ACE COMBAT after story of the demon of the round table 作:F.Y
1996年 1月19日 1230時 ウェルヴァキア東部上空
ノルドランド空軍と傭兵の混成部隊は、真っ直ぐ新たな敵編隊へと向かって行った。暫く飛ぶと、敵編隊の機影がだんだんと大きくなっていく。空はよく晴れ渡り、敵の戦闘機の姿がよく見える。それは、向こうとて同じことだ。
敵はMiG-29だ。白と黒の斑模様。艶有りの塗料を使っているのか、機体は太陽光を白く反射している。このような目立つ塗装を施す戦闘機に乗る正規軍の部隊がどういう位置付けなのか、サイファーにはよく分かっていた。奴等は、ウェルヴァキアのトップエースの部隊だ。
「マングース1より全機へ。敵はどうやらエース級のようだ。注意しろ。マングース2、俺に付いてこい。だが、しっかり付いてこれないようでは、置いていく。この戦いじゃ、お前の面倒を見ている余裕は無さそうだからな」
『わかりました、サイファー。お任せを』
サイファーは、様子見としてまずは真っ直ぐ相手に向かって直進しながら数を数えた。1・・・・・2・・・・・3・・・・・。
そして、R-77の射的に入ると同時に、敵をレーダー照射する。だが、敵は即座にR-77を放ってきた。
「回避!」
サイファーはECMを作動させ、チャフを撒いた。ジャガーはしっかりと1番機の後を追い、敵のミサイルをかわす。サイファーは、心の中で、この飛行隊に『ユキヒョウ』という渾名を付けた。白黒斑の塗装が、ユキヒョウの体の模様にそっくりだ。
味方の1機が敵のミサイルに喰われたのか、視界の端で、戦闘機が爆発するのをサイファーは見た。コックピットの多目的ディスプレイに映る戦術マップをちらりと見ると、味方機の反応が1つ消えていた。脱出したかどうかを確認する余裕は無い。すぐに敵は襲い掛かってくるはずだ。
1996年 1月19日 1231時 ウェルヴァキア東部上空
イオネスクは部下の一人がノルドランド空軍機を1機、撃墜したのを見た。あいつは後で褒めてやらねば。更にもう一人の部下が1機撃墜達成。よし、その調子だ。そして、その部下は、ノルドランド空軍のグリペンと並走するように飛ぶ、傭兵のものとおぼしきフランカーに狙いを定めた。違う部下が、その部下の僚機の位置に入る。よし、やれ!
サイファーは、2機のフルクラムがこちらの後ろに回り込んできたのを見た。機首の動きを見ると、どうやら、2機とも自分を狙っているようだ。サイファーはやや左に旋回し、敵機の動きを見た。敵機の機首が大きく動いた。リード・パシュートを狙っているようだ。だとしたら、ガンキルをする可能性が高い。サイファーは、敵機を見ながらそのまま飛び、心の中で数を数えた。
ゲオルゲ・セルバン大尉は、フランカーに狙いを定めた。ミサイルを使うには近づき過ぎている。機関砲を使うべきだと考えた。僚機のフロレア中尉も同じ考えだったようだ。敵の僚機のグリペンは後回しにした。飛びかたがいかにも青臭く、明らかに経験不足だった。だが、このフランカーはちょっとは歯応えのある奴のような気がしていた。こいつを撃ったら、かなり楽しい事になるだろう。
サイファーは、敵機がどのタイミングで射撃を行うのか、というタイミングを計っていた。そして、ゆっくりと旋回をやめ、機体を真っ直ぐにした。その0.5秒後に行動に移した。
セルバン大尉は、フランカーが機体を真っ直ぐにした瞬間に機関砲のトリガーを引いた。だが、30mmの曳光弾が放たれた時、敵機の大きな機体は、まるでトリックのように目の前から消えていた。何事だ、と思った次の瞬間、機体に衝撃が走った。
サイファーは、機体を立て直した直後に、降下しながらスローロール起動を行った。減速しながら機体をロールさせつつ、ほんの少しだけ高度を下げる。端から見たら、まるでSu-35BMがMiG-29SMTの下を、後退・横転しながらくぐっているようにしか見えないだろう。ロール起動を終えた時には、HUDのガンレティクレと敵機が重なって見えたため、サイファーは何の躊躇いも無くトリガーを引いた。
セルバン大尉のMiG-29SMTのコックピットで、警報が激しく鳴り始めた。右エンジンの圧力が急激に低下した。後ろを見ると、いつの間にかフランカーが迫ってきていた。くそっ!俺としたことが!スローロールに対する警戒を怠るとは!再び、30mm弾が機体を叩く音が聞こえる。まさか、こいつ、手負いの機体を。そこまで考えたところで、再び激しい衝撃。セルバンはたまらず射出座席のハンドルを引いた。
ジャガーはサイファーの行動に戦慄を覚えた。あのフルクラムは、既に飛ぶことが精一杯の状態だったはずだ。だが、そんな敵機に、サイファーは情け容赦なく機関砲の弾を浴びせて、撃墜した。
何だと!?イオネスクは、セルバン大尉が乗る機体が爆発するのを見た。白いパラシュートが飛び出し、空を漂っている。セルバンは無事なようだ。
あのフランカーのパイロット、間違いなく只者では無い。ノルドランドの国籍マークが無いことを考えると、外人部隊か。開戦の少し前に、教官としてやってきた、所属不明の凄腕パイロットと同類のようだ。その連中は、開戦とほぼ同時にウェルヴァキアから姿を消したが。
再び列機が破壊された。ニコラエ・プレダ中尉の乗機だ。プレダ中尉もまた、脱出に成功し、パラシュートで地上に向かい始めた。
イオネスクはフランカーを観察した。あのパイロットは勢いに乗っている。ああいう奴は、一度調子付いたら、弾切れになるまで止まらないものだ。更に部下の機体が爆発する。だが、パシュートが出た様子が無い。
「ルップより全機、引き上げるぞ」
『了解』
『了解。撤収します』
イオネスクの部隊は瞬く間に7機に減っていた。これ以上の戦闘は不毛だと判断し、イオネスクは退却することにした。だが。
「誰かバセスク大尉の脱出を確認したか?さっき撃墜されたが」
沈黙。
「バセスク大尉。マリウス、聞こえるならば返事をしろ」