ACE COMBAT after story of the demon of the round table 作:F.Y
1996年 2月24日 1033時 ノルドランド ヨアキムロル航空基地
「諸君、我がノルドランド政府は、先の原子炉攻撃未遂に対して、ウェルヴァキアに対する報復攻撃を行うことを決定した。今回、攻撃するのはウェルヴァキアのパヴロ・レイマンスキ空軍基地だ。ここには、多数の爆撃機が確認されており、先日の攻撃も、この基地から飛び立った爆撃機により行われたことが確認された」
ロビン・リー少佐がキーボードを操作すると、パヴロ・レイマンスキ空軍基地の地図とBM-335リントヴルム戦略爆撃機の3DCGのイメージ映像がスクリーンに映し出された。
「パヴロ・レイマンスキ空軍基地には、再び多数の爆撃機が集結していることが確認された。恐らく、我が国に対して再度、大規模攻撃を仕掛けてくるものと考えられる。諸君、我々は再度、ノルドランド国土を攻撃される前に、奴らを叩くことにした。ウェルヴァキアは未だに領土の割譲要求を取り下げていない。それどころか、先日の空爆で破壊された航空機や死亡した兵士に関して法外な賠償金を要求してきた。勿論、我が政府はそれを一蹴した。そんな金があれば、我が軍の優秀な兵士や傭兵諸君に払うべきだというのが、政府の考えのようだ。それでは諸君、出撃!」
1996年 2月24日 1103時 ノルドランド ヨアキムロル航空基地
サイファーはSu-35BMに搭載された兵装を確認していた。R-73とR-77、そしてKAB-1500誘導爆弾、増槽も搭載されている。実際に手に触れて、パイロンやランチャーにしっかり装備が装着されているかどうかを確認した。ノルドランド空軍の整備兵たちを信用していない訳では無いが、最終的に戦闘機に責任を持つのは持ち主である自分自身だ。それに、サイファーは一人でも戦闘機を一通り整備するスキルを持っている。
周りを見回すと、傭兵たちがそれぞれが持っている戦闘機の状態をしきりに確認していた。ノルドランド空軍の整備兵たちからしてみたら、まるで自分たちの仕事を傭兵たちは信用していないかのように映るかもしれない。だが、これは、軍と違って信用できる後方支援体制を持たない傭兵パイロットの
大きな雪の粒がぱらぱらと落ちてきた。西の方には雲の塊が広がっている。この国の冬の寒さは厳しいが、傭兵たちの懐は暖かい。事実、ノルドランド政府の羽振りはかなり良く、ウスティオにいた頃よりずっと稼ぐことができている。
「鬼神さんよ。この間は随分稼いだみたいだな」
話しかけてきたのはオーレリアから来た傭兵で、名前はローレンス・パーマーといった。
「半分は生活のため、半分は俺の趣味ってとこだな。こいつを飛ばし続けるのも金がかかる」
「ああ。全く、その通りだ。俺たちは金をある程度は貯めておかないと、どうしようもないからな。まあ、あの世に行ったら、金は持っていけないけどな」
「そうならないように注意はしている」
サイファーはそのままSu-35BMのアクセスパネルを開け、機体の点検を続けた。排気ノズル、水平安定板、ギア、フラップ、スラット、ランチャーやボムラックに搭載された爆弾やミサイルも入念に調べる。エプロンの隣では、ジャガーが整備兵たちと共にグリペンの状態をチェックしていた。正規軍の良いところは、こうした後方支援体制がしっかり整っていることだ。しかし、サイファーは一つのところに留まることを極端に嫌っていた。サイファーは生まれ故郷で徴兵される年齢になる前に、空飛ぶギャング集団のような連中の仲間に加わって、古今東西あらゆる戦闘機の操縦の仕方を学んだ。そして、学んだのは操縦や空中戦の技術だけではない。戦闘機の部品や兵装、燃料を闇ルートで調達する方法。一人できっちり整備する方法。20歳になる頃には独立し、F-15Cに乗って駆け出しの傭兵として戦場を渡り歩き始めていた。
それが、10年も経たないうちに何ヶ所も戦場を渡り歩くようになっていた。長らく離れている生まれ故郷がどうなっているのかも全くわからないし、興味も無かった。興味があるのは、目の前の敵を狩り、報酬を得ることだけだ。
タンクローリーが戦闘機の傍で停車した。ピットクルーがホースを手に持ち、Su-35BMに近づいて燃料を入れ始める。パイロットたちはその間にも、再び機体の状態を点検する。自分自身で納得するまで、何度やってもやり過ぎとは言えない。燃料の補給と兵器の搭載が完了し、サイファーは今一度、機体を点検した後にコックピットに座った。APUの電源を入れ、エンジンを回した。金属音が響き渡り、勢いよく空気がダクトに送り込まれる。コックピットの中で、再び全てのシステムを点検する。兵装、操縦系統、エンジン、電子機器、防御システム。ペダルと操縦桿に力を加え、ラダーやフラップなどが正常に動くかどうかを確認した。キャノピーの向こうで整備員が両腕で大きく丸を作る。問題無い。
エプロンから戦闘機が滑走路に向けて移動し、誘導路に列を成して向かう。戦闘機は至ってスムーズに連続して離陸していった。ノルドランド空軍の管制官は、傭兵たちがやってきたころは多くの戦闘機を上手くさばききれず、離陸管制にかなり時間がかかっていたが、今ではすっかり慣れたものである。
『ウォンバット隊、離陸を許可する。離陸後は高度17000フィートまで上昇。周波数113.33でAWACSガーディアンとコンタクトせよ。道中で空中給油機と合流、給油したらAWACSの指示に従え』
『了解。ウォンバット1、離陸』
『ウォンバット2、離陸』
F-16AとF/A-18Dが短い間隔で離陸した。すぐに滑走路の端にJAS-39CとF-15Eが並ぶ。
『ボア隊、離陸せよ』
『ボア1、離陸する』
『2、離陸』
『タワーよりマングース隊、ボア隊に続いて離陸せよ』
1996年 2月24日 1115時 ノルドランド・ウェルヴァキア国境地帯上空
『こちらアリゲーター1、ターゲット破壊』
『アリゲーター2、目標破壊完了。帰還する』
先遣部隊が対レーダーミサイルでウェルヴァキアのレーダーサイトに穴を空けた。
『アリゲーター帰還する。後は頼んだぞ』
『ダック1、ミサイル発射』
『ダック2、攻撃』
傭兵部隊の4機のF/A-18Cが一斉にAGM-84E、通称SLAMを発射した。このミサイルはウェルヴァキアの地対空ミサイルサイトに向かって飛んでいき、全て瓦礫の山に変えた。
『AWACSより攻撃部隊へ。敵の防空網破壊を確認した。全機、突入せよ』
『了解。攻撃する』
『ターゲットは方位263。距離55マイル。攻撃せよ』
『レーダーに反応。敵の歓迎委員会だ』
『AWACSガーディアンより護衛部隊へ。迎撃せよ』
『了解。やってやろうぜ!』
Su-33やタイフーン、ラファール、F-14Dといった戦闘機が編隊から離れ、敵機の排除に向かった。先ほどまで空を覆っていた雲に裂け目が現れ、日光のカーテンが差し込み始めた。だが、冬のノルドランドやウェルヴァキアの空の状況は刻一刻と変化するため油断ならない。
『さて、こいつらを撃ち落として、報酬を稼ぐとするか』
『まだ生き残っている地上のSAMや高射砲にも気を付けろ。撃ち上げてくるぞ』
『ガーディアンから攻撃部隊へ。敵戦闘機は護衛の戦闘機に任せて、諸君は敵基地を破壊することに集中しろ』
サイファーとジャガーは今回は攻撃部隊に振り分けられたため、積極的に敵機を撃墜することはできないのがやや不満だった。だが、命令は命令だ。その代わり、敵爆撃機基地の上空に辿り着いた時は、存分に暴れさせてもらうつもりでいた。
「マングース1、ターゲットに向かう」
『2、援護します』
『群がる蠅どもはこっちに任せてくれ。お前たちはターゲットを破壊することに集中しろ』
『背中はしっかり見ててやるからな。存分に獲物を狩ってきな』
ウェルヴァキア空軍の航空基地にノルドランド空軍と傭兵の連合部隊が、トナカイに群がる狼の群れのように殺到した。それを防ぐためにウェルヴァキア軍とウェルヴァキア空軍が雇った傭兵の戦闘機が迎え撃つ。まるでその戦いのステージを演出するかのように、雲が裂け、青空が顔を覗かせた。