇよおおぉぉぉおおおおお!?」

 

顔面を、それもノコギリで削られるという激痛。特殊な治癒力(・・・・・・)を持つ獣であっても、それは耐えがたいものであった。

 

耳を塞ぎたくなるような叫びを前にした異邦人は、しかしやはり動じない。得物を振るって血を払うと、眼下の獣へ視線を落とし、そしてある事に気が付いた。

 

「……む?もう傷が治りかけているのか」

 

顔面に叩き込んだ深手。骨まで砕くほどの威力であったにも関わらず、もう傷が塞がりかけているのだ。

 

獣は血塗れの顔に憤怒の形相を浮かべつつ、口汚く異邦人を罵った。

 

「この糞野郎!!痛ぇだろうが何しやがる!!あとそのノコギリはどっから出しやがった!?持ってなかったじゃねぇかよさっきまで!!」

 

「ああ、これか?気にするな、所詮獣の脳では理解できんよ」

 

「馬鹿にしてんのかテメェ!?」

 

足元でぎゃあぎゃあと喚く獣に異邦人が呆れた、その時。

 

ビュッ!と、異邦人の顔面目掛けて鋭い拳が迫った。

 

「おっと」

 

「避けんなテメェ!!」

 

しかしそれをステップで回避する異邦人。怒りに任せて何度も拳を振るう獣であったが、それら全てを回避されてしまう。

 

「糞がぁ……テメェは絶対にぶっ殺す!!ズタズタにして骨も残さずに喰ってやる!!」

 

遂にこの日一番の力を込めた拳が溜められる。異邦人の顔面に狙いを定め、十分に引いた腕の筋肉が、一際大きく隆起した。

 

が、獣は知らなかった。

 

異邦人は、この瞬間をこそ待っていた事に。

 

 

 

―――タァン!

 

 

 

乾いた音が木霊する。

 

散弾銃よりも軽い、しかし鋭い銃声。発射された血と水銀の弾丸は獣の鳩尾を正確に撃ち抜き、びくりとその身体が強張った。

 

「がっ……?」

 

膝を突く獣が見たのは、やはり異邦人。

 

彼は先ほどの獣同様、腰を捻り思い切り右腕を引いていて―――――そして。

 

 

 

 

 

ぞぶっっ!!と。

 

獣の内臓が、月明かりの下で露わとなった。

 

 

 

 

 

「ぎょぉげべぇ」

 

よく分からない音を吐きながら後方へと飛ばされる獣。その身体は生えていた巨木にぶち当たり、そのままずるずると地面まで落ちてゆく。

 

「………はぁあ」

 

右手で掴み取った獣の内臓。異邦人はその香りに鼻腔をくすぐられ、満足げな溜め息を吐く。

 

が、それも僅かな出来事だった。興味を失ったように内臓を放り投げた異邦人は、ぴくぴくと痙攣する獣の下へと歩を進ませる。

 

さく、さく、さく。

 

溶け残った雪の上にばら撒かれた獣の血と内臓。

 

鮮やかな赤と、どす黒い赤。ほんの少しのピンク。そんな極彩色に飾り付けられた雪の上を歩く異邦人は、まるでレッドカーペットの上を歩いているかのようだ。

 

 

 

―――ああ、とても気分が良………っ!

 

 

 

「……いかんな。やはり獣狩りは昂ってしまう」

 

腹の内からじわりと広がる興奮を冷気で抑えつつ、とうとう異邦人は獣の目の前までやって来た。

 

「ぉ……げぇ……!」

 

「なんだ、まだ生きているのか。随分と丈夫な獣だ」

 

冷えた瞳で獣を見下ろし、異邦人はそう呟いた。

 

問いかけではないそれに対し、獣は弱弱しくもまだ悪態を吐く。

 

「あ、当たり前だぁ……俺ぁ“鬼”だぞ………こんな傷、すぐに治して……!!」

 

「“鬼”?」

 

獣の口から語られた聞き慣れない単語に、異邦人は小さく首をかしげる。

 

しばらく考えたが、やはり新たに分かる事はない。はっきりしているのはこの“鬼”と名乗った獣が、一泊の恩がある女性を喰らおうとした、という事だけだ。

 

異邦人の瞳が一層冷ややかなものになり、すっ、と瞳孔が小さくなる。

 

「友の祖国にもこんな“獣”が蔓延っていたとは、実に嘆かわしい………人喰いの獣、人紛いの獣、穢れた獣……みんなうんざりじゃあないか。なぁ、片目の友よ?」

 

異邦人はとある男性の姿を脳裏に思い浮かべ―――そして、新たな得物を携える。

 

それは奇妙な、しかしその狂暴性、凶悪性を隠しもしないものだった。

 

長い棒状の持ち手の先端に取り付けられた円盤状のノコギリ……『回転ノコギリ』を取り出した異邦人はゆっくりと、ゆっくりとそれを振り上げる。

 

「なっ……!?」

 

獣……否、“鬼”の双眸が驚愕に彩られる。

 

月光を背に得物を振り上げる異邦人の姿は、まさしく西洋の“死神”を彷彿とさせるものであった。

 

「だからこそ、殺し尽くそう。きっとこいつらの腹の中にも『虫』がいるに違いない。糞の匂いのする血の中に、きっといるに違いない」

 

ぞっっ、と。“鬼”の顔に初めて別の感情が宿る。

 

それは“鬼”が久しく忘れていたもの………『恐怖』だった。

 

「お、おい!テメェ知らねぇのか、俺らは不死身なんだぞ!そんなモンじゃ俺を殺せねぇぞ!?」

 

「そうか。ならばいつか貴様が死に絶えるその瞬間まで、何度でもこれを振り下ろそう」

 

「ひっ―――!」

 

上擦った声が感情を的確に伝えてくれる。

 

尤も、異邦人がその感情を酌んでくれる事などないのだが。

 

「同士ヤマムラの祖国で、この私が全ての『虫』を踏み潰そう」

 

「まっ、待―――――ッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後。

 

もはや原型を留めない“鬼”の死骸が、異邦人の足元に広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜が明けて、朝。

 

陽の光を浴びた“鬼”の死骸は塵へと還り、フランシスの身体にこびり付いた血と肉片もことごとく消え去った。

 

「あ、貴方は、一体………?」

 

回転ノコギリを肩に担いだままのフランシスに、俶子の声がかけられる。

 

振り返った彼は、彼女と初めて会った時の同じ微笑みを浮かべつつ、こう答えた。

 

「私の名はフランシス……しがない一人の狩人です」

 

 




満足(恍惚)。

やはり狩人様は良い……。
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