ACE COMBAT after story of the demon of the round table 作:F.Y
1996年 1月3日 1121時 ファート共和国 ディオフェッツェ空港
サイファーはSu-35BMを着陸させると、マーシャラーの誘導に従って、エプロンまでタキシングさせた。そこには、銃を持った警備兵と整備員がおり、そして複数の戦闘機とタンクローリーが置かれていた。ファート共和国は、傭兵たちのたまり場みたいな国だ。そこには、各国から腕のいい傭兵たちを求めて、軍や政府のリクルーターがやってきている。
戦闘機から降りると、近くにいる警備兵にいくらかお金を渡した。警備兵はウスティオの紙幣を数えると、満足そうにそれを懐にしまい、作業員にフランカーをまだ空いている頑丈な鉄の扉の付いた掩体壕の中に動かすよう指示した。
「あなたの機体は、No7掩体壕へ収めておきます。御用があれば、私に言ってください」
地獄の沙汰も金次第。あの金額ならば、恐らくは簡単な整備と燃料補給くらいまではやってくれているだろう。サイファーは、まずはターミナルへと歩いていった。まずは、腹ごしらえだ。場合によっては、ブランデーでも飲んで、ゆっくりしてもいい。
まずは、こんな場所に行くのだから、武器を持っていなければならない。サイファーは、Kaバーというコンバットナイフと、シグP226拳銃を点検し、いつでも使える状態になっている事を確かめた。
ターミナルの中は、柄の悪そうな連中でごった返していた。充満したタバコの煙の匂いに、サイファーは少し、顔をしかめた。テレビでは、ニュース番組が流れている。見た所、オーシア大陸の東にあるノルドランド共和国とウェルヴァキア社会人民民主国との対立が激化しているという。
どうやら、発端は、ウェルヴァキアがノルドランド領空を飛行中の旅客機を、武器や薬物の密輸で機あるとして長射程の
確か、ウェルヴァキアの兵器産業は、密かにベルカがパトロンになっていたのでは無かったか。サイファーは、空港のフリーPCを使い、大衆用ネットワークに接続した。ニュースサイトを検索していると、その記事を見つけた。南ベルカ国営兵器産業廠系列会社、ウェルヴァキアに大規模工場を建設。
やはり、か。だとしたら、そこには、脱走したベルカの右派、そして、『国境なき世界』の残党がいる可能性がある。連中の逃亡先としては、うってつけの場所だ。
ウェルヴァキアは、これらの工場でベルカの連中の手を借りて兵器を大量生産し、その代わり、見返りをベルカに渡しているのだろう。現在、ベルカは複数の国から経済制裁を受けているが、これを制裁逃れの窓口にしているに違いない。もし、ウェルヴァキアがノルドランドに宣戦布告した場合は、誰が利益を受けるのか。答えは明白だ。
気に入らん。サイファーは、ペットボトルの水を一口飲んだ。折角、ベルカの連中をぶっ潰してやったのに、どうしてこんな事になったのか。続いてのニュースは、小惑星ユリシーズについてのニュースだ。これが発見されたのは、一昨年の年末頃だ。国際天文学連合(IAU)によると、地球に衝突する可能性が極めて高いとのことだ。現在、ユージアやオーシア、エストバキアなどで、隕石を迎撃するための超兵器を建設しているらしい。
だが、サイファーはそのニュースには、あまり関心を示さなかった。自然が相手では、人間がどうあがいたって、できることは限られている。さて、それよりも、昼飯をどうするか考えなければならない。サイファーは、空港の食堂街へ向かっていった。
1996年 1月3日 1202時 ファート共和国 ディオフェッツェ空港
空港らしく、ここは様々な国の料理の店が入っていた。穀物と魚介類中心のメニューが豊富なウェロー料理、スパイシーでワイルドなサピン料理、南半球独特な食材をふんだんに使ったオーレリア料理・・・・・。
美味そうな匂いに、サイファーの腹の虫も鳴り出した。さて、何を食べようか・・・・・・。
これから、どこかへまた出かける気になるかもしれない。よって、酒だけはやめておこう。家族連れ、ビジネスマン、単身の旅行者。様々な人々が、空港内を行き交う光景は、サイファーにとっては新鮮だった。かつての自分が体験することが少なかった、平和な時間。
サイファーは、せっかくだし、現地の料理を食べようと考え、ファート料理店に入った。中はかなり混雑し、若く、美人なウェイトレスが、相席になる可能性もあるが良いかと尋ねた。サイファーは、別にそんな事は気にするような男では無かったため、構わないと答えた。
メニューを広げ、何を食べようかと考えていた。店の中の客は、殆どが一般市民のようだが、見るからに傭兵と思える人間も確認できた。そいつらは、飛行服だったり迷彩服を着ていたり、格好はまちまちだ。流石に、堂々と剥き身の自動小銃を持ち歩いている人間はいなかったが、大抵は拳銃やナイフ程度の武器は持ち歩いているようだ。
やがて、再び同じウェイトレスがやってきた。どうやら、相席になる客を案内してきたらしい。その人物は、年齢は50歳くらいだろうか。身ぎれいなスーツを着た紳士であった。
「失礼するよ」その男は、サイファーに話しかけた。
「ああ、どうも」
「その訛り・・・・・ウェロー連邦かね?」
「そういうあなたの訛りは・・・・・・ノルドランドですか?」
男は沈黙した。図星だったらしい。
「そして、君は、格好から考えると、明らかに戦闘機乗りだ。だが、どう考えても、正規軍の所属では無さそうだ。なぜなら、飛行服に部隊章や名札のワッペンを付けていない」
「普通なら、見るからにおかしな格好をしている人間に、わざわざ好き好んで話しかけるような人間がいるとは考えられないですね。あなたは、ノルドランドのエージェント。恐らくは、政府か軍の情報部。命令を受けて、わざわざファート共和国までやって来た。ウェルヴァキアの連中に取られる前に、腕の良い傭兵をかき集めろとね」
この若者は、馬鹿ではないようだ。それどころか、幾つもの修羅場をくぐり抜けてきた人間独特の雰囲気を放っている。壁に背を向け、なるべく店内を見渡せる席を選んで座るような人間だ。普通の人間は、そこまで考えて飯を食べにレストランに入ることは無い。
「率直に言おう。我が国は、傭兵を必要としている。勿論、報酬は十分に払う。君の機体の整備も我が国の空軍部隊が持つ」
「兵士が足りないのならば、まずは徴兵制を敷いたほうが早いでしょう。わざわざ高い報酬を傭兵に払うことは無い」
「我が国では、憲法で徴兵制は禁止されている。軍の入隊は志願者に限る、と」
「しかし、傭兵を使うことは禁止されていない」
「その通り。勿論、兵装や機体のスペアパーツ、燃料の調達ルートも確保する。お望みならば、新しい機体も」
そう言うと、男はサイファーに契約書を見せた。そこには、様々な条件が書き記されており、一番下には、ノルドランド空軍司令官の名前が書かれていた。その隣の欄は空欄になっている。
「ふむ。確かに、俺は今、失業状態ですがね・・・・・・」
サイファーは、じっくりと時間をかけて契約書の内容を吟味した。
「何も、今すぐとは言っていない。もし、その気があれば、ファートの首都にあるノルドランド大使館に持ち込んで、駐在武官を呼んでもらうだけでいい」
「なるほど。しかし・・・・・まずは、腹ごしらえと行きましょうか」
サイファーは、メニューを開き、それから5分程時間をかけて料理を選んだ後、近くを通りかかったウェイターを呼び止めた。