ACE COMBAT after story of the demon of the round table 作:F.Y
1996年 3月8日 1045時 ノルドランド フェノベルゲン市郊外
レオパルト2A4戦車とM2A1ブラッドレー歩兵戦闘車の車列がウェルヴァキア陸軍部隊を阻止すべく前進を開始した。ゲパルト自走高射機関砲やアベンジャー近距離自走対空ミサイルシステムが随伴し、更には各所に設置された、アスター30中距離対空ミサイルを地上発射型に改装したSAMP/T搭載した自走ミサイルランチャーを確認することができる。
戦車中隊の指揮官である陸軍少佐はレオパルト2A4のハッチから身を乗り出し、周囲を注意深く観察した。敵は航空機や戦車とは限らない。戦車にとっては、茂みや林、各所に点在する岩の影に隠れ、対戦車ミサイルを設置して獲物を待ち構える歩兵分隊も大きな脅威となる。気付かれないように戦車に狙いを定め、狙い撃ちし、素早く撤収する。戦車部隊にとってはこの上なく厄介な敵だ。
轟音が響き渡り、少佐は空を見上げた。F-4EファントムⅡの編隊が通過していった。この戦闘機は、1960年代半ば頃にオーシアから導入を開始し、既に30年近い運用年数に達しようとしている。JAS-39CグリペンやF-16Cファイティング・ファルコンといった、新世代の戦闘機の導入によって徐々に数を減らしつつあるが、ユージアやエメリアといった友好国の援助によって近代化改修を受け、今でもそれなりの数が第一線で活躍している。事実、空軍内部では、ファントムの特性を熟知したベテランのパイロットとWSOの組み合わせにより、比較的若手が乗るケースが多いグリペンやF-16を模擬撃墜する事も少なくない。空を飛ぶ奴らは、空軍に任せ、自分たちは自分たちの任務に集中する。やることはそれだけだ。
まずは、目標地点まで前進し、ウェルヴァキア陸軍部隊が到達する前に戦闘準備を整えねばならない。フェノベルゲン市への侵攻を許してはならない。それは、ノルドランド陸軍の敗北を意味するからだ。
1996年 3月8日 1103時 ノルドランド南東部
『タランチュラ1、ターゲット確認。全機、自由射撃』
『タランチュラ2、攻撃開始!』
『3、攻撃する』
『4、攻撃』
4機のA-10AサンダーボルトⅡ攻撃機が護衛機であるF-16Aの編隊から離れ、急降下を始めた。そしてA-10は一斉に翼の下に搭載したAGM-65マヴェリック空対地ミサイルを放った。T-72やT-80がミサイルの直撃を受け、炎上する。A-10Aは地対空ミサイルによる反撃を避けるため、フレアを連続してばら蒔きながら、一旦上空に逃げる。
『タランチュラ1よりタランチュラ隊各機へ。ターゲットに再度攻撃を仕掛ける』
『2、了解』
A-10Aは一度反転し、再び攻撃に向かった。しかし、そんな攻撃機の編隊に9K37ブーク地対空ミサイルが狙いを付けていた。
『ミサイルアラート!ブレイク!ブレイク!』
『タランチュラ4!狙われている!』
A-10Aの4番機はAN/ALQ-184ECMポッドを作動させ、チャフを散布しながら回避機動を始めた。1発目のミサイルは強力な妨害電波により、目標を見失って明後日の方向へ飛び抜けてから爆発したが、2発目がタランチュラ4の機体左後方の下で爆発し、エンジンと垂直尾翼の一部を損傷させた。
『タランチュラ4!大丈夫か!?』
機体の一部を切り裂かれ、片方のエンジンが機能停止したにも関わらず、A-10Aは至って安定した飛行を続けていた。一方のブークはタランチュラ3から30mm機関砲による反撃を受けて、黒煙を上げる残骸になっていた。
『ああ、平気だ。まだ飛べる』
『タランチュラ3、バタフライ3、バタフライ4、タランチュラ4を援護しろ。タランチュラ4、基地へ帰還しろ』
『くそっ、稼ぎ足りないというのに』
『あの世に金は持って行けん。命令だタランチュラ4』
『・・・・・・・・了解。帰還する』
1996年 3月8日 1106時 ノルドランド南東部
「マングース1、Fox1!」
『マングース2、Fox1!』
R-77とミーティアが1発ずつ、ほぼ同時に発射された。ミサイルはチャフにもECMにも騙されること無く、それぞれMiG-23MLに接近し、近接信管を作動させた。無数の金属を浴びた戦闘機はコントロールを失い、コックピットから射出座席と一緒にパイロットを射ち出した。
『ガーディアンよりマングース隊へ。次の獲物だ。マッハ1で正面から2機の目標が接近中』
「マングース1了解」
サイファーはスロットルレバーを押し、エンジンの出力をミリタリーパワーまで上げた。ジャガーが乗るグリペンが慌てるようにして1番機であるSu-35BMに付いていく。
やがて、フランカーのHUDに2つの目標指示ボックスが標識された。相対速度を確認する限り、ミサイルでロックオンしている時間は無さそうだ。サイファーは操縦棹の機関砲トリガーに指をかけ、最初の抵抗がかかるまで引いた。HUDの中心にレティクルが表示される。やがて、HUD越しに2機のMiG-29SMTの機影を確認した。サイファーはちらりと相対速度を距離を確認し、どんどんターゲットに向かっていた。
そして、Gsh-30-1機関砲の射程内に入った時、右手の人差し指を1秒間に数回だけ動かした。短い連射が敵機を襲う。
サイファーたちに向かってきた1番機のフルクラムのパイロットは、今日は非常に運が悪かった。もし、出撃前に今日の運勢を占っていたら『最悪』との結果が出ていただろう。30mmのタングステンの弾丸が、MiG-29のキャノピーを砕き、そのままパイロットの頭部を丸ごともぎ取ったのだ。
2番機のパイロットは幸運にも、乗っているMiG-29SMTの燃料タンクにジャガーが乗るグリペンの27mm砲で大きな穴を幾つか空けられるだけで済んだ。燃料が凄まじい勢いで翼と胴体から白い霧のように吹き出す。パイロットは最初は帰還を考えていたが、コックピットの燃料計のメーターの針は、あっという間にFからEに振り切れ、最終的には燃料切れを知らせる警告音がけたたましく鳴り始めたところで基地への帰還を諦め、射出座席のハンドルに手をかけた。
『マングース隊、敵機撃墜を確認』
「ガーディアン、次の目標は?」
『方位153より敵機が4機編隊で接近中。高度6000。距離31。速度マッハ0.75』
「了解。攻撃する」
恐らくはSu-25K"フロッグフット"だろう。確かに、ウェルヴァキア空軍はフロッグフットを保有しているが、未だにその姿を確認したことは無かった。まあ、いい。新たな獲物だ。他の連中に破壊される前に撃墜し、報酬を稼いでおくとしよう。ノルドランド空軍の連中は、傭兵パイロットが積極的に敵機を追い回すものだから、2番機または、3番機や4番機として追随するのに苦労していた。しかし、傭兵連中の多くは、そんな事はお構い無し。見つけた獲物を仕留めて金を稼ぐことしか頭に無い。空軍の中には、そんな傭兵に付いていけずに、落伍しかけるパイロットも少なくなかった。そんな中でも、ジャガーことマグヌス・ハウゲン中尉はしっかりと自分の二番機の役目を果たしている。サイファーは、その点に関しては、ジャガーの事は高く評価していた。
『マングース2よりマングース1へ。敵機を確認できますか?』
「マングース1、敵機確認。まもなく射程内に捉える」
『マングース2了解。攻撃スタンバイ。いつでも射てます』
「俺の合図で射て」
『マングース2了解』
2機の戦闘機は獲物目掛け、猛然と空気を切り裂きながら飛んでいった。