ACE COMBAT after story of the demon of the round table   作:F.Y

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目くらまし

 1996年 4月16日 1113時 ノルドランド上空

 

 4機のSu-25SMと4機のMiG-29SMTが編隊を組み低空飛行して目標へ向かっていた。MiG-29にはR-73とR-77、Su-25にはS-13ロケットポッドとFAB250が搭載されている。

 所々に雪が残り、地表には白と茶色、緑色の斑模様が描かれている。ターゲットまではそれほど遠くは無い。じき、他の編隊が敵のレーダーサイトと対空ミサイル陣地を破壊してくれるはずだ。

 

 パイロットはターゲットまでの道のりを確認した。MiG-29SMTには最新鋭のデジタルディスプレイが備え付けられ、GPSを用いた戦術マップを表示させることができる。但し、敵の配置を事前に知るには、偵察機などによる支援を受ける必要があった。

レーダーは対空モードに設定してある。一度に10個以上の目標を追尾、攻撃可能だ。

 

「Cバンドレーダー確認!ECM!」

 

 断続的な電子音がコックピットの中で鳴り始めた。ノルドランド空軍のパトリオットPAC-2ミサイルの射撃管制レーダー、AN/MPQ-65がこちらの姿を捉えたようだ。

 ノルドランド空軍は、PAC-2やNASAMSをMIM-23ホークの後継として多く導入している。これらのミサイルは電子妨害に強く、一度、補足・射撃された場合は回避するのが極めて難しい。

 

 だが、それを避ける手段が無い訳では無い。ウェルヴァキア空軍にとって、ノルドランド空軍の防空部隊が最新鋭の地対空ミサイルで迎え撃って来る可能性は折り込み済みであった。

 

 1996年 4月16日 1114時 ノルドランド上空

 

「レーダー照射確認!ミュージックスタート!」

 

 Su-24MPが妨害電波の送信を開始した。これは、ユークトバニアで開発された攻撃機の派生型で、敵の無線及び有線での通信やレーダーを妨害することができる。

 この電子攻撃機は、通常の電子戦に使用するアンテナに加え、翼のパイロンに円筒形の電子妨害装置を収めたポッドを吊り下げている。この装置はベルカ製で、南ベルカ兵器工厰に所属していた技術者らの手による近代化改修によって搭載可能になったものだ。

 

 オーシア海軍が持つEA-6Bプラウラーや、現在、開発が進められているEA-18Gグラウラーに比べたら電子妨害装置は貧弱で、効果も限定的であるが、ソトアやベルーサでも生産され、輸出も行われており、オーシアからプラウラーやグラウラーを導入できない国にとっては魅力的な飛行機ではある。

 

 1996年 4月16日 1114時 ノルドランド上空

 

『な・・・・・。・・・ャミ・・・・』

 

 急に無線の通信に雑音が入り、音声が不明瞭になった。レーダー画面の表示も所々がおかしい。サイファーは無線の周波数をサブチャンネルに、長距離モードに設定していたレーダーを中距離モードにそれぞれ切り替え、ECCMを作動させた。

 

『ガーディアンより作戦中の戦闘機へ。敵のジャミングを確認。恐らく、Su-24MPフェンサーFによるものと考えられる。各機、電子妨害機を探しだし、排除せよ』

 

 Su-24MPは、武装自体は自衛用の機関砲のみだが、電子妨害装置を行う機体である。しかし、これほどまでに強力な電子妨害を行ってくるとなると、なんらかの改修が行われている可能性が高い。

 

 十中八九、ベルカの連中の仕業だろう。ただ、対抗手段が無い訳ではない。R77とAIM-120Cにはホームオン・ジャムの機能が備わっており、妨害電波の発信源に向かって飛んでいく。

 サイファーはレーダーモードを切り替え、中射程交戦モードにした。レーダー画面にはターゲットと自機、僚機を示すアイコンが表示されている。しかし、ジャミングによって、所々に白い靄がかかったように見えている。

 面倒なことになった。だが、決して対抗手段が無いとは言えない。少々アナログで、効率的とは言えない。サイファーはまず、レーダーを遠距離サーチモードにして、妨害電波の中心点を見つけようとした。レーダーが妨害されている以上、R77を使うことはできない。よって、攻撃にはR73とGsh-30-1機関砲を使うことになる。

 

 それにしても、かなり強烈なECM環境だ。ノルドランド空軍のJAS-39C、F-16Cといった新世代の戦闘機だと、そこそこのECCM性能があるため、レーダー画面の曇りをある程度は除去することができるが、F-4EやF-5Eといった、姿を消しつつある旧世代機にとっては厳しい状況になっているだろう。

 

『サイファー、どうします?このままでは敵を排除するのが難しいですよ?』

 

「マングース1より2へ。一つだけ方法がある」

 

『一体、どうするのです?その辺を適当に飛び回って、目視で見つけて機関砲でも撃ち込みますか?』

 

「いや。とにかく、俺に従え」

 

『わかりました。ではそうします』

 

 サイファーは遠距離交戦モードにしたレーダー画面を確認し、キャノピー越しに周囲を眺めた。このディスプレイを通してならば、妨害電波を"見る"ことができる。これがSF映画であれば、おかしな電子音が聞こえてきたり、空中にうっすらと青白いプラズマのようなものが見えたりするのがだ、勿論、現実にそんな事が起きることは無い。

 続いて、コックピットのディスプレイにIRST画像を表示させた。こいつのありがたいところは、このように強烈な電子妨害環境下においても、ある程度の距離まで接近すれば獲物の姿を捉えてくれるところだ。円卓の鬼神は再度、レーダー画面を確認した。妨害電波の中心点が近づいてきている。ここにターゲットがいるのは目に見えている。標的はゆっくりと東に向かって飛行していた。

 

 やがて、曇り空の向こうにかなり小さく黒い機影が見えた。鏃のようなものから、左右に細長い(へら)のようなものが突き出ている。間違いなく、Su-24MPのようだ。2機いる。その姿をSu-35BMのIRSTも捉え、多機能ディスプレイに映し出す。

 

 サイファーはエンジンの出力をミリタリー推力まで上げ、敵機の後ろに回り込んだ。わざわざ中距離ミサイルを使って、こっちの存在を教えてやることは無い。敵機のかなり近くまで接近した時、サイファーは、通常、この機体に搭載されるSP5-5ソファル電子戦ポッドが、見慣れない形状の装備品に換装されていることに気づいた。

 だが、それについて考えるのは後回しだ。帰還後のデブリーフィングで、IRSTとHUDカメラの情報を解析するノルドランド空軍の連中が色々と検証してくれるだろう。サイファーはスーラHMDのバイザー越しに標的を睨んだ。ここに来て、敵はこちらに気づいたらしく、フェンサーFはアフターバーナーに点火した。しかしながら、もう手遅れだった。

 Su-35BMのレールランチャーから2発のR-73が立て続けに放たれる。ミサイルのシーカーは標的を捉え、執拗に追い始めた。獲物はフレアを撒きながらバレルロール機動を行い、続いてスプリットSに入った。ミサイルに追いかけられた時の基本的な機動だ。

 サイファーは万が一、ミサイルが標的を見失った時に備え、獲物に更に接近し、その機影をHUDの中心に収めようとした。特徴的な可変後退翼の電子戦機の姿が機関砲のレティクルに重なる。

 ところが、それは杞憂だった。ミサイルは見事に標的を捉え、近接信管で弾頭のTNT火薬に点火させた。飛び散った金属片に切り裂かれた電子攻撃機は煙を引きながら一気に高度を落としていった。どうやら、破片の何枚かがエンジンの中に入り込んだようだ。

 

 そいつが地面に激突するのを見届けることなく、サイファーは2機目の獲物を探した。視線を上に向けると、丁度、そいつがJAS-39Cに追いかけられているのが見えた。

 グリペンから曳光弾が放たれ、そのうちの数発がフェンサーに命中したらしい。標的の挙動が急におかしくなった。やがて、Su-24MPの左側の可変後退翼が根元から外れた。フェンサーはそのまま横方向に回転しながら高度を急速に落としていった。こいつはもう終わりだ。

 

 電子妨害機の排除が完了した。レーダーの表示を確認すると、正常に戻っていた。これで次の獲物に取り掛かることができる。燃料のの残りはまだ十分にある。

 

『AWACSガーディアンよりマングース隊へ。電子妨害機の排除を確認。弾薬と燃料の残りを知らせろ』

 

「こちらマングース1。R73が2発、R-77が8発残っている。燃料はまだ十分だ」

 

『マングース2、IRIS-Tが2発、ミーティアが4発残っています。燃料は残っています』

 

『ガーディアンよりマングース隊へ。次の標的を指示する。目標に向かえ』

 

「その代わり、追加料金が発生するぞ」

 

『それはお前たちが生きて戻って来たらの話だ』

 

「ふん。いいだろう。貯金箱が空になっても知らんぞ」

 

 サイファーはそれだけ言って、フランカーを新たな標的に向けた。僚機はこちらから見て左真横の位置にいる。まあ、こっちは空襲の迎撃に向かったのだ。それに失敗すれば、金蔓そのものが無くなったという話になってしまう。そうなれば本末転倒だ。弾薬と燃料が許す限り、思う存分、稼がせて貰うことにしよう。

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