連盟の狩人、鬼を狩る   作:まるっぷ

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思わず続いてしまった。

まだ原作未読なのでおかしな部分もあるかとは思いますが、それでも宜しければご覧ください。

……本当は自分の中の理想の狩人様に、好き勝手させたかっただけという。


情報収集と実験

「ヴァルト―ル」

 

「ああ、君か。狩りは順調かね?」

 

「無論だとも。汚らわしい獣も、血に潜む『虫』共も、一刻も早く根絶やしにせねばならん」

 

「フフフ……何とも君らしいな」

 

「ところで、そこの彼は?」

 

「ああ、彼は我ら連盟の新たな仲間だ。出身は日本という国だ」

 

「“二ホン”?……聞き慣れない響きの言葉だ」

 

「ここより遥か東に位置する国さ。文化も違えば言葉も違う、違和感はあって当然だろうよ」

 

「ほう。それほど遠くの国からこんな汚物塗れの地に来るとは、どうやら訳ありと見える」

 

「理由もなくここに来る者などいないさ……ところで君、彼の狩りに同行する気はないかね?」

 

「同行?私がか?」

 

「彼はまだ狩人となって日が浅い、人一倍狩りに執着してはいるが経験が不足している。先達として共に獣を狩り、殺し、『虫』を踏み潰すのだ」

 

「………良いだろう。他ならぬ君の頼みだ、断る道理はないさ」

 

「ありがとう、我が同士よ」

 

 

 

 

 

「私の名はフランシスと言う、君は?」

 

「……山村だ」

 

「そうか。ではヤマムラよ……共に獣を狩りに行こうじゃあないか」

 

―――全ての獣と『虫』共に、苦痛と絶望を味わわせようじゃあないか―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「思えばあの日も、このような雲の濃い夜だった」

 

誰に語るでもなく、暗闇のなかで独白するフランシスの声が周囲に反響する。

 

周りには木々が生い茂っており、僅かしかない月の光を更に阻んでいる。もはや常人では目を凝らすのもやっとという暗さでありながら、当の本人はまるで気にしている様子はない。

 

「ヤマムラは最初から狩りが上手かった。カインハーストの系譜が用いる『千景』という狩り武器を手に獣共を斬り殺す様は、いま思い返しても見事という他ない」

 

かつての記憶に浸るように語るフランシスの口の端には笑みすら浮かび、それがいかに大切な思い出だったのかを物語っている。事実、今の彼の顔はとても優し気だ。

 

が、そんな彼の足の下。

 

そこには一匹の鬼が居た。

 

「ぅ……がぁ……!」

 

苦悶の表情を張り付けた鬼は、漏れ出す呻きを止められない。理由は単純極まり、深手を負っているからである。

 

とは言っても鬼は人間よりも遥かに丈夫だ。首が飛ぼうが平然とし、生半可な事では死にはしない。そんな鬼が深手を負っている。それはつまりどういう事なのか。

 

『達磨』だ。

 

付け根から手足を切断されているのだ。断面はひどくズタズタで、周囲には血と肉片が振り撒かれている。鬼の手足はガラスの欠片(・・・・・・)が散乱する地面に転がっており、さながら猟奇殺人現場のようだ。

 

「私がやってもああはいくまい。異邦の刃よりも、やはり刃を並べ血を削るノコギリの方が性に合っている」

 

このようにな、と、ようやくフランシスは自らが踏みつけている鬼と目を合わせた。

 

「ひぃっ!?」

 

「どうした、鬼よ。最初の威勢はどこへ行った?」

 

見下ろす瞳は酷く冷たく、鬼の喉から情けない悲鳴が絞り出される。

 

切断面からは絶えず肉瘤が隆起し、腕を再生させようとしているが、何故だか上手く作用していない。もぞもぞと身体をよじる姿はさながら『虫』のようで、フランシスの顔に満足げな笑みが浮かんだ。

 

「醜いなぁ……今すぐにでも踏み潰したくなってくるよ」

 

それでも殺さないのは何故か?

 

それは一つ、聞きたい事があったからである。

 

「一体、貴様らはどこから湧いた?」

 

「……っ」

 

それは単純な疑問だった。ヤーナムのように“獣狩りの夜”という特定の期間だけではなく、日常的に鬼は湧いている。

 

当然何らかの原因があって然るべきだ。それを特定しようとフランシスは足元の鬼へと質問を投げ掛けたのだが……。

 

「っ……!う、うぅ……!」

 

どうにも鬼の様子がおかしい。先ほどまでの苦痛を忘れてしまったかのように、今度は酷く怯え始めたのだ。

 

一体何に怯えているのか。フランシスは踏みつける足にかける力を増し、問いただす。

 

「言いたまえよ。そうすればすぐに楽にしてやろう」

 

「い、言えない!これだけは駄目だッ!?」

 

が、鬼の意地は存外に固かった。苦痛の最中にいるというのに、口を割ろうとしないのだ。

 

「……そうか」

 

フランシスはこれ以上詰問しても無意味と悟ると、鬼を踏みつけている足を退ける。一瞬ぽかんとした表情を浮かべた鬼であったが、地面にへばりついた頬の反対側に、何か硬質な感触を感じ取った。

 

ゴリ、と押し付けられる鉄筒。それはまさしく、散弾銃の銃口だった。

 

「喋らん口ならば、必要あるまい」

 

「―――――ッ!?」

 

鬼が何か言いかけ、口を開いた瞬間。

 

銃口から火花が炸裂し、肉と骨の華が地面に咲いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある山道。うっそうと生い茂った木々は人の視界を制限し、否が応でも足取りを遅くさせる。少し道から外れればすぐに方向感覚を失い、迷子になってしまいそうな程だ。

 

こんな山道でも近隣の村人たちにとっては重要な近道である。この道を通るのと通らないのでは、実に三倍近くの時間がかかってしまうのだ。無論山の中なので、熊や猪といった野生動物に襲われる危険性も孕んでいるが、それでも利用する者は後を絶えない。

 

しかし最近、特に失踪者が多い。

 

獣に襲われたにしては道に血痕は見当たらず、荷物も綺麗に無くなっている。まるで神隠しにでも遭ったかのような消え方に近隣の村人たちは気味悪く思いながらも、まさか自分は大丈夫だろうと、どこか他人事のように捉えていた。

 

真犯人が何であるのかも知らずに。

 

 

 

 

 

その鬼たちは三人組だった。正真正銘、三人の鬼が徒党を組んでいたのだ。

 

「昨日喰らった男は良かったなぁ」

 

「ああ、女も美味いが喰いごたえがねぇ。やっぱ多少硬い肉の方が俺は好きだ」

 

「だが次は子供の肉が喰いたい。あの柔らかさは格別だぞ」

 

月夜が照らす山の中、三つの声が響き合う。

 

通常鬼は群れない。一匹狼を気取っているのではなく、単純に一人当たりの肉にありつける量が減ってしまうからだ。

 

それぞれで縄張りを持ち、それを侵した場合は殺し合いにも発展する。まさしく野生動物のような関係性である。

 

しかし、何事にも例外は存在する。稀な例ではあるが、確かに群れる鬼たちもいるのだ。そしてこの三人組の鬼も、それに該当した。

 

この鬼たちはとある山に縄張りを持ち、そこにある山道を通る村人たちを食糧としていた。三人で手分けして見張っていれば広い山の中でも獲物を見落とさず、食事にありつける可能性が高まるという訳だ。

 

「着物も新しいのが手に入った。どうだい、これ?」

 

「ははっ、その柄はお前にゃあ似合わねぇな!それよりも、コレだ!」

 

「おお、帽子か!良いモン拾ったなぁ」

 

食糧がある程度確保されれば、腹が減るだけの無駄な争いも起こりにくい。鬼たちは喰い殺した村人たちの所持品を見せ合い、談笑する程の余裕を持っていた。

 

そうして鬼たちが次の獲物について語り合っていた、その時であった。

 

「……ぉ―――――ぃ―――……」

 

「あん?」

 

遠くから響いてくる声。これに反応したのは、先ほど帽子を自慢していた鬼だ。

 

こちらに呼びかけているというよりも、闇雲に大声を上げているという印象。こんな夜に、熊などが出るかも知れないというのに騒ぐ理由など、一つしかない。

 

「へへ、どうやら今日は夜食にありつけるみたいだぜ」

 

「ああ……それじゃあ人助け(・・・)に行こうとするか」

 

 

 

 

 

鬼たちはすぐに現場に到着した。

 

そこはすぐ近くに崖があり、道幅も細く、慣れない者が歩けば滑落する危険のある道だった。幸いにして崖下まではそこまで深くはないが、落ちれば一人でよじ登るのは難しい。

 

道には革製の鞄が転がっており、中から放り出された衣服などが横たわっていた。鬼たちは願ってもいない品物ににやりと笑い合い、ゆっくり崖際へと近付いてゆく。

 

「くく……おーい。どうしたんだぁ?」

 

一体の鬼が忍び笑いしながら語りかける。その声に崖下にいる人物は安心したように息を吐き、引き上げてくれと語りかけて来た。

 

「手を差し出してくれ。もう少しで上まで届きそうなんだ」

 

「ああ、分かったぜ」

 

鬼は後ろの二体に目配せし、その場に待機させる。彼らはやはりにやにやと笑いながら、仲間が餌を掴み上げるのを待った。

 

(ひひ、馬鹿な人間め。一気に引き上げて、後は囲って踊り食いだ)

 

舌なめずりをしながら、鬼は崖下へと手を指し伸ばす。

 

これだけ暗ければ尖った爪も、異様に白い肌も気付かれはしない。助けが来たと安心しきった愚かな人間。その顔が激痛と恐怖に歪む瞬間を、鬼が脳裏に思い浮かべた―――――次の瞬間。

 

「うぉッ!?」

 

がくんっ!と、鬼の身体が崖下へと引っ張られた。

 

堪える隙もなく崖下へと消えていった仲間の姿に、後方に控えていた二体の鬼の顔に驚愕と戸惑いの色が浮かぶ。

 

一体何が起こったのか。その疑問を声にする間もなく、事態はすでに動いていた。

 

「……ぎぃゃぁあああああああああああああっっ!?」

 

パリン、と何かが割れる音に、何かが噴き出す音。そして迸る悲鳴。それは紛れもなく、今さっき崖下へと消えていった鬼のものだ。

 

絶叫が木々を揺らし、羽を休めていた鴉たちを驚かせる。明らかな異常事態に残された鬼たちが僅かに後ずさりした……その時。

 

崖下から何か(・・)が放り投げられた。それは固まる鬼たちの足元まで転がってきて、当然彼らはそれがなんなのかを確認すべく、視線を足元へとずらした。

 

「なっ……!?」

 

「お、お前!?」

 

鬼たちが、本日二度目の驚愕に顔を歪ませる。しかしそれは、先ほどの者とは比べ物にならない程のもの。

 

彼らの足元へと転がってきた何か(・・)

 

それは手足を付け根から切断された、仲間の鬼の姿であった。

 

「がっ、がぁ……!?」

 

口から泡を吹き白目を剥く鬼。どういう訳か切断面は上手く再生せず、ぼこぼことした肉瘤が浮かんでは弾けて潰れていく。

 

もはや二体の鬼たちは動けなかった。餌にありつけると思った矢先のこの事態に脳が混乱し、現状を理解しようとするので精一杯だった。

 

「やあ、こんばんは」

 

「!?」

 

だからだろう。

 

恐らくは崖下からやって来たであろう、全身黒づくめの異邦人の姿に気付くのが遅れたのは。

 

 

 

 

 

「お前たちは低能で助かる。これが罠だと欠片も疑わなかったからな」

 

地面に散らばった衣服……旅の道中で手に入れた品々を、これまた旅の道中で手に入れた鞄に入れ直しながら、フランシスは語りかける。

 

そう、これは罠であった。この山で妙に村人が居なくなるという噂を聞きつけた彼は、こうして夜になるのを待って、鬼たちを捕まえる事に成功したのだ。

 

鞄を閉じ、近くに突き立てていた松明を手に取り、すっくと立ち上がるフランシス。

 

彼の瞳が見下ろすのは三体の鬼。全員が全員、腰回りを鎖で縛られており、その端を鉄杭によって穿たれ地面に固定されている。

 

そして全員、両手足を切断されていた。

 

最初の鬼と同様に再生する気配はなく、歪な肉瘤を生み出すばかり。切断された三体分の手足はまとめて一か所に打ち捨てられている。鬼たちは三者三様に苦痛と憎悪を孕んだ表情を浮かべており、今にも噛み殺さんばかりにフランシスの事を睨んでいた。

 

「さて……始めるとするか」

 

一歩、鬼たちへと近付く。

 

それと同時に、鬼たちは火が付いたかのように暴れ出す。

 

「がぁああああああぁぁあああああああ!!」

 

「糞がッ!!糞がああぁあああああ!!」

 

「殺してやるッッ!!この真っ黒野郎!!」

 

滾る殺意を身体で表現するも、落とされた手足は未だ生えてこない。鬼たちは芋虫のような姿で、それでもなお殺意の矛先を収めようとはしなかった。

 

「糞、クソ、くそぉ!!なんで治らねぇんだ!?」

 

一体の鬼が怒りと共に疑問を吐き出した。

 

鬼たちからすれば手足などはいくらでも生え変わる消耗品。それがいつまでたっても再生しないというのだから、彼の疑問も尤もである。

 

その質問に答えたのは、他でもないフランシスであった。

 

コレ(・・)だ」

 

「あぁ!?」

 

頭上より振ってきた声に反応する鬼。

 

その目に移った黒づくめの男の手には、ある丸いガラス瓶が握られていた。

 

「『感覚麻痺の霧』と言う代物だ。本来ならば私たち狩人にのみ有効であるとされているのだが、どうやら貴様ら鬼にも効くらしい」

 

どちらも“血”に縁があるからかな?と締め括るフランシス。

 

言っている事は全く理解できないが、それでもあのガラス瓶が再生を妨げている原因であると理解した鬼たちは、一層殺意を強くする。

 

「てめぇ、許さねぇぞ!!絶対殺してやる!!」

 

「腹わた食い破ってやらぁ!!」

 

「鎖をほどけぇ!!さっさとしろぉお!!」

 

「……全く、貴様らとの会話は疲れる。喋らない分、獣の方がまだ気楽というものだ」

 

やれやれ、と首を振るフランシス。彼もこれ以上無意味な会話を続ける気はないようで、手にしていた『感覚麻痺の霧』を仕舞い込むと、再び鬼たちへと向き直る。

 

「さて、今から貴様らには私の実験に付き合ってもらおう。なに、夜が明ける頃には終わるから安心しろ」

 

そう言うが否や、一匹の鬼が怒りに任せて咆哮する。

 

「ざけんなテメェ!!ンな事したら死んじま」

 

が、その先を言う事は叶わなかった。

 

 

 

何故ならば、大きく開いたその口に、燃え盛る松明の先端がねじ込まれたからだ。

 

 

 

「がっ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!?」

 

「黙りたまえよ……ああ、煩くて敵わん」

 

油の染み込んだ松明の先端で口腔内の粘膜全てを焼かれるという激痛。

 

再生能力の高い鬼であるはずなのに、何故か治らない身体。

 

松明を離されても焼かれた喉は、舌は爛れたまま。鬼になってから初めて経験する消えない激痛に、彼は身体をよじるばかりだ。

 

「なぁ……!?」

 

残る二体もようやく事態の深刻さに気が付いたのか、見開かれた瞳で、喉と舌を焼かれた鬼とフランシスとを何度も見比べている。

 

彼らの視線を完全に無視し、フランシスは懐より新たな代物を取り出す。そしてそれを、喉の痛みに悶える鬼へとぶつけた。

 

「がゃ!?」

 

がしゃんっ!と、音を立てて割れる何か。

 

その正体はぬるりとした液体が入った壺。全身にそれが降りかかった鬼は一瞬唖然とし、そしてその意味に気が付いたように、焦燥し切った瞳をフランシスへと向ける。

 

フランシスが松明の先端を鬼の身体に押し当てたのは、まさにその時だった。

 

 

 

「あああぁぁぁぁあぎゃあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」

 

 

 

瞬間、業火の如く燃え盛る鬼の身体。

 

着物が燃え、皮膚が焼け、肉が炙られる。全身を巻く炎は鬼の皮下脂肪を舐めとり、更に勢いを激しくする。

 

炎より生じた血肉の焼ける香りがフランシスの鼻腔をくすぐり、彼は満足げに吐息を漏らした。

 

「あっ、あ゛ーーーーーーっ!!あ゛ぁあ゛ーーーーーーーーーっ!?」

 

「………はぁあ」

 

生きたまま焼かれるという地獄のような苦痛を味わう鬼。しかしフランシスは、傍から見れば異常者の目つきで、目の前の光景を眺めるばかりだ。

 

「ああ、良いぞ……獣の悲鳴、苦痛、汚物の……『虫』の焼ける匂い。これこそ狩りだ」

 

闇夜に現れた火達磨。絶叫を上げるそれの明かりに照らされた堀りの深い顔は、見下すように嗤っていた。

 

一方で慌てだすのは残った鬼たちの方だ。人間だとか鬼だとか関係ない、血が流れ、脳を持つ生物としての勘が、目の前の異常者に対してこれでもかと警鐘を鳴らしている。

 

(こいつ、イカれてる!?鬼殺隊でもねぇだろうに、俺たち相手にここまで……!)

 

今も焼かれ続けている鬼。その隣にいる鬼が、必死にここから逃れる術を模索する。しかし手足を奪われ、自由に動けない彼は焦るばかりで何も出来ない。

 

そうしている内に異常者……フランシスはくるりとこちらを見ていたのだ。

 

「さて……」

 

「っひ!?」

 

鬼たちの喉から思わず情けない声が漏れる。

 

今やこの場を支配しているのは、紛れもなく彼であった。

 

「言い忘れていたな。この実験の趣旨なのだが……」

 

ごり、と、ブーツに包まれた足で鬼の頭を踏みつける。

 

得体の知れない恐怖故か、踏みつけられた鬼は怒る事も忘れ、不気味に浮かんだ双眸に釘付けとなっていた。凍り付いたかのように動けない鬼たちに向け、フランシスはただ淡々と語る。

 

「貴様ら鬼の、より効率的な殺し方とは何なのか、というものだ」

 

「……お、俺たちの殺し方……?」

 

 

 

 

 

鬼。

 

主食、人間。

 

身体能力が高く、治癒力も高い。斬り落とした手足も肉が繋がり、新たに生やす事も可能。

 

以上が、これまでにフランシスが経験を基に得た情報であった。

 

「確かに貴様らの生命力は高い。バラバラの挽肉にしてやるか、日光の下に引きずり出すかしなければまともに殺せん」

 

だからこそ、より効率の良い殺し方を求めているのだ。フランシスは足元の鬼に言い聞かせるように、そう語った。

 

「……ぅ、あ゛………ぁーーー………」

 

その背後ではようやく火の勢いが収まり始めた鬼が、呻きともつかない音を漏らしている。

 

衣類などは既に燃え尽きていた。引き攣り、焼け爛れた皮膚を全身に張り付かせた達磨の肉体は、もはや芋虫程にも動かない。

 

唇や鼻といった部位は焼失。剥き出しの歯は黒く焦げ付き、鼻骨の先が露出してしまっている。辛うじて残された白濁した瞳は像を写すこともなく、ただただ無意味に夜空を見上げていた。

 

「試しに今まで何度か火で炙ってみたが、この通りだ。見ていて飽きないが、効率的な殺し方とは言えない。いつも最後はこのように……」

 

フランシスは鬼の顔から足をどけると、今度は焼けた肉塊と成りかけている鬼の顔面を踏みつけた。

 

じりじりと、ゆっくりと。足にかける体重を増してゆき―――――そして。

 

「あ゛」

 

ばちゅっ、と。

 

ブーツに包まれた足が、鬼の顔面を踏み潰した。

 

「……踏み潰してしまうんだ」

 

炙られ、黒ずんだ血液がどろりと地面を汚す。

 

割れた頭蓋から溢れた脳漿と脳の欠片が飛び出し、その一欠片が、隣の鬼の頬へと付着した。

 

「………っ!!?」

 

ないはずの脚から、恐怖が這い上がる幻聴が聞こえてきた。

 

恐怖と言う名の何かが、鬼の身体を内から食い荒らすのが分かった。

 

顔面を普段以上に蒼白にさせた二体の鬼は、もはや助からないと悟る。であればせめて、この哀れな骸を晒した同族のような死に方ではなく、ひと思いに頭を潰された方がまだ救いがある。

 

まともな思考能力を失った鬼たちは、自分たち鬼の確実な殺し方をフランシスに暴露した。

 

それがこの悪夢から逃れる唯一の術―――“死”への乗車切符であると信じて。

 

 

 

 

 

「ほう。“日輪刀”か……」

 

残った二体の鬼から得られた新たな情報。それは鬼を殺す為の刀“日輪刀”という武器の存在であった。

 

聞くに、特殊な鉱石から造られるというその刀で鬼の首を刎ねれば、まるで陽光に当てられたかの如く鬼は消滅するのだという。その効果に例外はなく、まさしく鬼狩りの武器と呼ぶに相応しい代物だ。

 

「特殊な鉱石が原材料……ならば、その鉱石を細かく砕きヤスリに塗布すれば、私の武器にも同様の効果が発現するか……?」

 

ぶつぶつと、なにやら独り言を呟き始めるフランシスに、鎖で囚われた鬼たちは気が気ではなかった。

 

未だ燻った異臭を放つ同族の亡骸ばかりに目がいき、どうか自分だけはこうはなりたくない、ひと思いに頭を潰して終わらせてくれ!という事ばかりに考えがいってしまう。

 

それ程までに、フランシスのした行いは恐ろしかったのだ。

 

つい先ほどまで、鬼たちにとって鬼殺隊とは脅威の対象であった。それでもただで殺されるものか、逆に殺してやると息巻くほどに、戦意には自信があった。

 

それがどうだ。

 

この正体不明の異邦人によって、鬼たちはあっという間に“捕食者”の座から転落し、狩られるだけの“獣”にまで堕ちてしまった。

 

それについてさえ、もはや怒りも憎しみもない。

 

本能で理解してしまったのだ。

 

この男には絶対に敵わない。出来る事はその足に縋りつき、極力苦しみの少ない“死”を乞う事だけなのだと。

 

「有意義な情報だった。礼を言おう」

 

「ひっ!?」

 

怯えきった声で返事をした鬼たち。

 

フランシスはそれに少しも構う事なく、鎖によって地面に張り付けにされている鬼へと手を伸ばす。

 

(ああ、俺は死ぬのか……)

 

標的となった鬼は目を閉じ、遂にやって来たその瞬間を前に観念する。しかしそれでも、生きたまま炎に包まれるよりはマシだ。

 

さぁ、早くやってくれ!その一心で歯を食い縛る鬼であったが……不意に、ある異変を感じ取った。

 

「へ?」

 

思わず目を開けてみれば、目の前には自身と同様に間抜けな顔を晒す同族の姿が。徐々に小さくなってゆくその姿に、鬼は自分が引きずられているのだと理解する。

 

「あ、え?な、何を……」

 

見上げれば、そこにはやはりフランシスの背中があった。自身の胴に巻かれた鎖を持ち、こちらを振り向く事もせずに、やがて一本の巨木の下へとやって来た。

 

まるで意図が分からない鬼が、その疑問を口にしようとした―――次の瞬間。

 

「かっ!?」

 

じゃらり、という音と同時に、鬼の首に冷たい金属の感触が伝う。腰より伸びた鎖を手繰らせ、フランシスが素早く巻き付けたのだ。

 

目を白黒させる鬼に構うことなくフランシスは素早く腰回りの鎖を解き、そしてそれを巨木より伸びる枝を目掛けて放り投げた。上手く引っ掛かり目の前に垂れてきた鎖の先端を、今度は勢いよく引っ張る。

 

「げェッ!?」

 

宙に浮く鬼の身体。

 

手足がないとはいえ全体重が首にかかり、窒息による苦悶の表情をその顔面に張り付ける。

 

「かっ、ぁ……な。何っ、で………!?」

 

フランシスは手元にある鎖の先端に再び鉄杭を打ち込み、地面に固定。鬼は完全に首吊りの状態となる。

 

『何故ひと思いに殺してくれない』

 

点滅する意識の中、辛うじて紡いだ声を耳にしたフランシスは、何て事ないようにこう口を開いた。

 

「貴様らには感謝している。お陰で効率的な殺し方が分かったのだからな……だが、それとこれとは別問題だ」

 

すっ、と。僅かにずれた帽子を手で調節しつつ、フランシスは首を吊られた鬼を一瞥する。

 

ぞっとするほどに、底冷えするその瞳で。

 

「頭を潰せば死ぬのは分かっている。だが脳死なら?長時間酸素が脳に回らなくても死ぬのではないか?……まだまだ疑問は尽きない」

 

「………!!」

 

本当に、一体幾度目になるのか。

 

涙すら浮かんだ鬼の瞳が、決定的な絶望に彩られる。

 

「何、安心しろ。最初に言った通りだ……『夜が明ける頃には終わる』」

 

そう言い捨てたフランシスは、今度こそ完全に背を向けた。

 

窒息の苦痛のさなかにいる鬼の絶望に口の端を歪めつつ、残る一体の鬼のもとへと歩を進める。

 

「ぁ……ぁあぁ………」

 

恐怖に凍り付いた瞳。

 

切断した脚の付け根、その真ん中からは、アンモニア臭のする液体が流れている。

 

「おいおい、それはまだ早いぞ」

 

フランシスは嗜虐的な笑みを深めつつ、懐から新たに複数、何らかの道具を取り出した。

 

毒々しい紫色のメスに、二種類のヤスリ。骨で出来た歪な刃に、半ば朽ちかけた頭蓋骨……およそ、まともな神経の持ち主では考えられないような道具の数々を見せつけるようにして、更に一歩近づく。

 

「まだ夜は明けない……実験を続けよう」

 

そう語る口元は、まるで三日月のように鋭く裂けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薄明かりの中、一人の若者が山中を駆ける。

 

彼の目的は鬼狩り。鬼殺隊たる彼は命令を受け、こうしてここまでやって来たのだ。

 

(情報によれば、ここに潜む鬼の数は三体。夜明けが近い今なら、どこかの穴倉にでも閉じこもっているはず……!)

 

優秀なこの若者は、疾風の如く駆けてゆく。

 

やがて血の匂いがし始めて、若者は表情を険しくしつつもさらに足を速める。

 

(くそ……遅かったか?)

 

新たな犠牲者の可能性が脳裏にちらつくも、努めてそれを無視する。今は鬼を殺す、ただそれだけを考え、血の匂いの元を目指した。

 

そうして見つけたものは―――――。

 

 

 

「………なんだ、これは」

 

 

 

一面、血に染まった地面。

 

手足を切断された焼死体に、同じく手足を切断され、全身に様々な傷を刻まれた死体。

 

地面と木の枝によって固定された鎖。そこに首を吊るされていたものは、やはり手足を切断されていた。

 

「…………」

 

小さく、本当に小さく痙攣を繰り返している事から、それが鬼であると分かる。若者が探していた三体の鬼は、見るも無残な姿で発見されたのであった。

 

やがて日が昇る。

 

顔を見せた太陽は木々の隙間から陽光を差し込ませ、鬼たちへもその光を降り注がせた。

 

目の前で塵へと還ってゆく鬼たち。その光景を前に、若者は―――冨岡義勇は、呆然とした様子で立ち尽くしていた。

 

 




古狩人 解体屋フランシス

かつての狩人たちの間でも恐れられた古狩人。
手にかけた獣は一切の例外なく八つ裂きにされており、それが通り名の由来となった。

ある時期を境に、彼は連盟員となる。以降凄惨な狩り方は鳴りを潜め、代わりに何かに対して異様な執着と嫌悪感を持つようになったという。

人の本質が、そう簡単に変わる訳がないのだけれど。

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