ACE COMBAT after story of the demon of the round table   作:F.Y

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バレナ

 1996年 5月1日 1756時 ウェルヴァキア ツェルノゴルキ海軍基地

 

 巨大な真っ黒い影がゆっくりと沖へと向かって行った。この超巨大な鋼鉄の葉巻のような物体は、ウェルヴァキア海軍の超大型潜水艦、バレナだ。

 

 この艦船は前方が飛行甲板になっており、後方に16セルのVLSを2基、そして海面の下に隠れている船体前方下部に長魚雷や対艦ミサイルを発射可能な発射管を6基備えている。また、船体内部前方は格納庫になっており、艦載機としてYak-38"フォージャー"とKa-27PL"へリックス"を少数ながら搭載している。ベルカ人技術者の強力を得て、ようやく完成し、運用試験を終え、実戦配備にこぎつけたのだ。

 

「まもなく潜航を開始する。水密扉各所の状況知らせ」

 

『兵器搬入扉、異常なし』

 

『航空機エレベーター上部扉、閉鎖完了』

 

『吸気口、閉鎖確認。シュノーケル異常なし』

 

『バラストタンク異常なし』

 

『こちら原子炉区間、出力正常です』

 

「艦長、全てのエリアの確認が取れました。潜航準備完了です」

 

「よろしい。潜航を開始せよ。深度は・・・・・150mに設定。水中速度は12ノット」

 

「アイ、サー」

 

 バレナは緩やかに真っ暗な海中目指して潜航していった。その間、水圧で外殻が押され、軋む音が鳴る。配属されたばかりの若い水兵たちは、不安げに周囲を見回した。

 

「なに、いつものことだ。こいつに限らず、潜水艦は水圧に常に押されて、船体が圧縮されるのさ。勿論、そういうのもきちんと計算されて造られているし、艦長も操縦士も、そして俺も、どこまで潜れば安全なのか、きちんとわかっている。だから、文字通り、大船に乗ったつもりでいろ」

 

 作業を監督していたベテランの一等軍曹が、そんな水兵たちの顔を見回して言った。彼らは徴兵されて、まだ1年経つか経たないかくらいの若者、と、言うよりは、その軍曹からしてみたら子供同然だった。高校を卒業すると同時に、右も左もわからないまま徴兵検査を受け、海軍に振り分けられた若者たち。

 彼らのうち、今後、職業軍人になる人間はほんの数パーセントで、大抵、兵役の期間が終了すると同時に軍から去ってしまう。自分みたいに、白髪が出て来る頃まで軍に残る人間などほとんどいない。彼らの望みは一つ。きつい3年間の兵役期間を、何事も無く過ごして、家に帰るだけだ。

 

 1996年 5月1日 1803時 ウェルヴァキア ファルタヌ湾

 

 バレナは真っ暗な深海の中をノルドランド近海に向けて進んだ。途中、ダイオウイカやホホジロザメ、マッコウクジラといった生物とすれ違ったが、窓の無い潜水艦からはそれらの姿を見ることはできない。

 

 やがて、バレナにその船体の4分の1程の大きさの潜水艦が3隻、接近し、並走し始める。護衛をするトン級攻撃型潜水艦だ。この潜水艦の動力源はディーゼルエンジンで、長魚雷や対艦ミサイル、機雷を装備する。これは、かつてユークトバニアで1980年代に製造されたコサッカ級攻撃型潜水艦をライセンス生産したものだ。

 

 バレナの艦隊の目的は、実戦運用試験における最終試験だ。つまり、この艦隊でノルドランドに攻撃を仕掛けるのだ。

 海軍司令部はやや尻込みしていたが、国防省と政府の政治家連中が運用開始を早めろと言わんばかりに海軍の尻を蹴り続けたため、今日、この任務を行うことになったのだ。

 しかしながら、この艦船の開発には多額の国家予算が付けられていた。それに、何も使わずにドックの中で腐らせるのも、バレナの建造に協力してくれたベルカ人技術者たちにも申し訳が立たない。

それに、ベルカ人たちは、性能は折り紙付きだと請け合ってくれた。そんな彼らも、今回の試験の視察のために乗艦している。

 

「副長、攻撃目標のデータを」

 

「アイ、サー」

 

 この潜水艦の問題点と言えば、エンジンが旧式で、そこそこ大きな音を立ててしまう事だ。そのため、ノルドランド領海内に入った時に、海面に仕掛けられている音響ソノブイや磁気ソノブイに捕捉されてしまうだろう。

 おまけに、ウェルヴァキアからノルドランドに至るまでの海路は限られているため、向こうからしてみたら、駆逐艦や潜水艦がどこから攻撃してくるのか、簡単に予測されてしまう点だ。

 

「艦長、間もなくTACOM機との交信予定エリアに辿り着きます」

 

「バラスト開放。潜望鏡深度まで浮上。アンテナを伸ばせ」

 

「バラスト開放。前進微速。浮上する」

 

「浮上する。全員、備えよ」

 

 艦内で数回、警報が鳴った。そして、巨大な潜水艦はゆっくりと浅い深度まで浮上し、VLFアンテナを伸ばし始めた。

 

 1996年 5月1日 1814時 ウェルヴァキア レノス海

 

 1機のTu-142MRが海面に向かってゆっくりと降下した。海はかなり荒れていて、大きな波が白い飛沫を上げながら畝っている。こんな時に船を出すのは、愚か者か自殺志願者だけだろう。

 

「大佐、海軍司令部から入電です」

 

「見せろ」

 

 大佐はファックスを受け取り、内容を確認した。新たな指令だ。

 

「大尉、金庫から指令書ナンバー55を持ってきたまえ」

 

「イェッサー」

 

 大尉はすぐに指令書が保管されている金庫に向かった。金庫は艦長を始め、艦内でもごく限られた将校にしか近づくことを許されない区画だ。

 

「艦長から整備班へ。ミサイルと艦載機の準備はできているか?」

 

「アイ、サー。いつでも発艦させることができます」

 

「わかった。では、気象情報を寄越してくれ」

 

「わかりました。少々お待ちを」

 

 コンソールに向かっている少佐がキーボードを叩いた。つい1時間前に受信した気象レーダーの画像が画面に映し出される。

 

「艦長、最新の気象情報です。ターゲットの付近は晴れ。航空機を飛ばすにはこの上ない天候です」

 

「なるほど、了解した」

 

 1996年 5月1日 1822時 ウェルヴァキア レノス海

 

 バレナの船体中央部にある格納庫ではYak-38"フォージャー"攻撃機とKa-27PL"ヘリックスA"哨戒ヘリコプターが静かに出撃の時を待っていた。格納庫はエレベーターで飛行甲板と直結されており、ここで燃料の補給や兵装の搭載、機体の整備を行う。

 

 この艦船の設計情報をもたらしたのはベルカ人だ。ベルカ戦争当時、ベルカでは様々な超兵器の建造計画が立てられたが、そのうちの一つが艦載機を搭載する超巨大潜水艦だ。

 

 今回の公試には、ベルカ人技術者も同行していた。彼らはこのバレナの設計・建造に大きく関わり、何か大きなトラブルがあった場合にそれらを解消したり、軍人に対するアドバイザー兼オブザーバーという役目を担っていた。

 

「艦長、順調なようだな」

 

 艦長であるラドゥ・ナスターセ大佐に話しかけたのは、ベルカ人のラルフ・バーンシュタイン博士だ。バーンシュタインは、かつてベルカにて兵器の開発に関わり、現在では大量破壊兵器の開発・製造に大きく関わったとして、オーシア政府から合計15の罪状により告訴されている身だ。

 本来ならば、ベルカ戦争国際軍事法廷の場に引きずり出される身ではあったが、ウェルヴァキア政府がその非凡な才能に目を付け、オーシアやウスティオの捜査の手から匿う代わりに、ウェルヴァキアのために兵器の開発を行うという条件を提示した。

 

 バーンシュタイン他、ベルカの技術者たちはその取引に応じた。オーシアの法廷に引きずり出された場合、良くても戦争犯罪で20年から30年の懲役か禁固刑になってしまうのは明らかだ。それよりも、多額の資金を提供して、兵器開発事業に従事させてくれるウェルヴァキアに向かった方が格段にマシだ。そのため、多くのベルカ人技術者がウェルヴァキアに渡ることになった。

 

「今のところは、な。博士」

 

「確かに、今回のテストの目的は基本性能の確認が目的だ。我々の理論では、問題無いはずだが・・・・・」

 

 ナスターセはバーンシュタインを見た。確かに、博士は頭は良いが、それは理論上におけるものだった。この男には、実戦で使った場合、いつでも不測の事態が起こり得る、ということを考えていない。兵器の設計者と運用者の間で、考え方の乖離が起きるのはよくあることだ。

 とにかく、早くこれを実用段階に持っていくことに越したことは無い。これがあれば、ノルドランド側に大きなダメージを与えることができるだろう。そうすれば、戦後における交渉をウェルヴァキアにとって有利に進められる。しかし、それは政治家の仕事だ。軍人である自分は、これを運用し、敵に大きな打撃を与える。それだけを考えていれば十分なのだ。  

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