ACE COMBAT after story of the demon of the round table 作:F.Y
1996年 4月16日 1121時 ノルドランド上空
ジャミングは晴れたが、まだ敵機を撃退できた訳では無い。ミサイルを撃ち尽くしたF-4EやF/A-18Aが反転し、基地へ帰還していった。その間、尚もMiG-29SMTやSu-25SMが侵入し、空爆を開始してた。
まず、狙われたのは国境警備隊の駐屯地だ。4機のSu-25SMのKh-25ML空対地ミサイルやS-13多連装ロケットポッド、そしてFAB-250やFAB-500無誘導爆弾による空爆が始まり、トラックや装甲車、バラック、車庫などが爆発する。
国境警備隊の隊員の一人が命からがら建物から飛び出し、煙と炎で視界が遮られている中、なんとかまだ破壊を免れているハンヴィーに駆け寄り、後ろの荷台に固定されていたコンテナを開けようとしていた。半ばパニック状態のため、なかなか留め金を外すことができないでいた。
「畜生!空軍の連中は何をやってやがる!」
「敵機飛来!攻撃に備えろ!」
軍の施設と違い、国境警備隊に配備されている対空兵器はFIM-92スティンガーのみで、NASAMSやPAC-2、アベンジャー、ゲパルトといった立派な防空兵器があるわけでは無い。
空襲を知らせるけたたましい警報音が鳴り響いた。FNC自動小銃を持った国境警備隊員たちが走って防空壕に向かっていく。
鉛色の雲に覆われた南西の方の空から轟音と共に小さな4つの黒い影が迫ってきた。その機影は高度を下げ、こちらに向かってくる。やがて、それがSu-25SMだと判明した。
「撃て!撃て!」
VADSに陸軍兵が駆け寄って行った。しかし、そのVADSの周辺に30㎜砲弾が降り注ぎ、兵士もろともに設置されていた機関砲を砕いた。
「畜生!」
小規模な装備しか備わっていない国境警備隊の駐屯地は、あっという間に煙を上げる更地になっていた。
1996年 4月16日 1124時 ノルドランド上空
『ガーディアンよりマングース隊、ベア隊、方位223から敵機接近。高度11000。迎撃せよ』
サイファーはレーダーモードを切り替えた。そして、エンジンをミリタリーパワーまで出力を上げ、標的までの距離を詰めた。遠距離交戦モードの表示になっているHUDに目標指示ボックスの下にある数字が小さくなっていき、やがてターゲットがR77の射程内に入り込んだことを知らせる電子音が鳴り始めた。
サイファーは少しだけ間を置いてから操縦桿のミサイルリリースボタンを押した。中射程ミサイルがランチャーから滑り出し、標的に向かって前進した。50マイル程南の空域で飛んでいる味方のF-15Cもミサイルを放ったようだ。
「マングース1、Fox1!」
『マングース2、Fox1!』
AMRAAMやミーティア、R77などが一斉に標的に向かって殺到した。音速を軽く超える速度で敵機を追跡し、破壊する。
『AWACSより戦闘中の各機へ!国境警備隊の駐屯地が破壊された!早いところ攻撃機を撃墜しろ!』
サイファーは正面の向こうに目を凝らしてみた。確かに、複数の機体が編隊を組んで飛んでいるのが見える。HMDを操作して目標指示キューを表示させ、その円の中に目標が入ってくるように操縦した。
やがて、レーダーが標的を捉えた事を知らせる電子音が響いた。レーダー画面上の敵機のアイコンに赤いボックスが重なり、ロックオンしたことをパイロットに知らせる。サイファーは少しタイミングを合わせてから操縦桿についているミサイル発射ボタンを押した。
「マングース1、Fox2!」
サイファーがほとんど獲物を逃さない理由の一つが、ロックオンした直後にミサイルを放つのではなく、"ほぼ確実に放ったミサイルを命中させることができる"タイミングを待つことにある。R73は自身のノーエスケープゾーンに入り込んでいたSu-25SMを追いかけ、数メートルまで接近したところで近接信管を作動させた。
爆発によって巻き散らされた無数の鋭い金属片が機体にめり込み、その一部は燃料タンクやターボファンエンジンの内部まで達し、タービンブレードやコンプレッサーをズタズタに切り裂いた。フロッグフットは煙を吐きながら、どんどん高度を落としていく。パイロットはなんとか途中で射出座席のハンドルを引いたらしく、コックピットからロケットモーターの炎が上がり、続いてパラシュートが開いた。
『マングース2、Fox2!』
JAS-39CのランチャーからIRIS-T短射程空対空ミサイルが放たれる。そのミサイルが向かった先にはMiG-29SMTがいた。フルクラムのパイロットはミサイルに気付き、エンジンの出力をミリタリー推力にまで下げてからフレアを撒き、機体を降下させた。それが功を奏し、ミサイルは炎上しながら落下するマグネシウム化合物の後を追って行った。
「くそっ!」
だが、ジャガーは諦める事なく、左手でスロットルレバーに対して前方に力をかけ、エンジンをミリタリーパワーにまで回転させ、敵に肉薄した。HUDに映るMiG-29の姿がどんどん拡大され、目標指示ボックス横の数字が小さくなっていく。
そして、距離が600マイルまで達した時、ジャガーは操縦桿のボタンを押し、機関砲のボアサイトを映し出した。そして、レティクルがミグと重なった瞬間、機関砲のトリガーを一瞬だけ引いた。
JAS-39Cから27mm砲弾が一列になって空中に飛び出した。5発につき1発の割合で曳光弾が含まれているため、細く、赤い光の条のように見えた。タングステンの砲弾はミグの左のエンジン排気ノズルの中に入り込んだ他、左水平尾翼や左主翼のフラップにも命中する。
いきなり片方のエンジンの推力を失ったミグはバランスを崩し、錐もみ状態になって墜落していった。ジャガーはパイロットが脱出したかどうかを確認する間も無く、サイファーの援護する位置に入る。当のサイファーが駆るSu-35BMのランチャーから、再びR77が飛び出した。ミサイルは加速しながらどんどん前進し、やがて遠くの方で僅かに爆発する光が瞬くのが見えた。自分の編隊の一番機は獲物を仕留めたようだ。
『こちらAWACSガーディアンだ。ハンレリルム防空司令部より通達。レーダーでまだ多数の敵機を捕捉中。余裕がある機体は迎撃を続けろとのことだ。燃料や弾薬の補給が必要な機体は戻っても良い。あと5分程で応援の戦闘機が空域に到達する。それまでは何とか持ちこたえてくれとのこと。以上だ』
その言葉を合図にMiG-29SMTやF-16C、F/A-18Cなどが旋回し、引き返し始めた。燃料と弾薬が尽きてきたらしい。
『サイファー、燃料と弾薬の残りはどうですか?』
「弾薬は十分だ。燃料がそろそろビンゴに近づいている」
『では、こいつらを片づけたら、一旦補給に戻らないといけないですね』
確かにその通りだ。ジャガーのグリペンは兵器や燃料の搭載量はフランカーに比べたら大きく劣っている。自分以上に余裕が無くなってきているはずだ。一人で戦っている時は、自分の機体の燃料や弾薬だけを気にしていれば問題無いが、僚機を引き連れている以上、そいつの機体の状況を"多少は"考慮に入れない訳にはいかない。いくらワンマンエアフォースが基本のサイファーであっても、その点は心得ていた。
だが、戦う余裕を残していると判断される場合は別だ。存分に自分の狩りに付き合ってもらう。
『ガーディアンよりマングース隊へ。敵機を迎撃せよ。方位196、高度8500、距離88』
もうそんなところまで侵入されたのか。すぐにR77の射程内に入ってくる。サイファーはレーダーを遠距離交戦モードに切り替えた。2つの輝点が画面上に現れる。IFFの質問信号には反応しない。
標的がミサイルの射程内に入った。だが、サイファーはすぐにロックオンせず、敵を撃ち落とすための最適なタイミングをうかがった。
ターゲットは真っ直ぐこっちに向かってきた。好都合だ。敵までの距離が30マイルを切るまで待ち、ミサイル発射ボタンを押し込んだ。主翼からR77が2発、立て続けに離れ、獲物に向かって飛び去る。
「マングース1、Fox1!」
『マングース2、Fox1!』
合計3発のミサイルが前方に向かい、アクティブレーダーを作動させた。標的を見つけたミサイルは猛烈な勢いで空の彼方へと消えていく。
『マングース2、中距離ミサイル残弾無し。燃料がビンゴになりました。補給に向かいます』
「マングース1、援護する」
Su-35BMとJAS-39Cは戦果を確認することなく、まるで曲技飛行のように綺麗に編隊を組んで旋回し、ヨアキムロル航空基地へと引き返していった。他にも、燃料や兵装の補給に戻る戦闘機が目立つ。防空体制に隙間ができぬよう、ノルドランド空軍はリレー方式で戦闘機部隊を空域へと送り込んでいた。