ACE COMBAT after story of the demon of the round table 作:F.Y
1996年 2月11日 1635時 ウェルヴァキア ルムハムヴァ防空基地付近上空
『おい、オックス1、見えるか?敵が撤退していくぞ』
『本当だ。基地を放棄することにしたのか?』
ウェルヴァキア空軍のミグが反転し、基地の上空から離れて行った。Il-76輸送機やAn-72もその場から逃げ出していく。
『今のうちに畳みかけるか?』
『ああ、やってしまおう!』
傭兵部隊の編隊が前に出た。敵は敗北寸前だ。ここで基地を壊滅させれば、報酬は一気にに増額になるだろう。F/A-18Cの編隊が基地上空に向かい、それにグリペンも続く。基地の上空に一斉に傭兵とノルドランド空軍の戦闘機が向かった。
『やれ!ぶっ潰せ!』
F-15EがCBU-87をばら撒き、F/A-18DがMk84爆弾を投下する。滑走路に穴が開き、格納庫が潰れ、管制塔が崩れていった。
『ヒャッハー!やっちまえ!全部ぶっ壊せ!』
兵舎が崩れ落ち、SA-11やSA-10のランチャーが焼け焦げた鉄骨と化す。4機のA-10Cが編隊を組んで、Mk84通常爆弾を連続して投下しながら飛び去った。爆弾は地上で炸裂し、駐機しているミグを切り裂く。これならば、帰った後で受け取れる報酬は大幅増額間違い無しだ。傭兵たちは、目の前の獲物に舌なめずりをするような三下では無い。容赦無く、徹底的に破壊し、ルムハムヴァ防空基地を更地にせんとするような勢いで攻撃した。
サイファーは地上の獲物よりも飛んでいる獲物に注意を向けた。R-77を放ち、低空飛行して逃げようとしていた2機のMiG-23MLを撃墜する。
どうやら、ウェルヴァキア空軍はこの基地を放棄することを決めたらしい。輸送機が南西の方に飛び去って行き、それを護衛するように戦闘機が取り巻いている。
敵は一旦撤退し、体制を整え直すことを考えたのだろう。続いてサイファーは機体を上昇させ、高空を飛んでいる獲物に注意を向けた。ジャガーが後ろから追随し、輸送機をサイファーと共に追いかけ始める。
「マングース1、Fox1」
サイファーはR-77を1発撃った。狙いは正面にいるAn-72だ。ミサイルは翼の上にエンジンを乗せた珍妙な輸送機の近くで近接信管を作動させ、金属製のフラグメントで機体を切り裂いた。中型輸送機はその場で空中分解を起こし、ジュラルミンや炭素繊維の破片となって地上に降り注いだ。
『サイファー、あいつら逃げていきますね。どうしたんでしょう?』
「撤退することを決めたようだが・・・・・・妙だな」
『妙?何がですか?』
「いや、口では説明できんが、どういう訳か変な感じがする」
『注意した方が良いということでしょうか?』
「ああ。前にもこういうことがあった。あの時は、確か・・・・・・」
1996年 2月11日 1639時 ウェルヴァキア上空
E-3Cの機内でピーター・ダール中佐はレーダー画面に注意を向けた。敵機は撤退を始め、どんどんレーダーの覆域外へと出ていく。
「妙だな。奴ら、基地を放棄することにしたのか?」
「恐らくは。しかし、ここはウェルヴァキア空軍基地でも、かなりの大規模な飛行場で、重要な戦略上の拠点になるはずですよ。そんなに簡単に放棄しますかね?」
ダール中佐の隣の席でレーダー画面を注視していた大尉が答える。ダール中佐は無線のスイッチを入れた。
「こちらAWACSガーディアン。敵が撤退していくが、何か妙だ。気を付けろ」
1996年 2月11日 1642時 ウェルヴァキア ルムハムヴァ防空基地上空
トーネードIDSが滑走路の上空を真っすぐフライパスした。機体下に取り付けられたディスペンサーから小さなボムレットがばら撒かれ、滑走路に着弾すると一斉に爆発した。このJP-233というディスペンサーは子爆弾と対人地雷を同時に散布する兵器だ。子爆弾で滑走路を掘り返し、対人地雷で滑走路の復旧作業を妨害する。
「こちらマンティス1、対人地雷散布完了」
『マンティス2、こちらも対人地雷散布完了。帰投する』
4機のトーネードIDSは低空飛行したまま、ノルドランド方面へ機首を向けた。攻撃は既に仕上げの段階に入った。ルムハムヴァ防空基地は壊滅し、復旧には数か月を要するだろう。
『楽勝でしたね。隊長、帰ったら一杯やりましょう』
「いいだろう。全員、俺のおごりでいいぞ」
『そいつはいいですね。燃料はどうです?』
「基地に帰るには十分すぎるくらいだ。空中給油する必要も無さそうだ」
『マンティス2、こちらも燃料は十分残っています。とっとと帰りましょう』
『マンティス3、こちらも残燃料は十分あります。爆弾さえあれば、もう1回くらいは爆撃できそうです』
「マンティス1からマンティス3へ。俺たちの今日の仕事はもう終わりだ。後ろを見ろ」
マンティス3のWSOが後ろを振り返った。ルムハムヴァ防空基地から再び火の手が上がり、黒煙が立ち上る。もう自分たちの出る幕は無いだろう。既にほかの戦闘機も引き返し始めている。
『確かに、そうみたいですね。これで・・・・・・』
『注意!レーダーにミサイルを補足!これは・・・・・弾道ミサイルだと!?』
『何!?今、何と・・・・・・』
マンティス2のパイロットがそこまで言った時、低空で凄まじい爆発が起きた。
1996年 2月11日 1643時 ウェルヴァキア上空
サイファーは高空から連続して花火が炸裂するのを見た。その花火をもたらしたのは、先程、不意に現れた弾道ミサイルだ。
『くそっ、今のは何だ!?』
『ガーディアン!一体何が起きた!?』
『こちらAWACSガーディアン。弾道ミサイルが飛来し、高度8000フィート以下の航空機がやられた!』
「畜生!」
『AWACSガーディアンより各機へ。ミサイル攻撃を避けたければ高度8000フィートよりも高く飛べ!繰り返す!高度8000フィート以上に退避しろ!くそっ!またミサイルだ!』
弾道ミサイルが再び飛来した。空中でボムレットを巻き散らして、炸裂する。その爆発に巻き込まれた戦闘機が墜落していく。
「サイファーよりジャガー、情報は明らかか?」
『ええ。8000フィート以上を飛びながら、基地に撤退。これでいいですね』
ノルドランド空軍と傭兵部隊の戦闘機がノルドランド領内に向かった。その下で子爆弾が何度も爆発する様子が見える。それに巻き込まれた機体が地面に向かって真っ逆さまに落下していく。
『全機、高度8000フィート以上を保ちながら撤退せよ!繰り返す!高度8000フィート以上を保ちながら基地へと帰還せよ!』
ミサイルが連続して飛来し、空中で爆発が起きる。また味方が巻き込まれた。
『やられた!イジェクト!イジェクト!』
『まだ飛べるやつは8000フィート以上を飛べ!繰り返す!8000フィート以上を飛びながら撤退しろ!』
ノルドランド空軍と傭兵部隊の連合軍の戦闘機部隊は、その数を半分ほどまでに減らしていた。残った戦闘機は僅かな情報を頼りに、8000フィート以上の高空を保ちながら飛行し、基地へと帰還した。しかし、その途中で損傷した傭兵部隊のミラージュ2000Cが1機、山に墜落し、着陸時にF-15Cが1機、クラッシュした。イーグルに乗っていた傭兵は、事故時にコックピットと一緒に潰れていた。
1996年 2月11日 1714時 ノルドランド ヨアキムロル基地
『サイファー、ジャガー、着陸を許可する。風は正面から4ノット。西から1ノットの横風がある。注意しろ』
Su-35BMとJAS-39Cは殆ど風に揺られること無く、滑走路にふわりと着陸した。基地の様子は相当混乱していた。負傷したパイロット。帰還できたものの、ずたずたに引き裂かれた戦闘機。滑走路の向こうには、潰れたF-15Cが放置されている。思わぬ反撃に、ノルドランド空軍は大きな痛手を被った。だが、サイファーは別のことを考えていた。今日の不意打ちで確認した、空中で炸裂する兵器に、彼は見覚えがあった。だが、レーダー画面上に"アレ"らしき機体は映っていなかった。もしウェルヴァキアが"アレ"を持っていたとしたら、『国境なき世界』の残党が入り込んでいることが確実視される。
とにかく、自分はなんとか生き残った。今日の攻撃が何であれ、ノルドランド軍の情報部が今頃、分析しているだろう。
「サイファー。大丈夫ですか?」
JAS-39Cから降りてきたジャガーが基地のエプロンでサイファーに話しかける。サイファーはフランカーの状態を確かめ、彼に向き直った。
「ああ」
「サイファー、何か言いたそうな顔をしていますね。どうしたんですか?」
「今日のあの攻撃。見覚えがある」
「何ですって!?」
「情報部にも伝えた方がよさそうだ。あれに似た攻撃を、俺は前に見たことがある」
「善は急げですよ、サイファー。早く行きましょう」
2人は、戦闘機の点検を素早く終わらせてから、基地の情報部へと足早に向かって行った。衛生兵は負傷したパイロットの手当てに、整備兵は損傷した機体の点検に、それぞれ忙殺されていた。