ACE COMBAT after story of the demon of the round table 作:F.Y
1996年 4月11日 0811時 ノルドランド ヴェリラノルド地方
ウェルヴァキアとの国境地帯中部であるヴェリラノルド地方の上空をRF-4E偵察機が低空飛行している。機体は上部を濃い茶色と薄い緑色、深緑色の迷彩色に塗装され、下は明るいグレーに塗られている。
オリジナルのF-4EファントムⅡとは違い、機種部分のM61A1機関砲は前方、左右方向を撮影するフィルムカメラに換装されている。胴体中心パイロンと左右の主翼パイロンには増槽が搭載されている。F-4EのAIM-7Fスパローミサイルを搭載するランチャーは改造され、その右前方のポイントにAN/ALQ-131電子妨害ポッドが吊り下げられている。
ノルドランド空軍によるRF-4Eの警戒飛行は常態化していた。この戦術偵察機は戦闘機とは違い、基本的には単独で偵察任務をこなす。陸地における国境地帯上空の警戒偵察は空軍のRF-4Eが担当し、南西部の領海上空の警戒飛行は海軍のP-3Cオライオン哨戒機によって行われている。P-3Cは飛行速度も機動性も中型から大型のターボプロップ機並みなので、敵に狙われた時は逃げ出すのは困難になるが、元々が戦闘機であるRF-4Eはアフターバーナーを使い、最高速度マッハ2で逃げ出すこともできる。
RF-4Eの後部座席に座るクラウス・オルゲン中佐はレーダー警戒画面と慣性航法装置の表示に注意を向けた。ファントムには最新鋭の主力戦闘機であるJAS-39CグリペンやF-16Cファイティングファルコンのようなデジタル式のマッピングシステムや導入が始まったばかりのGPSのような位置情報を把握するシステムが搭載されていないので、慣性航法装置とTACAN、そしてなにより、パイロットとナビゲーターの航法技術の腕前が物を言う機体だ。
オルゲン中佐を始め、ファントム乗りは後輩パイロットの育成に苦労していた。ファントムは近代化改修により、あと20年程度はノルドランド空軍の主力機であり続ける予定だが、F-16やJAS-39にその座を奪われつつある。
まるで、空軍のパイロットアカデミーに入校したばかりの時に、昔ながらの航法の習得に苦労していたパイロット候補生の姿は、最新鋭の装備によって間もなく過去のものになっていくのだろうか。いや。アナログの技術も決して廃れる訳では無い。最新鋭の機器が不調になった時には、必ずや人間が飛行機を飛ばし始めた頃の航法技術が役に立つはずだ。
「中佐。計画通り、国境沿いを南に向かって飛行します」
「よろしい大尉。間違っても計画の航路からは外れないように」
この機体を操縦しているのはロレンツ・クローグ大尉だ。この若者は計器が全てがアナログ式で、操縦系統の全てが油圧式であるこの古い世代の機体をしっかりと飛ばしている。オルゲン中佐は撮影機材の状況とレーダー警戒画面に注意を戻した。敵は国境越しに地対空ミサイルを撃ってこないとも限らない。このカメラはフィルム式で、この場で偵察結果を知ることはできない。そのため、JAS-39Cグリペン用のモジュラー式偵察機器であるSPK39の導入が開始されている。この器材が揃うと、この偵察機はお役御免となってしまう時が遠からずやって来るだろう。
しかしながら、機体自体は、整備部隊とノルド航空機工業の技術者の手によって、十分に整備され、まだまだ十分活躍できる状態に保たれている。
オルゲンはキャノピー越しに周囲を見回し、再びレーダー警戒画面に注意を戻した。ファントムは決して視界が良い機体とは言えない。おまけに、ウェルヴァキアは国境を越えて地対空ミサイルを放ち、ノルドランド領空内を飛ぶ飛行機を攻撃するということを何度もやっている。そのせいで、偵察中のRF-4Eが数回、撃ち落とされている。
しかしながら、偵察飛行中に国境沿いに集結するウェルヴァキア陸軍の戦車部隊を発見することもあるので、毎日の警戒飛行は欠かせない。
クローグ大尉は早朝のブリーフィングで決められた通りのコースをきっちりと守ってファントムを飛ばし続けた。
その間、オルゲン中佐は資料を眺め、パイロットな事前ブリーフィングで決められた通りに飛行しているのを確認した。ファントムは南に向かって飛行し、その後、所属基地に真っ直ぐ帰還して、フィルムを情報部に届けることになっている。
オルゲンはファントムの狭い窓から周囲の様子を眺めた。この機体はパワーと航続距離に優れているが、F-16やJAS-39に比べたら機動性は劣り、キャノピーの形状のせいか、コックピットからの視界も良いとは言えない。おまけに、この機体は非武装だ。
「大尉、方位083に転進。そろそろ帰るぞ」
「083、帰還します」
1996年 4月11日 0911時 ノルドランド ヨアキムロル航空基地
『ヨアキムロルタワーよりダック隊、離陸を許可する』
『ダック1、離陸』
『ダック2、離陸』
アフターバーナーの轟音を響かせながら、F-16Cファイティング・ファルコンとF-5EタイガーⅡが離陸した。F-5Eに乗っているのは、つい先週、ノルドランドにやってきたばかりの傭兵だ。
『タワーよりマングース隊、離陸を許可する』
「マングース1、離陸」
『マングース2、離陸』
サイファーとジャガーは、今日はこの傭兵の空戦の腕前を確かめる仕事をノルドランド空軍と傭兵の混成部隊の元締めであるロビン・リー少佐から仰せ付けられたのだった。他の傭兵たちや空軍兵たちは口々に『実戦だったらあいつら死んだな』と言っていた。
しかしながら、F-16に乗るノルドランド空軍パイロットと違い、F-5Eを駆る新入りの傭兵は"円卓の鬼神"を知らなかったので、ノルドランド空軍兵と他の傭兵たちが何を言っているのかさっぱり理解できなかったのだ。
1996年 4月11日 0913時 ノルドランド上空
4機の戦闘機は途中で管制官の指示により、2機ずつの編隊に分かれ、別々の空域に向かった。空はよく晴れ、微かに白い雲が浮かんでいるのが見える。雪はようやく溶け始め、白い地面の所々に緑や茶色の斑模様を確認することができた。
戦闘機には増槽は搭載されておらず、短射程ミサイル用ランチャーにはシーカーだけが搭載されている模擬戦用のダミーミサイルが搭載されている。短時間の訓練で切り上げる予定のため、空中給油機は待機していない。
F-5Eに乗るロベルト・ヴェラスケスはサピン王国からやって来た傭兵だ。ヴェラスケスはベルカ戦争当時は空軍のパイロットだったが、その後はもっと稼げる傭兵の道を目指したのだ。
そして、今回、空戦訓練の相手となるのが、あの英雄の『円卓の鬼神』だという事を知り、ヴェラスケスの気分は高揚していた。
今回は公正を期すため、防空司令部の要撃管制官の指示は無い。全て自分たちで考え、攻撃しなければならない。ヴェラスケスは1番機を務めるトビアス・バッケン大尉が操縦するF-16Cを見た。F-5よりも世代が新しく、敏捷性に富む機体だ。今回の訓練の相手がどんな奴なのかは知らない。しかし、自分はこれまでこの旧世代の戦闘機で戦い、生き残ってきたのだ。これでMiG-29SやF/A-18Aを撃ち落としたことだってザラだ。
『ダック1よりダック2へ。間もなく敵機を捉える。戦闘・・・・・・』
いきなりミサイルアラートが鳴り出した。"敵"は中射程ミサイルを"撃って"きた。
「ミサイル!ブレイク!ブレイク!」
1996年 4月11日 0914時 ノルドランド上空
サイファーはタイミングを見計らってからR-77を1発、2番機に向かって"射撃"した。レーダー画面上で"敵機"が回避機動を取るのがわかる。だが、そいつはとっくのとうにノーエスケープゾーンに入り込んでいた。2番機は"撃墜"され、翼を大きく振って基地へと帰還してく。
一方、1番機のバッケン大尉は真っすぐ飛んだ後、左側にハイGヨーヨーの要領旋回しながらジャガーが乗るグリペンを追いかけ始めた。ジャガーはキャノピーの後ろを見て、"敵機"の位置を確認した。丁度、自分から見て右斜め上後方の位置から追跡してくる。
サイファーのやり方はわかっている。2番機である自分のことも構わず、ひたすら目のまえの獲物を狩るだけ。ジャガーはその事を楽しんでさえいた。ジャガーは一度、グリペンを上昇させ、追いすがるF-16Cを振り払おうとした。機動性はどちらも同等なので、後はパイロットの腕が物を言う。
ジャガーは後ろをちらりと見た。機首の角度から、相手はリード・パシュートでこちらを狙っているようだ。それならば、オーバーシュートを狙うのが良さそうだ。敵の機首が少し外側を向いた。ジャガーは操縦桿を引き、ラダーペダルを両方踏み込んだ。JAS-39Cは急減速したため、F-16Cのパイロットには、先ほどまで目の前にいた獲物が突然、いなくなったように見えた。
バッケン大尉は周囲を見回した。あのグリペンはどこへ行ったのか。やがて無線に空電音が入ったかと思うと。
『マングース2、Fox3!』
畜生!やられた。バッケンは翼を振って基地へと帰還していった。残るのは2機。くそっ!
ダック3ことヴェラスケスは周囲を見回した。2対4という、圧倒的に有利な状況だったのに、空戦訓練の相手はあっという間に2対2という同等の状況に持ち込んできた。
『ダック3、合流してくれ!』
ヴェラスケスはダック4こと相棒のホルヘ・パルテラの要請通り、F-5Eの1番機の位置を目指して機体を旋回させた。周囲を見回し、鉛色の空の中、フライトリーダーを探す。
やがて見つけた。の機体は2機の戦闘機に追い回されている。ヴェラスケスはF-5Eのスロットルを前に倒し、アフターバーナー推力で援護に向かった。だが、どういう訳か左エンジンの推力が上がらない。くそっ。こんな時に機体の不調か。
「ダック3、エンジン不調。帰還します」
訓練は思わぬトラブルで打ち切りになってしまった。基地へ帰る途中、バッケン大尉は対戦相手だったSu-35BMを見た。灰色に塗られ、主翼と尾翼に青いライン、尾翼にマングースの絵が描かれた機体は、全く説明ができないが、見る者を圧倒するオーラを放っていた。
バッケンはそのフランカーを近くで見た途端、背筋に冷たいものが走るのを感じた。この機体に乗っているパイロット。一体何者なのか。だが、バッケンには一つだけ確信できることがあった。このフランカーに乗っているパイロットは只者では無い。そして、こいつからして見たら、自分のような並みのパイロットでは、到底足元にも及ばないということを理解した。