ACE COMBAT after story of the demon of the round table 作:F.Y
1996年 2月5日 1008時 ノルドランド上空 AWACSホワイトキング
ピーター・ダールはE-3Bのコンソール室の中でレーダー画面をじっと見ていた。幾つもの敵味方が入り乱れる輝点の中に、一つだけ民間機の信号を発する航空機が紛れ込んできた。とは言え、この航空機を空域から追い払うためだけに戦闘機を差し向けるだけの余裕が無い。
「こちらノルドランド空軍だ。ノルド貨物航空1132便、聞こえるか?繰り返す。こちらはノルドランド空軍だ。ノルド貨物航空1132便、こちらの声が聞こえたら周波数を116.43に切り替えて応答せよ。繰り返す、ノルド貨物航空1132便へ。こちらはノルドランド空軍だ。こちらの声が聞こえたら、116.43に無線の周波数を切り替え・・・・・・」
雑音が聞こえるだけ。向こうからは全く応答は無い。
「こちらノルドランド空軍だ。ノルド貨物航空1132便、聞こえるなら応答せよ!」
「ダール中佐、どうですか?」
同じオペレーターであるヨハン・ローレンゼン大尉がダールに訊く。
「だめだ。全く応答が無い。もしかしたら、向こうの無線機が壊れているのかもしれない」
「ジッパーコマンドによるモールス信号を使ってみてはどうでしょう。無線は通じなくても、雑音くらいは聞こえるかもしれないですよ」
「やってみる価値はありそうだな。やってみよう」
ダールは無線のスイッチをカチカチと動かし、モールス信号を打電し始めた。これにノルド貨物航空が気づいてくれれば良いのだが。
1996年 2月5日 1009時 サウスノルドランド海上空 ノルド貨物航空1132便
無線機が完全に死んでいるため、当のノルド貨物航空のパイロットはダール中佐に応答のしようが無かった。1132便はウェルヴァキアとノルドランドの国境線のノルドランド側でゆっくりと飛行していた。機長は高度計に目を凝らし、その後、窓の外の光景を確認する。見たところ、高度計は概ね正しく表示されているようだ。だが、慣性航法装置と無線がいかれてしまっている。特に、慣性航法装置の表示は止まってしまったままだ。
「くそっ、どうなっているんだ?」
「機長、高度を落としますか?」
「ああ、そうしてくれ。無線機はどうだ?」
「ダメです。全く回復する様子はありません。慣性航法装置も同じです」
「くそっ、せめてどっかの空港か、空軍のレーダーサイトと連絡を取れればよいのだが。トランスポンダーの表示はどうなっている?」
「相変わらず、うんともすんとも言いません」
「くそっ。コンパスは?」
「かろうじて生きているようです。姿勢指示器も同じく」
「わかった。我々が向かっているのは、ここから北東だ。機首の方位を045に合わせろ。海岸線が見えたら、地図と照らし合わせよう」
しかし、ノルド貨物航空1132便は全く見当違いの方向へと飛び始めていた。
1996年 2月5日 1009時 ノルドランド・ウェルヴァキア国境地帯
ウェルヴァキア陸軍の地対空ミサイル部隊がノルド貨物航空1132便の機影をレーダーで捉えた。その航空機は国境地帯をウェルヴァキアに向かってどんどん近づいてくる。
ウェルヴァキア陸軍の防空部隊の司令官は、この機体が空挺部隊を乗せたノルドランド空軍の輸送機ではないかと疑った。
「大尉、この航空機のIFFの信号をもう一度確認しろ。もしかしたら、ノルドランド空軍の輸送機の可能性もある」
「わかりました。IFF質問信号をもう一度送信します」
1996年 2月5日 1010時 ノルドランド・ウェルヴァキア国境地帯上空
ノルド貨物航空はそのまま真っすぐウェルヴァキア領空に接近していった。AWACSホワイトキングの呼びかけにも一切答えない。しかも、高度もどんどん下がっている。
「畜生。こいつはまずいぞ。あの民間機、どんどんウェルヴァキアに向かっている」
ピーター・ダール中佐はレーダー画面を眺めて言った。他のオペレーターもノルド貨物航空1132便に必死に呼び掛けているものの、向こうから全く返答が無いのだ。このままでは、ウェルヴァキアの防空部隊に撃墜されかねない。一番まずいのは、トランスポンダーの信号が消えてしまっていることである。この場合、ウェルヴァキアの防空部隊に敵機と判断されて撃墜されてしまいかねない。そして、ダール中佐の悪い予感は不幸にも的中してしまったのであった。
1996年 2月5日 1011時 ウェルヴァキア国内
ウェルヴァキア陸軍北部国境第113防空中隊の動きが慌ただしくなった。9K12中射程地対空ミサイルのランチャーが2基動き出し、4連ランチャーが空を向いた。1S91レーダー車のレーダーアンテナが回転し始めた。
「IFF質問信号を送信。反応ありません。領空内まであと10分です」
ウェルヴァキアの防空小隊の大尉が中佐に報告した。
「防空司令部に問い合わせろ。命令があるまでは撃つな」
「わかりました。時間はありませんが、仕方がありません」
大尉が通信隊の伍長のところに向かった。
「伍長、防空司令部に繋いでくれ。敵味方不明の航空機が許可なく領空に接近していると。ノルドランド空軍の空挺部隊を乗せた輸送機の可能性もあるということも付け加えてくれ」
1996年 2月5日 1005時 ウェルヴァキア空軍 防空司令部
防空司令部のレーダー画面でもIFF質問信号に応答が無い航空機の存在を確認していた。ここでも件の航空機をノルドランド空軍機であると疑っている者が多数いた。やがて、司令部の電話が鳴り、担当の大尉が電話に出た。
「少将、北部国境第113防空中隊からです。件の航空機を攻撃するかどうか、命令を待っているとのことです」
「そうか。IFFの質問信号をもう一度確認しろ」
「わかりました」
オペレーターが再びレーダー画面を確認し、IFFの質問信号を送信した。やはり応答は無く、無線の呼びかけにも応用が無い。
「質問信号にも無線にも応答がありません」
「わかった。やむを得ん。攻撃を許可する」
1996年 2月5日 1006時 ウェルヴァキア国内
9K12地対空ミサイルが1発、煙の尾を引きながら空に向かって飛んで行った。続いて、もう1発発射される。戦闘機ならば1発で十分だが、大型輸送機の場合は1発だけでは仕留め損ねる可能性があるからだ。ノルド貨物航空のB747は、凄まじい勢いで地上から殺し屋が迫ってきていることに全く気付かず、ウェルヴァキア領空内に向かって飛行し続けた。