ACE COMBAT after story of the demon of the round table   作:F.Y

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空中戦のゴング

 1996年 3月27日 1540時 ウェルヴァキア上空

 

 サイファーとジャガーは大きく旋回し、敵機に対して西から向かって攻撃する体制を整えた。他にもF-16AやF/A-18C、MiG-25P、F-15Cなど、ノルドランド空軍や傭兵が乗る戦闘機が続く。東の方にあるターゲットから、火の手が上がり、黒煙がもくもくと立ち上っているのが見えた。

 

『ガーディアンへ、こちらユニコーン隊。ターゲットの破壊を確認』

 

『こちらボア隊、仕上げにかかる』

 

 F-15EとF-16Cの混成編隊がウェルヴァキア陸軍の駐屯地上空を低空でフライバイしながらCBU-87クラスター爆弾を投下した。爆弾の外殻が4つに割れ、中から202個の小さな爆弾がばら撒かれ、ボロボロの状態になったウェルヴァキア陸軍の施設に追い打ちをかけた。地上で爆発した爆弾によってトラックや装甲車、タンクローリーは金属の残骸となり、まだ残っていた兵士の体が挽肉と化す。

 地上を攻撃する戦闘機や攻撃機のパイロットは、自分たちが投下した爆弾や空対地ミサイルで、地上にいる人間がどうなったかという結果を見ることは無い。戦闘機は高速で飛んでいるため、あっという間にターゲットから飛び去って行くし、そんな事をいちいち確認していたら、敵の戦闘機や生き残っている地対空ミサイルの標的になってしまう。

 

『ガーディアンより攻撃部隊へ。敵編隊が接近中。爆弾を使い切った機体はここから退避せよ』

 

 A-4EスカイホークやA-6Eイントルーダーといった攻撃機が旋回し、この空域から離れ始めた。このような低速で、アフターバーナーを持たない旧世代の攻撃機は、空中戦に巻き込まれればひとたまりも無く撃墜されてしまう。A-10AサンダーボルトⅡは頑丈な装甲を持ち、R-73の破片を少し浴びたくらいではびくともしないこともあり、尚且つ自衛用のAIM-9Lサイドワインダーミサイルを装備しているものの、激しい機動を伴う空中戦を行う事は最初から想定されていない設計であるが故、ここから逃げ出した。

 

 1996年 3月27日 1543時 ウェルヴァキア上空

 

 日が傾き始めた晩冬のの空にウェルヴァキア空軍の戦闘機が多数飛来した。ウェルヴァキア側は、ノルドランド軍がまさか、これほどまでの大攻勢に打って出るとは予想していなかった。そのため、この攻撃に対する反応が遅れた。しかしながら、空軍司令部はノルドランド空軍機を逃がすな、という命令を出した。MiG-23MLとMiG-29S、MiG-29SMTなどが雲霞の如く飛んで来る。

 

 MiG-29SMTのコックピットの中でステファン・ナスターセ少尉は一度、ヘルメットのバイザーを上げ、酸素マスクを外してから付け直した。少尉にとって、これが最初の実戦だ。訓練と違い、操縦桿に付けられた発射ボタンやトリガーを押せば、実際にミサイルや機関砲の弾が発射される。しかしながら、それは、ロックオンされ、逃げ切ることが出来なければ、大きく、耳障りな警告音と共に、編隊長からお前は死んだとか、ウィングマンが落とされたとかどやしつけられるだけでは済まない。自分か仲間が死ぬことになるのだ。

 

『こちらパヤンジェン1、敵機を確認。迎撃に向かう。全機、奴らを落とせ』

 

 艶消しの塗料による全面ダークグレー塗装に、鮮やかな赤と黄色のラインが胴体と左右の主翼に描かれたフルクラムの編隊がノルドランド空軍機がいる空域に向かった。尾翼には赤い蜘蛛のエンブレムが描かれている。

 パヤンジェン隊は、ウェルヴァキア空軍の中でもエリートと呼ばれている飛行隊だ。この飛行隊には自ら希望して入ることはできない。隊長であるマルコ・ドブレ中佐が自ら選抜した選りすぐりのパイロットによって構成されている。ドブレはこの飛行隊の隊長を務める傍ら、空軍のアグレッサー部隊の一員という努めもこなしていた。ウェルヴァキア空軍の飛行隊に対して、仮想敵を演じる演習を定期的に行い、見込がありそうな若いパイロットをパヤンジェン隊に一本釣りで引き入れていた。

 

 他の戦闘機の部隊は、パヤンジェン隊ほどエリートとは言えないものの、これまで戦場を潜り抜け、敵を撃ち落として生き残ってきた連中ばかりだ。ノルドランド侵攻前にも、ファートやラティオとの中小規模な武力衝突に於いて敵の戦闘機を多く撃墜してきた。ドブレ中佐は、今回も部下たちはきっちりと自分の仕事をこなしてくれるだろう、と考えていた。確かにノルドランドが雇った傭兵は驚異的な強さを発揮している。しかしながら、自分たちも、この戦争の前には突如として現れたベルカ人のパイロットに鍛えられたばかりだ。

 あのベルカ人については謎だらけであったが、それでも、1940年代のレシプロ機時代から最強と呼ばれていたベルカ空軍のパイロットなだけはあった。連中はウェルヴァキア空軍の中でもエリートと言われているパイロットたちをコテンパンに打ち負かした後、極めて適格な空中戦の戦技指導を集中的に行った。それによって、ウェルヴァキア空軍の戦闘機乗りのレベルは、数年前に比べて大幅に上昇した。

 それなのに、傭兵ごときを相手に大勢のパイロットが犠牲になっていた。正規のノルドランド空軍を相手にしているのならばわかるが、下手すれば、単純に戦闘機を操縦する技能を持っている程度のチンピラのような奴らに負けたことになる。

 ナスターセ少尉は、まるで国家に命と忠誠を誓っている自分たちが、国を捨て、堕落と自由、報酬にしか興味の無い、だらしのない奴らに馬鹿にされているように感じていた。そう思うと、傭兵に対する怒りがふつふつと湧き始めた。こいつらを必ずや撃墜して見せる。しかしながら、自分は前にいる3番機を援護する役目しか任されていない。積極的に攻撃を仕掛けに行くのは、隊長と3番機で、自分と2番機は彼らに狙いを定めてくる奴を追い払う事に集中せねばならない。そのことが、この出撃で初の戦果を上げたいと考えていたナスターセ少尉にとっては目の上のたんこぶになっていた。

 

 1996年 3月27日 1544時 ウェルヴァキア上空

 

 西日がノルドランド空軍機と傭兵たちの戦闘機を照らし、灰色の艶消し塗料に鮮やかなオレンジ色を上塗りした。編隊は新たに現れた敵機に向かって飛行している。レーダーでは既に敵機を捉えていた。あと100マイル程。部隊の司令塔である、AWACSガーディアンに乗るピーター・ダール中佐は射程内に捉え次第、攻撃せよとパイロットたちに銘じた。そのため、特に、傭兵パイロットたちは早く引き金を引きたくてうずうずしていた。

 

『こちらコヨーテ1、射程まであと200マイル』

 

 コヨーテ1というコールサインを名乗っている傭兵パイロットが乗っているのはF-14Aトムキャット。オーシア海軍の主力空母艦載機だが、一部の国にも輸出され、その国は陸上基地から運用している。AN/AWG-9レーダーは200kmも離れた場所から24個の目標を同時に追尾し、6つの目標をAIM-54フェニックス空対空ミサイルで同時に攻撃する性能がある。最初の一撃を放つのは、この戦闘機になるだろう。

 

『ガーディアンより迎撃に向かっている編隊へ。敵が射程内に入り次第、即座に攻撃せよ。繰り返す。敵を射程内に捉えた機から直ちに攻撃せよ』

 

「あと30秒で射程内だ。用意はいいか?」

 

 コヨーテ1のパイロットが後部座席に座るRIOに話しかけた。

 

「ああ、いつでもいいぜ。あとほんの少しで射程内だ。あと・・・・・10秒で」

 

 RIOがそう言った直後、コックピットが電子音で満たされた。フェニックスミサイルが敵の戦闘機を補足したことを知らせる音だ。

 

「コヨーテ1、Fox1!」

 

『コヨーテ2、Fox1!』

 

 F-14Aから巨大な槍が放たれ、真っすぐ飛翔した後、敵機を撃墜した。それが空中戦の始まりを告げる合図となった。 

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