ACE COMBAT after story of the demon of the round table 作:F.Y
1996年 3月27日 1517時 ウェルヴァキア上空
サイファーはSu-35BMを上昇させ、旋回させてから降下し、敵機の後ろに回り込んだ。ハイGヨー・ヨーという空戦機動だ。後ろからサイファーに付いて行っていたジャガーは、あんなに早いハイGヨー・ヨーを見たことが無かった。例え事前に敵がその機動をすると分かっていたとしても、あれに反応するのは至難の業であろう。MiG-23MLの後ろに回り込んだサイファーのフランカーから曳光弾の短い連射が2回、放たれる。30㎜劣化ウラン弾が敵機のエンジンを砕き、飛行不能にした。シングルエンジンの戦闘機は瞬く間に推力を失い、飛行不能に陥った。
フロッグフットのパイロットは無理をすることなく、機体が激しいスピンに陥る前に射出座席のハンドルを引いて脱出した。ロケットモーターがコックピットからパイロットを撃ち出した。即座にパラシュートが開き、ウェルヴァキア空軍兵が危険極まりない空の中を漂い始める。主人を失った戦闘機は煙を吐きながら真っ逆さまに地面に向かって落下し、岩肌にぶつかって粉々に砕け散った。
「マングース1、敵機撃墜」
一方でジャガーはサイファーが攻撃した敵の僚機を追っていた。JAS-39CとMiG-23ML。この2機は20年近くもの世代の落差がある。電子機器も、エンジンの性能も、空力特性も、全てにおいてグリペンの方が上回っていた。
フロッガーは特徴的な可変後退翼を広げたり畳んだりしながら旋回し、この新世代の戦闘機から逃げ回っていた。しかしながら、MiG-23MLはあっという間にグリペンに追いつかれ、後部に27㎜機関砲の弾を食らった。タングステンの合金で作られた大きな弾丸によって、旧世代の戦闘機の後部の一部がバナナの皮のように裂けた。パイロットは射出ハンドルを引き、やや分厚い雪雲がかかった空に飛び出して逃れた。
「マングース2、スプラッシュ1」
『ガーディアンよりマングース隊へ。敵機が方位191から接近中。高度9000、数2。迎撃せよ』
「マングース1、迎撃する」
『マングース2、迎撃』
2機の戦闘機はターゲットに向かってアフターバーナーの轟音を響かせながらターゲットに向かって飛行し始めた。
1996年 3月27日 1518時 ウェルヴァキア ブルノイェスク空軍基地
今までこっちから仕掛けることが多かったウェルヴァキア空軍であるが、まさかノルドランド軍の方から攻撃を仕掛けてきたことによる防戦になることはあまり想定していなかった。そのため、迎撃のための発進がやや遅れた。整備員たちが格納庫からMiG-23MLやMiG-29Sを大急ぎで引っ張り出し、ミサイルや増槽を取り付け、燃料を補給していく。
このような混乱した状況下ではあるものの、空軍兵たちは極めて効率よく戦闘機の発進体制を整え、出撃可能になった機体から次々と上げていた。
『タワーよりフロッグ1、離陸を許可する。フロッグ2、続いて離陸しろ。後の機体は管制の指示を待つな。体制が整い次第、すぐに上がれ』
誘導路にはMiG-23ML"フロッガー"やMiG-21PFS"フィッシュベッド"、MiG-29S"フルクラム"が列を成して待機している。ノルドランドとの戦闘で多くの戦闘機を失いはしたものの、ウェルヴァキアは航空機の製造工場を24時間フル稼働させることでラインを維持し、保有機数を確保していた。
『フロッグ1、離陸』
MiG-23MLがアフターバーナーに点火し、滑走路に僅かに残っていた雪や氷のかけらを巻き上げ、排気熱で溶かしながら離陸した。胴体には増槽を1つ。翼の下のランチャーにはR-27とR-73をそれぞれ2発ずつ搭載している。少ない武装だが、これがフロッグフットのフル武装である。
『フロッグ2、離陸』
単発エンジンの中型戦闘機はふわりと浮かび上がり、ある程度の高度まで上昇したのち、旋回を始めた。
『ブルノイェスクタワーよりフロッグ隊へ。高度13000フィートまで上昇しつつ、方位022へ迎え。今後は周波数112.33にてコルツのレーダーサイトと交信しつつ、指示を受け取れ』
『フロッグ1了解。フロッグ2、聞いたか?』
『周波数112.33。了解』
パイロットは無線機のダイヤルを動かし、基地から指示された周波数に合わせた。かつて冷戦があったころ、ウェルヴァキアはこの戦闘機をユークトバニアから多数輸入した。この古い世代の航空機はベルカの手によって近代化改修と耐用寿命延長改修を施され、今でも新品同様の状態に保たれている。
レーダーがユーク製の古いものから、ベルカ製の新世代のものに換装したおかげで探知距離が延伸し、シュートダウン・ルックダウン性能も獲得した。そして、R-27AEアクティブレーダー誘導ミサイルの運用性能もある。導入した当初と比べてかなり強力な機体となり、空力特性を除けば、MiG-29SMTとは遜色ない性能を獲得してた。
1996年 3月27日 1518時 ウェルヴァキア上空
サイファーは正面から高速で飛んできたミサイルを素早く回避した。どうやら僚機のジャガーも上手く敵の攻撃から逃れたようだ。
放たれたのは、恐らくはR-27かR-77。ウェルヴァキアがR-77を入手したとの情報は聞いたことが無かったが、ベルカの支援を受けているとなると、十分考えられる。R-77を運用可能なウェルヴァキア空軍機はMiG-29SとMiG-29SMTのみだが、近代化改修されたMiG-23MLが運用能力を追加されている可能性は十分あり得る。
レーダースコープに敵を示す輝点が表示された。レーダーモードを遠距離探索から、中距離交戦に切り替える。火器管制システムを機動し、R-77を選択した。やがて、敵機を捉えたことを知らせる電子音が聞こえてくる。
「マングース1、Fox1!」
エアインテイク下のランチャーから放たれた空対空ミサイルは、ほんの数秒だけ、Su-35BMのレーダーによって誘導されたのち、先端部のアクティブレーダーのスイッチをオンにした。ミサイル内部のコンピューターが戦闘機から送信されていた敵機の情報を頼りに、自ら敵機を見つけ出し、マッハ4の高速で飛び出した。
1996年 3月27日 1518時 ウェルヴァキア上空
『モール2、ミサイル!ミサイル!』
「畜生!」
ウェルヴァキア空軍の4機のMiG-29Sは散開してミサイルを回避しようとした。1発のミサイルが編隊の2番機目掛けて飛んで来る。続いてミサイルがもう1発、こちらに向かって飛んできた。これは3番機を狙っていた。
『ECM!チャフ、フレア!』
モール隊が使っていたフルクラムは、最新鋭のMiG-29SMTでは無く、MiG-29Sであり、電子防御装置は1世代ほど古い物が搭載されていた。モール2のパイロットが乗る機体のコックピットでは、ミサイル警報装置が耳障りな音を響かせる。
『くそっ、ダメだ!振り切れない!』
『モール3、ミサイルだ!お前を狙っている!』
編隊の3番機は攻撃に対する反応がほんのコンマ数秒だけ遅れた。その結果、ミーティア空対空ミサイルがこのフルクラムに追いつき、後部で弾頭を炸裂させた。
『モール3やられた!イジェクト!』
モール3のパイロットは運良く射出座席を作動させ、何とか命だけは助かった。しかし、モール2のパイロットはそうはならなかった。
『モール2、逃げろ!』
モール2が乗るフルクラムのすぐ真下でR-77が破裂した時、弾頭の炸薬によって火が付いた高温の金属の破片が戦闘機の燃料タンクの内部にめり込んだ。その結果、燃料に引火して、戦闘機は瞬く間に炎に包まれた。それはコックピットの中にまで燃え広がり、パイロットを蒸し焼きにして殺した。燃え盛るフルクラムの機体は流れ星のように曇り空に赤い条を描きながら地面に向かって落下していった。
『畜生!あの野郎!』
『待て、モール4、早まるな!』
モール4のパイロットはフランカーに向かって行った。ところが、そのフランカーはいつの間にか目の前から消えていた。
『くそっ!どこに消えやがった!』
パイロットが後ろを振り返った途端、機体に衝撃が走った。コックピットで警報が鳴り続ける。
『脱出!脱出!』
1996年 3月27日 1519時 ウェルヴァキア上空
サイファーは3機の戦闘機を血祭りに上げた。残るは1機。その1機は、ジャガーが乗るJAS-39Cに追われている。勿論、サイファーは座視しているつもりはなかった。自分も攻撃可能な位置にいるのに、むざむざ戦果を他人に譲ってやる義理は無い。
グリペンがフルクラムに肉迫し、機関砲の短い連射を数回放った。フルクラムの胴体や主翼に穴が空き、損傷した油圧アクチュエーターや燃料タンクから気化したケロシンや機械油が漏れ出す。フルクラムは操縦不能となって、墜落した。
『マングース2、敵機撃墜』
戦闘機が敵の迎撃機を排除していったおかげで、ノルドランド空軍と傭兵部隊の攻撃編隊はかなりすんなりとターゲット到達することができた。