連盟の狩人、鬼を狩る   作:まるっぷ

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恥ずかし気もなく5~6か月ぶりに投稿した糞虫野郎は、どこのどいつだぁ~い?

……私だよ!!(お久しぶりです)



鬼舞辻無惨という『虫』

東京府、浅草。空からは柔らかな朝日が差し込み、新たな一日の幕開けを告げている。

 

そんな朗らかな始まりとは裏腹に、()()()()は酷く荒れ果てていた。

 

まずここは、血鬼術によって巧妙に秘匿された木造洋館がある敷地の中である。しかし立派な造りであったはずの家壁には大穴が開いており、そこから覗く内部の状態もめちゃくちゃだ。

 

敷地内の木は折れ、地面は至る所に穴が開いており、何やら激しい騒動……否、殺し合いに等しい何かがあった事は想像に難くない。

 

そんな惨状を目の当たりにした、長身黒ずくめの男―――フランシスは小さく鼻を鳴らし、そして懐から取り出した青い小さな小瓶を煽った。

 

 

 

 

 

「それじゃあ……行こうか、禰豆子」

 

家壁が壊れた洋館から、傷だらけの少年が出てくる。少年は背負った縦長の木箱に優し気な視線を流し、そして決意を新たにしたような瞳で街へと歩み始めた。

 

破壊された木の塀から身を乗り出し、次なる目的地へと向かう―――と、その時。

 

「………?」

 

ふと何かに気が付いたように振り返る少年。すんすんと鼻を鳴らし周囲を探るも、見えるのは街の景色ばかり。人影らしきものは一つも見えない。

 

しかし、少年の鼻は微かに、その匂いを感じ取っていた。

 

(この匂い……どこかで嗅いだような……)

 

どうにか記憶の引き出しを探ろうとするも、やがてそれは鎹鴉の急かす声によって遮られてしまう。どこか引っ掛かる気持ちを抱きつつも、少年は歩みを再開させた……。

 

「………」

 

その背に静かに視線を送り続ける、一人の狩人の存在に気付かぬまま。

 

 

 

 

 

「それでは私たちも準備を急ぎましょう、愈史郎」

 

「はい、珠世様!」

 

洋館内部に存在する地下室、そこに珠世と愈史郎はいた。

 

彼らは偶然出会った鬼殺隊の少年と、鬼にされてしまった彼の妹と共に、襲撃してきた二人の鬼を撃退したところである。二人の衣服にはその最中に負ったであろう負傷の痕跡が残っているが、そこは鬼の生命力、身体に傷などはすでに残っていない。

 

「鬼舞辻も日が出ている内は他の鬼をけしかけられないはずです。必要な器具と、あとは例の患者さんをどうにか眠らせて……?」

 

この土地を去る準備を進めるべく愈史郎に指示を送っていた珠世。しかしその言葉は途中で区切られ、その視線は今しがた鬼殺隊の少年が上がっていった階段へと向けられる。

 

「……珠世様?」

 

愈史郎も彼女の異変に気が付いたのか、様子を窺うように呼び掛ける。しかと耳に届いているはずなのだが、彼女からの返答はない。

 

「……炭治郎さんですか?」

 

その呼びかけに対する返事はない。忘れ物でもしたのかしら、と一縷の望みに懸けた呼びかけに反応がないのなら―――今階段を下りて来ているのは、一体誰だ?

 

ゴツ、ゴツ、ゴツ、という木製の階段が軋む音が、地下室に反響する。少年が履いていた足袋から発せられるような音ではない。これはもっと別の、ブーツにような硬い靴が生み出す音だ。

 

それは獲物を追い詰めるかのように不気味に、ゆっくり、じっくりと近付いてきて……そして。

 

 

 

「……―――――!!」

 

 

 

珠世と愈史郎の目が、これでもかと大きく見開かれる。

 

何故なら、そこにいたのは……昨夜遭遇し、辛くも逃れる事の出来た、異国の鬼狩りの姿だったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

接触は簡単だった。

 

それは日が出ていて鬼が外に逃れる術を持っていなかったという事もあるが、理由はそれだけではない。

 

フランシスは一息に飲み干したその小瓶『青い秘薬』の効果が切れる直前を狙い侵入した。こうすれば万が一、地下室から這い上がっていたとしても気が付かれる心配もないからだ。そして地下室に入り込みさえすれば、鬼たちに逃げ場はない。

 

フランシスの読み通り、二人の鬼……珠世と愈史郎は、予想外の人物の登場に狼狽えている。

 

「お前は、昨日の……っ!」

 

「ああ。数時間ぶりだな、鬼ども」

 

不気味な笑みを浮かべ、フランシスは余裕しゃくしゃくにそう言ってのける。すぐさま珠世の身の安全を確保しようとした愈史郎だが、その行動は彼女の伸ばした手によって制される。

 

「珠世様!?」

 

「やめなさい愈史郎。ここまで来られた以上、抵抗は無意味です」

 

「しかし……!」

 

「ここは地下室です。上に行くにはあの方の背後にある階段を使うしかありませんが……素直に通してはくれないでしょう」

 

ぎりり、と歯噛みする愈史郎。

 

珠世は口ではこう言ったが、今死ぬつもりは毛頭ない。どうにか交渉を試み、その隙を突いて逃走しようと思考を巡らせる。

 

「私たちを、殺しに来たのですか?」

 

「無論、そのつもりだ……と言いたいところだがな」

 

が、しかし。彼女の心配は杞憂に終わった。

 

何故ならば……。

 

「こちらも少々事情が変わった。貴様ら鬼について知っている事、全て話してもらうぞ」

 

他ならぬフランシスの方から、会話を持ち掛けられたのだから。

 

 

 

 

 

場所は移り、一階。

 

鬼にされた夫に噛み付かれ、傷を負った女性が寝かされている簡易ベッドがある診察室。そこと壁を隔てて存在する客間に、現在三人はいた。

 

襲撃してきた鬼によって壁は破壊され、僅かながら日の光が差し込んでいる。鬼を瞬時に消滅させる最大の武器を背に突き付けられた状態で座る珠世と愈史郎の額に、冷や汗が伝う。

 

「……もう少し、奥の方に行っても構いませんか」

 

「ならん。そこで話せ」

 

一方のフランシスは壁に背をもたれさせ、立ったまま腕組みをしている。左手に『獣狩りの短銃』を持ったままの狩人は、鋭い視線を二人に向け、情報の開示を迫る。

 

「この部屋を日の光が満たすまで小一時間はかかる。それだけの時間があれば十分だろう」

 

「っ……全て話せば、見逃して下さるのですか」

 

「それは貴様らの話次第だ。有用ならば生かしてやるが、私が無用と判断すれば……こうなる」

 

そう言ってフランシスは、右手を虚空へと伸ばす。何をする気かと身構えた二人であったが、その目は驚愕の色に彩られる。

 

なんと右手を伸ばした先の空間が歪んだではないか。血鬼術かとも思った珠世であったが、即座にそれが別の物であると見抜く。

 

そうして出てきたモノ―――遮光板の取り付けられた30cm四方のガラスケースから取り出し、こちらへと放られた()()を見て、言葉を失った。

 

「………っ!?」

 

どさっ、と重たい音が響く。

 

()()は失った下顎から覗く舌を懸命に動かし、這ってでも逃げようとしている。

 

顔面の皮膚はことごとく剥かれ、眼球はすでにない。がらんどうとなった二つの穴からは、どろりと腐った涙が止めどなく溢れている。

 

 

 

「ぉごっ、じで!(ごろ)……ぎ、ぇ!」

 

 

 

それは正しく、鬼の頭部であった。

 

「う、ぐっ!?」

 

だんっ、と愈史郎が床に手をつき、込み上げてきたものを必死に飲み下す。珠世もまた顔面を蒼白にさせるも、目の前で蠢く肉塊から目を逸らせないでいる。

 

「こ、この方は、一体……っ!?」

 

「道中で捕らえた鬼だ。少しばかり()()()()を施してあるからな、再生はしないが死にもしない」

 

良い研究材料だ、というフランシスの口元には確かな笑みが浮かんでいた。

 

それは人とも鬼ともつかぬ狂人のそれ。研究材料と言いつつも、鬼が苦しむ姿を愉しんで鑑賞する、()()の外れた人外の笑みである。

 

「………っ!!」

 

ぞっっ、という悪寒が這い上がる。

 

珠世はその端正な顔を思い切り歪め、このような所業を見せつけた張本人の精神を疑った。

 

鬼を憎むのは理解できる。人間を殺し、その血肉を喰らう。野生動物のように必要なだけの狩りに落ち着く事なく、ただ喰いたいから、ただ楽しいからという理由で人間を殺す生物、それが一般的な鬼である。憎んで当然だ。

 

しかし、これは度が過ぎている。

 

一体どのような処置を施したのかは知らないが、このような状態になってまで生きている鬼を珠世は知らない。再生もせず、しかし死ぬことも出来ない事の恐ろしさは鬼が一番よく知っている。自身も同じことをされたらと思うと、血の気が引く思いだ。

 

そんな事を考えていた珠世へとフランシスは近付く。否、正確には、その目の前で蠢く哀れな肉塊の下へ、だ。

 

「げェ、げェ、げェ!!」

 

いよいよ脳に痴呆の虫が湧き始めたのか、人語すら怪しくなってきた鬼。その鬼をフランシスは冷めた眼で見下ろし、そして―――。

 

ぐちゃり、と踏み潰した。

 

飛び散った肉片、血液が珠世と愈史郎にも付着するも、それすら気にも止まらない。日輪刀すら使わずに踏み潰された鬼は、この部屋が日の光に満たされるその瞬間まで、小さな肉片のまま苦しみ続けるのだ。

 

この時、二人は静かに悟った。

 

これは脅しでも何でもない。目の前にいるこの狂人は無用と判断すれば、本当にやる……日輪刀で首を刎ね飛ばされるだけではない、この哀れな肉片と同じ目に、自分たちを遭わせる気なのだと。

 

およそ考えうる限りで最悪の殺し方を見せつけたフランシスは、そのままじろりと二人を睨みつける。

 

「そら、空き部屋ができたぞ」

 

そして、赤黒く汚れた(から)のガラスケースをかざし、告げた。

 

「……泊まっていくか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後数十分に渡り、珠世は必死にフランシスへと事情を説明した。

 

自分たちが血を買う理由から、ここで行っている事。

 

昨夜出会った鬼殺隊の少年の事、その妹の事。

 

そして、鬼という存在が生まれた、全ての元凶となる人物の事を。

 

―――鬼舞辻無惨。

 

曰く、その鬼は自身の血を介し、人を鬼へと変える。つまりは、今までフランシスが狩ってきた鬼は全て、元を辿れば哀れな犠牲者に過ぎないのだ。

 

そう伝えた珠世は、これでフランシスがもう残酷な殺し方をしない事を祈った。いくら人を喰らう鬼とは言え、あれ程までに悍ましい最期を迎えるなど、とても他人事とは思えなかったのだ。

 

自分の事を棚に上げて、とは思う。

 

勿論、今までの自分の所業が赦されるなどとは思っていない。もし仮に人間に戻れたとしても、周囲が望むのであれば自害する事もやぶさかではない。

 

しかし、今はまだ死ねない。あの鬼殺隊の少年、その妹を人間に戻し、そして憎き鬼舞辻無惨を倒すまでは。

 

そんな様々な思いを胸に、珠世はフランシスに全てを打ち明けたのだ。

 

「すべての鬼は、元はただの人間だった……という事か」

 

「……はい」

 

悲痛な表情を浮かべる珠世。隣に座る愈史郎も言葉こそ発しないが、沈痛な面持ちで彼女の横顔を見つめていた。

 

そのまま数十秒の時が流れる。

 

やがて沈黙を破ったのは、フランシスの言葉だった。

 

「ふん、やはり『獣の病』と同じか」

 

吐き捨てるような独り言を最後に、フランシスは銃を懐に収める。そして珠世と愈史郎へと近付いてゆき―――そのまま壊れた壁をくぐり、外へと出て行った。

 

「なっ……」

 

動き出したフランシスから珠世を守るかのようにかばった愈史郎は、こちらに一瞥もくれずに出て行った男の背を呆然と見ている。彼の腕の中、珠世もまたその後ろ姿を目にしていた。

 

「あっ、あの……」

 

「理由はどうあれ、私は私のやり方で鬼どもを殺す。貴様らにとやかく言われる筋合いはない」

 

振り返る事もせずにそう言ったフランシスの意志は固く、到底覆せるようなものではない。そう悟った珠世はそれ以上は何も言えずに、しかしこれだけは伝える。

 

「もしも貴方が強力な鬼……『十二鬼月』の鬼を倒す事があれば、どうかその血を採取しては頂けないでしょうか。それがあれば、私たちの研究も飛躍的に進みます」

 

「………」

 

フランシスからの返答は、やはりなかった。

 

二人を見逃す……つまりは有用であるとの判断を下した訳だが、慣れ合うつもりはないのだろう。ほぼ無害であるというだけで、鬼である事に変わりはないのだから、当然と言えば当然の事なのだが。

 

しかし、それよりも今のフランシスの心は、ある一つの単語に激しく反応していた。

 

「………鬼舞辻、無惨」

 

全ての鬼を作り出した病の元凶。

 

鬼舞辻の呪いを外した珠世から聞き出したその名を、フランシスは忌々し気に呟く。

 

「ああ、感じるぞ。その名から漂う、隠しようもない汚物の気配を」

 

見た事も、今まで聞いた事もなかった男。初めて聞く名であるにも拘らず、彼の心には激しい殺意の感情が渦巻いていた。

 

それはあたかも『連盟』に属する狩人が、『虫』を目の前にした時のようである。

 

「きっとその(はらわた)の中には、汚物に塗れた『虫』がいるのだろうなぁ。腐れ切った臓腑の奥底には、『虫』が溢れているのだろうなぁ」

 

血走った眼で、フランシスは未だ見ぬ標的の姿を思い浮かべる。

 

『虫』への憎悪で溢れ返る感情。しかしそこには、同居するもう一つの感情があった。

 

「ああ。ああ。踏み潰してやる、一匹残らず」

 

それは『歓喜』だ。

 

同士ヤマムラの祖国にて『虫』の元凶を踏み潰す。逝ってしまった友への最大の贈り物を思いついたフランシスは、狂笑をたたえながら日の光が降り注ぐ街を歩く。

 

「『虫』は……根絶やしだ」

 

 




怯えたような表情の珠世様もまた美しい!(啓蒙99)
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