ACE COMBAT after story of the demon of the round table 作:F.Y
1996年 3月27日 1545時 ウェルヴァキア上空
『ミサイル!ブレイク!』
パヤンジェン隊のMiG-29SMTが一斉に散開し、チャフとフレアをばら撒いた。ミサイルが煙を引きながらその戦闘機のすぐ近くを掠めるように飛び去って行く。このウェルヴァキア空軍のエリート部隊はすぐに反撃に転じた。レーダーで前方の敵機を捉え、ミサイルを発射する。
『Fox1!』
8機のフルクラムがR-77を、その後ろからやって来る6機のMiG-23MLがR-27ER1を放った。お互いにヘッドオンの位置にいるため、ミサイルの接近速度は相対的に早くなる。
『警告!ミサイル!』
双方の戦闘機が散開し、ある機体は上昇し、ある機体は降下してミサイルを避けようとした。空中でチャフとフレアがばら撒かれ、真昼の花火が上がる。ミサイルは空中で漂うアルミニウムコーティングされたグラスファイバーや燃え盛るフレアに突っ込んでから弾頭を炸裂させた。
サイファーは機体を上昇させながら後方をちらりと見て、周囲をざっと見回した。どうやら、今の撃ち合いで撃墜された機体は無いらしい。
『AWACSガーディアンより攻撃部隊へ。敵機は上下に散らばった。各機、それぞれの判断で攻撃し、撃墜せよ』
サイファーは一度機体を緩やかに上昇させて位置エネルギーを得て、急旋回させながら降下させ、低空に向かった敵機を仕留めに行った。2番機のジャガーは、1番機のこの急激な動きに素早く対応し、サイファーを援護する位置に入った。
サイファーは機体をロールさせて前を見て、敵機を観察した。フルクラムの方はダークグレーに赤と黄色のラインという目立つ塗装をしている一方で、フロッガーの方はグレーと色あせたような緑色の迷彩模様。フロッガーは一般の飛行隊のようだが、フルクラムの方は塗装から判断するに、エリート部隊だ。十分に注意する必要がある。
サイファーはレーダーモードを近距離戦闘モードに切り替えた。間もなくR-73の射程内に入る。ヘルメットに搭載されたディスプレイにボアサイトが表示される。サイファーは首を動かし、それの中心に敵機が来るように機体を動かした。緑色のキューが敵機と重なり、赤に変化して特徴的な電子音が鳴り響いた。サイファーが操縦桿のボタンを押すと、ランチャーレールからR-73が滑り出し、真っすぐ敵機に目掛けて飛翔する。フルクラムは燃え盛るフレアをばら撒いたが、タイミングをほんのコンマ数秒誤った。ミサイルは戦闘機のすぐ近くで弾頭を炸裂させ、無数の金属片を浴びせた。
『パヤンジェン7被弾!畜生!コントロールが!』
損傷したミグはフラフラと不安定な飛行を続けた後、どんどん高度を下げていった。この戦闘機を撃った張本人は全くそれを気にせずに次の獲物を求めて飛び去って行く。
『パヤンジェン7、脱出しろ!』
ミグのパイロットは射出ハンドルを引いた。しかし、イジェクションシートは全く反応せず、パイロットを空に撃ち出すことは無い。もう一度ハンドルを引いたが、結果は同じだ。そうこうしている間に、白と茶色の斑模様の地面がパイロットの視界の前に広がっていった。
『畜生!椅子が射出しない!くそっ!くそっ!』
パイロットはコックピットの中でパニック状態になり、何度も黄色い射出ハンドルを引く。地面に激突するまでの時間はほんの十数秒間だったが、パイロットにはその時間が何時間にも感じた。MiG-29SMTはイジェクションシートで人間を射ち出す事なく、巨大な岩石に叩き付けられてバラバラになった。
1996年 3月27日 1547時 ウェルヴァキア上空
マルコ・ドブレ中佐は驚愕した。まさか、自分の部隊のメンバーが撃墜されるとは!こいつらには、必ずや代償を支払わせてやる!ドブレは正面を見た。丁度、ノルドランド空軍のF-4Eの編隊がこちらに向かってきているのが見える。ドブレは2番機を呼び、編隊を組み直させた。
「パヤンジェン1より2へ。正面のファントムを殺る」
『2了解』
ファントムとフルクラムは正面ですれ違い、どちらも自分から見て水平に右方向に旋回を始めた。
「パヤンジェン8、パヤンジェン5と6の僚機の位置についてフォーメーションを組み直せ。3機で奴らを殺せ。パヤンジェン3とパヤンジェン4はそのまま戦闘を続けろ」
ドブレは自分が敵機を追跡中であるにも関わらず、離れた場所にいる部下に素早く指示を出した。視線は離れた場所で旋回を続けるF-4Eに合わせたままだ。
ファントムは、エンジンのパワーこそあるが、低速時での機動性にかけては、やはり難があった。ドブレが操縦するMiG-29SMTは、あっという間にF-4Eに追い付いた。
R-73の射程内に入り、HMDバイザーにキューが表示される。それがファントムの後ろ姿に重なったかと思った瞬間、F-4がロール運動をして消えた。
「なっ・・・・・!」
ドブレは上空を見た。ファントムはいない。
『隊長!下です!』
なるほど。スローロールか。速度を落とし、ロールしながら降下する。僚機がいなければ見落とすところだった。ドブレはミグをハイGヨーヨーの要領で旋回させ、位置エネルギーを大きく失ったファントムに向かわせた。僚機がそれに続く。
2機のファントムはエンジンを吹かし、懸命に上昇しょうとしているところだった。ドブレのフルクラムのレーダーがそれを捉える。
「なかなかやりおるな。だが、終わりだ!」
ドブレと僚機はR-77を1発ずつ射った。新鋭のアクティブレーダー誘導ミサイルは、ファントムに搭載された旧式のECM装置に騙される事なく、あっさりと標的を撃墜した。
さて、次の獲物を探そう。まずは味方を呼び戻してから・・・・・・・。
『パヤンジェン3被弾!畜生!脱出する!』
『くそっ!なんだ、こいつは・・・・・ぐわっ!』
通信が途切れた。2機も落とされただと?
『パヤンジェン3!どうした!?パヤンジェン4!』
『パヤンジェン5、敵に追われている!なんて奴だ!振りきれない!ぎゃあ!』
『あいつ!くそっ!あのフランカー、落としてやる!』
『パヤンジェン8、早まるな!俺と編隊を組み直せ!ああっ!』
『パヤンジェン6!何が起きた!』
『たった1機のフランカーにやられている!畜生!何だあいつは!』
ややあって、衝撃音が続いた。
『パヤンジェン6被弾した!機体炎上!脱出する!』
「パヤンジェン8、聞こえるか!今すぐに俺と合流し・・・・・・」
沈黙。
「パヤンジェン4、どうなってる!?俺と合流しろ!」
『くそっ!このグリペン、どこから現れやがった!』
『ダメだ!被弾した!離脱する!』
1996年 3月27日 1549時 ウェルヴァキア上空
サイファーは残弾と燃料を確認した。残りは7発。ジャガーのJAS-39Cの残弾は3発だ。敵の残りは3機。撃墜するには十分だ。燃料もこいつらを撃ち落として、基地に帰還するまでの残りはある。レーダーを使って敵の位置を確認する。3機は編隊を組みなおしてこちらに向かってきていた。
ジャガーはサイファーとAWACSの指示通りに働いてくれた。そのおかげで敵に反撃する余裕を与えることなく攻撃することができた。
「サイファーよりジャガーへ。残りを狩る」
『ジャガー了解。後ろは任せて下さい』
『ガーディアンより攻撃部隊へ。ターゲットの破壊を確認した。護衛部隊が敵機を排除しているから、その間に基地に帰還せよ。国境の近くで空中給油機を待たせている。補給が必要ならランデブーせよ』
「了解。働いた分の報酬用意しとけよ」
サイファーはレーダーモードを切り替え、R77の発射準備を整えた。敵が射程内に入るのを待ち、追尾を続けた。レーダーが敵機を捉えたことを知らせる電子音が聞こえてきた。操縦桿の発射ボタンを押す。中射程ミサイルは敵のECMに騙される事なく敵機を大破させた。
『やられた!脱出する!』
派手な塗装のミグのコックピットからパラシュートが飛び出した。残りは2機。2機のミグは編隊を組み、反転して帰還しようとしていった。
サイファーはミサイルを確認した。まだ十分残っている。レーダーで前の2機をロックオンしてR77を2連続で発射する。パイロットが脱出する前にミサイルは戦闘機のすぐ近くで炸裂し、ズタズタに引き裂いた。
『ガーディアンより飛行中の戦闘機へ。敵機の排除を確認。帰り道に給油機を待たせてある。全機、帰投せよ』
ジャガーは周囲を見回した。味方の戦闘機が集まって編隊を組んでいる。燃料は基地に帰るのに十分な量が残っていた。
今日の空戦はかなり体に堪えた。HUDのGメーターの表示が何度も8G以上の数字を出したのだ。恐らく、帰ったら強い筋肉痛に襲われるだろう。体の所々で内出血しているかもしれない。大きく深呼吸し、戦闘機のOBOGSから供給される酸素を肺に送り込んだ。ここまで激しい空戦をしたのは初めてだ。今、戦った連中、恐らくはウェルヴァキア空軍のエース部隊だろう。サイファーのフランカーを右前に見て、シートに背中と頭を預けた。
今日のサイファーの動き、恐ろしく早く、ついて行くのがやっとだった。やはりベルカ戦争の英雄の動きは普通のパイロットと同じと思ってはいけないのだ。
ジャガーは自分の前を飛ぶフランカーを見た。確かに、Su-35BMはユークトバニアの最新鋭機で、並み程度のパイロットでもかなりの強さを発揮するが、この機体の場合は、操縦するパイロットのレベルが違いすぎるのだ。ここからはサイファーの表情は見ることができないが、だいたいどういう顔をしているのかはわかる。獲物を大勢狩って、満足げな表情を浮かべているはずだ。傭兵というは敵の血を吸うことで生きているのだ。国を守る、軍人とは全く違う人種だ。
ジャガーは、サイファーがあまり過去の事を話さないので、正直、このパイロットがどういう人間なのか、未だに掴めないでいた。しかし、今、一つだけはっきりと言えることがある。サイファーは自分や、ノルドランド空軍の兵士たちとは次元の違う存在だ。空戦の技術も、価値観も、思想も。そして、それを理解できる人間は、この世界に僅かしかいないであろうということが。