ACE COMBAT after story of the demon of the round table   作:F.Y

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駐屯地強襲

 1996年 3月27日 1403時 ノルドランド ヨアキムロル航空基地

 

 エンジン音を響かせ、F-16CとF/A-18Dが相次いで離陸した。その後ろからSu-27SKMとF-16Aが続く。サイファーとジャガーのマングース隊は、その編隊の次に離陸する予定だ。

 

『タワーよりブラックベア隊、離陸を許可する』

 

『ブラックベア1、離陸』

 

『ブラックベア2、離陸』

 

 フランカーとファイティング・ファルコンが飛び立つと、サイファーとジャガーの機体が殆ど間を置かずに滑走路に入った。

 

『タワーよりマングース隊へ。急ぎ離陸せよ』

 

「マングース1離陸」

 

 サイファーは宣言よりやや先にスロットルレバーに力を込めた。パワフルなエンジンの推力に押され、兵装と増槽を満載した大きな多用途戦闘機が空に浮かび上がる。離陸重量を削るために、胴体と主翼の燃料タンクには僅かしかケロシンが入っていない。この後、空中給油機とランデブーし、作戦に必要な燃料を追加で補給する予定だ。

 

『マングース2離陸』

 

 JAS-39CがSu-35BMに続いて離陸し、1番機の後ろに着いた。

 

『マングース隊。方位264に向かえ。そのまま真っすぐ飛び続け、空中給油機と合流せよ』

 

 今回の作戦は、ノルドランド空軍のRF-4E偵察機がウェルヴァキア南部沿岸域を偵察中に見つけた、大規模な陸軍の駐屯地に対する攻撃だ。偵察機が持ち帰った写真には、多くの戦車が駐車し、更には大型輸送機が離発着可能な長い滑走路、数多くの建物が映っていた。

 これほどの規模の駐屯地を、ウェルヴァキアはどうやって短期間のうちに建設したのかは気になるところであったが、それ以前に、攻撃ヘリ、戦闘機、戦車をこの駐屯地に多数確認したため、ノルドランドへの侵攻拠点になり得るのは明白だった。そこで、軍司令部は、この駐屯地に完全な機能を持たせられる前に破壊する決断をした。

 

 今日は珍しく天気が良い。雪雲がは殆ど見えないが油断はできない。しかしながら、今日のウェザーブリーフィングによれば雪雲が湧いてくる可能性は極めて低く、獲物を狩るには良い日になりそうだ。

 

『離陸した攻撃部隊へ。こちらAWACSガーディアン。方位243に向かい、国境を越えろ。敵のレーダーサイトはランスへリム基地から上がった飛行隊が破壊する。敵戦闘機の排除はヨアキムロル基地の連中が担当する。君たちは敵の攻撃をあまり気にせず、ターゲットの破壊に集中してくれ。以上だ』

 

 13000フィートの高空を飛んでいても、雲が薄いため眼下に広がる真っ白な雪原を見渡すことができる。その雪も、温暖なウェルヴァキアに近づくにつれて見られなくなってくるだろう。

 

『攻撃部隊へ、こちらハングノルゲンのレーダーサイトだ。君らの動きを確認している。今のところ、敵が侵入してきている気配は無い。空中給油部隊は方位254、距離300マイルの辺りで待機している』

 

 ノルドランドの上空を、まるで武器見本市のデモフライトと見まごう程の多くの戦闘機と攻撃機が飛んでいる。その集団は大きく間隔を開きつつも、全てが同じ方向に向かって飛んでいた。

 

 1996年 3月27日 1511時 ノルドランド上空

 

『マングース1、給油機に接近し給油体制を取れ』

 

 HUDの向こうにKC-10Aエクステンダー空中給油機が見えてきた。右主翼に取り付けられたポッドから長いホースドローグユニットが伸びている。

 

『接続まで10マイル』

 

 空中給油はかなり高度で繊細な操縦技術を要求される技能だ。気流で暴れるホースドローグユニットに機体をぶつけたりすること無く戦闘機のプローブを差し込んだり、ブーマーの指示通りに機体を動かして、一定距離と一定速度を保ち続けて飛行し続けることをしなければならない。

 

『接続まで5マイル。そのまま真っすぐ飛行しろ』

 

 サイファーが乗るSu-35BMの空中給油方式はプローブ&ドローグ方式なので、パイロット自ら繊細に機体をコントロールして燃料補給を受けなければならない。しかしながら、サイファーはふらふらと不規則に動くホースドローグユニットに、あっさりとプローブを差し込んでみせた。そのまま機体をラダーだけで機体を安定させ、燃料が満タンになるまで背もたれに背中を預けた。最初のうちは苦労した作業だが、慣れてしまえば何のことは無い。

 燃料メーターが満タンまで上がった。サイファーは接続を切り、戦闘機をKC-10Aから遠ざけ、少し高度を落とした。プローブから気化した燃料が僅かに大気中に飛ぶ。

 

『補給完了!行ってこい!』

 

 サイファーとジャガーは機体を一度降下させ、南東に向かって飛行を続けた。国境地帯には、ウェルヴァキアが移動式早期警戒レーダー装置を多数配備しているとの情報だ。まずは、先遣隊がこれを排除し、攻撃部隊の突破口を開くことになっている。いつもの手順とはいえ、先遣隊は敵の対空ミサイルによる反撃を最初に受ける可能性がある、極めて危険なミッションを任されている。だが、その先遣隊にはある秘策があった。

 

 1996年 3月27日 1513時 ノルドランド・ウェルヴァキア国境地帯

 

「ミュージックスタート。ジャミングは・・・・・今のところは通用しているようだ。今のうちにレーダーを片づけてくれ」

 

 EA-6Bプラウラー電子攻撃機が、翼と動体に吊り下げたAN/ALQ-99ジャミングポッドを作動させ、敵の防空レーダーと通信設備に妨害電波を送信し始めた。これでレーダー画面には奇妙な靄のようなものが表示され、通信も上手く取れなくなっているはずだ。

 

『了解だ。今、レーダーの電波を捉えた・・・・・・発射!』

 

 ノルドランド空軍のF-16Cの編隊が、一斉にAGM-88D対レーダーミサイルを放った。ミサイルは猛スピードで電波の発信源に向かい、衝突して破壊した。

 

『こちらビーバー隊。敵レーダー施設を破壊した』

 

『グリズリー隊、ターゲット破壊確認』

 

『クロコダイル隊、敵防空施設破壊完了』

 

『AWACSガーディアンより作戦中の全機へ。フェーズ1が完了した。フェーズ2に以降せよ。攻撃部隊は施設の攻撃、護衛部隊は上空を飛びつつ、敵迎撃機に対する警戒を怠るな!』

 

 1996年 3月27日 1516時 ウェルヴァキア国内上空

 

 サイファーは後ろからついてきていたA-10CやF-16Aの編隊が高度を下げ、敵の施設を空爆しに向かうのを見守った。サイファーとジャガーが任されたのはいわゆる上空警戒で、地上攻撃部隊に向かってくるウェルヴァキア空軍機の排除である。サイファーとしてはあまり気が進まない任務だ。上空警戒ということは、つまり、他人の面倒を見なければならないということである。自分の身は自分で守れ。それがサイファーの信念だ。そのため、今までの作戦でも、急な援護要請に関しては、サイファーは無視を決め込んでいた。そのために撃墜されたパイロットも少なくないが、サイファーにとってはどこ吹く風だ。

 

 戦場は非情だ。最後は自分の身は自分で守るしか無い。それができない奴は勝手に死んでいくだけ。サイファーはそのルールを厳密に守っていた。空軍のパイロット連中は、そのようなサイファーの態度に対して少なからず非難の声を上げていた。しかしながら、それを理解している奴らはいた。傭兵たちだ。彼らは基本的に他人の援護をこれっぽっちもあてにしていない。最後に頼りになるのは自分自身のみ。

 

『AWACSガーディアンより警戒中の戦闘機へ。敵機接近。方位、224、高度8500、距離80マイル、速度マッハ1.2だ。迎撃せよ』

 

 獲物がやってきたか。さて、撃ち落としに向かうとしよう。

 

「マングース1、交戦する」

 

『マングース2、攻撃します』


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