ACE COMBAT after story of the demon of the round table 作:F.Y
1996年 4月16日 1103時 ノルドランド ヨアキムロル航空基地
『準備が出来た機体から離陸急げ!』
『滑走路を空けろ!』
『そこの輸送機とヘリを全部どかせ!ミサイルを早く搭載するんだ!』
基地のエプロンで戦闘機のAPUが作動する音が鳴り響く。整備員が慌ただしく駆け回り、機体とそれに取り付けられた増槽やミサイルの点検をしていく。ハンガーからは戦闘機が次々と引っ張り出され、燃料を入れられていく。
きっかけは、ウェルヴァキアとの国境地帯近くのレーダーサイトと国境警備隊の基地との連絡が途絶えたことだった。空軍防空司令部は対レーダーミサイルによる攻撃だと判断し、全ての航空基地に警戒司令を出した。
そして、陸軍と国境警備隊が上空を飛行するウェルヴァキア空軍機を確認し、防空司令部に通報し、空軍はハチの巣を突いたような騒ぎとなったのだ。
サイファーはコックピットに座り、戦闘機のAPUを始動させた。特徴的な甲高い音が鳴り、目の前の多機能ディスプレイの電源が入る。今日はスクランブル発進の当番だったおかげで機体には既に燃料とミサイルが搭載されていたため、スムーズに出撃できそうだ。
Su-35BMの周囲では整備員が走り回り、機体の状態を確認する。ミサイルからはセーフティ・ピンが抜かれ、それを整備員が掲げて見せた。エンジンの回転が十分になったところでサイファーが親指を立てる。誘導員が身振りで早く誘導路に入るように指示を出した。
『マンティス隊、離陸を許可する!ボア隊、滑走路に向かえ!』
JAS-39CとMiG-31B、F-15C、F-16Aがアフターバーナーの轟音を響かせ、鉛色の雲の層に向かって上昇していった。
1996年 4月16日 1108時 ノルドランド上空
『こちらはAWACSガーディアン。離陸した戦闘機はこちらの指示に従え』
E-3Bセントリーの機内では、レーダーぺレーターが画面とにらめっこして、次々と戦闘機部隊に指示を出していた。レーダー画面には国境地帯から押し寄せてくる敵機のアイコンが表示されている。
『敵機多数。方位、223、高度13000。交戦距離に入り次第、即時攻撃せよ』
戦闘機は部隊ごとに2機から4機の編隊を組み、ある程度の距離を取りつつ敵機に向かって飛行し続けた。機体には空対空ミサイルと増槽が取り付けられている。この高度に上昇するまで雲の中を突っ切って飛び続けたため、除氷装置を使うことになった。キャノピーに着いた水滴が後ろに流れていく。
サイファーはフラップやスラット、ラダーなどを少し動かして機体の状態を確かめた。今のところ、異常は無い。このまま戦闘に突入しても問題無さそうだ。計器やレーダー画面の表示も正常だ。OBOGSもしっかりと自分の肺に酸素を送り込んできている。
円卓の鬼神は改めて周囲を見回した。ノルドランド空軍のパイロットや傭兵が操縦する戦闘機が編隊を組んで飛行している。地上から見上げた時は空を覆っていた鉛色の雲は、今は下に広がり、その上には明るい青空と太陽が見える。この光景を広く見渡すことができるのが、戦闘機パイロットの特権である。一般人の感覚からしてみたら、なんと美しい光景だろう、と感動ものであろう。
だが、サイファーにとっては、ここは自身の命をかけたハンティングゾーンだ。空戦は一度始まったら、一瞬の油断であっという間に自分の命を持って行ってしまう。
『敵機接近中。迎撃せよ』
サイファーはレーダー画面を切り替えた。遠距離探索モードで敵を捕捉できる距離に近づいているが、まだR77の射程内には入ってきていない。HUDとHMDの表示、特に高度と機体姿勢、機首の方位を改めて確認した。周囲は灰色一色の曇り空だ。こういう状況では、ベテランパイロットでもそれなりの確率でバーティゴに陥る可能性がある。
レーダーを見ると、敵がどんどん接近しつつあることがわかった。間もなく中射程ミサイルの射程距離に捉える。
『ハーケン1、Fox1!』
『ハーケン2、Fox1!』
F-14DトムキャットがAIM-54フェニックスを放った。巨大なミサイルは暫くAWG-9レーダーによる誘導を受けながら飛行し、標的にかなり接近したところで自身のレーダーを作動させた。フェニックスはTu-95Mにあっという間に接近し、近接信管を作動させ、無数の金属片を爆撃機に浴びせる。
金属片で機体と翼を損傷したTu-95Mからは霧状の燃料が流れ出ていく。爆撃機はあっという間に地面に向かって落下していった。
これがきっかけとなり、爆撃機を護衛していたMiG-29SMTやMiG-23MLが散開し、連合部隊に猛然と襲い掛かった。
『AWACSガーディアンより作戦中の戦闘機部隊へ。1機たりとも逃がすな。獲物を存分に狩れ』
傭兵たちにとっては、またとない言葉だ。戦闘機の編隊がAWACSの指示通りに動き、自分たちが指定された獲物へと向かっていった。
1996年 4月16日 1109時 ノルドランド上空
サイファーはレーダーで敵機を捉えた。Su-35BMのコンピューターが、レーダー波の反射データから、それがMiG-29であるとHUDに表示する。
"円卓の鬼神"は周囲に注意を向けつつ、R77の"ノーエスケープ・ゾーン"に標的が入り込むのを待った。サイファーの強さの秘訣の一つが、これだ。決して焦らず、じっくりと、獲物が自分の手が届く範囲に入り込んでくるのを待ち、その時を決して逃さない。
Su-35BMを敵に向けて飛ばし、それと平行して、キャノピー越しに周囲を見回した。特に、背後を入念に警戒する。戦闘機は、捉えた敵に向かっている時が最も脆弱になり、撃墜される危険性が高くなる。決して二番機のジャガーを信頼していない訳では無いが、基本的にはワンマンエアフォースであるサイファーには、その癖が完全に体に染み着いていた。
やがて、獲物を射程内に捉えたことを知らせる電子音が鳴り響く。サイファーは頭の中でカウントダウンをして、0まで数えると同時にR-77を2発、連続で発射した。
1996年 4月16日 1109時 ノルドランド上空
ウェルヴァキア空軍のMiG-29SMTのコックピットの中で、けたたましい電子音が鳴り響いた。ミサイルが接近している。
パイロットのダスカレスク大尉は、エンジンの出力をアフターバーナー推量まで上げ、右に急旋回させてから低空に向かった。僚機のテオドリニ大尉は機首を上げ、機体を垂直に近い角度に持ち上げ、鉛色の空に向かって上昇させる。ミサイルアラートは鳴りやまない。
ダスカレスクは機体を水平に戻し、今度は機首を下に向けてエンジンの推力を上げた。マイナスGがかかり、浮遊感を覚える。チャフを撒き、12000フィートまで降下してから操縦棹を引き、再び失った位置エネルギーを取り戻しに行く。
だが、アラートは鳴り続けている。ダスカレスクが後ろに視線を向けた直後、激しい衝撃がミグと自身の体を突き抜けた。警報、そして、右エンジンが機能停止したことを知らせる警告灯。反対側のエンジンがアフターバーナーに点火した状態で、ミグは時計回りにスピンしながら急速に高度を失っていく。
畜生。不本意ではあるが、他に方法は無い。ダスカレスクはイジェクションシートの射出ハンドルを引いた。頭上のキャノピーが外れた直後、ロケットモーターがダスカレスクを機外に打ち出した。
1996年 4月16日 1110時 ノルドランド
4機のSu-24Mが、地面を這うような高度で低空を飛び、目標を目指していた。増槽を2つ、主翼付け根のパイロンにぶら下げ、その真横に付いているランチャーにR-60空対空ミサイルを搭載している。
胴体下には、Kh-31P対レーダーミサイルが搭載されていた。この攻撃機の役目は、地上のレーダーサイトや地対空ミサイルサイトを破壊し、爆撃機の道を開くことだ。
パイロットは、ブリーフィングで予め伝えられていたノルドランドの国境沿いのレーダーサイトを目指していた。慣性航法装置の表示と、膝に置いた地図をちらりと見比べる。ベルカのタイフーンFGR.4やオーシアのF-15Eストライクイーグルのように、デジタル式の戦術マッピングシステムのような最新鋭の装置は無いが、このようなアナログ式のテクニックだって捨てたものでは無い。
「ブフニツァ1よりブフニツァ隊各機へ。ターゲットまで10分。周囲を警戒し、攻撃に備えよ」
Su-24Mは可変後退翼をたたみ、アフターバーナーに点火させた。それは地上を這うように飛ぶロケットのようにも見える。地上に近いほど低い高度をアフターバーナー推力で飛行するのは極めて危険で、高度な操縦技術が要求される。それにも関わらず、ブフニツァ隊の攻撃機は、猛スピードで地上スレスレの高度をターゲット目指し飛行し続けた。