ACE COMBAT after story of the demon of the round table 作:F.Y
1996年 3月8日 1243時 ノルドランド上空
MiG-23ML"フロッガー"のパイロットは地上部隊の無線通信に耳を傾けた。どうやら、激しい抵抗に遭い、ほぼ壊滅状態になって撤退している部隊も出てきているようだ。この作戦はほぼ失敗に終わるであろう。しかし、命令は命令だ。作戦本部から撤収の指示が出ていない以上、攻撃は続行すべきだ。自分はそうすることで国から給料を得ている。
しかしながら、その給料の支払いも最近は滞ってきている。ウェルヴァキアの各都市部では、あらゆる物資が少なくなり、市場に並ぶ品物は日に日に少なくなってきている。政府は僅かに残った農地で慌てるように作物を大量生産させる政策をとり始めたが、それが追いつくような状況とはとても思えない。その傍らで、兵器や工業製品の生産と輸入は増加している。
まあいい。とにかく、敵の戦車部隊を叩き、残っている部隊が再編制するまでの時間を稼いで突破口を開けてやればいいだけの話だ。それがどれだけ可能かどうかは未知数だが、今はそうするしかない。フェノベルゲンに地上部隊が到達できれば、その時点で自分たちの勝ちだ。
ところが、ノルドランド軍、否、それ以上に厄介な傭兵部隊のおかげで、侵攻が固く阻まれている。持て余す程の富を持ちながら、貧しい隣国に施しを与えないどころか、それを独占し続けることなど許されざる事だ。
「レッド1からレッド隊全機へ。獲物だ。方位337、距離300、高度10000。2機だ」
『レッド2、交戦する』
『レッド3、攻撃準備完了』
『レッド4、敵機補足』
「レッド1よりレッド隊、やれ!」
1996年 3月8日 1243時 ノルドランド上空
けたたましくミサイル警報装置が鳴り出し、サイファーは戦闘機をロールさせながら急降下させ、ECMを作動させた。後ろからジャガーが乗るグリペンが続く。
『マングース隊!ミサイル!ミサイル!』
Su-35BMとJAS-39Cはお互いにやや離れながらチャフをばら撒いた。飛来した2つのR-27R1がチャフの雲に真っすぐ突っ込み、弾頭を炸裂させた。勿論、弾頭の破片はばら撒かれたチャフと一緒に、ゆっくりと地面に向かって落ちていった。
『マングース2、ミサイル回避!』
撃ってきたのは例の新手のようだ。サイファーはレーダーを長距離モード、捜索に切り替えて敵機を探す。4機の敵機がマッハ1.0でこちらに真っすぐこちらに向かってくる。サイファーは酸素マスクの下で唇を軽く舐めた。もう連中はR-77の射程に入り込んでいる。サイファーはやや速度を上げ、敵に接近した。
空は一面灰色の雲に覆われている。だが、その方がサイファーにとってはありがたかった。太陽に向かって飛ぶことになると、陽光が瞳を突き刺し、視界を妨げることになるからだ。やがて、R-77の先端に仕込まれた小さなアクティブレーダーが敵を捕らえた。
「マングース1、Fox1!」
ジャガーのJAS-39Cに搭載されたミーティアも敵を補足した。
『マングース2、Fox1!』
フランカーとグリペンから1発ずつ中射程ミサイルが放たれた。
1996年 3月8日 1244時 ノルドランド上空
「ミサイル!ブレイク!ブレイク!」
MiG-23MLの編隊がチャフとフレアをばら撒きながら低空に向かった。
『レッド4!ミサイル!ミサイル!』
レッド隊の最若手である19歳の准尉は必至で操縦桿とスロットルレバーを動かし、ミサイルから逃れようとした。コックピットの中で鳴り響く電子音が鼓膜を叩き続ける。ECMはオンになっているが、全く効果が出ているようには思えない。
『レッド4!低空に逃げろ!』
レッド4のパイロットは隊長の指示通り、一気に低空に向かった。だが、この時、鳴り響くミサイルアラートに最大限の注意を向けたため、HUDの高度計を確認することをすっかり忘れてしまっていた。しかも悪いことは重なることで、低高度の警告がミサイルアラートの音にかき消されてしまい、その准尉の耳には全く届かなかった。そして、准尉が気づいたとき、MiG-23MLは既に地面に叩きつけられる2秒前の状態だった。
1996年 3月8日 1246時 ノルドランド
4機のA-10AサンダーボルトⅡ攻撃機が低空で飛びながら30㎜アベンジャー機関砲を放った。劣化ウラン弾がウェルヴァキア陸軍のトラック、BTR-80装甲車、2K22ツングースカ自走対空システムをあっという間に葬り去る。ウェルヴァキア軍のフェノベルゲン侵攻部隊の前線は崩壊しつつあった。
「早く航空支援を寄越してください!敵の攻撃機に頭を押さえられて、これ以上戦車を前進させられません!」
再び低空飛行する航空機の音が聞こえてきた。東の方から4機のA-4Kスカイホーク攻撃機が低空でこちらに向かってくる。
「退避!退避しろ!」
ウェルヴァキア陸軍のT-64やT-72、BMP-2のハッチが開き、兵士たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。だが、人間の脚がジェット攻撃機の速さから逃れられるはずも無く、低空から投下されたBL-755クラスター爆弾の餌食となった。
『モスキート1よりガーディアンへ。兵装を使い切った。一旦帰還する』
『ガーディアン了解。ガーディアンからグリズリー隊へ。モスキート隊が基地へ帰還する。エリア8-1の敵の排除を頼む』
『グリズリー1了解。全く、人使いの荒い奴だ』
『まだ爆弾を残しているなら、全部敵にぶちまけてから帰れ。それに、稼ぎ足りないんだろ?』
『それを言われてはぐうの音の出ないな。了解。敵を攻撃する』
A-10Aと入れ替わるようにやって来たのはトーネードIDSの編隊だ。機体のボムラックにはCBU-87クラスター爆弾が搭載されている。
1996年 3月8日 1247時 ノルドランド
「何言っているんだ!?もう前進させられる部隊が無いんだ!上空は敵に抑えられている!さっさと航空支援を・・・・・・・何だと!?出せないとはどういう事だ!?計画では戦闘機を追加で出せるように準備しているという話だっただろ!?さっさと出せ!ふざけるな!」
ウェルヴァキア陸軍の中佐が無線に向かって怒鳴り続けていた。来るはずの航空支援を出せなくなったと、空軍の司令部がほざきだしたのだ。冗談じゃない。
上空ではノルドランド空軍と傭兵の戦闘機が飛び回る轟音が鳴り響き続けている。そして、時折爆発音が聞こえてくる。低空でジェット機が飛び去る音の直後、爆弾が地上で炸裂する音が続く。
中佐は空を見上げた。飛んでいる飛行機の殆どはノルドランド空軍機か傭兵の飛行機なのだろうか。ウェルヴァキア空軍の機体が飛んでいないかどうかぐるりと見回してみたが、ターボファンエンジンやターボジェットエンジンの音が聞こえるだけで、どのような機体が飛んでいるのかわからない。
再び轟音が聞こえてきた。今度はどんどん大きくなってくる。ぐるりと空を見回してみると、向こうから戦闘機が低空で接近してくるのが見えた。
「逃げろ!敵だ!」
1996年 3月8日 1247時 ノルドランド
サイファーは敵機に肉迫し、ドッグファイトに持ち込んだ。4機の敵機のうち、1機はミサイルを避けようとして地面に自分から突っ込んだ。残るは3機。そのうちの1機を高空に追い込み、30mm機関砲の射程内にまで接近した。操縦桿のトリガーを引くと、HUDに丸いピパーが表示される。サイファーはそれが敵機と重なるまで待った。そして、緑色の光の円と茶色と緑の斑の飛行機が重なった瞬間、ほんの0.3秒だけ再びトリガーを絞った。30㎜の劣化ウラン弾がMiG-23MLの機体を引き裂き、炎上させる。キャノピーから何かが飛び出したのを見なかったので、パイロットは運悪く脱出できなかったようだ。
斜め後ろからいきなり前方に向かってミサイルが飛んでいった。僚機のグリペンから放たれたものだ。そのミサイルは自分たちに狙いを定めていた戦闘機の編隊の最後の1機に命中し、地面に叩き落とした。
『ガーディアンより全機へ。新たな敵機の反応無し。あと10分で交代の哨戒部隊が到着する・・・・・・陸軍司令部より入電。敵の戦車部隊は壊滅し、引き返し始めているようだ。作戦中の戦闘機は、交代の戦闘機が到着次第、順次、所属基地へと帰還せよ』