ACE COMBAT after story of the demon of the round table 作:F.Y
1996年 5月1日 2203時 ノルドランド ケルンゼン海上空
ノルドランド海軍のP-3Cオライオン哨戒機がゆっくりと南の海上を飛行していた。静かな、真っ暗な夜空にターボプロップの音が響く。P-3CはAGM-88Dハープーン対艦ミサイル、Mk48魚雷を搭載してる。
ノルドランドは、かなりの数のP-3Cをオーシアから輸入しており、現在も調達を継続している。ウェルヴァキア海軍は、排水量500トン程度の小型から2000トン程度の中型の潜水艦を多く配備しており、ノルドランドは警戒を強めていた。多くは1980年代までにユークから輸入したり、それらをライセンス生産したものだ。旧式なものが大半を占めているが、対艦ミサイルや魚雷を装備し、機雷敷設能力も持っている。また、旧式のものも比較的新しいディーゼル・エレクトリックエンジンに換装され、静粛性を向上させているという情報もあり、油断は禁物だ。特に、500トン級の小型潜水艦は、軽快な機動力を活かして狭い海域でも神出鬼没のゲリラ戦を仕掛けることができるので、決して侮れない相手だ。
P-3CのTACCO席に座る大尉はESMやMAD、レーダーの表示にじっと目を凝らしていた。ウェルヴァキアは原子力潜水艦を持っていないので、もし、潜水艦を近くの海域に侵入させていた場合、定期的にシュノーケルを海面から出して酸素を取り入れる時に捕捉することもできるだろう。
しかし、潜水艦はそう簡単には尻尾を見せることは無い。特に、敵国の領海に近い海域においては。
「大佐、現在のところは異常ありません。ESM、MAD、レーダー共に反応無しです」
「確か、この海域には駆逐艦ビョルンソンがいたな」
「ええ。それと、フリゲート艦ヘンリクセンと潜水艦モルクも警戒に当たっています。他にも、数隻の駆逐艦、フリゲートが展開しています」
「よろしい。では、予定通りの海域に到達したらソノブイを投下する準備にかかれ」
「イェッサー」
1996年 5月1日 2206時 ノルドランド ケルンゼン海
SH-60Bシーホーク哨戒ヘリとMH-53Eシードラゴン掃海ヘリが編隊を組み、暗い海面のすぐ上を飛行していた。この2機は、自分たちが警備を担当するエリアで、ウェルヴァキア海軍の潜水艦によって機雷が仕掛けられていないかどうか徹底的に調べているところだった。
「それにしても、ここの防衛線を破るのは難しいんじゃないのか?海面はソノブイだらけだし、上空には常にP-3Cが飛び回っていると来ている」
『だけどな、連中はどこからやって来るか分かったものじゃないからな。そうやって油断していると、沿岸部にウェルヴァキアの潜水艦がいつの間にか浮上しているだなんてことになりかねん』
「ああ。それくらいわかって・・・・・・・ん?」
『どうした?』
「今、MADに反応が出たように見えたんだが、気のせいか?」
『何だと?本当か?』
「ああ。この辺りに哨戒機は派遣されていたか?」
『確か・・・・・・この時間なら、P-3Cが上を飛んでいるはずだ。周波数とコールサインわかるか?』
「ちょっと待ってくれ。ヨハン、暗号ファイルを出してくれ」
SH-60Bの戦術士官がMADのモニターを眺めつつ、ラックから通信暗号表を取り出して開いた。
「ええっと・・・・・哨戒機・・・・・哨戒機・・・・・」
ページを10枚ほどめくって、彼は定期哨戒しているP-3Cとコンタクトを取るための周波数を見つけた。
「あった。ええっと・・・・・言うぞ。113.33。相手のコールサインはモーケ33だ。繰り返す。周波数は113.33、コールサインはモーケ33だ」
1996年 5月1日 2207時 ノルドランド ケルンゼン海上空
『・・・・・ケ33、聞こえるか?こちらは哨戒飛行中の対潜ヘリ、ツェニン61だ。繰り返す。モーケ33、こちらは警戒飛行中の哨戒ヘリ、ツェニン61だ。聞こえるなら応答してくれ』
「こちらモーケ33、ツェニン61。どうした?」
『エリア・タンゴ・ヤンキー356で微弱ながら潜水艦らしき反応を捉えた。そちらでは捉えたか?』
「ツェニン61、こちらでは捉えていない。エリア・タンゴ・ヤンキー356だな?」
『ああ、そうだ』
「了解した。今からそちらに向かい、状況を確認する」
1996年 5月1日 2211時 ノルドランド ケルンゼン海上空
P-3Cがエリア・タンゴ・ヤンキー356の上空に到達した。そのすぐ真下ではSH-60Bがゆっくりと低空飛行している。
「モーケ33よりツェニン61。指定されたエリアに到着した」
SH-60Bはホバリングを始め、海面に向かってディッピング・ソナーをゆっくりと下ろし始めた。このソナーはパッシブ・アクティブ式両用で、海中を航行する敵の潜水艦のスクリューやエンジンの音を探し出す。
「モーケ33、これよりソナーで海底を浚う。さて、何がいるのか」
TACCO士官はじっとソナー画面の表示に目を凝らし、ヘッドホンから聞こえてくる音にじっと耳をすました。その間、パイロットは口を閉じていた。余計な事を話しかけると、潜水艦の僅かなスクリュー音を聞き逃す恐れがあるからだ。
やがて、TACCO士官が右手を上げた。何かが聞こえたらしい。微かにスクリューの音が聞こえてきた。キーボードを操作して、音紋データを照会する。
「何だこれは・・・・・」
音紋データのモニターには、該当艦船無しとの表示が出た。確かに、目の前のモニターに映るスクリュー音のグラフは、彼が見たことが無いものだった。
TACCO士官はアクティブソナーに切り替え、断続的に数回、音波を海中に向かって響かせた。この正体不明の標的のデータを、何としても持ち帰る必要がある。だが、その行動が命取りとなってしまった。
1996年 5月1日 同時刻 ノルドランド ケルンゼン海海中
「アクティブソナー確認!我々を探知しようとしています!」
「よし、深度50mまで浮上しろ。そして、無人機とIDAS、S-300Fの発射準備をしろ」
「アイ、サー」
「総員、戦闘配置!対空戦闘用意!」
「戦闘配置!」
「バラスト解放!50mまで浮上!」
巨大な潜水艦はあっという間に50mまで浮上して、その場で水平状態で停止する。そして、後部の垂直発射機の蓋が開いた。
「無人機射出!」
VLSから細長い物体が2つ、射出された。それは空に飛び出すと小さなターボジェットエンジンを起動させ、細長く、左右に突き出た翼を4枚広げる。2機のUAVは赤外線カメラとアクティブレーダーを使ってP-3CとSH-60Bを見つけ出した。
「データリンクオンライン!標的確認!」
「撃て!」
1996年 5月1日 2212時 ノルドランド ケルンゼン海上空
海面近くを飛んでいたSH-60Bが突如として爆発し、その部品をケルンゼン海にばらまいた。クルーは即死し、そのまま魚の餌となった。
「今のは何だ!?」
P-3Cのパイロットは驚愕した。近くに敵の戦闘機や艦船はいなかったはずだ。一体、何にやられたのか。
「くそっ!敵か!?敵なのか!?位置は!?」
「対水上レーダーには何も無い!畜生、どこからだ!?」
P-3Cはその場から一旦離れ、見えざる敵を探し始めた。海上には敵艦船の姿は無い。敵戦闘機もいない。だとしたら。
「くそっ!潜水艦なのか!?潜水艦から対空ミサイルを射っただと!?」
「そんな馬鹿な!?だいたい、射ったとして、どうやって標的を見つけ出してロックオンする気だ!?」
P-3Cは旋回を始め、その場から離れようとした。しかしながら、後ろからUAVが静かにその様子を見ていたことには気づかなかった。
UAVはP-3Cの姿とおおよその位置情報をVLFでバレナに送信した。バレナのVLSからS-300F艦対空ミサイルが3発、放たれる。
S-300FはP-3Cのすぐ近くで近接信管を作動させた。無数の金属の破片が、機体やエンジンをズタズタに切り刻む。P-3Cは煙を吐きながら、真っ暗な海面に向かってどんどん高度を下げていった。
「メーデー!メーデー!メーデー!こちら、ノルドランド海軍の哨戒機、ツェニン33!メーデー!メーデー!こちらツェニン33!敵の攻撃を受けた!墜落する!場所は・・・・・・・」
パイロットが正確な落下地点を海軍司令部な伝える前に、P-3Cオライオン哨戒機は海面に勢いよく衝突し、バラバラの破片となった。