ACE COMBAT after story of the demon of the round table 作:F.Y
1996年 1月15日 0843時 ウェルヴァキア カルゴノフカ空軍基地
Tu-16Bが2機、エプロンからタキシングを始めた。この爆撃機は、元々はユークトバニア製の戦略爆撃機であるが、登場から既に40年は経過している"ロートル機"ではあるものの、核兵器や巡航ミサイルなどを搭載できるように改良されていた。
Tu-16Bがウェルヴァキアへ渡った経緯は、現ノースオーシア州、旧南ベルカ地域の軍需企業である、グランダー工業と秘密結社『灰色の男たち』が大きく関わっていた。
ウェルヴァキア政府は密かに逃亡中のベルカの技術者に接触し、灰色の男たちを通じてグランダー社から密かに武器を手に入れ始めた。だが、ここであるはずのないお金が、グランダー社の手に、ウェルヴァキア政府から渡ってた。グランダー社は、オーシアの一流軍需産業会社だ。ウェルヴァキア社会人民民主国のような、『貧困国』が、おいそれと兵器を大量に買うことはできないはずだ。しかし、そこにはウェルヴァキアが行っているからくりがあった。
ウェルヴァキアは、農業国であったことを利用し、国内に大量のアヘンやケシなどを国策として栽培していた。それが、医療用に使われるのであるば、問題は無かった。勿論、そのような用途のためのものは、諸外国にも輸出されていた。しかし、その大半は、違法な国際薬物取引市場に流れていっていた。末端価格にすると、相当な金額となる。そのような違法な薬物取引によって、対外的に公開されない国家予算が数兆もプールされていた。ウェルヴァキアは、それを元手として、軍備の強化を開始した。だが、国策として薬物を栽培した結果、ライ麦やじゃがいもといった食料の作付面積は、極端に減少した。そのせいで、食料自給率は一気に低下し、国民は飢餓に晒されることになった。
ところが、そのような事実にも関わらず、ウェルヴァキアの事実上の最高指導機関である人民評議会は、これを黙殺した。そして、この事を、国際会議の場でノルドランド政府に指摘されると、ウェルヴァキア政府の最高指導者、ラズヴァン・メリンテ人民評議会最高議長は、これまで食料支援を行ってきたファートとラティオ、ノルドランド、レクタ、ゲベートといった隣国に対して、一方的にこれを打ち切るよう、要求してきた。各国は困惑したものの、結局、ウェルヴァキアの要求がしつこいくらいになったところで、支援の打ち切りを表明した。
続いて、ウェルヴァキアは、違法に薬物を闇市場に流すことで得た資金で兵器を買い漁り始めた。当然、国内がこのような状況であるがため、オーシアとユークトバニア、ユージア連邦加盟諸国は、即座に禁輸措置を取り、ウスティオやサピン、オーレリアもこれに同調した。だが、これに対して、1つだけ、態度を表明していない国があった。ベルカだ。
ベルカは、ウェルヴァキアに武器を提供することで、国力回復に利用できると判断したのだ。それで、グランダー社と技術者が、密かにウェルヴァキアに派遣された、という流れになったのである。ラズヴァン・メリンテは、最初にこの違法行為を指摘したノルドランド政府を攻撃することに決めた。そして、西部にある豊富な地下資源を狙った。そこには、ウランやニッケル、チタン、クロム、鉄といった、軍需産業に不可欠なものが大量に眠っている。更に、リンなどの化学兵器に使える元素の鉱脈もある。それらをウェルヴァキアから手に入れられれば、ベルカの国力回復に大きく役立つ筈だ。そして、ベルカは"灰色の男たち"を通じ、ウェルヴァキアの今の体制の維持を密かに支援することにしたのだった。
1996年 1月15日 0900時 ウェルヴァキア人民連邦 ジルノカビスカ
ウェルヴァキア首都、ジルノカビスカにある人民評議会会議堂にでは、ラズヴァン・メリンテ議長が演説をしていた。
「・・・・・・このように、ノルドランド共和国は、我々に対し、謂れのない批判を続け、あまつさえ、10年以上続けてきた食糧支援を、突如として一方的に打ち切った。これは許されざることだ。それどころか、オーシアやユークトバニア、ユージア連邦にすら、その陰謀を張り巡らせ、我々に対する、経済、食糧支援の中止をするよう働きかけた。この国が、あっという間に世界の最貧国にまで落ちてったのは、言うまでもない。ノルドランド政府の陰謀によるものなのだ」
メリンテは、テレビカメラに向かい、妄言としか言い様の無い言葉を喚き散らし続けた。
「我々は、これ以上、ノルドランドによる搾取に甘んじるつもりは無い。よって、現時点で、ノルドランド共和国に対し、我がウェルヴァキア人民連邦は宣戦布告を行うものとする!」
メリンテは、カメラのレンズを指差し、声を荒げた。
「我々は、ノルドランド政府が、全ての地下資源の鉱脈と農地として利用している土地を、ウェルヴァキアに割譲すると認めない限り、我々は攻撃を続ける!」
1996年 1月15日 1000時 ノルドランド共和国 ヨアキムロル空軍基地
ラミ・"サイファー"・ハータイネンとマグヌス・"ジャガー"・ハウゲンは、基地の待機室で、メリンテの演説のテレビ中継を見ていた。
ベルカ戦争の始まりも、こんな感じだったのだろうか、とサイファーは思った。ベルカ戦争に参加し始めたのは、ウスティオの国土の約9割がベルカに占領されてしまっていた時だったため、ベルカ戦争開戦当時の状況は、新聞で読んだり、人伝に聞いたりした程度の知識しか持ち合わせていない。
しかし、だ。サイファーは、なんとなく、メリンテの主張に引っかかるものを感じていた。まず、傭兵同士で情報交換したところによれば、今、ウェルヴァキアは、経済的に相当困窮しており、戦争をするだけの経済力があるかどうかという点。そして、ノルドランドは、実は、ウェルヴァキアに食料支援を打ち切る理由が無かった点だ。
ゲベート出身の傭兵の話によれば、かつてウェルヴァキアは、世界でも有数の食料自給率を誇っていたそうだ。しかし、ある時を境に、それが急落したそうだ。それなのに、国家の歳入は、それに反比例して右肩上がりになったそうだ。
サイファーは、彼に、畑を潰して、工場を作り、工業製品を海外に売りさばいたのでは?と、言った。しかし、こう言われたのだ。
「でもな、鬼神さんよ。ウェルヴァキア製の車とか、機械とか、コンピューターとかを町で見かけた記憶あるか?ましてや、武器市場で、ウェルヴァキア製の戦闘機やミサイルなんて見たことあるか?」
確かにそうだった。そういった工業製品は、ベルカ、ユージア、オーシアで製造されたものが、世界市場に於いて圧倒的シェアを誇っている。
では、もっと小さく、単純なもの。例えば、金槌やドライバーなどは?いや、そんなものは、輸出などしなくても、それぞれの国の国内で賄えるはずだ。彼は、さらにこう続けたのだ。
「しかし、だ。ウェルヴァキアは、戦争をノルドランドに吹っ掛けるだけの軍事力と、何よりも資金を確保できた訳だ。だが、世界の最貧国クラスにまで急に凋落していったウェルヴァキアが、何で急に強気に戦争をする気になった?どう考えてもおかしいだろ。それに、オーシア・ナショナル・パブリッシング社の軍事シンクタンク部門が毎年出している『パワーバランス・オブ・ミリタリー』によれば、"ウェルヴァキアは、その経済力に不釣り合いな程、防衛費に国家予算の多くを投入しているが、ウスティオやレクタ、ゲベートなどにすら及ばない"という評価が下されている。世界の軍事関係者が知っての通り、あの本の分析は確かだ。ほとんど外れたことは無い。だが、それを考えたら、おかしいじゃないか。きっと、ウェルヴァキアのやり方には、裏がある。少なくとも、俺はそう思っている」
そんな事を考えていると、突然、基地でサイレンが鳴り響き、続いて、基地内放送がかかった。
『全空軍パイロット、及び傭兵パイロットは、大至急ブリーフィングを行う!繰り返す!全空軍パイロット、及び・・・・・・』
サイファーとジャガーは文字通りソファーから飛び上がり、オペレーションルームへ駆け出した。他の傭兵とノルドランド空軍兵たちも続く。いよいよ始まったようだ。