ACE COMBAT after story of the demon of the round table 作:F.Y
1996年 3月1日 1030時 ウェルヴァキア ラダノイェスク飛行場
ラダノイェスク飛行場の滑走路にAn-124輸送機が着陸した。輸送機は巨大な機体をゆっくりと回転させ、ウェルヴァキア空軍が用意したフォローミーカーについていく。まるで、黄金虫の後を追う鯨のようだ。
An-124はエプロンに駐機すると巨大な口を開き、中から荷物を吐き出した。それは白い布に覆われた航空機の部品だ。布には製造元を示す文字やロゴのようなものは一切描かれていない。
作業員とウェルヴァキア空軍の兵士たちは荷物を工場の中にに運び込んでいく。その様子を一人の男がエプロンで眺めていた。
オットー・マインリヒト。かつて、ベルカで兵器の開発、製造に大きく関わっていた男だ。現在は、オーシア、ウスティオでベルカ戦争に於ける第二等級戦犯として訴追されており、逃亡中の男だ。マインリヒトの隣では、ウェルヴァキア空軍の将軍と役人がその様子を眺めていた。
「ミスター・マインリヒト。オーシアからどうやってこれを運び込んだのか?南ベルカ兵器工廠は活動停止状態になったと聞いていたが」
「南ベルカ兵器工廠があった旧南ベルカ、今で言うノースオーシア州は確かにオーシアの領土として割譲されました。しかし、南ベルカ兵器工廠の拠点自体は何もノースオーシアに限りません。ベルカ各地に分散しています。そのほとんどは名前を変え、自動車工場、重機工場などに偽装して兵器の製造、開発を続けております。いずれは、にっくきオーシアやユークトバニア、ウスティオに報復をするために」
「ふん。俺はそんなものには興味は無い。お前たちが武器を提供してくれさえいればいい」
「そうでしたか。それでは、これにて失礼したします。生憎、私は忙しいので、これで失礼させてもらいますよ」
マインリヒトはそう言ってAPUを回しながらエプロンで待機しているG550に向かった。機体は白い塗装に青いストライプが描かれている。G550はすぐに飛行場の管制塔から離陸許可を取り付け、滑走路に向かってタキシングした。
空軍の将軍は踵を返し、そのまま待機していたMi-17に向かった。ヘリは将軍が乗り込むとすぐに離陸していった。マインリヒトが乗るビジネスジェット機はヘリが基地から飛び去って行ってすぐに管制塔から離陸許可を得て滑走路に向かった。マインリヒトは他の仕事があるため、直接ベルカに帰ることはできない。この後に向かう先はエストバキア連邦だ。あの国は、ベルカ最大の友好国の一つで、エストバキアはベルカ戦争での戦犯を逃れた軍人や政治犯らを匿っている代わりに、ベルカから兵器の技術提供を受けている。エストバキアは更に、ベルカに対して新型兵器のテストフィールドを提供し、データを二か国で共有している。
G550が離陸し、エストバキアへ向かって飛び立った。その下で荷物を下ろし終えたAn-124が燃料補給を受け、次の目的地に向かう準備をしている。ベルカから装備の提供を受けているのは、何もウェルヴァキア空軍だけでない。海軍と陸軍も同様だ。先日、ノルドランド空軍に破壊された散弾ミサイル発射施設"アイゼン・レーゲン"はベルカの技術提供によるものだし、海軍は潜水空母を手にしている。そういえば、海軍はその潜水空母をまだ遊ばせているのだろうか。いざという時のために温存している可能性もあるが、そんなものは、使わなければただの鉄のスクラップだ。
ウェルヴァキア国内の状況はだんだん悪化してきた。最高指導者である人民評議会議長ラズヴァン・メリンテはノルドランドからの領土割譲を要求し続け、それが受け入れられるまで攻撃を続けると息巻いている。一方で、戦時体制下となったウェルヴァキア国内の経済状況は悪化の一途を辿っていた。しかしながら、ノルドランドの豊富な天然資源が産出される地域さえ獲得できれば、この状況は一変するはずだ。ノルドランドが領土の割譲に応じるまで、この国は攻撃の手を緩めることは無い。将軍はそれを心に誓い、次の仕事に向かった。
1996年 3月1日 1113時 ノルドランド ヨアキムロル空軍基地
今日は珍しく静かだ、とエプロンを歩いているサイファーは思った。普段ならば、ウェルヴァキア空軍の偵察機や爆撃機が侵入し、スクランブル発進が断続的に行われているような時間である。まずは機体の点検をしなければ。いつ敵がやって来るかわからない状況だ。掩体壕には様々な種類のミサイルや機関砲の弾薬がローダーに乗せられて運ばれている。機体には燃料も入れられ、いつでも出撃できるよう整備が行われている。
甲高いエンジンの音が突如として聞こえてきた。これはJ79ターボジェットエンジンのものだ。空軍のRF-4Eか、とサイファーは判断した。やがて、掩体壕から2機のRF-4Eファントム戦術偵察機がのっそりと現れ、滑走路に向けてタキシングしていった。定時の警戒飛行だろう。昨日は久々に多めにウォッカを飲んだが、二日酔いにはならずに済んだ。傭兵は蟒蛇が多いが、なぜかみんな、どれほど酒を飲んでも、翌日にはすっきりした状態で戦闘機に乗っているような連中なのだ。アフターバーナーの轟音が鳴り響き、ファントムが編隊で離陸していった。偵察機が飛び去ってすぐに、滑走路の反対側の空域から巨大な航空機がアプローチしてくるのが見える。恐らく、自分を含めた傭兵連中が注文した装備を輸送してきた民間の貨物機だろう。サイファーの予想通り、白い機体にエメラルドグリーンのストライプが入ったB747-400Fが着陸した。こういった貨物機が1機だけで来ることは無い。サイファーは凍ったエプロンで足を滑らせないよう慎重に歩きながら自分の戦闘機が収められている掩体壕に向かった。
頑丈な鉄筋コンクリートの中に入れられたSu-35BMはピカピカに磨き上げられていた。ノルドランド空軍の4人の整備兵たちがサイファーに気づき、敬礼して迎える。サイファーは軽く会釈をしただけで、愛機を自分の目と手でしっかりと点検し始めた。サイファーは既に数十種類もの機体を整備するだけの知識と技量を身に着けている。雇い主の整備兵たちを信用していない訳では無い。最終的に、自分が乗る機体に対して責任を持つのは自分自身しかいないからだ。
「サイファー」
後ろを振り返るとジャガーが立っていた。
「今日は静かですね」
「ああ。珍しい」
「嵐の前の静けさ、といったところでしょうか」
「かもしれないな。出撃に備えておいて越したことは無い」
「ですね。奴ら、いつ攻撃してきてもおかしくないですからね」
ジャガーはそれだけ言って、自分の機体が入れられている掩体壕に向かった。本当に余計なことを話さない男だ。その分、この年下のパイロットと自分とは気が合う、とサイファーは思っていた。だからと言って、後に相棒として引き抜こうだとか、そういう考えにはならなかった。中には群れて、空軍からメンバーをスカウトする傭兵集団もいるが、サイファーはそういうことを極端に嫌っていた。一人のほうが気楽でいられるし、報酬も独り占めできる。円卓の鬼神は澄み渡った、静かな青空を見上げた。飛行機雲を引きながら、B747が飛んでいくのが見える。そして、特徴的な鳴き声を上げながら鳶が1羽、大きく羽を広げてゆったりと基地の上空を旋回しているのを見た。戦争というのは、冬のノルドランドの気候に非常によく似ている。珍しく穏やかな時間が来たと思ったら、急に荒れ始める。さて、先程飛び立ったファントムが何かを見つけたら、状況は一気に変わるだろう。それまで羽を休めつつも、かぎ爪だけは鋭い刃物のように研ぎ澄ましておく必要がある。サイファーも自分にあてがわれた掩体壕の中の戦闘機の点検に向かった。