ACE COMBAT after story of the demon of the round table 作:F.Y
1996年 1月11日 1114時 ノルドランド ヨアキムロル 訓練空域
『ノックイットオフ、ノックイットオフ』
上空を飛ぶE-3C
ジャガーは、かつての相棒だった、ピクシー程とは言えないものの、確実にPJよりは上の腕前だ。2人は、新たな部隊名である『マングース隊』を名乗っていた。サイファーが"マングース1"で、ジャガーが"マングース2"だ。
『こちら空中管制機ホワイトキング。調子がいいな、マングース隊』
「褒めたって、何も出ないぞ。ホワイトキング。それよりも、次の"獲物"はどれだ?」
『ああ。次の相手は、スパイダー隊だ。油断するなよ』
「わかった。正面の2機だな?」
『ああ、そうだ』
今日の訓練は、まず、複数の
最初のは20個あった編隊は、今は、4個にまで減っている。その中に、サイファーとジャガーがいる。
「マングース1からマングース2へ。まだやれるか?」
『勿論です。援護は任せて下さい!』
「よし、君は、俺の背中に貼りついてくる奴を"撃て"。それだけを考えていればいい」
『わかりました』
マングース隊は、またたく間に"敵機"を食らい尽くしていた。しかし、その殆どがサイファーの"撃墜"によるもので、ジャガーが"撃ち落とした"のは2機だけだった。
サイファーは次の獲物に狙いを定めた。こちらに向かって飛んできている、JAS-39CとMiG-31BMのコンビだ。サイファーとジャガーは、レーダーでその機影を捉えた。
「よし、ジャガー。指示と同時にミーティアを"放て"。こっちはKS-172を"放つ"。いいか?」
『任せてください。やってやりましょう!』
1996年 1月11日 1014時 ウェルヴァキア ハブロノスカ空軍基地
An-124輸送機とIL-76輸送機が相次いで着陸した。国籍マークは消されており、どの国からやって来た機体なのか、判別することはできない。しかし、その輸送機から降ろされたコンテナには、赤い正方形の右下に、白い斜めのラインが入り、その下にはグランダーI.G.という文字がステンシルされている。
この工業会社は、ノースオーシア州で突如として創設された新興企業だ。現在は、主に防衛産業に力を入れており、オーシア軍の新設ネットワークシステムの開発を落札したとして注目を集めていた。
グランダー社は、他にも様々な兵機の製造、主に戦闘機や空対空ミサイル、輸送機などといった航空兵器を主要製品として、オーシア海空軍に納めている。
オーシア軍を相手に商売している事もあり、新興企業としては、異例の営業売上を叩き出し、今、最も注目を集めている工業会社の一つである。
だが、この会社には世間一般には公開していない、裏の決算表なるものがあった。それは、紛争当事国やならず者国家に対して、密かに売った兵器の売上だ。勿論、この事は、オーシア政府は知らずにいた。
近年では、内戦により、国際条約で兵器と、兵器製造に繋がるあらゆる機器や物資の輸出販売、そして技術供与を禁止されているレサス共和国やエストバキア連邦に極秘裏に戦闘機を輸出していた。しかも、レサスに対しては、兵器そのもののみならず、兵器製造技術の提供まで行っている。
そして、その裏で暗躍していたのがベルカ人の秘密結社"灰色の男たち"だ。彼らは、身分を偽り、オーシアやユークトバニア、エルジアなどの防衛産業に密かに入り込み、技術供与を行いつつ、戦争や紛争の火種をばら撒きつつあった。ベルカは経済制裁の隙間を縫い、こういった形で力を蓄えつつあった。しかも、兵器工場などの資産自体がベルカ国内に存在しないため、より一層、グランダー社とベルカを取り巻く兵器とお金の動きを追跡するのは困難となっていた。更に、そのお金は、ベルーサやファート、エルジアといった諸外国の銀行を幾つも経由しながら資金洗浄が行われていたため、ベルカの制裁逃れの証拠集めを、非常に困難なものにしていた。
密輸機が物資を下ろしている最中、4機のMiG-29SMTがタキシングを開始した。先頭を行くリーダー機の尾翼には、とぐろを巻く蛇のマーキングが施されている。
その特徴的な機体を操るのは、ダニエル・"ルップ"・イオネスク大佐。今年で50歳になる、ベテランパイロットだ。戦闘機パイロットとしては、かなり高齢だが、この男が今だに戦闘機に乗り続けているのは、理由があった。若手パイロットの教育・訓練に於いても、ウェルヴァキアではルップの右にでる者はいない。
ルップは、約20年前、ウェルヴァキアとレティオとの戦争に於いて、敵の戦闘機を数十機も撃墜した英雄と言われている。そして、当時、彼の眼の前に現れた敵機は、またたく間に地面に叩き落とされていたという。現に、模擬戦で彼に勝てるパイロットは、ウェルヴァキア空軍内部には存在していない。
普通は、この歳にもなったら、大抵の場合、戦闘機パイロットからは引退をするものである。どんなに腕が良くても、戦闘機の激しい機動に、身体が追いついていけなくなる。しかし、ルップは、そんな事はどこ吹く風。同じ年代のパイロットが、体力的な問題を理由に、次々と戦闘機から降りて行くのにも関わらず、未だに操縦桿を握り続けていた。
今日、ルップは、3人の若手を引き連れ、訓練に出かけるところだった。ウェルヴァキアは現在、臨戦体制を整えていた。国民生活は、平時から戦時体制となり、徴兵年齢も1年、引き下げられたという。理由は、ノルドランドが持っている、豊富な油田の割譲を拒否したため、それを奪うために、戦争も辞さない、というものであった。
産業も天然資源も乏しいウェルヴァキアは、経済が行き詰まり始めていた。元々、農業と漁業などで成り立っていたこの国の経済であるが、15年ほど前から、当時の指導者が、工業を重視するよう、経済政策を切り替えた。ところが、それもちっとも上手くいかず、ウェルヴァキアの経済は、負のスパイラルに飲み込まれていった。
大した技術も無く、工業製品は全く海外に売れない。おまけに、かつては肥沃だった穀倉地帯を潰して工業地区を無理やり開発したため、国民に十分な食料も段々と行き渡らなくなっていった。
政府の指導者は、これを、自国の技術水準が他国に比べて低いことを棚に上げて、所謂"押し売り"をしてる隣国のノルドランドやレティオ、ゲベートが、ウェルヴァキア製の製品を買ってくれない事が問題だとして、これらの国を激しく非難していた。
更に、ノルドランドに対しては、天然資源の豊富さを指摘して、ノルドランドはそれを持ち過ぎではないか。そんなに持っているのであれば、他国にある程度譲るべきではないかという、はっきり言って、支離滅裂な主張を持ち出し始めた。だが、そのような事を言い出すほどにまで、ウェルヴァキアの経済は行き詰まりつつあった。
だが、ルップにとっては、そんな事はどうでも良かった。戦争になれば、自分は敵戦闘機を撃ち落とす。それだけだ。もし、祖国が、敵を殺せというのならば、喜んでそうしよう。小難しいことは、政治屋に任せればいい。
基地のタワーが離陸の許可を出した。4機のフルクラムは、鉛色の空へと消えていく。訓練空域では、敵を演じる4機の戦闘機と模擬空中戦を行うことになっていた。視界はやや悪いが、雪は全く降っていないため、訓練に支障は殆ど無いだろう。