ACE COMBAT after story of the demon of the round table 作:F.Y
1996年 1月28日 0914時 ノルドランド ソルカセマリルム湾
ノルドランド海軍のミサイル艇から、矢継ぎ早にハープーンやコルモランなどの対艦ミサイルが発射された。ノルドランド海軍は、小型だが機動性に優れ、強力な攻撃力を持つこの艦船を多数配備している。
ノルドランド海軍は、空母や戦艦、強襲揚陸艦のような大型艦船は持っていないが、イージスシステムを搭載した駆逐艦やフリゲート、掃海機能を持つ機雷敷設艦、中型の揚陸艦艇、最新鋭のディーゼル潜水艦と、やや小規模ながらもかなり強力な戦力を保有している。
「対艦ミサイル飛来!方位013!距離、130!」
「対空戦闘用意!総員、戦闘配置!」
「反撃急げ!敵ミサイル飛来方位確認!」
「データ入力完了!ミサイル発射準備完了!」
「反撃せよ!」
ウェルヴァキア艦隊からも、P-270対艦ミサイルやSA-N-6対空ミサイルの射撃が開始され、お互いにミサイルを撃ち合う戦闘となった。
1996年 1月28日 0916時 ノルドランド ソルカセマリルム湾付近上空
『AWACSガーディアンより攻撃に向かった戦闘機部隊へ。ウェルヴァキア艦隊が攻撃を開始した。目につく敵艦船は全て破壊せよ。繰り返す。敵艦船は確認次第破壊せよ』
サイファーは、Kh-31の安全装置を解除した。ノルドランド空軍が持つ空対艦兵器は、AGM-119ペンギンや、RBS-15など、小型で射程がやや短く、敵の対空ミサイルの射程ギリギリか、その内側にまで入り込んで撃たねばならない状況のため、より射程の長いハープーンを搭載する海軍のP-3Cを補佐するような位置付けであった。
しかし、今日は、コルモランを搭載するトーネードや、シーイーグルを持つタイフーンなど、長い槍を持つ傭兵部隊が加わっている。だが、一方で、ウェルヴァキアのMiG-29やJ-10も、Kh-31MやYJ-801といった長射程の対艦ミサイルを搭載可能だ。どの敵を優先して叩くのか。よく考えねばならない。それが味方艦隊の生死を分けることになる。
「マングース1よりガーディアンへ。目標の優先順位を指示してくれ」
『了解した。データを転送する』
サイファーが海上を見下ろすと、敵の対艦ミサイルが味方艦隊へ飛来しているのが見えた。味方の駆逐艦やフリゲートのVLSから火が吹き出し、対空ミサイルが発射される。味方艦隊の手間で幾つか爆発を確認した。迎撃に成功したようだ。しかし、1隻の味方艦船が被弾し、後部甲板のヘリパッドから火の手が上がった。
『ガーディアンより戦闘機部隊へ。味方艦隊からのデータが転送されてきた。これより、個別に攻撃すべき目標を指示する』
Su-35BMのカラーディスプレイに、目標への方位と距離が表示された。目標は、巡洋艦アルマネスク。対艦ミサイルランチャーと長魚雷、対空ミサイルを備える、艦隊戦を主眼に置いた艦船だ。基準排水量は9000トン、満載排水量は11500トンだ。相手にとっては不足は無い。
サイファーはフランカーを低空へと降下させ、水面ギリギリのところで水平飛行に移った。僚機のジャガーを含め、7機の戦闘機がこの化け物に対する攻撃に加わる。他の7機は、サイファーほど水面近くを飛ぶ技術を持ち合わせていなかった。
なんてパイロットだ。ジャガーはサイファーのSu-35BMを見下ろして思った。あんな海面ギリギリを、あんなスピードで飛行させるとは、正直言って狂っているとしか思えない。サイファーは出撃前に、対艦攻撃の経験は浅いと言ったが、その基準となる飛行技術のレベルが違い過ぎるのだ。
確かに、ノルドランド空軍では、低空で飛行しながら敵艦船に接近。対艦ミサイルを射撃して飛び去るという訓練を日常的に行っているが、飛行隊長や教官ですら、ここまで低く飛ぶのを見たことが無かった。
『おいおい、あいつ、マジかよ』
『あんな海面ギリギリを飛ぶだと?ふざけているのか?』
『おい、誰か、あいつの横に並んで飛んでみろよ』
『無茶言うな。あんな事をしたら、海面に衝突してバラバラだ。俺は御免こうむるぜ』
『俺もパスだ』
サイファーのSu-35BMは、エレベーターとエルロンを動かし、ギリギリのバランスを保ちながら飛んでいた。ほんの僅かでも操作をミスれば、間違い無く海の藻屑になってしまう。やがて、編隊は攻撃ポイントへと接近しつつあった。
『ガーディアンより攻撃部隊へ。まもなく攻撃ポイントだ。高度を下げ、攻撃準備せよ』
「くそっ、機体が揺れる。駄目だ。高度を少し上げる」
『こっちも駄目だ。このままだと、海に衝突だ!』
攻撃ポイントに辿り着く寸前に、攻撃編隊のパイロットたちは、サイファーを除き、僅かに高度を上げ、その直後に対艦ミサイルを射撃した。攻撃部隊は編隊を解き、上昇しながら左右に分かれ、標的から離れた。
ウェルヴァキアの艦隊がレーダーで対艦ミサイルを捉えたのは、発射から1分半も経ってからのことだった。あまりにも低空で飛んできたため、ミサイルが海面クラッターに紛れてしまったのだ。
「対艦ミサイル飛来!方位091!距離、500!」
「面舵一杯!方位091!」
くそっ!いつの間に敵がこんなに接近していたのか!?きっと潜水艦から発射されたに違いない。
「対空戦闘用意!S-300F発射用意!」
「コールチク射撃準備!主砲を方位091へ!」
「畜生!レーダーのロックが間に合わん!」
「艦首を091へ!急げ!取り舵一杯!」
アルマネスクがゆっくりと回頭を始めた。VLSの蓋が開き、ようやく対空ミサイルが2発、発射される。
「ECM作動!」
「ダメです!ロックが外れません!真っ直ぐ向かってきます!」
「総員、衝撃に備えよ!」
アルマネスクに対艦ミサイルが直撃した。VLSの基部で爆発したため、装填されていた対空ミサイルや対潜ロケットが二次爆発を起こす。
「総員、退避!退避!」
1996年 1月28日 0923時 ノルドランド ソルカセマリルム湾
地の利はノルドランド側にあるとはいえ、ウェルヴァキア海軍も一方的にやられるだけでは無かった。実際、ノルドランド海軍のミサイル艇はウェルヴァキアの駆逐艦の砲撃を食らうとあっさりと爆発し、沈没した。湾の内部に入り込んだウェルヴァキア海軍は暴れまわり、ノルドランド海軍の犠牲を支払わせた。とはいえ、ノルドランド海軍も反撃の機会を窺い、ヴェルヴァキア海軍を殲滅しようとしていた。
ノルドランド海軍の潜水艦"ドノヴヘリム"がゆっくりと海中を移動していた。この潜水艦は、排水量1500tと小さいが、機動性に優れ、やや狭い海域でも十分に活動可能だ。ドノヴへリムは、海中で密かにヴェルヴァキア海軍艦船を追跡し、撃沈する機会を窺っていた。
「艦長、1時方向からスクリュー音を探知。分析にかけます」
「目標と指定し、追跡せよ。前進微速」
海上でウェルヴァキア艦隊のノルドランド艦隊が激しい戦闘を繰り広げている中、ノルドランドの潜水艦部隊は息を潜め、攻撃の時を待っていた。これが、ノルドランド海軍の防衛ドクトリンの一つだ。水上艦部隊で敵海軍機動部隊をキルゾーンまで引き込み、罠に掛かった敵を潜水艦で仕留める。30年前のエルジア王国との戦争では、これが功を奏し、当時のエルジア海軍艦隊の6割近くをこの作戦で壊滅させることに成功した。
確かに、30年前と今では武器の性能が違い、戦術のうちの幾つかは役に立たないものもあったが、その全てが無駄とは言えない。事実、ウェルヴァキア艦隊は、ノルドランド海軍が仕掛けた罠にゆっくりと誘い込まれつつあった。