ACE COMBAT after story of the demon of the round table   作:F.Y

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炙り出し

 1996年 3月8日 1211時 ノルドランド・ウェルヴァキア国境地帯

 

 まさか森林地帯が多い自国の自然環境が仇になるとは、ノルドランド空軍のパイロットたちは思ってもいなかった。ノルドランド領内に侵入したウェルヴァキア陸軍の戦車部隊や高射部隊は、兵器を巧みに森林の中に隠した。事実、上空から戦闘機で見下ろしても、白い雪原とその間にある広い森林に遮られ、敵の地上部隊の位置を上手く確認できない。おまけにその木々は電波を乱反射させ、それが戦闘機のレーダーの対地モードではクラッターとして現れ、地上攻撃目標に対する発見、識別、捕捉を妨害してしまう。

 

 だが、それを解決できる手段を持つ兵器がノルドランド陸軍にはあった。オーシアから導入したばかりのAH-64Dアパッチ・ロングボウ戦闘ヘリコプター。目下、最新鋭・最強の戦闘ヘリで、ローターマストの上に取り付けられた鏡餅のような形をしたAN/APG-78ロングボウレーダーは、地上目標のうち、樹木、建物、岩石などと車両や建物を正確に識別することができる。おまけに、一度に1000以上の目標を補足し、200以上の目標を識別、追跡することができる。アパッチ攻撃ヘリの集団は、地対空ミサイルで一網打尽にされるのを避けるため、大きく間隔をとってからゆっくりと低空で目標を探していた。

 

『こちらバジャー1、レーダーで敵を捕らえた』

 

『バジャー2、こっちも敵を発見』

 

『バジャー1、こちらオブザーバー1。敵は北に向かって進んでいる。攻撃せよ』

 

 アパッチ・ロングボウのガンナーがレーダーモードを捜索から交戦に切り替えた。レーダーが敵の戦車を捉えたことを知らせる電子音を響かせる。

 

『バジャー1、攻撃!』

 

『バジャー2、ミサイル発射!』

 

 AH-64Dのスタブウィングに取り付けられたM299ランチャーから一斉にAGM-114Lロングボウヘルファイアが放たれた。このミサイルは、セミアクティブレーザー誘導式である従来のタイプと違って、一度ロックオンしたらヘリが命中するまで誘導する必要が無い。そのため、アパッチの編隊はミサイルを撃った直後、すぐに回避機動を取ることができる。

 

『こちらオブザーバー1、命中を確認・・・・・・・ミサイル命中。敵の殲滅を確認』

 

『オブザーバー2からバジャー隊へ。エリア・タンゴ・デルタの敵の排除を確認した。ポイント・キロ54で補給した後、エリア・オスカー・アルファへ向かえ。繰り返す。タンゴ・デルタの敵は排除した。ポイント・キロ54で燃料と弾薬を補給した後、オスカー・アルファへ向かえ』

 

『バジャー1了解。お前ら、聞いたな?腹ごしらえをしたら・・・・・ハンティングの続きだ』

 

 1996年 3月8日 1218時 ノルドランド・ウェルヴァキア国境地帯

 

「レーダーに反応!敵機、低空!」

 

「ミサイル発射急げ!」

 

「射撃管制レーダー作動!標的確認・・・・・」

 

 2K12クープ地対空ミサイルのランチャーが立ち上がり、空を向いた。このミサイルシステムとセットになっている1S19レーダー車のアンテナがくるくる回転し、標的を探す。地対空ミサイルとしては初期に現れたもので、最新鋭のものと比較してしまうとどうしても見劣りしてしまうが、それでも航空機にとっては大きな脅威であることには変わらない。

 

「レーダーロック、発射!」

 

 ランチャーからミサイルが矢継ぎ早に発射される。ミサイルはやや蛇行しながら雲一つない青空の上を飛んでいるはずの敵機目指して猛烈な勢いで向かって行った。

 

 1996年 3月8日 1219時 ノルドランド・ウェルヴァキア国境地帯

 

「畜生!ミサイルだ!」

 

『回避!回避!』

 

 アパッチ攻撃ヘリの編隊は、チャフとフレアをディスペンサーから放出しながら蜘蛛の子を散らしたようにその場から散開した。多くにヘリはミサイルを回避することに成功したが、一部の機体が破片を受け、次々と落下していった。

 

『バジャー8被弾!落ちる!』

 

『バジャー5、破片を食らった!やられた!』

 

『くそっ!敵はどこだ!?』

 

『森だ!奴ら、森の中にミサイルを隠してやがる!』

 

『ガーディアン、こちらバジャー隊!エリア・タンゴ・デルタに多数の対空兵器!森の中に紛れていて目視できん!繰り返す!タンゴ・デルタに敵の対空兵器!奴ら、森の中にミサイルを・・・・・・』

 

 1996年 3月8日 1220時 ノルドランド上空

 

 ピーター・ダールはAWACSの機内で攻撃ヘリ部隊の通信が途切れたのを確認した。くそっ!やはりか!敵は持ち込んだ対空兵器を巧みに森林の中に隠しているのだ。ダールは少し考え、無線機のスイッチを入れた。    

 

「AWACSガーディアンよりナパームを搭載している機体はあるか?もし無ければ、基地へ帰還し、Mk77ファイアボムやナパームBを搭載してこい」

 

 ノルドランド空軍は遅滞作戦のため、国土の大部分を占める森林地帯に侵入した敵地上部隊を焼き払うために、Mk77やナパームBをオーシアから大量に輸入して大量に保有している。

 

『こちらラット1、ナパームを搭載している。標的はどこだ?』

 

「ガーディアンからラット1へ。エリア・タンゴ・デルタの森林地帯だ。繰り返す。エリア・タンゴ・デルタの森林地帯に敵は対空兵器をどっさり隠している」

 

『ラット1からガーディアンへ。やっちまっていいんだな?』

 

『背は腹に替えられん。やるんだ』

 

 1996年 3月8日 1223時 ノルドランド 森林地帯

 

 4機のF-4EファントムⅡが低空飛行しながら森のすぐ上に接近した。後席のWSOがスパローミサイルのランチャーを1基潰して搭載したAN/ALQ-131電子妨害装置を作動させた。ファントムの電子装備はF-16CやJAS-39Cに比べると明らかに貧弱なため、このような外付けのもので補っている。

 

「ラット1からラット隊全機へ。投下準備せよ」

 

『ラット2、完了』

 

『ラット3、攻撃準備完了』

 

『ラット4、スタンバイ』

 

「全機、投下10秒前・・・・・・3、2、1、投下!」

 

 ファントムはやや降下気味に森の上を飛行し、ナパームを続けざまに投下した。1機当たり6発のナパームを搭載しているため、都合、全部で24発ものナパームが森林地帯に放り込まれた。緑豊かな針葉樹の森が粘性が極めて高い燃料によって着火された炎に包まれる。この超高温の嵐は、中に潜んでいたウェルヴァキア陸軍の兵士を蒸し焼きにして、焼死あるいは窒息死させた。

 

「ラット隊、攻撃完了」

 

『ガーディアンからラット隊へ。ミサイルを残しているのならば敵機を排除せよ』

 

 どうやらどこも余裕が無いようだ。仕方が無い。傭兵連中も流石に姿が見えない敵に手を焼いているようだ。南西の方に目を向けると、F-16Cの編隊が森の上空を飛んでいくのが見えた。その戦闘機の下で連続して火の手が上がる。連中、Mk77ファイアボムを使ったか。ナパームBと違い燃焼剤は灯油を主成分としているため、燃焼効果は薄いが、それでも森林地帯の中に潜む敵を攻撃するには極めて効果的だ。

 ファントムが退役すれば、ナパームもお役御免となってしまうだろうが、その役目は後継のF-16とMk77が担うことになるだろう。

 

「ラット隊了解。攻撃する」

 

 そして、ラット1のWSOは無線のスイッチを切ってこう言った。

 

「全く、人使いの荒い奴だ」

 

「言えてるぜ。とっとと終わらせて、基地に帰ってウォッカでも飲みたい気分だぜ」

 

『ガーディアンからラット隊へ。敵機接近。方位、205。距離114マイル』

 

「ラット1、205ヘッドオン」

 

『ラット2了解』

 

 4機のF-4Eファントム戦闘機は敵機の姿を探し、南西の方へと飛び去って行った。


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