ACE COMBAT after story of the demon of the round table   作:F.Y

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海上で襲い来るウェルヴァキアの鳥

 1996年 1月28日 0945時 ノルドランド ソルカセマリルム湾

 

 サイファーはレーダー画面とキャノピーの外を往復するように見た。レーダー画面には敵機のアイコンが表示され、それはだんだんこちらに近づいてくる。

引き連れている僚機は3機。ジャガーのグリペンと別の編隊のグリペンとミラージュ2000Cだ。

 

「敵機確認。方位、046、距離100。マッハ0.8でこっちに向かっている。じきにミサイルの射程内だ」

 

 サイファーは操縦棹のミサイル発射ボタンに親指を置いた。火器管制レーダーは中距離交戦モードに設定され、HUDとMFDには既に敵機の情報が表示されている。

 

『AWACSガーディアンより迎撃部隊へ。敵は依然として接近中。全て撃墜せよ』

 

 サイファーは無線機のスイッチを2回動かした。ジッパーコマンドというやつだ。レーダーはしっかりと敵機を捉えている。律儀にドッグファイトをする気など、サイファーの頭の中には毛頭無い。中距離ミサイルで一気に片付けるつもりでいた。

 R-77の残弾は十分だ。だが、こいつらを撃墜したら、一度、基地へと補給に戻らねばならない。陸上と違って海上で撃墜されたら悲惨だ。この真冬の氷点下の海の中に落とされることになる。そうなったら、生きて帰れる保証は全く無くなる。

 

『ジャガーよりサイファーへ。敵を捉えました。長距離ミサイルスタンバイ』

 

 ジャガーは既にミーティアの発射準備を整えたようだ。R-77に比べ、ミーティアの射程は3割程長い。そして、長い槍は戦いを有利にしてくれる。

 

「AWACSの合図で撃て。奴らに逃げ出す隙を与えるな」

 

『了解です、サイファー。必ず奴らを仕留めます』

 

 レーダー画面に映る敵機の数はかなりのものだ。ウェルヴァキア空軍は、艦隊を守るためにかなりの数の航空機を差し向けてきている。恐らく、沿岸の基地から空中給油をしてやってきたのだろう。

 

「数は多いぞ。警戒しろ」

 

 1996年 1月28日 0947時 ノルドランド ソルカセマリルム湾上空

 

『サーベル1より各機へ。敵を殲滅して、艦隊の安全を確保する。1機たりとも逃がすな』

 

 空域に向かってきているのは4機のMiG-23だ。このユークトバニア製の航空機は、1960年代の設計のため、ユーク空軍からは既に退役しているが、エルジア、エストバキア、レサスでは近代化改修を施して今でも一線級の戦闘機として活躍している。中射程ミサイルと短射程ミサイル、23㎜機関砲を装備し強力な攻撃力を持つ戦闘機だ。決して油断のできる相手ではない。

 ウェルヴァキア空軍のMiG-23の編隊は、海軍のYak-38と合流し、敵機の殲滅を図っていた。既にノルドランドの航空機と潜水艦によって、艦隊には大きな被害が出ている。単純に軍同士の戦力比であれば、ウェルヴァキアはノルドランドを上回ってはいるが、ノルドランドはそれを埋め合わせるために傭兵部隊を雇い始めた。傭兵連中は、そこら中で実戦の腕を磨き、修羅場を潜り抜けてきた腕利きばかりだ。腕が悪かったり、運に見放されているような傭兵の戦闘機乗りは、既に死んでいる。

 

『サーベル2よりサーベル1へ。ノルドランド空軍機とは違う反応の敵が混ざっています』

 

『奴らは傭兵連中だ。油断するな。空軍が、奴らにかなりやられているからな』

 

 気に入らん、とサーベル2のパイロットは思った。操縦技術と報酬だけで生き残っているような、故郷を捨て、雇い主をとっかえひっかえし、国を発展させ、守る誇りなんてものは持っていない、腐った奴ら。しかも、そんな奴ら相手に、空軍連中はかなりの被害を出しているという。

 くそっ、何としても、カセマリルム港を接収せねばならない。そこを拠点とすることができれば、ノルドランド本土侵攻が一気に進むだろう。後から続いている、陸軍の戦車や歩兵を満載した海軍の揚陸艦部隊のためにも、突破口を必ず開かねばならないのだ。

 後方からは、更に増援の戦闘機がやってきているはずだ。更に、ノルドランド海軍艦隊を叩くための攻撃機部隊も、次から次に出撃させているという。必ず、カセマリルムは奪い取らねばならない。

 

 1996年 1月28日 0949時 ノルドランド ソルカセマリルム湾

 

「敵機接近!方位197、距離3000、マッハ0.7、数4!」

 

「対空戦闘用意!僚艦にも伝達!」

 

 ノルドランド海軍駆逐艦"リマルンゼン"のCICがにわかに慌ただしくなった。レーダーが接近する敵機編隊を捉えたのだ。

 

「SM-2発射準備急げ!」

 

「レーダーで敵を捉えました!」

 

「くそっ、時間差で誘導しなければ、一度に攻撃できるのは2機までか。間に合うかどうか・・・・・・」

 

「更に敵機接近!数4!こちらには"ケルハイム"が対処するとのことです!」

 

「艦長!敵機から小目標が!対艦ミサイルです!」

 

「迎撃せよ!艦首を197に向けろ!急げ!」

 

 リマルンゼンとその僚艦のフリゲート"ケルハイム"は回頭し、艦首を対艦ミサイルが飛んで来る方向へ向けた。できる限り見かけ上のレーダー断面積を小さくし、対艦ミサイルのアクティブレーダーに捉えられにくくするためだ。すぐにリマルンゼンのVLSの蓋が開き、矢継ぎ早にSM-2ERが発射される。一方、やや旧型のケルハイムはVLSが無いため、Mk26発射機に搭載されたRIM-7シースパロー艦隊空ミサイルで対処するしか無かった。

 

 MiG-23から発射された8発のKh-59空対艦ミサイルが真っすぐリマルンゼンとケルハイムを目指した。ミサイルはレーダーで捉えられるのを防ぐため、海面ギリギリの低空を飛んでターゲットへと向かっていく。槍を放った鳥は、迎撃されないよう、すぐにその場から飛び去った。

 

 1996年 1月28日 0948時 ノルドランド ソルカセマリルム湾 駆逐艦リマルンゼンCIC

 

「対艦ミサイル接近!数、2!」

 

 リマルンゼンのCICの画面では、リマルンゼンとケルハイム、そして放ったSM-2とこちらに飛んで来るKh-59のアイコンが表示されている。既にミグは飛び去り、こちらのレーダーの探知範囲外に出てしまっていた。SM-2とKh-59はお互いに正面衝突するコースを辿っている。

 

「迎撃まであと10秒・・・・・・5・・・・・・・撃墜!第2目標も消滅!迎撃成功!」

 

 だが、ケルハイムに向かっている対艦ミサイルのアイコンは、迎撃時間を過ぎているのに2つとも消えていない。

 

「艦長!ケルハイムに接近するミサイル2発!迎撃に失敗したようです!」

 

「くそっ!こっちから迎撃できるか!?」

 

「間に合いません!後は、ケルハイム次第です!」

 

 1996年 1月28日 同時刻 ノルドランド ソルカセマリルム湾 フリゲート艦ケルハイムCIC

 

「ミサイル外れました!対艦ミサイル、向かってきます!」

 

「チャフ、フレア発射!」

 

「対空ミサイルでは間に合いません!CIWSで対処します!」

 

「くそっ!海面クラッターに紛れてレーダーが上手くロックされない!」

 

「チャフ発射!ECM作動!」

 

「ダメです!真っすぐ突っ込んで来ます!」

 

「総員、衝撃に備えよ!」

 

 ケルハイムの艦橋にKh-59の初弾が直撃した。2発目はECMの影響で外れたものの、3発目が艦前部のVLSと主砲の間、4発目がヘリ格納庫を爆破した。その場にいた水兵たちは即死し、艦内で浸水と火災が発生した。

 

「ミサイル直撃!2ヶ所で浸水発生!」

 

「ダメコンは!?」

 

「くそっ!左舷部から傾いている!」

 

「ヘリ格納庫から報告!爆発で8名死亡!5名負傷!うち2名が重傷!」

 

「浸水の勢いが激しく、ダメコン間に合いません!」

 

 ケルハイムの艦長、ロアルド・フローゼン大佐はマイクを手にして、全艦放送に繋いだ。

 

「艦長より命ずる!総員、退避!繰り返す、負傷者の救護をしつつ、総員退避せよ!」

 

 ケルハイムの艦内でけたたましい警報が鳴り響いた。艦長と一部の将校を除き、水兵たちが救命ボートを出して艦から離れ始めた。その間にも、ケルハイムはどんどん冷たい真冬の海の中へと引きずり込まれつつあった。


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