ACE COMBAT after story of the demon of the round table 作:F.Y
1996年 1月19日 1121時 ノルドランド ヨアキムロル空軍基地
「諸君、先日の爆撃機部隊の阻止、見事であった。しかし、ウェルヴァキアは、この程度の反撃では、ちっとも堪えていないようだ」
ロビン・リーが、ブリーフィングルームのスクリーンの表示を切り替えた。ノルドランドとウェルヴァキアの国境付近が拡大表示される。
「偵察衛星が、国境地帯で待機していたウェルヴァキア陸軍部隊が動き出すのを捉えた。越境し、侵攻してくるつもりであろう。奴らの狙いは、この第113ハイウェイと推測される。もし、ここを押さえられた場合は、やつらに都合のよい、侵攻部隊を送り込むための大動脈になってしまうだろう」
リーが一旦、言葉を切った。
「そこで、諸君には、陸軍部隊と協力して、敵の地上部隊を排除してもらいたい。奴らが国境を越え次第、撃破せよ。奴らの侵攻ルートを遮断し、味方が防衛ラインを築く時間を稼げ!以上だ!」
1996年 1月19日 1200時 ノルドランド ヨアキムロル空軍基地
サイファーは、Su-35BMを見上げた。機体には、R-77が4発、R-73が2発、Kh-29が4発、KMGU-2クラスター爆弾が4発、増槽1つが搭載されていく。隣のジャガーのF-16CJの武装は、AIM-120B、AIM-9Mが2発ずつとCBU-87が6発、増槽が2つだ。
「サイファー、今回の作戦、かなり重要ですよ」ジャガーが相棒に話しかける。
「ああ。奴らの狙いは、確か、ノルドランドの幹線道路・・・・・だったな」
「それも、あれを押さえられたら、地上部隊をノルドランド各地に簡単に送り込まれてしまいます。第113ハイウェイは、ノルドランドを南北に貫く道なのですが、途中で、東西に幾つも枝分かれしているのです。更に、その枝分かれした道路が、更に枝分かれしていて・・・・・・私の言いたいことがわかりますか?」
「なるほど。一旦、その道路を占領されたら最後だな」
「今は戦時なので、陸軍の部隊が"弁"のように、幾つかの防御陣地をハイウェイの途中に設置し始めています。が、そんなにしっかりとしたものでは無い筈です。敵の大規模侵攻部隊を阻止するような、本格的な防御陣地を作るまでには、まだまだ時間がかかります。つまり、例え一時しのぎ的な作戦であったとしても、第113ハイウェイからは、敵を排除しておかねばならないのです」
つい先日までサイファーがいた、山がちで、陸軍の機甲部隊が身動きを取りづらいウスティオと違い、ノルドランドは平野が広がる国だ。戦車や装甲車は、その能力をフルに発揮できるだろう。 だが、裏を返せば、地上の機甲部隊は、航空機から身を隠しにくい状況になるとも言えた。戦闘機乗りから見たら、楽なターゲットになってしまう。
「つまり、俺たちは、陸軍が本格的な防御陣地を作るまで、空から敵を排除すれば良い、という事だな。だが、それまで何日かかる?5日か?6日か?」
「とはいえ、我々がここでしっかりと敵をおさえておけば、それだけウェルヴァキア軍の戦力を低下させることができます。そうしておけば、奴らは次の大規模攻勢に出るまでは、そこそこ時間を稼ぐことができるはずです。敵は作戦を再考せざるを得なくなり、その間に、我々は次の防御ラインを構築できます」
ジャガーの言うことは、全くもって正論だった。防御ラインを二重三重に構築しておけば、ウェルヴァキア領内へ反撃侵攻し、戦略的に重要な軍事拠点を攻撃して戦力を大幅に低下させ、戦争そのものの終結を早めることもできるだろう。
しかし、そうなった場合、サイファーには、ある懸念があった。それは、自分自身の経験から来るものであった。ウェルヴァキアが、大量破壊兵器の使用に踏み切る可能性だ。
ウェルヴァキア政府及び軍に『国境なき世界』の残党が入り込んでいた場合、ベルカの戦術核兵器V1を持ち込んでいる可能性があった。大規模なICBM設備を必要とするV2と違い、V1は小型熱核兵器なので、中型トラック程度のものでも運搬可能だ。それでも、中規模から大規模な都市のほとんどを焼き付くし、破壊し、数万人の命をあっという間に奪うだけの威力はある。だが、大切な核兵器を、大規模な軍事支援を行う程の関係にある国であっても、ベルカの連中はおいそれと簡単に引き渡したり、売ったりするとはサイファーにはどうも思えなかった。
「まあ、そうだな。それでは、また後でな」
「ええ。あいつらをやっつけに行きましょう!」
1996年 1月19日 1243時 ノルドランド ヨアキムロル空軍基地
北の方から風に乗って基地の上空へやって来た灰色の雲の塊が、ちらちらと雪を降らせ始めた。そんな中、ミサイルや爆弾、増槽を翼や胴体から吊り下げた雑多な戦闘機が滑走路を走り、飛び上がっていく。
サイファーは、Su-35Sのシステムをチェックした。フライバイワイヤ、エンジン、兵装。全てが異常無し。燃料も満タンだ。左のジャガーが乗るJAS-39Cの方を見ると、ジャガーもこちらに気付き、右手を上げて親指を立てた。
『マングース1、マングース2、滑走路へ向かえ』
「マングース1了解」
「2」
先頭を行くフランカーに比べて、グリペンはその半分程度の大きさにしか見えない。確かに、機体のサイズについては、その大小によって空力面に様々な差が出てくる。だが、空中戦に於いては、機体の大きさなど、あまり気にするパイロットはいない。重要なのは腕前だ。事実、サイファーは傭兵稼業を始めたばかりの頃に乗っていたJ-35ドラケンで、MiG-25Pフォックスバットを何度か撃墜したことがあった。
サイファーは滑走路のエンドで機体を一端停止させ、フラップ、エレベーター、ラダーの調子を確かめ、エンジンのテストをした。これが、離陸前の機体の具合をチェックするラストチャンスだ。機体の状態は万全だ。
『マングース1、離陸を許可する』
サイファーは、管制官の言葉の直後にスロットルを押し、アフターバーナーに点火させた。フライバイワイヤの機体なので、スロットルや操縦捍が全く動かないことに対しては、未だに少々の違和感を感じるが、そこまで気になる程度では無い。それに、空に上がってしまえば、そんな事は全く気にならなくなる。
『マングース2、離陸を許可する』
ジャガーのグリペンが、後から追いかけてきて、僚機の位置につく。ここからは戦場だ。余計な事を考える余裕な無い。考えなければならないことは2つだけ。至ってシンプルだ。敵を倒し、生き残るのだ。