ACE COMBAT after story of the demon of the round table 作:F.Y
1996年 2月5日 1007時 ノルドランド上空
『メーデー!メーデー!こちら、ノルド貨物航空1132便!機体損傷!きん・・・・・』
雑音が入り音声は途切れた。ピーター・ダール中佐が無線機のマイクを手に取る。
「こちらノルドランド空軍機ホワイトキングだ。1132便聞こえるか!?」
沈黙。
「ノルド貨物航空1132!ノルドランド空軍だ!聞こえるか!?」
ダール中佐はレーダー画面を確認し、先程のunknownのトランスポンダーのナンバーが付いた飛行機が飛んでいないかどうか、改めて確認した。unknownのトランスポンダーは消えている。
今すぐ、捜索救難をよこすべきだろうか。いや、そんな余裕がある状況では無いかもしれない。敵の戦闘機が味方に向かってきている。戦いに備えねばならない。だが、その前に。
「ヨハンソン大尉、司令部に連絡。シエラ8戦区で民間旅客機が墜落した可能性があると報告!それと、救難捜索部隊を派遣できるかどいかも聞いてみてくれ!」
「わかりました」
極めて厄介な事になった。作戦空域に民間機が紛れ込み、更にそれが撃墜された可能性が高くなった。しかし、だ。このノルド貨物航空機は、どこから飛来したのだろうか。戦争中のため、民間機が飛行できるエリアやルートは毎日、ノルドランド航空局から各航空会社に毎日、午前と午後、夜間の3レポートが回に渡って届けられるはずだ。民間のパイロットは、それをもとにして飛行機を飛ばしている。もしかしたら、この作戦における飛行禁止区域のレポート作成が間に合わなかったのか?そんな事は無いはずだ。この作戦自体は、昨日の夕方前には実行が決まっており、昨日の深夜。遅くとも、今日の未明には航空会社にレポートが届けられているはずだ。
なぜ、あのノルド貨物航空機はウェルヴァキアに向かっていたのだろうか。現在、ノルドランドとウェルヴァキアを結ぶ航空路線は、旅客、貨物ともに運休になっており、航空局からも通達が出ていたはずだ。もしや、ウェルヴァキアがTACANを使って偽のINSの情報を流したとか。いや、そんなことをして、ウェルヴァキアは何の利益も得ないはずだ。むしろ、民間機を撃墜するつもりで誘導したと非難されるのが落ちだ。
十中八九、何か原因で1132便は飛行コースをずれ、ウェルヴァキアの防空部隊から空軍の輸送機と判断され、攻撃されたのだろう。
今後、何らかの形で報復攻撃が行われる可能性があるだろう。だが、それを考えるのは後だ。
だが、問題は、国境近くとは言え、まだ領空侵犯していない民間の飛行機を、戦闘機を差し向けて目視による確認もせずに撃墜したということだ。確かに、ノルド貨物航空1132便のトランスポンダー信号は消えていたが、それまでは、はっきりと民間航空機の信号を送信していたはずだ。
1996年 2月5日 1009時 ノルドランド・ウェルヴァキア国境地帯
MiG-23が4機、ノルドランド空軍と傭兵部隊の方に向かってきた。だが、交戦規則のため、敵機がノルドランド領空に侵入するか、レーダー照射を受けない限りは撃つことができない。
好戦的な傭兵たちにとっては、それがやや足枷になっていた。目の前にミサイルの射程内に入り込んだ獲物がいるというのに、『国境』という見えない壁に阻まれて、獲物を逃がしてしまうのだ。
国境。確かに存在するが、この空の上から見たら、地上に目に見える形で存在している訳では無い。確かに、山脈や川、長い溪谷地帯など、自然にできた地形を利用し、隣国との協定で国境と定める国も少なくない。だが、そんな自然物が無く、ただただ平野や砂漠が広がるだけの場所であれば、上空から国境を"見る"ことはできない。
しかし、国と国との間の秩序を保つためには国境は必要だ。国境が無ければ、むやみやたらに人や物が際限無く行き交い、場合によっては国際犯罪を生む。異なる文化や言語を持つ人間が、見境無く別の文化、言語を持つ人間の中に入り、寄生し、他国を内部から攻撃するような事があれば、必ずや対立が発生し、それは最終的には争いになる。それを防ぐためにも、先人たちは、同じ言語や文化を持つ大きな集団を形成し、異なる言語・文化を持つ集団と交流しつつも、ある程度、他者と自分たちとを区別する地理的・文化的な壁を作った。それが段々と大きくなり、国家となっていったのだ。
ラリー、あんたはやっぱり間違っていた。国境が有ろうが無かろうが、結局、人間は争いをする。そんな争いを起こす奴らは、国境なんて全く気にしない。そんな"境界線"だなんて、完全に無視して他国を侵略し、そこに住む人間の生活を踏みにじる。国境を無くしたところで、何の意味も無いのだ。
サイファーは目の前の敵に集中した。レーダーがノルドランド領空に入ってきた敵を捉えた。全部で4機。ミサイルと燃料の残量を考えると、こいつらを撃墜したら、一旦基地へ補給に戻らねばならない。サイファーはSu-35BMの火器管制画面を表示させ、R-77のセイフティを解除した。
「マングース1、レーダーロック」
『マングース2、レーダーロック』
ジャガーも敵機を捉えたようだ。ちょうどいい。一気に片付けてしまおう。
「Fox1」
R-77とミーティアが時間を置いて2発ずつリリースされ、侵入してきた敵に向かって飛翔した。旧型の電子防御装置しか持たないMiG-23ML"フロッガーG"はあっという間に最新鋭の空対空ミサイルに追い付かれ、爆発した。
『マングース2、ビンゴ。一旦帰還させてください』
「マングース1了解。援護する」
Su-35BMとJAS-39Cは反転し、編隊を組み直してからヨアキムロル基地へと帰還していった。ノルドランド、ウェルヴァキア両空軍共に、ミサイルや燃料を使い果たし、基地へと引き上げていく機体が目立ち始めた。戦闘の第一ラウンドが終わる頃だ。だが、程なくして第二ラウンドが始まるだろう。兵器や燃料を満載した鳥に乗った、空の殺し屋たちによって。