ACE COMBAT after story of the demon of the round table 作:F.Y
1996年 1月19日 1223時 ウェルヴァキア東部
ウェルヴァキア空軍大佐、ダニエル・"ルップ"・イオネスクは5機のMiG-29SMTを率いてノルドランド空軍機の迎撃に向かっていた。1番機のフルクラムは、艶消しの白と黒の斑模様に塗装され、尾翼には大きく目立つように赤い毒蛇の絵が描かれている。ウェルヴァキア空軍において、このような派手な塗装は、特に目覚ましい戦勲を打ち立てた部隊だけに許される特権であった。
彼らはウェルヴァキア空軍きっての凄腕パイロットの集まりだ。つまり、エースというやつだ。この部隊を率いるイオネスク中佐は、戦闘機パイロット歴30年の大ベテランで、10年前のレティオ公国との戦争においては、46機もの戦闘機を血祭りにあげたエースパイロットとして知られている。既に50歳を超える年齢であるものの、その実力は衰え知らずで、ウェルヴァキア空軍のパイロットの間では"赤い毒蛇"というあだ名で恐れられている。
イオネスク大佐は、非常に厳しい性格で知られ、人生のほとんどを空軍に捧げてきた。僚機として飛ぶパイロットも、イオネスク自身が選んだ選りすぐりのパイロットだけを選んで作戦に向かっている。彼は、書類上に記載された成績や、戦闘記録を一切信用しない性格で、自分の部隊に新しく配属されたパイロットに対しては、必ず、自分との模擬空戦を課していた。そして、イオネスク大佐自身が納得するような飛び方をしたパイロットだけを自分の部隊に迎え入れていた。そうでないパイロットは、元に飛行隊に送り返すということを行っていた。普通、軍隊ではそのような事はあり得ない事ではあったものの、ウェルヴァキア空軍では、イオネスク大佐は英雄そのものであるため、完全に特別扱いをし、大佐の要求には全て応えてた。
そして、イオネスクは、それに対して戦果を上げることで祖国に恩返しをしていた。戦争が始まってすぐに、イオネスクの部隊は国境付近を偵察にやってきた4機のノルドランド空軍のJAS-39Cを撃墜するという戦績を上げている。これらの機体は偵察ポッドを搭載していたものだった。恐らく、こちら側の戦力をのぞき見しに来ていたのだろう。小癪な。
「ルップより各機へ。ノルドランド空軍機を確認。攻撃機のために道を開くぞ」
『了解です、隊長。仰せのままに』
イオネスク大佐の飛行隊の後ろからは、J-10に護衛されたQ-5攻撃機の編隊がついてきている。この飛行隊の役目は、国境付近に展開しているノルドランド陸軍部隊を叩き、ウェルヴァキア空軍がノルドランド領土に侵入するための突破口を開くことだ。
1996年 1月19日 1227時 ノルドランド西部
『警告!新たな敵編隊を確認!方位2-5-4!』
AWACSからの警告が無線機を通じてサイファーの耳に入ってきた。
「方位2-5-4。確認した」
サイファーはレーダーモードを"長距離-サーチ"に切り替えた。敵は2・・・・・いや、後ろに8機いる。全部で10機だ。
「ジャガー、正面に敵。数、10。やるぞ」
『たった2機でですか?冗談ですよね』
『AWACSガーディアンよりマングース隊へ。クロコダイル隊とスパロー隊に援護させる。10機で対処せよ』
「マングース1了解。マングース2、聞いたか?」
『ええ。流石のあなたでも、10対2で戦うのは無理でしょう』
そうとも言い切れなかった。サイファーは、ベルカ戦争に於いては、8対2や6対2でベルカのエース部隊を殲滅したことがある。だが、その時は、相棒が伝説のエース級だったたからこそ、できたことだ。そのレベルをジャガーに、いや、"あいつ"以外のパイロットに要求するのは、あまりにも酷だ。
「確かにな。援護頼むぞ」
『任せてください!』
『こちら、クロコダイル1。マングース1、聞こえるか?あの円卓の鬼神と飛べて光栄だ』
無線に別の声が混ざると同時に、4機のグリペンがサイファーから見て右側の位置についた。
『こちらスパロー1、うちの若いのが興奮している。ベルカ戦争の英雄の飛びかた、たっぷりと見せてもらうぞ』
スパロー隊はF-16CとF-15Eそれぞれ2機ずつで構成されていた。ノルドランド空軍はF-15を保有していない。あの4機は、自分の同類、すなわち、傭兵が乗っている機体であるにちがいない。
1996年 1月19日 1229時
「敵機正面。歓迎委員会か」
イオネスクはレーダーに映る機体を確認して言った。
『そのようです。やりますか?』
二番機のパイロットの声が無線機から聞こえる。
「ああ、そうさせてもらおう。攻撃機を低空へ逃がせ。戦闘機部隊、やつらを落とすぞ。今日は、俺の10回目のエースがかかっているからな」
5機の敵機を撃墜した戦闘機乗りには"エース"の称号が与えられる。それも1度ではなく、5機撃墜するごとに、だ。
イオネスクが10回目のエースを得るのに必要なスコアは、3機。勿論、彼には、部下に戦果をくれてやる気持ちなぞ微塵も無かった。全ての敵機を自分で撃墜し、今日こそ、この名声を手にするつもりでいた。