ACE COMBAT after story of the demon of the round table 作:F.Y
1996年 5月1日 1637時 ウェルヴァキア パグフォルカ
5機の僚機を引き連れたダニエル・"ルップ"・イオネスクは怒りを覚えた。神聖なるウェルヴァキアの国土が、強欲なノルドランド人と何処の馬の骨とも知れない傭兵どもに汚された。
「ヴィペラ隊、交戦。奴らを殺せ」
黒と白の斑に塗られた機体、そして尾翼にはとぐろを巻く赤い毒蛇のマーク。オレンジ色の夕陽の照り返しが、その毒々しい機体の存在を、一層不気味なイメージに演出する。
眼下では、建物が燃え、真っ黒な油っこい煙が上がっている。連中が何の目的で現れたのかはわかる。石油を貯蔵・精製するプラントを破壊し、我々の継戦能力を奪うのが目的だ。
ウェルヴァキアは石油やガス資源に乏しく、農作物などとバーターでベルカやエストバキアから密かに手に入れている。それだけでは足りないため、サトウキビやトウモロコシから抽出したバイオ燃料も利用していた。
しかしながら、バイオ燃料の普及率は低く、尚も石油資源に頼らざるを得ない状況が続いている。ここを破壊されたら、ウェルヴァキアにとってかなりの打撃となる。ここに群がるノルドランドとならず者どもの小蠅は排除しておかねばならない。
『ヴェペラ2、ターゲットロック。Fox1』
MiG-29SMTからR-27が放たれた。セミアクティブレーダー誘導のため、ミサイルが命中するまで戦闘機がターゲットに機首を向けて誘導する必要があるが、その欠点はやや長い射程で補っている。ミサイルは真っすぐ飛び、ノルドランド空軍のF-16Aのすぐ近くで近接信管を作動させ、金属片をばら撒いた。
『畜生!ゼブラ1被弾した!脱出する!』
『くそっ!俺がやる!』
1番機を落とされた編隊がヴィペラ隊に向かった。JAS-39CとF-15Cが2機ずつで構成されていたが、そのうちの1番機であるグリペンが最初の一撃で撃ち落とされていた。
『AWACSガーディアンより作戦中の全機へ。新手だ。注意しろ』
1996年 5月1日 1639時 ウェルヴァキア パグフォルカ
ダニエル・"ルップ"・イオネスク大佐は次の獲物に狙いを定めた。2時の方向から向かってくるタイフーンFGR.4とF-4Eに狙いを定めた。ファントムか。ノルドランドではまだ現役らしい。まあ、ウェルヴァキアでも、同世代のMiG-21は近代化改修を施されて現役だから、この機体も近代化改修されていてもどこもおかしくはない。
確かにファントムは多くのミサイルや爆弾を搭載でき、空戦能力も高く、ノルドランドの他、ユージアやオーレリアでも未だに現役だ。だが、ドックファイトに持ち込むことができれば、MiG-29SMTの方が俄然有利だ。
「ふん、動きからすると大したことは無さそうだな」
R77を使うには接近しすぎていたため、イオネスクはドッグファイトに持ち込むことにした。エンジンをミリタリー推力まで上げて上昇させ、操縦桿を動かした。機体は一旦水平に戻った後、緩やかに機首を上げ、左方向に旋回した。ファントムの方はというと、イオネスクのミグが機首を向けている方向に向かって真っすぐ飛び、かなり緩慢な動作で旋回している。
素人か、こいつは。イオネスクはそのファントムに狙いを定めた。機体を降下させ、エンジン推力を絞る。そしてタイミングを見計らい、機体を上昇させた。ファントムがどんどんミグの前に出ていく。オーバーシュートさせることに成功した。
「残念だな。おしまいだ」
イオネスクは30㎜機関砲に切り替え、HUDに映るレティクルが丁度、敵機のエンジンノズルに重なるように操縦する。そして、ターゲットに狙いを定め、トリガーをほんの一瞬だけ引いた。鋼鉄の合金でできた弾丸はエンジンのタービンブレードを切り裂き、戦闘機を飛行不能に追い込んだ。
「ふん。他愛もない。簡単すぎだ」
『ヴィペラ2よりヴィペラ1へ。8機の敵機が接近中。注意してください』
「次の獲物か。皆殺しにしてやれ」
『わかりました。仰せの通りに、"ルップ"』
1996年 5月1日 1640時 ウェルヴァキア パグフォルカ
サイファーは新手に狙いを定めた。こいつらはあっという間に味方の戦闘機を撃墜していった。黒い機体に赤いライン、そして尾翼には蛇のエンブレム。どこかで見た記憶がある機体だ。確か、ウェルヴァキアがノルドランドに対して最初の攻撃を行った時に見かけた連中だ。
『ガーディアンよりマングース隊、ゲッコー隊へ。敵機が急速接近。迎撃せよ』
「マングース2、死にたくなければこいつらを落とせ」
サイファーはそれだけ言ってエンジンの出力を上げ、攻撃態勢に入った。
『了解です、"鬼神"』
1996年 5月1日 1642時 ウェルヴァキア パグフォルカ
くそっ、立ち上る黒煙が邪魔だ。下のオイルプラントで起きている火災により燃えている石油によるものだ。だが、そんなことを考えている余裕は無い。それに、IRSTを使えば何とかなるレベルでもある。
イオネスクは周囲に目を凝らした。敵機が6機、こちらに接近してくる。先頭の明るいグレーに太い、青いラインを描いたフランカーは、何となく見たことがあるような気がした。尾翼にはイタチのような動物の絵が描かれている。イタチだと?まあいい。他の敵機に目を凝らしてみると、サソリやサメ、ライオンのような厳ついエンブレムが尾翼に描かれているのがわかる。こうやってやや派手目の塗装をして、士気高揚を狙う空軍も少なくない。まあ、かなり派手な塗装を機体に施している自分たちが言えた義理では無いが。
「ヴィペラ隊。次の獲物が接近中。攻撃せよ」
イオネスクはミサイルの残りを確認した。全部で5発。機関砲の弾は十分残っている。
「ヴィペラ1より各機へ。それぞれ獲物を選んで攻撃せよ」
イオネスクは先頭の機体に狙いを定めた。よく目を凝らして、シルエットを確認する。どうやらSu-27SMかSu-35Sらしい。
「攻撃せよ。奴らを殺せ」
1996年 5月1日 1643時 ウェルヴァキア パグフォルカ
サイファーは近づいてくるミグに狙いを定めた。向こうの機体のシルエットどころか、真っ黒に塗られた機体に白い斑点が描かれているのもはっきりと見えるくらい近い。
以前、見たことがある連中だ。ウェルヴァキアのエース部隊だろう。明らかに一筋縄ではいかない連中だ。敵は2機一組、4つの編隊に分かれてこちらに向かってくる。
「マングース1よりマングース2へ。右下に逃げた奴を追う」
『2了解』
Su-35BMとJAS-39Cは綺麗に編隊を組み、キャノピーを下に向けて降下し始めた。標的が機首を上げ始めたので、エンジンの推力をやや絞りつつ、操縦桿をゆっくりと引く。スプリットSという機動だ。2機の戦闘機は続いて上昇する起動を始めた。その先には灰色の雲を背景に、赤と黒の目立つ戦闘機の姿があった。
サイファーはレーダーモードを切り替えた。多機能ディスプレイ上に捕捉した敵機のアイコンが映った。やがてR77のシーカーが標的を捉えたようだ。特徴的な電子音が鳴り始める。
だが、サイファーは即座に操縦桿の発射ボタンを押さなかった。その代わり、操縦桿を動かしながらミグに向かって肉迫する。やがて、最大射程距離からだいぶ敵機に接近したところで発射ボタンを押した。ミサイルがレールから飛び出し、ミグに向かって飛んでいった。
1996年 5月1日 1644時 ウェルヴァキア パグフォルカ
ヴィペラ3ことディミトリ・フロレラ少佐はミサイルアラートが鳴り始めるのを聞いた。この男は、MiG-29SMTに乗って2500時間以上飛行している中堅パイロットで、ヴィペラ隊の中ではかなりの腕前を誇っている。模擬戦では、時折、イオネスク大佐を打ち負かすことがあるくらいに。
フロレラはECMを作動させ、チャフをばら撒いてバレルロールの機動を始めた。フロレラは、新人パイロットの頃からこの起動を行うのが得意だった。
しかし、ノーエスケープゾーンに敵機を捉えたR77は騙されなかった。ミサイルはどんどん加速して標的に追いつき、近接信管を作動させた。金属の破片がフルクラムの機体に食い込み、一部はエンジンの内部を切り裂いた。
『ヴィペラ3被弾した!畜生!』
フロレラは射出ハンドルを引こうとした。ところが、全く反応しない。どういうことだ?フロレラは何度も射出ハンドルを引く。だが、何も起きない。その間にも地面はどんどん迫ってくる。畜生!畜生!ミグはパイロットを脱出させることなく、緑色の平原を目指した。
1996年 5月1日 1647時 ウェルヴァキア パグフォルカ
サイファーは敵機を葬り、次の標的を目指した。そして、やや離れた位置にいる僚機のグリペンがミサイルを放つのが見えた。ミーティアはそのまま標的のすぐ近くに追いつき、信管を作動させた。被弾したミグは煙を吐きながら離脱していき、やがてキャノピーが外れ、パラシュートが開くのが見えた。
6機中2機を落とした。まだ4機も残っている。ところが、その4機は編隊を組みなおしたと思ったら、どんどん遠ざかっていく。
『AWACSガーディアンよりマングース隊へ。他の敵機は離脱していく』
2機のF-4Eと2機のF-15Eが低空を編隊飛行で通過したかと思うと、仕上げと言わんばかりに爆弾を投下し、真下の標的を破壊していった。工業地帯は炎に包まれ、暫くは復旧させることが難しくなるだろう。
このターゲットは完全に破壊することができた。敵機を逃してしまったことは口惜しいが、燃料も兵装もかなり消費してしまっている。
『ガーディアンより作戦中の戦闘機へ。標的の破壊を確認した。帰還せよ。道中で空中給油機を待たせてある。燃料が少ない者は申告せよ』
ノルドランド空軍機と傭兵部隊の戦闘機は編隊を組み、基地への帰還を開始した。ミサイルも燃料も使い果たし、かなり消耗していた。
『味方の救難信号を幾つか受信した。救難部隊のヘリと輸送機を要請する』