ACE COMBAT after story of the demon of the round table   作:F.Y

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密約

 1996年 1月16日 0904時 ノルドランド共和国 ヨアキムロル空軍基地

 

 ウェルヴァキア社会人民民主国最高指導者、ラズヴァン・メリンテは、未だにテレビカメラの前で、ノルドランドが領土の割譲に応じない事と、先日の爆撃機を撃墜したことに対して非難を続けていた。

 

 自分から侵略しておいて、よく言うもんだ。盗人猛々しいとは、まさにこの事だ、とサイファーは思った。まあ、自分は、ノルドランドの側に立って戦うことで、莫大な報酬を得ているし、外交の事は、政治屋連中に任せておけば良い。自分は、侵攻してきたウェルヴァキア空軍の戦闘機を撃ち落とし、地べたを這い蹲る戦車や装甲車に爆弾を落とすだけだ。

 

 しかし、だ。ウェルヴァキアは、世界でもかなり経済規模的には貧しい農業国では無かったか。経済支援を打ち切られるというリスクを負ってでも、戦争を仕掛ける方向へ動かした、何かがあるのでは無いのだろうか。それも、ベルカから手に入れた何かが。それに、今、ノルドランドの天然資源を手に入れたとしても、ウェルヴァキアには、それを掘削し、開発する経済力も技術力も無いはずだ。

 ノルドランドの鉱物資源は地下深くに埋まっており、石油や天然ガスは専ら、海上のガス田や油田から掘削されている。しかし、ウェルヴァキアの領海内で、そのような物があるのを確認されたことは、一度も無いという。それならば、今、ノルドランドが持っている施設を接収して使うつもりであろう。ところが、サイファーは、何か引っかかるものを感じていた。

 

 1996年 1月16日 1135時 ウェルヴァキア人民連邦 ジルノカビスカ

 

 ウェルヴァキアの首都、ジルノカビスカにある人民評議議事堂にある議長室に、一人の男が訪れていた。男の名は、オットー・マインリヒト。かつて、南ベルカ兵器工廠に所属しており、今は灰色の男たちのメンバーである技術者だ。

 

 マインリヒトは、今日は兵器の売り込みにやってきていた。南ベルカ兵器工廠は、今は民営化され、今は南オーシア州に所在している。そして、オーシア軍のための兵器システムの開発・販売を行っていたが、密かにベルカ復権のための動きを加速させていた。ウェルヴァキアに対する兵器供与は、その一環である。

 

「随分ふっかけるな。だが、性能は確かなのか?」

 

「ええ、それはもう。なんなら、実地テストもご覧にいれましょう」

 

「しかし・・・・経済制裁下で、よくそんな兵器開発が続けられるな。おたくの国は」

 

「何も、国内で全てやっている訳ではありませんよ。資産の多くはエルジアに移しております。更に、兵器の実地テストは、かなり良い場所があるのでね」

 

「ベルカ国内に、そんな場所があるのかね?」

 

「とんでもない。国外ですよ・・・・・それも、誰からもそこまで注目されずに、ひっそりと新兵器を"提供"しても、誰も気にしない相手が。そう。内戦中で、他国からは放置されているような国であれば」

 

 ラズヴァン・メリンテ人民評議会最高議長は、ベルカは、現在、内線が激化しているエストバキアやレサスに新型兵器を持ち込み、テストしているのだ。そう、確信した。確かに、他国が一切介入していない内戦中の国は、そういった裏工作を行うのに絶好の環境にあると言えよう。

 

「ふむ、そういうことか。確かに、そういう国だったら、絶好の兵器試験場になるな」

 

「全く、有り難いことです。おかげで、我々は誰にも気づかれず、ベルカの復権に手駒を進めることができる。兵器を売って手に入れた資金と、密かに開発した新兵器を国内の軍にも配備して、軍を密かに増強できるという訳です。そして、いつかはとウスティオ、レクタ、ゲベートを再び我が領土へ組み込み、更にオーシアとユークトバニアへは復讐を行う事ができる」

 

「まあ、我々はベルカの復権には興味は無い。ノルドランドの天然資源と領土を手に入れられれば、それで十分だ」

 

「では、この書類にサインを頂けますかな?最高議長どの」

 

「いや、まだだ。それには・・・・・・そうだな。兵器の実物を実地テストで、私の目で実際に見てみたい。商談はそれからだ」

 

「いいでしょう。良い密輸業者を知っていますよ。そいつらを利用して、ベルカからこっそりと運ばせましょう。但し、幾つかの部品を、ただの工業製品に紛れ込ませて運び、ウェルヴァキアで組み立てるという形を取るので、時間がかかることを考えておいて下さい。いきなりブツを、そのまま持ってきたのでは、目立って仕方ありません」

 

「そうだな。どれくらいで用意できる?」

 

「レクタに秘密の輸送路を確保してあります。空路と海路はダメです。海路はノルドランドの近海を通らねばならないため、臨検を受けるリスクがあります。空路は、ゲベート、ウスティオ、オーシアに厳しく監視されているため、選択肢としては、ほぼ利用不可能です」

 

「わかった。そうしてもらおう。もしかしたら、我が国と貴国は、同盟関係を結ぶべきなのかも知れないな」

 

「"今のところは"ですがね。しかし、現状であれば、とことん利用させて貰いましょう」

 

 マインリヒトとメリンテは握手を交わした。

 

「それは、こっちのセリフでもあるな。では、帰りはどうするつもりだ?」

 

「ゲベートを通る鉄道を利用します。政府からは、外交官パスポートを発行して貰っているため、何かあっても、私が逮捕や拘束をされたりすることは、まずは無いでしょう」

 

「それは良い心得だ。では、お国の最高指導者にも伝えておいてくれ。貴国の救援に感謝すると」

 

「勿論です、最高議長閣下。今や、我々にとっての友好国は、ウェルヴァキアくらいしか無いのですから」

 

 マインリヒトはそう言って、帽子を手にすると、お辞儀をした。

 

「しかし、恐れ入りましたよ。国ぐるみでアヘンを栽培して、国際市場に売り込み、それで資金を調達しているとは」

 

「その御蔭で、我々の国の歳入は、小麦や大豆を売っていた頃に比べて2倍から3倍にもなった」

 

「確かに、ユークトバニアとヴェル-サ、ソトアは、今、深刻な薬物汚染が起きていると言うではないですか。もしや、貴国が・・・・・」

 

「想像に任せる。まあ、奴らが脳をそんなもので滅茶苦茶にする度に、我々にはノルドランド侵攻のための資金が転がり込んでくる訳だ。全く、有り難いことだ。バカどもが、更に頭をおかしくしながら、戦争の手伝いをしていると言うのだから」

 

「しかし、貴国は、薬物汚染はそれほど、と言うよりは、殆ど見られないようですな」

 

「薬物の使用は、我が国では死刑になる可能性があるからな。栽培しているアヘンは、海外向けの医療麻酔生産用としている。勿論、栽培に関わっている農家には、定期的に、抜き打ち検査を行っている。勝手に薬物を使用したり、売りさばいたりしていないかどうかのな。それが見つかったら、どうなるのかは、連中がよく知っている」

 

「全く、恐ろしいことですな。まあ、それ以上は、我々が関与するような話では無いですが」

 

「では、マインリヒト君、兵器の移送は、くれぐれも頼んだと、お国の最高指導者に伝えておいてくれ」

 

「勿論ですとも。最高議長閣下殿。それでは、約束通り、兵器は貴国へ持ち込みましょう」

 

 マインリヒトはメリンテと握手を交わし、部屋を出た。これから、駅へ向かい、ベルカ行きの特急電車に乗る。時間はかかるが、飛行機だと目立つので使ってはならないと、政府高官から指示を受けていた。さて、これから情勢がどう動くか楽しみだ。マインリヒトはそう思うと心が踊り、口元を緩ませた。

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