ACE COMBAT after story of the demon of the round table   作:F.Y

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飽和攻撃

 1996年 1月28日 1003時 ノルドランド ソルカセマリルム湾

 

「ソノブイ投下。MADに反応有り」

 

「位置特定急げ。スクリュー音を観測したら、すぐにデータ照会しろ」

 

 ノルドランド海軍のP-3C哨戒機が、両海軍が激しく撃ち合っている海域からやや離れた場所で警戒飛行をしてあいた。この辺りは味方が制空権をほぼ確保している。

 哨戒機は敵戦闘機に対する対抗手段を全く持たないため、味方が制空権を確保してくれているエリアだけを飛ぶのが鉄則だ。

 

 ノルドランドはこのオーシア製の対潜哨戒機を多数配備している。もともと、ノルドランドは1980年代末まで続いていたオーシアとユークトバニアの東西冷戦時は、オーレリア、ウェローと共にオーシアの陣営に加担していたため、オーシアとの結びつきが強い傾向にある。

 一方、ユーク陣営に加担していたのは、エストバキア、ソトア、レサス、エルジアだ。特に、南オーシアにできた東側陣営のレサスに対して、オーシアはかなり神経を尖らせていた。

 

 TACCOのクルーがイヤホンから聞こえる、パッシブソノブイが海中から拾う音に耳をすます。この時は、彼自身から言葉を発しない限り指揮官であっても話しかけるのは禁物だ。そんな事をしたら、敵の潜水艦の微かなスクリュー音を聞き逃し、その結果、味方艦隊を大きな危険に晒すことになる。P-3Cのオペレーションルームは、暫しの間、静かなターボプロップの音と機械の電子音だけに満たされた。

 

 TACCOクルーが手をピストルの形にして挙げて合図した。ソノブイのオペレーターが、今度は棚からアクティブソノブイを1つ掴んで海面に落とす。彼は一定間隔で同じソノブイを5つ、海面に落とした。

 

 1996年 1月28日 1011時 ノルドランド ソルカセマリルム湾

 

『AWACSガーディアンより戦闘機部隊へ。今から指示する目標を攻撃せよ。データリンクで転送する。確認せよ』

 

 サイファーは多機能ディスプレイを操作し、次のターゲットを確認した。どうやら、ウェルヴァキア海軍の大型巡洋艦のようだ。

 

「こいつは・・・・・巡洋艦ヤルゼルスキか。大物だな」

 

 巡洋艦ヤルゼルスキ。ウェルヴァキア海軍の旗艦であるツマンスキ級巡洋艦の2番艦だ。全長約230m、基準排水量9500t。満載だと12500t。130mm速射砲、4連装対艦ミサイルランチャー2基、2連装対空ミサイル4基、長魚雷発射管2基、近接対空機関砲を備え、ヘリコプターまで搭載可能な大物だ。

 

 ヤルゼルスキを攻撃するのは、サイファー、ジャガー以外にも10個編隊が割り当てられている。そこで、サイファーの頭に、ある考えが浮かんだ。この化け物を確実に仕留めるには、これしか方法が無い。

 

「マングース1よりガーディアンへ。こいつをぶん殴るのに、もう10機程寄越してくれないか?それから、海軍のフリゲートやミサイル艇、哨戒機も寄越してくれると有難い」

 

『マングース1、何のつもりだ?』

 

「飽和攻撃だ。考えてもみろ。あれは、ウェルヴァキア海軍で恐らく最も強力な防空作戦能力があるはずだ。そんなのを簡単に潰せるとでも思うか?俺はそうは思わん。だが、あの艦にはイージス・システムは搭載されていない。だとしたら、たくさんのミサイルに対処する能力は、それほど高くは無いはずだ」

 

『わかった。待機せよ』

 

 暫くしてガーディアンのオペレーターから返事が来た。

 

『ガーディアンよりマングース1へ。飽和攻撃の許可が出た。今から呼ぶ編隊は、これよりマングース隊の周りに集まってくれ』

 

 それから、F/A-18DやラファールM、F-2A、F-16C、シュペル・エタンダールといった戦闘機がサイファーとジャガーの周りに集まった。

 

『それで、鬼神さんよ。あのデカブツを沈めるのに、考えがあるって?』

 

「ああ。これより、この編隊の全機で対艦ミサイルを撃って、飽和攻撃を仕掛ける」

 

『なるほど。こいつは大物だ。ウェルヴァキア海軍の旗艦の2番艦だ。こいつを海の藻屑にすれば、報酬が跳ね上がるぞ』

 

『確かに、こいつだけ、周りにフリゲートが3隻、金魚の糞みたいにくっついてやがる。間違いなく護衛だろ。それに、こいつはイージス艦じゃないから、ミサイルを全方位からしこたまぶちこめば、いずれは対空能力に限界を迎えて、撃沈できるってことか!』

 

『こいつはいい。4隻まとめてぶっ潰して、報酬山分けだ!』

 

『乗った』

 

『やろうぜ』

 

「マングース1よりガーディアンへ。飽和攻撃のための最適な攻撃コースを指示してくれ・・・・・・・・」

 

 1996年 1月28日 1017時 ノルドランド ソルカセマリルム湾

 

 30機以上もの戦闘機が一定間隔を空け、艦隊に向かった。更に、その後ろからは10機程のP-3C哨戒機が続いている。P-3Cのパイロンにはハープーン対艦ミサイルがぶら下がり、ウェポンベイにはMk48魚雷も搭載されている。実は、この飽和攻撃の肝となるのは、ミサイルでは無く魚雷の方だ。対艦ミサイルはレーダーに映り、かなり目立つ存在のため、敵艦はそっちを対処するのに気を取られるだろう。そこで、時間差でP-3Cが魚雷を放つ。そうすると、海面の下を行く暗殺者にまで気を回すのは難しくなるはずだ。

 

『AWACSガーディアンより攻撃部隊へ。攻撃準備が出来次第知らせろ』

 

 ものの数十秒で攻撃編隊の全ての航空機から返事が来た。

 

『よし、それでは作戦を実行する。攻撃30秒前・・・・・・20・・・・・10・・・・5、4、3、2、1、撃て!』

 

 戦闘機から一斉に対艦ミサイルが発射された。それらは雲霞のようにヤルゼルスキへと向かった。

 

 1996年 1月28日 1013時 ノルドランド ソルカセマリルム湾

 

「対艦ミサイル接近!くそっ!なんて数だ!」

 

「うろたえるな!今こそこの艦の防空能力を見せつける時だ!」

 

「対空ミサイル発射準備完了!迎撃モードは自動に設定しています!」

 

「やれ!」

 

「発射!」

 

 ヤルゼルスキのVLSから矢継ぎ早に対空ミサイルが発射された。周囲のフリゲートからも同様にミサイルが射出される。この艦の凄まじいところは、対空ミサイル照準用のイルミネーターの能力の高さだ。一基のイルミネーターで同時に5つの目標に対してミサイルを誘導することができる。その装置を、ヤルゼルスキはなんと10基も設置しているのだ。性能をフルに発揮させることができれば、理論上は一度に50個の航空機や対艦ミサイル、巡行ミサイルを補足、追跡、撃破することができる。ヤルゼルスキからSA-N-9対空ミサイルがどんどん飛翔していく。だが、サイファーの予想通り、ヤルゼルスキの注意は空の上を向き、海面の下に対するそれは疎かになりつつあった。

 

 1996年 1月28日 1014時 ノルドランド ソルカセマリルム湾

 

『いいぞ。奴らの注意は全部空に向いている。よし、魚雷攻撃を仕掛けろ!』

 

 P-3Cがウェポンベイを開き、Mk48魚雷を全て投下した。魚雷は暫く慣性で海中を進んだ後、パッシブソナーでヤルゼルスキ艦隊のスクリュー音を捉えた。海中を特急列車のような勢いで目標に向かう。

 

 魚雷の投下を終えた対潜哨戒機は、敵艦隊からの対空ミサイルによる反撃を避けるためにすぐに味方の制空権の下に向かって逃げ出した。

 

 1996年 1月28日 1015時 ノルドランド ソルカセマリルム湾

 

 ヤルゼルスキはその高い防空能力をいかんなく発揮し、襲い来る対艦ミサイルを次々と撃墜した。周囲で爆発が起き、ミサイルの破片が飛び散る。

 

「アクティブレーダー正常!」

 

「ミサイル発射装置は正常です」

 

「くそっ、奴ら、どれだけ対艦ミサイルを用意していたんだ。そろそろ弾が尽きるぞ」

 

「畜生!」

 

「チャフ、フレア発射!」

 

「対空デコイ、発射!」

 

 そんな中、対潜士官がようやく魚雷の接近に気づいた。

 

「艦長!魚雷です!距離250!こっちに向かってきます!」

 

「対魚雷デコイを!」

 

 艦橋の窓越しに、護衛のフリゲートが1隻、爆発するのが見えた。

 

「畜生!」

 

「魚雷、来ます!」

 

「総員、衝撃に備えよ!」

 

 1996年 1月28日 1015時 ノルドランド ソルカセマリルム湾

 

 ヤルゼルスキの真下で魚雷が次々と大爆発を起こした。凄まじい水柱が立ち上り、巨大な巡洋艦を真っ二つにへし折った。他の艦船も対艦ミサイルや魚雷を食らって同じような運命を辿った。

 

 ヤルゼルスキが沈没した直後、そこから300km東に離れた海面で大爆発が起き、潜水艦が一隻、海の藻屑となった。破壊したのはノルドランド海軍のP-3Cだ。

 

 唯一、フリゲート"チェコフスキ"が中破した状態で這う這うの体でウェルヴァキアの母港に帰り着いたが、ウェルヴァキア海軍はこの作戦でかなりの犠牲を払ってしまう結果となった。 

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