ACE COMBAT after story of the demon of the round table   作:F.Y

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侵入阻止

 1996年 3月8日 0831時 ノルドランド ヨアキムロル航空基地

 

「諸君、おはよう。ここ数日、どういう訳か敵の攻撃が静まっていたが、昨日は短距離弾道ミサイルによる攻撃で、一般市民に多くの犠牲者が出た。幸いにも、生物兵器や化学兵器による攻撃では無かったが・・・・・また、それとは別に問題が発生した」

 

 傭兵部隊の元締めであるロビン・リー少佐がスクリーンに地図を映し出した。

 

「ウェルヴァキア陸軍の戦車部隊が電撃的に我が国南西部のフェノベルゲン市郊外に侵入した。陸軍の計算では、このままだと今日の夕方頃には市内に到達するとの予想だ。諸君の任務は陸軍部隊を支援し、この戦車部隊を阻止することだ。フェノベルゲンは我が国有数の鉱物資源産出地でもある。ウェルヴァキアにとっては喉から手が出るほど欲しい場所であることは間違いない。ここを取られたら、我が国にとっては多大な損害となる。我々はそいつらを阻止し、壊滅させる。存分に獲物を狩ってくれ。では、出撃!」

 

 1996年 3月8日 0911時 ノルドランド ヨアキムロル航空基地

 

 見慣れたいつもの光景だ。戦闘機がエプロンに並び、整備員が機体を点検し、兵装を装着していく。サイファーはいつものように自分の機体をきっちり点検していった。各所のアクセスパネルを開き、手でフラップやエンジンノズルを確認する。いくら何でも、不調の機体で無理やり出撃するほど愚かでは無い。サイファーはSu-35BMに乗り込むとAPUを作動させ、電子機器を機動させ、全てのシステムが正常に作動しているかどうかしっかりと確認する。

 飛行場に戦闘機のAPUの音が鳴り響き始めた。APUを搭載しないF-4EファントムⅡやMiG-23Mフロッガー、F-5Eタイガーなどの旧世代の戦闘機は外部電源が接続し、そこから得られる電力によって各種機器を作動させた。この手の機体はそこが煩わしい点である。各地を移動する際には、到着する飛行場で外部電源機器を手配せねばならない。

 

 サイファーは一旦コックピットから降りて、機体の周囲を再び歩き回り、慎重に状態を確かめた。パイロンに吊り下げられた空対空ミサイルと空対地ミサイルには、赤い帯の付いたセーフティ・ピンが取り付けられている。こうしている間にも、ウェルヴァキアの陸軍部隊はフェノベルゲンに進軍し続けているが、こちらの準備が整い、離陸して戦闘空域に到達するまではノルドランド陸軍と傭兵の連合部隊に頑張って貰う他無い。連中がどれだけ耐えられるかは未知数だが、航空支援はおいそれとほしい時に簡単に出せるようなものでは無いのだ。戦闘機は精密機器ゆえ、出撃には万全の体制を整えておかねばならない。

 

 今回は対地攻撃がメインとなるミッションのせいか、A-10AサンダーボルトⅡやA-7EコルセアⅡ、トーネードIDSといった攻撃機の姿が目立つ。あのライオンのマークを尾翼に描いたA-10Aの部隊は、先日のパヴロ・レイマンスキ空軍基地攻撃作戦でも見かけた連中だ。運よく生き残り、報酬を手にしたようだ。だが、長く生き残れる傭兵は運を味方に付けているだけでは無い。パイロットとしての操縦技術、敵を葬る戦闘能力、そして、危険をいち早く察知して、回避する堪と判断力。そういったものを高いレベルで持ち合わせた人間こそ、戦闘機乗りとして長く生き残るのだ。

 

 ヘリパッドからMi-24DハインドやAH-64Aアパッチ、AH-1Sコブラといった様々な攻撃ヘリが飛び上がっていく。アパッチとコブラはノルドランド陸軍がもつヘリだが、ハインドやA129マングスタ、EC665タイガーは傭兵部隊のものだ。連中は、これより陸軍によって用意された、前方展開拠点に着陸し、待機命令を受けることになるだろう。

 

 しかし、だ。ノルドランド政府の行動は、どちらかと言えば受け身的だ。ウェルヴァキアから侵攻の動きを察知すれば阻止部隊を差し向け、阻止するというドクトリンをあまり崩してはいない。勿論、以前、サイファーがいたウスティオと違い、国土の大半を蹂躙され、占領されているという状態では無いという点が大きな違いとなってはいるが。とは言うものの、報酬と戦いの場を与えられているという点では、サイファーは今の仕事に不満は無い。敵が目の前に現れたら狩りつくし、報酬を得る。自分にとっては最高の状況だ。

 周囲を見回すと、傭兵やノルドランド空軍のパイロットが続々と戦闘機へ乗り込み始めた。サイファーは再び機体の状態を確認してからコックピットに乗り込み、電源を入れた。HMDに電源が入り、緑色の目標指示キューとボアサイトが表示されるのを確認する。HUDや多機能ディスプレイの表示も全く異常は無い。エプロンで一斉に戦闘機のエンジン音が鳴り響き始めた。サイファーはやや遅れてからエンジンに火を入れた。そして、操縦系統を確認する。外で整備員が両手で大きく丸印を作るのを確認した。Su-35BMの周囲を歩き回っていた整備兵が、兵装の安全ピンを全て抜き取り、それを手で持って掲げて見せる。

 

 エプロンから続々と戦闘機が滑走路に向かい始めた。管制官はもう慣れたもので、2ヶ月前とは比べ物にならないほどスムーズに離陸準備に入る戦闘機の動きを捌いている。きっちりと訓練すれば、ここまで変わるものだ。ウスティオのヴァレー空軍基地の管制官も、こんな感じだったな、とサイファーは思い出した。さて、間もなく自分とジャガーの番だ。サイファーは滑走指示と同時にブレーキを解除し、極めて慎重に凍ったエプロンの上で戦闘機を動かし始めた。

 

『マングース隊、離陸を許可する』

 

 サイファーはいつものように離陸前にエンジンと操縦系統の最終確認をしてからスロットルレバーを握り、前方に向かって力を込めた。フライバイワイヤで動く戦闘機のため、操縦桿もスロットルもラダーペダルも、全く動かない。Su-35BMはきわめてご機嫌なアフターバーナーの轟音を立てて滑走し、空に舞い上がった。キャノピーには雲一つない快晴の青空が広がっている。これが戦争でなければ、絶好のフライト日和である。

 

『タワーよりマングース隊へ。高度12000フィートまで上昇後、方位223に向かえ。ここでこちらからの管制を終了する。以後は周波数121.22でAWACSガーディアンと交信せよ』

 

「121.22、了解」

 

『マングース2、了解。121.22でガーディアンと交信します』

 

『AWACSガーディアンより作戦中の各機へ。敵は依然として我が国に侵入後、フェノベルゲンに向かって前進している。陸軍の機甲部隊が急行しているが、間に合うかどうかはギリギリのところだ。そこで、諸君らで先に敵の数を減らしてもらうことになる』

 

 いつものように、無線からピーター・ダールという名のオペレーターの声が聞こえてくる。太陽の光が真っ白な雪原を照らしている。戦争中であることを除けば、これ以上無いほど気持ちのいい冬の朝の空だ。だが、この白い雪も、紺碧の空も、間もなく兵士たちが流す血や戦闘機や車両が流すオイルによって赤黒く染まるだろう。その塗料になるのは、もしかしたら、自分が乗る戦闘機か、または自分自身かもしれないのだ。だが、サイファーはそうなるつもりは毛頭無い。この一見、穢れが無いように見えるノルドランドの国土を汚すのは、自分の血では無く、敵の戦闘機の燃料であり、敵のパイロットの血になるのだから。 

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