ACE COMBAT after story of the demon of the round table 作:F.Y
1996年 3月16日 0746時 ノルドランド ヨアキムロル航空基地
陸軍と空軍による地上侵攻部隊排除に成功して以降、ウェルヴァキア軍は不思議なほど静まり返っていた。しかしながら、特殊部隊の侵入による破壊工作は各地で発生しており、各地で弾薬庫やレーダーサイトを襲撃しようとした工作員とノルドランド軍の兵士の間で銃撃戦が起き、ウェルヴァキア軍兵士が全員射殺されるという事が起きたばかりだ。
この静けさの間、ノルドランドは同盟国であるオーシアから大規模な軍事支援を受け始めていた。オーシアの軍事企業からのライセンスと設備支援により、ヨハムンセンの工場からは次々とF-16C/Dがロールアウトし、大都市や重要施設にはパトリオットPAC-2やAN/TWQ-1アベンジャーシステムが数多く配備されていた。
また、ノルドランドはその財力を背景に、更に傭兵を募集した。その額は破格のもので、職にありつこうとウスティオ、サピン、オーレリアからも傭兵が次々とやってきていた。
今日も新入りの傭兵がやってきた。滑走路に続々とF-5EタイガーⅡ戦闘機が着陸する。このオーシア製戦闘機は安価ながら空中給油機能を持ち、更にはAIM-9サイドワインダー、AIM-7スパロー、各種爆弾を搭載できる。ノルドランド空軍が使うF-4Eファントムに比べると小型で、兵器搭載量も航続距離も劣ってしまうものの、ドッグファイトに持ち込んだ場合はこの機体の方が有利だ。現状では、このクラスの戦闘機はオーシアやユージアなどではF-16CやJAS-39C、ミラージュ2000Cなどに置き換えられ退役が進んでいるものの、未だに予備役部隊などでは数多くが現役だ。
こいつら、一体いつまで生き残れるだろうか、とパイロットスーツを着て宿舎から食堂に向かってエプロンを歩くサイファーは思った。自分は上手いこと敵に殺される前に敵を殺すことで生き残っているし、戦場で生き残るには、それが最適解であると10代のころにそう学んでいた。
下士官・一般兵士向けの食堂は既に傭兵と空軍兵で混雑していた。幸い、戦闘機パイロットであり、かつ目覚ましい戦果を上げている自分は士官待遇を受けているため、士官食堂でゆったりと食事を摂ることができる。一方で、聞いた話では航空機や車両の整備員や陸軍の歩兵連中は下士官待遇や下っ端の歩兵待遇だろうという話を聞いている。サイファーは混雑したその扉が開け放たれた食堂をそのまま通り過ぎ、士官食堂に向かった。
士官食堂もそこそこ混雑していたが、下士官・一般兵士の食堂程では無かった。ウスティオは士官も一般兵士も食べられる食事内容は同じであったが、ここノルドランド空軍はやや事情が異なっていた。まず、士官には前菜が出される。今日の前菜は、キャビアとサワークリームが乗ったクラッカーだ。基地の食堂自体は、後方支援部隊によって運営されているが、士官20人あたりに1人の給仕の下士官が付く。大抵は伍長や兵長クラスだ。
窓の外を見て見ると、また雪が降ってきた。今日の最高気温はマイナス6度。高度な電子機器を搭載する戦闘機には厳しい環境だが、整備員が優秀なおかげで機体にトラブルが起きたことは無い。勿論、最終的に自分が乗る戦闘機に責任を持つのはパイロットである自分自身に他ならない。
これを食べ終えたら、掩体壕に行ってSu-35BMの状態を確かめておこう。雪の降りかたはそれほど激しくなく、大きな粒がちらりちらりと落ちてくる程度だ。このような天気の良い日は、出撃には丁度いいだが、それは敵にとっても攻撃を仕掛けるには最適の状況であることに他ならない。先週は上手いこと国境の町、フェノベルゲンの防衛に成功したが、そう上手くいくことが連続して起きるはずは無い。向こうは侵攻が失敗したことにより、再び別の方法で攻撃を仕掛けてくるだろう。それが、どの程度の規模になるのかはその時になってみなければわからないのだが。
サイファーは先日の戦闘のことと、これからの戦闘のことを考えながら料理を極めて機械的に口に運んだ。そのため、最後に口に入れた、チョコレートソースがかかったやや小さなホットケーキ以外のものの味を思い出せなかった。サイファーは朝食を平らげ、コーヒーを飲み干すと立ち上がって自分の戦闘機が収められている掩体壕に向かって歩き出した。
1996年 3月16日 0843時 ノルドランド ヨアキムロル航空基地
サイファーは建物から外に出るために頑丈な金属の扉を開いた。フライトスーツの上に着た、分厚い防寒着をマイナス10℃の冷気が突き抜ける。滑走路の方から空気を震わせるアフターバーナーの轟音がした直後、2機のF-16A戦闘機が離陸していった。更に同じ戦闘機が2機、続いて離陸する。機体にはノルドランド空軍のマークが描かれ、翼には増槽とAIM-9サイドワインダー、AIM-7スパローが搭載されていた。
サイレンが鳴らなかった事から、朝の上空哨戒だろうとサイファーは考えた。ノルドランド空軍は、ウェルヴァキア軍の侵攻に備え、定期的に上空に戦闘機を飛ばし、警戒に当たっている。
今度はホークMk.128が着陸してきた。サイファーもギャング集団からジェット機の飛ばし方を教わった時、最初に操縦した機体だ。ホークはフォローミーカーのジープに続いてカチカチに凍ったアスファルトの誘導路をゆっくりとタキシングして、エプロンで停止する。キャノピーが開くと中から2人のパイロットが出てきた。後席に乗っていたのは、サイファーもこの基地で見かけたことがある、50代の大佐だ。この大佐はベテランで、普段はF-16A戦闘機に乗っている。そして、前席から出てきたのは、まだ20歳そこそこの若い男だ。恐らく、昨日までは戦闘機パイロット候補生だったが、訓練課程を修了してすぐにこの基地に配属になったのだろう。
地獄の入り口へようこそ、新兵。サイファーはそう心の中でつぶやき、若者を遠くから出迎えた。こいつがこの先、生き残れるかどうかは自分次第だ。事実、現在のノルドランド空軍パイロットの死亡率は高い。とはいえ、最初の10回の実戦を生き延びられれば、その後の生存率は急激に上がる。理由は不明だが、これは統計学上のデータでもある。そのため、こいつらにとっては、その最初の10回が正念場だ。しかしながら、そのことをノルドランド空軍の教官パイロットが彼らに教えているかどうかはまた別の話になってくるが。
サイファーは真っすぐ掩体壕に向かった。重たく頑丈な扉を整備員と共にやや時間をかけて開き、中のSu-35BMに近づき、アクセスパネルを開け閉めし、可動部分を軽く動かしてから状態を確かめた。傭兵はアラート待機をしないため、ミサイルランチャーとボムラックには何も搭載されいていない。しかしながら、いつ出撃命令を出されるかわからないため、弾薬庫からすぐに各種ミサイルや爆弾を掩体壕に運び込めるよう、空軍兵たちが待機している。
ターボファンエンジンの音が鳴り、今度はG-550が着陸した。機体のマーキングからノルドランド空軍のものだとわかる。恐らく、VIP専用の機体だ。コックピットの窓に金色の星が3つ描かれた赤いプレートが取り付けられているのが見えた。恐らく、空軍の中央司令部か国防省からお偉いさんが視察に来たのだろう。とはいえ、自分には関係ない話だ。サイファーは今日は機体の点検をして、作戦の命令が出るまでは自室で待機していようと心に決めた。